富士フイルムホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

富士フイルムホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場する、写真フィルムで培った技術を応用しヘルスケアやエレクトロニクス等の多角的な事業を展開する企業グループです。2025年3月期は、半導体材料やイメージング事業が好調に推移し、売上高、営業利益、当社株主帰属当期純利益はいずれも3年連続で過去最高を更新する増収増益となりました。


※本記事は、富士フイルムホールディングス株式会社 の有価証券報告書(第129期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は US GAAP です。

1. 富士フイルムホールディングスってどんな会社?


写真フィルムの国産化を目指し創業し、現在はヘルスケアや高機能材料、事務機器等も手がけるグローバル企業です。

(1) 会社概要


1934年、写真フィルム製造の国産工業化計画に基づき富士写真フイルムとして設立されました。1962年には英国ランクゼロックス社との合弁で富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)を設立。2006年に持株会社体制へ移行し、現社名に変更しました。2021年には日立製作所の画像診断関連事業を買収してヘルスケア領域を拡大し、2024年の創立90周年を機にグループパーパスを制定しています。

連結従業員数は72,593名、単体従業員数は1,198名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も資産管理サービスを提供する日本カストディ銀行となっており、機関投資家による保有比率が高くなっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 18.97%
日本カストディ銀行(信託口) 6.77%
日本生命保険相互会社 3.51%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性4名の計15名で構成され、女性役員比率は27.0%です。代表者は代表取締役社長・CEOの後藤 禎一氏です。取締役11名のうち5名が社外取締役であり、社外取締役比率は約45%です。

氏名 役職 主な経歴
後藤 禎一 代表取締役社長・CEO 1983年入社。2016年富士フイルム取締役、2018年同社取締役を経て、2021年6月より現職。富士フイルム代表取締役社長を兼務。
助野 健児 取締役会長 1977年入社。2016年同社代表取締役社長・COOおよび富士フイルム代表取締役社長を経て、2021年6月より現職。2023年より同社取締役会長。
樋口 昌之 取締役 1987年入社。2018年同社執行役員、2021年同社取締役・CFO・経営企画部長に就任し現職。
濱 直樹 取締役 1986年入社。2018年富士フイルム取締役を経て、2022年4月富士フイルムビジネスイノベーション代表取締役社長に就任。同年6月より現職。
吉澤 ちさと 取締役 1986年入社。2017年執行役員。経営企画部コーポレートコミュニケーション室長等を経て、2022年6月より取締役・コーポレートコミュニケーション部長兼ESG推進部長。
伊藤 洋士 取締役 1990年入社。2021年富士フイルム取締役に就任し現職。2023年6月より同社取締役。


社外取締役は、北村 邦太郎(元三井住友信託銀行会長・指名報酬委員長)、江田 麻季子(元インテル社長)、永野 毅(元東京海上ホールディングス会長)、菅原 郁郎(元経済産業事務次官)、鈴木 貴子(元エステー会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ヘルスケア」「エレクトロニクス」「ビジネスイノベーション」「イメージング」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。

ヘルスケア

メディカルシステム機材(画像診断システム等)、バイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)、細胞・培地等の創薬支援材料、医薬品、化粧品・サプリメントなどを提供しています。医療機関や製薬企業、一般消費者が主な顧客です。

収益は、機器・材料の販売、製造受託サービスの対価などから得ています。運営は主に富士フイルム、富士フイルムヘルスケアマニュファクチャリング、富士フイルム富山化学などが担っています。

エレクトロニクス

半導体製造プロセスに使用されるフォトレジストやCMPスラリーなどの半導体材料、ディスプレイ材料、産業機材、ファインケミカルなどを提供しています。半導体メーカーやパネルメーカーなどが主な顧客です。

収益は、各種材料や機材の販売対価から得ています。運営は主に富士フイルム、富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズなどが担っています。

ビジネスイノベーション

デジタル複合機やプリンター、グラフィックコミュニケーションシステム機材、インクジェット機材、および関連するソリューション・サービスを提供しています。オフィス業務の効率化や商業印刷を行う企業が主な顧客です。

収益は、機器の販売、保守サービス、消耗品の提供、ソリューションサービスの利用料などから得ています。運営は主に富士フイルムビジネスイノベーションおよびその関連会社が行っています。

イメージング

インスタントフォトシステム(チェキ)、カラーフィルム、写真プリント用カラーペーパー、デジタルカメラ、光学デバイスなどを提供しています。一般消費者やプロカメラマン、映像制作会社などが顧客です。

収益は、カメラやフィルム、プリント関連製品の販売対価から得ています。運営は主に富士フイルム、富士フイルムイメージングシステムズなどが担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高、営業利益ともに順調に拡大傾向にあり、特に直近3期間での成長が顕著です。利益率も安定して10%前後を維持しており、収益性を保ちながら事業規模を拡大させています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 21,925億円 25,258億円 28,590億円 29,609億円 31,958億円
税引前利益 2,359億円 2,604億円 2,822億円 3,173億円 3,406億円
利益率(%) 10.8% 10.3% 9.9% 10.7% 10.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 1,812億円 2,112億円 2,194億円 2,435億円 2,610億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上高が増加するとともに売上総利益率も向上しており、本業の収益力が強化されています。営業利益も増益となり、営業利益率も改善傾向にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 29,609億円 31,958億円
売上総利益 - -
売上総利益率(%) - -
営業利益 12億円 9億円
営業利益率(%) 0.0% 0.0%


販売費及び一般管理費のうち、輸送費及び取扱手数料が797億円(構成比約10%)、広告宣伝費が283億円(同約4%)となっています。

(3) セグメント収益


全セグメントで増収となりました。特にエレクトロニクスとイメージングが大幅な増収増益を達成し、全社の成長を牽引しています。ヘルスケアは増収ながら一時費用等の影響で減益となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
ヘルスケア 9,751億円 10,226億円 974億円 776億円 7.6%
エレクトロニクス 3,584億円 4,328億円 463億円 773億円 17.9%
ビジネスイノベーション 11,578億円 11,985億円 674億円 746億円 6.2%
イメージング 4,697億円 5,420億円 1,020億円 1,392億円 25.7%
その他・調整額 - - -364億円 -386億円 -
連結(合計) 29,609億円 31,958億円 2,767億円 3,302億円 10.3%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業で稼いだ資金に加え、財務活動でも資金調達を行い、将来の成長に向けた投資を積極的に行っている「積極型」のキャッシュ・フロー状態です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 4,079億円 4,282億円
投資CF -5,274億円 -5,420億円
財務CF -5億円 1,089億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は63.8%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


創立90周年を機に、グループパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」を制定しました。100周年とその先を見据え、全事業を通じて社会課題の解決に貢献するとともに、世界中の人々に幸せな笑顔が何度も訪れるよう挑戦し続けることを掲げています。

(2) 企業文化


従業員一人ひとりが「アスピレーション(志)」を持って挑み続けることを重視しています。また、全てのステークホルダーに価値を提供するための活動において、オープン、フェア、クリアな精神で臨むことを基本としています。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画「VISION2030」を策定し、その具体的なアクションプランとして2026年度までの中期目標を設定しています。「SVP2030」の実現に向け、収益性と資本効率を重視した経営により企業価値を向上させ、「稼げる会社」への進化を目指しています。

* 売上高:3兆4,500億円
* 営業利益:3,600億円
* 当社株主帰属当期純利益:2,700億円
* ROE:8.1%
* ROIC:5.8%

(4) 成長戦略と重点施策


ヘルスケアとエレクトロニクスの成長加速を掲げています。ヘルスケアではバイオCDMO事業の大型設備稼働やメディカルシステムでのAI・IT活用によるリカーリングビジネス拡大を推進します。エレクトロニクスでは半導体材料のワンストップソリューション提供により事業成長を図ります。

* 2025年度ヘルスケア部門売上高:1兆円超

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


イノベーションの源泉は従業員の力であると位置づけ、「人材開発」「健康経営」「多様性」「組織開発」の4領域で企業文化を進化させています。「See-Think-Plan-Do(STPD)」の浸透や自己成長支援プログラム「+STORY」の展開、DX人材の育成強化に加え、多様な人材が活躍できる環境整備を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 43.5歳 17.5年 11,242,845円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.7%
男性育児休業取得率 85.3%
男女賃金差異(全労働者) 73.9%
男女賃金差異(正規雇用) 75.0%
男女賃金差異(非正規雇用) 55.8%


※主要な連結子会社である富士フイルム株式会社の実績です。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(81%)、基幹ポストにおける外国籍従業員比率(26.7%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済情勢・為替変動による業績への影響

海外売上高比率が高いため、世界各地の経済情勢や為替レートの変動が業績に影響を与える可能性があります。特に米ドルやユーロの為替変動は営業利益に影響を及ぼします。また、関税引き上げ等の経済情勢の変化もリスク要因となります。

(2) ヘルスケア領域における環境変化・競合

医療行政の方針変更や法規制の強化、新薬開発の遅延・中止、競合他社との競争激化などがリスクとして挙げられます。技術革新や市場環境の変化に対応できない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(3) エレクトロニクス領域における環境変化・競合

半導体市場の成長が見込まれる一方、原材料費の高騰や代替技術の出現による競争激化、地政学的リスクによるサプライチェーンの混乱などが懸念されます。新製品開発やマーケティング活動の成否が業績に影響を与える可能性があります。

(4) ビジネスイノベーション領域における環境変化・競合

ペーパーレス化やリモートワークの普及により、オフィスでのプリントボリュームが長期的に減少するリスクがあります。市場動向に対応したソリューション・サービスの提供ができない場合、売上の減少等により業績に影響が出る可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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