※本記事は、出光興産株式会社 の有価証券報告書(第110期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 出光興産ってどんな会社?
石油精製・販売を主力とし、素材や電力、資源事業も展開するエネルギー共創企業です。
■(1) 会社概要
1911年に出光商会として創業し、1940年に出光興産を設立しました。2006年に東証一部へ上場し、2019年には昭和シェル石油との経営統合を実施しました。2021年には出光エナジーソリューションズなどの連結子会社化を進め、2022年のプライム市場移行を経て、2025年には農薬製造のアグロカネショウを完全子会社化するなど、事業基盤の強化を続けています。
2025年3月31日現在、連結従業員数は13,814名、単体では5,060名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は創業家関連企業の日章興産、第3位はサウジアラビアの国営石油会社関連のAramco Overseas Company B.V.です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.77% |
| 日章興産 | 10.39% |
| Aramco Overseas Company B.V. | 9.41% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名、計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役社長は酒井則明氏です。社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 木藤 俊一 | 代表取締役会長会長執行役員 | 1980年入社。経理部長、常務取締役、取締役副社長を経て、2018年より代表取締役社長。2025年4月より現職。 |
| 酒井 則明 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1985年入社。経理部長、財務部長、上席執行役員最高財務責任者、代表取締役副社長を経て、2025年4月より現職。 |
| 平野 敦彦 | 代表取締役副社長副社長執行役員 | 1985年昭和シェル石油入社。同社取締役、ソーラーフロンティア社長を経て、2019年同社常務執行役員。2023年6月より現職。 |
| 澤 正彦 | 取締役副社長副社長執行役員 代表取締役副社長副社長執行役員 |
1990年入社。生産技術センター長、上席執行役員製造技術管掌、取締役常務執行役員を経て、2024年6月より現職。 |
| 出光 正和 | 取締役 | 2016年日章興産代表取締役社長。2019年4月より同社取締役。正和興産代表取締役社長等を兼任。 |
| 久保原 和也 | 取締役 | 2008年弁護士登録、九帆堂法律事務所設立。第一東京弁護士会常議員等を経て、2019年4月より同社取締役。 |
社外取締役は、橘川武郎(国際大学学長)、荷堂真紀(コカ・コーラ カスタマー マーケティング社長)、鈴木純(元帝人社長)、長田志織(日本電気社外取締役)、柏村美生(リクルート常務執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「燃料油」「基礎化学品」「高機能材」「電力・再生可能エネルギー」「資源」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 燃料油事業
ガソリン、軽油、灯油、ジェット燃料、重油などの石油精製製品を製造し、サービスステーション(SS)などを通じて販売しています。また、原油・石油製品の輸出入やトレーディングも行っています。
主な収益源は、一般消費者や産業顧客からの製品販売代金です。運営は主に出光興産が行っていますが、製造に関しては昭和四日市石油株式会社や東亜石油株式会社などの連結子会社も担っています。
■(2) 基礎化学品事業
エチレン、プロピレン、ベンゼン、パラキシレンなどのオレフィン・アロマ製品を製造・販売しています。これらはプラスチックや合成繊維の原料となります。
収益は、化学メーカー等の顧客からの製品販売によるものです。運営は主に出光興産が行っています。
■(3) 高機能材事業
潤滑油、機能化学品、電子材料(有機EL材料など)、機能舗装材(アスファルト)、アグリバイオ製品などを開発・製造・販売しています。
収益は、自動車メーカーや電機メーカー、建設会社等からの製品販売代金です。運営は出光興産のほか、出光ユニテック株式会社などの子会社が行っています。
■(4) 電力・再生可能エネルギー事業
太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギー電源の開発・運営および電力の卸売・小売を行っています。また、ソーラーパネルのリサイクル技術開発なども進めています。
収益は、電力卸売市場や一般需要家からの電力料金収入です。運営は出光興産のほか、Idemitsu Renewables America, Inc.などの子会社が行っています。
■(5) 資源事業
原油、天然ガス、石炭などのエネルギー資源の探鉱・開発・生産・販売を行っています。ベトナムやノルウェーでの石油・ガス開発、オーストラリアでの石炭鉱山操業などが含まれます。
収益は、電力会社や鉄鋼メーカー等への資源販売代金です。運営は出光興産のほか、IDEMITSU AUSTRALIA PTY LTDなどの子会社が行っています。
■(6) その他
保険代理店業やグループ内のシェアードサービス業務などを行っています。
収益は、保険手数料や業務受託料などです。運営は出光保険サービス株式会社などの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高はエネルギー価格の高騰や円安の影響もあり9兆円規模で推移していますが、経常利益は資源価格や為替の変動により増減が見られます。当期は売上高が増加したものの、利益面では減少となりました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4兆5566億円 | 6兆6868億円 | 9兆4563億円 | 8兆7192億円 | 9兆1902億円 |
| 経常利益 | 1084億円 | 4593億円 | 3215億円 | 3852億円 | 2148億円 |
| 利益率(%) | 2.4% | 6.9% | 3.4% | 4.4% | 2.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 968億円 | 2716億円 | 495億円 | 1121億円 | 290億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加したものの、売上原価の上昇が響いて売上総利益が大きく減少し、売上総利益率も悪化しました。加えて、販売費及び一般管理費が増加したことも利益を押し下げた結果、営業利益は前年比で半減以下の減益となり、営業利益率も低下しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 87,192億円 | 91,902億円 |
| 売上総利益 | 8,471億円 | 6,894億円 |
| 売上総利益率(%) | 9.7% | 7.5% |
| 営業利益 | 3,463億円 | 1,622億円 |
| 営業利益率(%) | 4.0% | 1.8% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃が1,116億円(構成比21%)、作業費が932億円(同18%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全社としては増収となったものの、主要セグメントの利益減少が響き、全体で大幅な減益となりました。主力の「燃料油」は増収となったものの、在庫評価影響等により大幅な減益となりました。
「資源」も石炭市況の下落等により減収減益となり、全社の業績を押し下げています。また、「基礎化学品」は減収かつセグメント損失(赤字)に転落し、「電力・再生可能エネルギー」も赤字幅が拡大しました。一方、「高機能材」はわずかに増収増益を確保しています。
| 項目 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 燃料油 | 70,808億円 | 76,964億円 | 2,197億円 | 1,221億円 | 1.6% |
| 基礎化学品 | 6,016億円 | 5,872億円 | 220億円 | -80億円 | -1.4% |
| 高機能材 | 5,154億円 | 5,034億円 | 276億円 | 282億円 | 5.6% |
| 電力・再生可能エネルギー | 1,415億円 | 1,276億円 | -76億円 | -123億円 | -9.6% |
| 資源 | 3,705億円 | 2,652億円 | 1,169億円 | 774億円 | 29.2% |
| その他 | 95億円 | 105億円 | 5億円 | 12億円 | 11.4% |
| 調整額(全社費用等) | - | - | -161億円 | -238億円 | - |
| 連結(合計) | 87,192億円 | 91,902億円 | 3,630億円 | 1,848億円 | 2.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業で潤沢に稼いだキャッシュを使いながら、将来投資を行う一方で、有利子負債の返済と配当・自社株買いによる株主還元を積極的に進める健全型(成熟企業型)といえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3774億円 | 4767億円 |
| 投資CF | -658億円 | -1185億円 |
| 財務CF | -2805億円 | -3435億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.9%で市場平均を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は36.0%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「真に働く」を企業理念とし、2050年ビジョンとして「変革をカタチに」を掲げています。カーボンニュートラル・循環型社会を見据え、「人びとの暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たすことを目指しています。その手前となる2030年には「責任ある変革者」として、エネルギー安定供給と社会課題解決の両立を掲げています。
■(2) 企業文化
創業以来、「人間尊重」を経営の基本としています。事業を通じて人を育てる「人が中心の経営」を実践し、従業員を家族のように大切にする「大家族主義」的な価値観も背景にあります。社員一人ひとりの成長とやりがいを最大化し、企業の競争力につなげることを重視しており、困難な環境下でも結束して課題を克服する風土があります。
■(3) 経営計画・目標
2023年度から2025年度までの中期経営計画を推進しています。2030年に向けた基本方針として、エネルギー・マテリアルの安定供給を維持しながら、既存事業の収益力向上とカーボンニュートラル社会に向けた準備を並行して進めています。
* 2023-2025年度累計営業+持分損益(在庫影響除き):6,722億円
* 2023-2025年度累計当期純利益(在庫影響除き):4,369億円
■(4) 成長戦略と重点施策
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、事業ポートフォリオの転換を推進しています。「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」の3つの領域での社会実装を目指し、特にブルーアンモニア、e-メタノール、SAF(持続可能な航空燃料)、リチウム固体電解質を重点4事業として投資を加速させています。また、DX戦略や人的資本投資も強化しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人が中心の経営」を掲げ、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」を3本柱として推進しています。社員が能力を最大限発揮できる環境整備や、女性管理職比率向上などのダイバーシティ推進、自律的なキャリア形成支援に取り組んでいます。また、エンゲージメント向上を重要視し、独自指標の改善に努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.0歳 | 17.8年 | 9,936,913円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.0% |
| 男性育児休業取得率 | 92.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.5% |
| 男女賃金差異(正規) | 75.6% |
| 男女賃金差異(非正規) | 59.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性採用比率(39%)、従業員一人当たり教育投資額(55千円)、出光エンゲージメントインデックス(70%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国際情勢や経済環境等の変化
日本及び世界各地で事業を展開しており、ウクライナや中東情勢の緊迫化、各国の関税政策などの政治・経済情勢の影響を受ける可能性があります。これらに起因する世界景気の減速やエネルギー需要の変動、価格の乱高下は、同社の業績に影響を与える可能性があります。
■(2) 商品市況リスク
原油価格の変動は、在庫評価損益や石油製品のマージンに直接的な影響を与えます。また、基礎化学品や潤滑油の原料コスト、電力事業における燃料価格、資源事業における石炭・原油・ガス価格の変動も業績に影響を及ぼす可能性があります。為替変動による調達コストの変化もリスク要因です。
■(3) 気候変動に関するリスク
カーボンニュートラル社会への移行に伴う需要構造の変化や規制強化は、化石燃料を主力とする同社にとって重要なリスクです。長期的な石油需要の減少や炭素税の導入などが想定され、これらに対応するための事業ポートフォリオ転換が遅れた場合、将来の収益性に影響を与える可能性があります。



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