出光興産 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

出光興産 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

出光興産は東京証券取引所プライム市場に上場し、燃料油、基礎化学品、高機能材、電力・再生可能エネルギー、資源事業を展開しています。業績トレンドとして、当期は原油価格の下落等により売上高は前期比減収の8兆1059億円となりましたが、経常利益は2296億円、当期利益は1434億円といずれも増益を達成しました。


※本記事は、出光興産株式会社の有価証券報告書(第111期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 出光興産ってどんな会社?


石油精製・販売を中核に、化学品や高機能材、再生可能エネルギー等を提供する総合エネルギー企業です。

(1) 会社概要


同社は1911年に出光商会として創設され、石油販売業を開始しました。1940年に出光興産を設立し、2006年には東京証券取引所市場第一部に上場を果たしています。2019年には昭和シェル石油を完全子会社化して経営統合し、2022年の市場区分見直しにより、東京証券取引所プライム市場へ移行しました。

現在の同社グループは、連結従業員数14,392名、単体従業員数5,120名を擁する体制です。大株主については、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は事業会社であるAramco Overseas Company B.V.、第3位も事業会社である日章興産となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.19%
Aramco Overseas Company B.V. 9.46%
日章興産 8.97%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性4名の計14名で構成され、女性役員比率は28.6%です。代表取締役社長社長執行役員は酒井則明氏が務めています。社外取締役比率は40.0%です。

氏名 役職 主な経歴
酒井 則明 代表取締役社長社長執行役員 1985年同社入社。徳山製油所副所長、人事部次長、経理部長、財務部長、上席執行役員最高財務責任者、取締役副社長執行役員等を経て、2025年4月より現職。
木藤 俊一 代表取締役会長会長執行役員 1980年同社入社。人事部次長、執行役員経理部長、常務取締役、代表取締役社長社長執行役員CEO、石油連盟会長等を経て、2025年4月より現職。
平野 敦彦 代表取締役副社長副社長執行役員 1985年昭和シェル石油入社。同社専務執行役員、ソーラーフロンティア代表取締役社長、同社取締役常務執行役員等を経て、2023年6月より現職。
澤 正彦 代表取締役副社長副社長執行役員 1990年同社入社。ガス事業室次長、生産技術センター長、執行役員北海道製油所長、取締役常務執行役員等を経て、2025年6月より現職。
出光 正和 取締役 2010年出光美術館評議員。日章興産代表取締役社長、正和興産代表取締役社長、出光理念研究所代表理事等を経て、2019年4月より現職。
久保原 和也 取締役 2008年弁護士登録、九帆堂法律事務所設立。第一東京弁護士会常議員、日本弁護士連合会代議員等を歴任し、2019年4月より現職。


社外取締役は、橘川 武郎(国際大学学長)、鈴木 純(元帝人代表取締役社長執行役員CEO)、長田 志織(日本電気執行役Corporate EVP兼CHRO)、柏村 美生(リクルート常務執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「燃料油」「基礎化学品」「高機能材」「電力・再生可能エネルギー」「資源」および「その他」事業を展開しています。

(1) 燃料油


同社グループの主幹事業として、原油の調達から石油精製、そして石油製品の販売、輸出入およびトレーディングまでをグローバルに展開しています。全国の特約販売店やサービスステーションを通じた販売や、大規模な工場などへの直接供給を行い、社会インフラとしてのエネルギー安定供給を担っています。

収益は、主に法人顧客や一般消費者に対する石油精製製品の販売代金から得ています。運営は、同社および出光タンカーなどの関連子会社が連携して行い、製品の製造から輸送、販売に至る一連のバリューチェーンを構築し、確固たる収益基盤を確立しています。

(2) 基礎化学品


自動車や家電、日用品など多様な産業の根幹を支えるプラスチック等の原料となるオレフィン・アロマ製品の生産と販売を行っています。自社製油所で生産したナフサや海外から調達した原料をもとに、高度な技術で基礎化学品を製造し、国内外の化学メーカーなどに幅広く提供しています。

収益は、国内外の化学メーカーや製造業者等へのオレフィンおよびアロマ製品の販売代金から得ています。運営は主に同社が中心となり、Idemitsu Petrochemicals Malaysia Sdn Bhdなどの海外子会社とも連携して、アジア市場をはじめとするグローバルな需要に対応しています。

(3) 高機能材


潤滑油、機能化学品、電子材料、機能舗装材、およびアグリバイオ製品の開発・生産・販売を手掛けています。自動車用や工業用の高性能潤滑油のほか、有機EL材料などの先端電子材料、環境に配慮した機能舗装材など、高い技術力を生かした高付加価値製品を世界中の顧客へ提供しています。

収益は、国内外の自動車メーカーや電子部品メーカー、農業従事者などへの高機能材製品の販売代金から得ています。運営は同社をはじめ、アグロ カネショウやソーラーフロンティアなどのグループ子会社が専門分野ごとに担い、それぞれの市場において強みを発揮しています。

(4) 電力・再生可能エネルギー


火力、太陽光、風力、地熱などを利用した発電事業および電力の販売事業を展開しています。環境負荷の低減と持続可能な社会の実現を目指し、多様な再生可能エネルギー電源の開発に注力しており、一般家庭から法人まで幅広い顧客に対してクリーンな電力を安定的に供給しています。

収益は、主に企業や一般消費者に対する電力使用量に応じた販売代金から得ています。運営は同社に加え、東亜石油や出光大分地熱、海外のIdemitsu Renewables America, Inc.などの関係会社が行い、国内外で発電から販売までの総合的なエネルギーソリューションを提供しています。

(5) 資源


原油、天然ガス、石炭といったエネルギー資源の探鉱、開発、生産、および販売をグローバルに展開しています。ノルウェーや東南アジアでの石油・天然ガス開発に加え、オーストラリアにおける石炭鉱山の操業などを通じて、世界のエネルギー需要に応える資源の安定的な確保と供給を行っています。

収益は、電力会社や産業用需要家などに対する原油、天然ガス、石炭などの販売代金から得ています。運営は同社を中心とし、IDEMITSU AUSTRALIA PTY LTDなどの現地法人や出光ベトナムガス開発などのグループ各社が協働して資源開発と安定供給体制を支えています。

(6) その他


報告セグメントに含まれない事業として、保険代理店業務やグループ内のサービス事業などを展開しています。多様化する顧客やグループ内のニーズに応えるため、各種損害保険の提供やリース業務、情報システム開発など、幅広い付帯サービスを通じてグループ全体の事業基盤をサポートしています。

収益は、法人や個人顧客からの保険手数料や、グループ内外企業からの業務受託およびサービス提供に対する手数料等から得ています。運営は主に出光保険サービスなどの関連子会社が担い、各分野の専門性を活かしながら、グループ全体の事業効率化と付加価値の向上に貢献しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は直近5年間で9.4兆円規模まで拡大したのち、当期は8.1兆円となっています。経常利益は原油価格等の影響を受けながらも当期は増益を達成しており、当期利益も堅調に推移しています。利益率も2〜6%台で安定的に推移し、強固な事業基盤を維持しています。

項目 107期 108期 109期 110期 111期
売上高 6兆6868億円 9兆4563億円 8兆7192億円 9兆1902億円 8兆1059億円
経常利益 4593億円 3215億円 3852億円 2148億円 2296億円
利益率(%) 6.9% 3.4% 4.4% 2.3% 2.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 2716億円 495億円 1121億円 290億円 1434億円

(2) 損益計算書


売上高は減少したものの、売上総利益および営業利益は増加しており、収益性の改善が見られます。売上総利益率は前期の7.5%から当期は9.3%に上昇し、営業利益率も向上しており、より効率的な事業運営が実現されています。

項目 110期 111期
売上高 9兆1902億円 8兆1059億円
売上総利益 6894億円 7545億円
売上総利益率(%) 7.5% 9.3%
営業利益 1622億円 2122億円
営業利益率(%) 1.8% 2.6%


販売費及び一般管理費のうち、運賃が1178億円(構成比21.7%)、作業費が995億円(同18.3%)、人件費が878億円(同16.2%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の燃料油セグメントは原油価格の下落等により減収となりましたが、利益はタイムラグ影響等により実質的に増益基調にあります。資源セグメントは石炭市況の下落により減収となった一方、高機能材セグメントは海外販売が好調で安定した売上を維持しています。

区分 売上(110期) 売上(111期)
燃料油 7兆6964億円 6兆7934億円
基礎化学品 5872億円 4914億円
高機能材 5034億円 5032億円
電力・再生可能エネルギー 1276億円 982億円
資源 2652億円 2035億円
その他 105億円 163億円
連結(合計) 9兆1902億円 8兆1059億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 110期 111期
営業CF 4767億円 3924億円
投資CF -1185億円 -2916億円
財務CF -3435億円 -1049億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.4%で市場平均と概ね同水準にある一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は36.0%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、創業以来の「真に働く」という企業理念を根幹に据え、事業を展開しています。エネルギー供給という社会的課題に真摯に向き合い、人々の暮らしを支え、未来の地球環境を守る責任を果たすため、2030年ビジョンとして「責任ある変革者」、2050年ビジョンとして「変革をカタチに」を掲げています。

(2) 企業文化


同社は、企業理念を具現化した7つの「行動指針」を重視しています。基本姿勢としての「徹底的当事者意識」「飽くなき成長意欲」「誠実・相互信頼」と、実践能力である「大胆に挑み続ける」「常に考え決断する」「相違を乗り越える」「人を活かす」を全社員の共通言語とし、自律的な成長と変革に挑戦する組織文化を醸成しています。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画(2026~2030年度)において、実践的なアプローチによる「稼ぐ力」の強化を掲げています。2030年度の財務目標として以下の数値を設定し、持続的な企業価値の向上を目指しています。

・自己資本利益率(ROE):13%
・投下資本利益率(ROIC):7%

(4) 成長戦略と重点施策


「GRIT(既存事業の深化)」「GROWTH(成長事業の創出)」「CNX(低/脱炭素事業への挑戦)」の3つのテーマを事業戦略の軸として推進しています。

・GRIT:燃料油など既存事業の基盤を強化し、エネルギー安定供給と収益力向上を図る(累計投資8,300億円)
・GROWTH:電化・電動化、ICT、海外展開等の分野での事業創出(累計投資8,100億円の内数)
・CNX:低/脱炭素ソリューションの実装とカーボンニュートラル実現への挑戦

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「全ての社員を変革の主役に」「もっと共創&イノベーションを」をテーマに新人財戦略を展開しています。「現場力強化」「共創促進」「新価値創出力向上」の3つの活動変化を目指し、多様な変革リーダーの養成とグローバル人材の登用を推進することで、全社員が一丸となってイノベーションを生み出す環境を整備しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
111期 42.9歳 17.5年 9,952,943円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.0%
男性育児休業取得率 98.0%
男女賃金差異(全労働者) 75.9%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 75.2%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 62.1%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、出光エンゲージメントインデックス(70%)、出光成長スコア(65%)、女性採用比率(46%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 国際情勢や経済環境等の変化によるリスク


同社グループはグローバルに事業を展開しており、中東やウクライナ等の地政学的リスク、各国の政治・経済動向による影響を受けます。原油の生産調整やシーレーンでの輸送リスク等により、原油・ナフサの安定調達に支障が生じた場合や、エネルギー需要・価格が急変動した場合、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) 事業を取り巻く外部環境の変化によるリスク


燃料油事業では原油価格や国内市場価格の変動リスク、基礎化学品事業ではナフサ価格変動やアジア市場における競争激化のリスクに晒されています。また、為替変動リスクや、電力取引市場における価格変動リスク等も抱えており、これら外部要因の変動が製品マージンを圧迫し、業績に影響を与える可能性があります。

(3) 事業投資に関するリスク


既存事業の競争力維持や、電化・電動化、低・脱炭素ソリューション等の成長領域への積極的な戦略投資を行っていますが、想定外の市場変化や技術開発の遅れ、競合との競争等により、計画通りの収益を確保できない場合、多額の減損損失が発生し、財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(4) 環境規制に関するリスク


事業活動において広範な環境法規制が適用されており、汚染物質の排出や廃棄物処理基準に違反した場合は罰則を受ける可能性があります。また、気候変動対策に伴う国内外での温室効果ガス排出規制の強化や排出量取引制度等の導入により、環境対策のための設備投資やコンプライアンスコストが大幅に増加するリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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