※本記事は、ニチアスの有価証券報告書(第210期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ニチアスってどんな会社?
プラント設備から自動車部品、建材まで「断つ・保つ」技術を基盤とした事業を多角的に展開する企業です。
■(1) 会社概要
1896年に日本アスベストとして設立され、石綿製品の取り扱いを開始したのが同社の始まりです。1962年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、1981年に現在のニチアスへと商号を変更しました。その後も事業部制の導入や研究所の設置を通じて技術力を高め、各種産業を支える部材・エンジニアリング企業へと成長し、2026年には創業130周年を迎えました。
現在の同社グループは、連結従業員数6,424名、単体従業員数1,930名体制で事業を推進しています。株主構成を見ると、筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務などを行う信託銀行であり、第3位には従業員による持株会が名を連ねています。強固で安定した資本基盤のもとでグローバルに事業を展開していることがうかがえます。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.17% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 12.29% |
| ニチアス持株会 | 8.73% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役社長は亀津克己氏が務めています。社外取締役は3名で、社外取締役比率は23.1%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 亀津克己 | 代表取締役社長 | 1985年同社入社。工業製品事業本部海外営業部長、イノクリート代表取締役社長、基幹産業事業本部長等を経て、2022年より現職。 |
| 山本司 | 代表取締役専務執行役員内部統制・コンプライアンス・サステナビリティ・経理担当 | 1986年同社入社。日本ロックウール代表取締役社長、建材事業本部統括部長、管理本部長等を経て、2023年より現職。 |
| 田邉智 | 取締役専務執行役員生産部門・安全衛生・環境・品質保証担当 | 1989年同社入社。鶴見工場長、高機能製品事業本部技術生産統括部長、技術本部長等を経て、2025年より現職。 |
| 佐藤清 | 取締役常務執行役員研究開発・デジタル化推進担当 | 2003年同社入社。研究開発本部浜松研究所長、研究開発本部長等を経て、2024年より現職。 |
| 龍光幸徳 | 取締役常務執行役員営業部門担当 | 1988年同社入社。高機能製品事業本部東日本営業部長、高機能製品事業本部長等を経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、和智洋子(弁護士)、真鍋靖(元日立製作所執行役常務)、岩﨑玲子(For SDGs代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「プラント向け工事・販売」「工業製品」「高機能製品」「自動車部品」「建材」の報告セグメントで事業を展開しています。
■プラント向け工事・販売
電力、LNG、石油精製・石油化学などの各種プラント施設向けに、極低温から超高温に至る独自技術を駆使したエンジニアリングサービスや、シール材などの製品を提供しています。全国のプラント施設に常駐体制を構築し、各種工事やメンテナンスに対するニーズへ迅速に対応しています。
各種工事の施工や製品の販売代金から収益を得ています。事業の運営は同社のほか、ニチアスエンジニアリングサービスや新日本熱学などが担っています。
■工業製品
半導体、自動車、医療、食品、電力、インフラ建設など幅広い産業分野に対し、生産工場の設備用部材や各種機器の部品として、ガスケット・パッキン、ふっ素樹脂製品、各種断熱材などを提供しています。また、同社のマザー事業本部として新規事業創出の役割も担っています。
顧客からの製品販売代金が主な収益源です。国内外の多様な市場に向け、同社のほか福島ニチアスや海外の現地法人が連携して製造・販売を展開しています。
■高機能製品
技術革新がスピーディーなエレクトロニクス関連産業において、半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)の製造プロセスに不可欠な、熱・薬液・ガスなどに関わる先進の部品や部材を提供しています。樹脂・ゴム製品やヒータ・無機断熱製品などを取り扱っています。
各デバイス・装置メーカーからの製品購入代金が主な収益となります。事業運営は同社を中心に、熊本ニチアスや福島ニチアスなどの国内製造子会社が担っています。
■自動車部品
シリンダーヘッドガスケットなどの流体の漏れを防ぐシール材をはじめ、自動車の進化に対応した防熱、防音、制振関連の製品や技術を提供しています。中長期的な次世代車(EV等)へのシフトを見据え、高付加価値製品の創出や開発を進めています。
自動車メーカー等からの部品販売代金が収益源です。同社のほか、メタコート工業や海外の各現地法人がグローバルな生産体制のもとで運営しています。
■建材
オフィスビル、工場、物流倉庫などに向けて、不燃・断熱・耐火などの性能を備えた建材を提供するとともに、その建材を活用した施工も展開し、より安全で快適な空間づくりに寄与しています。
建材の販売および耐火被覆工事やフリーアクセスフロア工事などの施工代金から収益を得ています。事業の運営は同社やニチアスセラテック、日本ロックウールなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、売上・利益ともに高い水準を維持して安定的に推移しています。2025年3月期まで増収増益トレンドが続いていましたが、2026年3月期は高機能製品分野における半導体製造装置向けの需要軟調等により、売上高・利益ともにわずかに減少しました。それでも利益率は15%台をキープしており、強固な収益基盤を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,162億円 | 2,381億円 | 2,494億円 | 2,565億円 | 2,519億円 |
| 経常利益 | 306億円 | 331億円 | 388億円 | 417億円 | 394億円 |
| 利益率(%) | 14.1% | 13.9% | 15.6% | 16.3% | 15.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 163億円 | 168億円 | 203億円 | 248億円 | 293億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益状況を見ると、売上高が減少したことに伴い、売上総利益および営業利益も減少しています。一方で、売上総利益率は27%台を維持し、営業利益率も14%台後半と高い水準を保っており、コストコントロールや製品の高付加価値化が機能していることがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,565億円 | 2,519億円 |
| 売上総利益 | 708億円 | 699億円 |
| 売上総利益率(%) | 27.6% | 27.7% |
| 営業利益 | 397億円 | 370億円 |
| 営業利益率(%) | 15.5% | 14.7% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が83億円(構成比25%)と最も大きな割合を占め、次いで荷造保管運送費が19億円(同6%)となっています。
■(3) セグメント収益
各事業の収益動向を見ると、プラント向け工事・販売や工業製品、自動車部品は堅調に推移し増収を確保しました。一方、高機能製品は半導体製造装置向けの需要軟調により減収となりました。建材は大型物件の工程遅延等で売上が減少したものの、事業構造の見直しにより利益は大幅に改善しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| プラント向け工事・販売 | 785億円 | 795億円 | 125億円 | 120億円 | 15.1% |
| 工業製品 | 532億円 | 533億円 | 111億円 | 101億円 | 19.0% |
| 高機能製品 | 446億円 | 391億円 | 102億円 | 69億円 | 17.7% |
| 自動車部品 | 512億円 | 515億円 | 45億円 | 53億円 | 10.3% |
| 建材 | 291億円 | 285億円 | 14億円 | 27億円 | 9.5% |
| 連結(合計) | 2,565億円 | 2,519億円 | 397億円 | 370億円 | 14.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」の優良な状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 312億円 | 239億円 |
| 投資CF | -9億円 | -102億円 |
| 財務CF | -274億円 | -170億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.9%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.7%であり、いずれもプライム市場の製造業平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「私たちは、『断つ・保つ』の技術で地球の明るい未来に貢献します。」という「ニチアス理念」を掲げています。保温・断熱分野のパイオニアとして、さまざまな産業分野へ技術を基盤とした製品とサービスを提供し、環境と社会課題の解決に向け貢献していくことを使命としています。
■(2) 企業文化
同社グループは「働きやすい明るい会社」の実現を目指す姿として掲げています。従業員が活躍できる職場環境があってこそ、より良い技術や製品、サービスを社会に提供できるという考えのもと、従業員の「心構え」と「行動」の原則を示す「私たちの約束」を定め、実践を促しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は2027年3月期を最終年度とする中期経営計画「しくみ・130」を策定し、外部環境の変化に適応できる仕組みを構築しつつ、以下の目標達成を目指しています。
* 売上高:2,750億円
* 営業利益率:17.3%
* ROE:15.0%(以上)
* ROIC:14.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
「断つ・保つ」技術を基軸として、カーボンニュートラルに向けた省エネ関連製品や次世代エネルギー向け製品の開発を推進しています。また、将来の人手不足に対応するための省力化工法・製品の開発や工事現場管理のDX化を進めるとともに、自動車の進化に対応した高付加価値製品の創出や事業構造改革による収益改善を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人の成長と会社の成長は表裏一体である」との考えから、従業員の自律的なキャリア形成を支援しています。OFF-JT、OJT、自己啓発支援を三本柱とする人材育成方針を定め、ダイバーシティの推進や「ニチアスグループ健康経営宣言」のもとでの健康・安全な職場環境の整備に力を入れています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.9歳 | 13.9年 | 7,599,855円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 0.8% |
| 男性育児休業取得率 | 83.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 65.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 72.6% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 75.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員における女性比率(18.4%)、従業員の有給休暇取得率(83.8%)、従業員1ヶ月の平均時間外労働時間(12.5時間)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 景気変動および経済情勢による影響
同社の製品・サービスは、石油精製、半導体、自動車、建設など幅広い産業分野の設備投資や生産動向に依存しているため、国内外の景気変動や経済情勢の悪化が業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 海外事業活動におけるカントリーリスク
アジアをはじめとする海外地域で事業を展開しているため、予期せぬ法規制の変更、急激な金融情勢の変化、政治的混乱などが事業活動の支障となり、財務状況に影響を与える可能性があります。
■(3) 原材料の調達難および価格高騰
金属、コークス、ふっ素樹脂などの原材料を使用しており、供給元の状況変化による調達難や価格高騰が発生した場合、コスト増加を通じて業績に悪影響を及ぼすリスクが想定されています。
■(4) アスベスト(石綿)補償費用の継続発生
過去に製造したアスベスト製品に起因する健康被害について、元従業員や周辺住民等へ補償金を支払っており、今後も損害賠償や補償費用の負担が継続的に発生するリスクがあります。



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