※本記事は、ニチアス株式会社 の有価証券報告書(第209期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ニチアスってどんな会社?
独自の「断つ・保つ」技術により、プラント、自動車、半導体、建材など幅広い産業を支える老舗メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1896年に日本アスベストとして設立され、石綿製品の取り扱いを開始しました。1930年には国産初のジョイントシートパッキングを完成させ、1962年に東京証券取引所市場第一部へ上場しました。1981年に現在のニチアスへ商号を変更し、事業部制を導入して多角化を推進しました。2022年には東証の市場区分見直しに伴いプライム市場へ移行しています。
同社グループの従業員数は連結で6,373名、単体で1,886名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)、第2位は同じく資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行(信託口)、第3位は従業員持株会であるニチアス持株会となっており、特定の親会社を持たない独立した経営体制です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.89% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 10.12% |
| ニチアス持株会 | 8.65% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長は亀津克己氏です。社外取締役比率は23.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 亀津 克己 | 代表取締役社長 | 1985年入社。工業製品事業本部副本部長、執行役員、基幹産業事業本部長などを経て2022年6月より現職。 |
| 山本 司 | 代表取締役専務執行役員 | 1986年入社。日本ロックウール社長、管理本部長などを経て2022年6月より現職。内部統制・コンプライアンス・サステナビリティ・経理担当。 |
| 田邉 智 | 取締役専務執行役員 | 1989年入社。技術本部長、生産本部長などを経て2024年6月より現職。生産部門・安全衛生・環境・品質保証担当。 |
| 佐藤 清 | 取締役常務執行役員 | 2003年入社。浜松研究所長、研究開発本部長などを経て2024年6月より現職。研究開発・デジタル化推進担当。 |
| 龍光 幸徳 | 取締役上席執行役員 | 1988年入社。高機能製品事業本部副本部長などを経て2024年4月より現職。営業部門担当兼高機能製品事業本部長。 |
社外取締役は、江藤洋一(弁護士)、和智洋子(弁護士)、真鍋靖(三菱瓦斯化学社外取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「プラント向け工事・販売」「工業製品」「高機能製品」「自動車部品」「建材」の5つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) プラント向け工事・販売
電力、LNG、石油精製・石油化学などの各種プラント設備向けに、シール材などの製品販売や、極低温から超高温領域に対応したエンジニアリングサービスを提供しています。独自の断熱技術や施工技術を活かし、各種工事やメンテナンスを行っています。
収益は、顧客であるプラント事業者等からの製品販売代金や工事代金から得ています。運営は主に同社が行うほか、国内ではニチアスエンジニアリングサービス、新日本熱学、ニチアス関東販売、イノクリートなどが、海外ではTHAI NICHIAS ENGINEERING CO.,LTD.などが担当しています。
■(2) 工業製品
半導体、自動車、医療、食品、石油化学など幅広い産業分野に対し、生産工場の設備用部材や機器部品を提供しています。具体的には、ガスケット・パッキン、ふっ素樹脂製品、各種断熱材、VOC除去フィルターなどを製造・販売しています。
収益は、各産業分野の顧客への製品販売により得ています。運営は同社に加え、製造子会社の福島ニチアス、国分工業、ニチアスセラテック、竜田工業などが担い、販売は東京マテリアルスや西日本ニチアスなどが行っています。海外でもアジアを中心に多数の拠点で展開しています。
■(3) 高機能製品
技術革新の早いエレクトロニクス産業向けに、半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)製造プロセスで使用される部材を提供しています。熱、薬液、ガスなどに関わる樹脂・ゴム製品、ヒータ、無機断熱製品などを取り扱っています。
収益は、半導体製造装置メーカーなどの顧客への製品販売から得ています。運営は同社が中心となり、製造は福島ニチアス、ニチアスセラテック、竜田工業、熊本ニチアスなどが担当しています。
■(4) 自動車部品
自動車エンジンや周辺機器向けに、流体の漏れを防ぐシール材(シリンダーヘッドガスケット等)や、防熱・防音・制振に関連する機能部品を提供しています。次世代車への対応も含め、高付加価値製品の開発を進めています。
収益は、自動車メーカーや部品メーカーへの製品販売から得ています。運営は同社およびメタコート工業、福島ニチアス、国分工業、竜田工業、APJなどの国内拠点に加え、タイ、チェコ、メキシコ、中国などの海外拠点でグローバルに展開しています。
■(5) 建材
オフィスビル、工場、物流倉庫などの建築物向けに、不燃・断熱・耐火性能を備えた建材(けい酸カルシウム板、ロックウール製品等)の提供および施工を行っています。耐火被覆工事やフリーアクセスフロア工事なども手がけています。
収益は、建設会社や建材商社等からの製品販売代金や工事代金から得ています。運営は同社およびニチアスセラテック、竜田工業、日本ロックウール、君津ロックウール、堺ニチアス、ニチアスセムクリートなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、順調に規模を拡大しています。利益面でも、経常利益および当期純利益ともに増加基調を維持しており、特に直近の2025年3月期は売上高、各利益ともに過去最高水準となっています。利益率も高い水準で安定しており、収益性を伴った成長が続いています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,964億円 | 2,162億円 | 2,381億円 | 2,494億円 | 2,565億円 |
| 経常利益 | 213億円 | 306億円 | 331億円 | 388億円 | 417億円 |
| 利益率(%) | 10.8% | 14.1% | 13.9% | 15.6% | 16.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 107億円 | 220億円 | 214億円 | 270億円 | 321億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い売上原価も増加していますが、売上総利益率は改善傾向にあります。販売費及び一般管理費も増加していますが、営業利益率は上昇しており、効率的な事業運営が行われていることがうかがえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,494億円 | 2,565億円 |
| 売上総利益 | 648億円 | 708億円 |
| 売上総利益率(%) | 26.0% | 27.6% |
| 営業利益 | 352億円 | 397億円 |
| 営業利益率(%) | 14.1% | 15.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が55億円(構成比18%)、荷造保管運送費が23億円(同7%)を占めています。売上原価においては、商品及び製品売上原価が1,293億円(構成比70%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで黒字を確保しています。特にプラント向け工事・販売セグメントは増収増益となり、利益率も高い水準です。高機能製品や自動車部品セグメントも堅調に推移しました。一方、建材セグメントは減収となりましたが、事業構造の見直しにより利益は大幅に増加し、収益性が改善しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| プラント向け工事・販売 | 735億円 | 785億円 | 106億円 | 125億円 | 15.9% |
| 工業製品 | 512億円 | 532億円 | 105億円 | 111億円 | 20.8% |
| 高機能製品 | 428億円 | 446億円 | 96億円 | 102億円 | 22.9% |
| 自動車部品 | 501億円 | 512億円 | 38億円 | 45億円 | 8.9% |
| 建材 | 317億円 | 291億円 | 7億円 | 14億円 | 4.8% |
| 調整額 | - | - | - | - | - |
| 連結(合計) | 2,494億円 | 2,565億円 | 352億円 | 397億円 | 15.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは「健全型」です。本業で稼いだ資金(営業CFプラス)で借入金の返済や自己株式の取得(財務CFマイナス)を行いつつ、投資(投資CFマイナス)も実施する健全な財務状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 192億円 | 312億円 |
| 投資CF | -129億円 | -9億円 |
| 財務CF | -111億円 | -274億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は74.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「ニチアスは、『断つ・保つ』の技術で地球の明るい未来に貢献します。」という経営理念を掲げています。創業以来培ってきた断熱やシールなどの「断つ・保つ」技術を基盤に、様々な産業分野へ製品とサービスを提供することで、環境保護や社会課題の解決に貢献し、持続可能な社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「働きやすい明るい会社」の実現を目指しており、従業員とその家族の幸せを重視する文化があります。また、「新生ニチアス・スピリット」や「私たちの約束」を通じて、従業員の心構えや行動原則を定めています。「NKK(ニチアス改善活動)」を通じて従業員の働きがいと生産性向上を両立させ、仲間と協力して仕事をする風土を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
2027年3月期を最終年度とする中期経営計画「しくみ・130」を策定しています。「断つ・保つ」技術と独自のビジネスモデルを進化させ、環境・社会課題の解決を目指しています。最終年度の数値目標として以下を掲げています。
* 売上高:2,750億円
* 営業利益率:17.3%
* ROE:15.0%以上
* ROIC:14.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
各事業セグメントにおいて市場環境の変化に対応した戦略を推進しています。プラント向けではDX推進や省力化、工業製品では設備投資や生産体制整備、高機能製品では半導体市場拡大への対応を進めます。自動車部品では次世代車へのシフトを見据えた開発、建材では差別化製品の拡販と構造改革による収益改善に注力します。また、カーボンニュートラルへの対応を強化し、環境配慮型製品の開発や自社のCO2排出削減にも積極的に取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最大の資産と捉え、「働きやすい明るい会社」の実現を目指しています。「ニチアスグループ人権方針」や「健康経営宣言」に基づき、多様な人材が安心して働ける環境整備や健康づくりを推進しています。エンゲージメントサーベイによる課題特定や制度見直し、女性管理職候補者の育成、階層別研修などの人材育成にも注力し、働きがいと生産性の向上を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.9歳 | 14.0年 | 7,291,565円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 0.8% |
| 男性育児休業取得率 | 67.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 64.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 70.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 75.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、正社員における女性比率(18.5%)、有給休暇取得率(74.6%)、1ヶ月の平均時間外労働時間(12.5時間)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 景気変動、経済情勢のリスク
同社グループの製品・サービスは、石油精製、半導体、自動車、建設など幅広い産業分野に提供されています。そのため、全産業の設備投資動向、半導体需要、自動車生産台数、ビル建設需要などに業績が依存しており、国内外の景気動向や経済情勢の変動により、業績に影響が及ぶ可能性があります。
■(2) 海外事業活動のリスク
アジアを中心に海外で事業を展開しており、予期せぬ法律や規制の変更、急激な金融情勢の変化、政治的混乱などが生じるリスクがあります。これらの事象が顕在化した場合、海外での事業活動に支障をきたし、同社グループの業績や財務状況に悪影響を与える可能性があります。
■(3) 原材料調達のリスク
金属、コークス、パルプ、ゴム、ふっ素樹脂などの原材料を使用しており、供給元の経済環境の変化や供給能力の低下により、必要な原材料の調達が困難になる可能性があります。このような事態が生じた場合、生産活動に支障が生じ、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) アスベスト(石綿)による健康障害者への補償のリスク
同社および一部の子会社は、過去に製造した石綿製品に関連して、健康被害を受けた元従業員や工場周辺住民に対して補償金や救済金を支払っています。また、損害賠償請求訴訟も提起されており、今後も補償費用等の負担が継続する可能性があります。これらは業績や財務状況に影響を与える要因となります。



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