※本記事は、日本製鉄株式会社の有価証券報告書(第101期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本製鉄ってどんな会社?
■(1) 会社概要
1950年4月設立。1970年に八幡製鐵と富士製鐵が合併し新日本製鐵に商号変更しました。2012年に住友金属工業と合併して新日鐵住金となり、2019年に現在の日本製鉄に商号変更しています。近年は日新製鋼や山陽特殊製鋼などを完全子会社化し、2025年には米国企業を買収するなど事業再編を進めています。
従業員数は連結で138,453名、単体で32,102名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に日本カストディ銀行となっています。国内外に多数のグループ会社を抱え、世界有数の規模を誇るグローバル企業として、強固な事業体制を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.90% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.00% |
| THE CHASE MANHATTAN BANK,N.A. LONDONSECS LENDING OMNIBUS ACCOUNT | 1.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性3名の計15名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役会長 兼 CEOは橋本英二氏、代表取締役社長 兼 COOは今井正氏が務めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 橋本 英二 | 代表取締役会長 兼 CEO | 1979年に新日本製鐵に入社し、執行役員厚板事業部長などを経て、2019年より日本製鉄代表取締役社長に就任。2024年より現職。 |
| 今井 正 | 代表取締役社長 兼 COO | 1988年に新日本製鐵に入社。名古屋製鐵所長やグリーン・トランスフォーメーション推進本部長などを歴任し、2024年より現職。 |
| 森 高弘 | 代表取締役副会長 兼 副社長 | 1983年に新日本製鐵に入社し、グローバル事業推進本部長などを歴任。インドやタイのプロジェクトリーダーを務め、2026年より現職。 |
| 佐藤 直樹 | 代表取締役副社長 | 1983年に新日本製鐵に入社し、次世代熱延プロジェクトリーダーなどを経て、2021年より代表取締役副社長に就任。2026年より現職。 |
| 廣瀨 孝 | 代表取締役副社長 | 1986年に新日本製鐵に入社。薄板事業部長や鋼管事業部長を経て、2022年より代表取締役副社長に就任。2025年より現職。 |
| 船越 弘文 | 代表取締役副社長 | 1987年に新日本製鐵に入社し、経営企画部長やグリーン・トランスフォーメーション推進本部副本部長などを経て、2025年より現職。 |
| 湊 博之 | 代表取締役副社長 | 1989年に新日本製鐵に入社し、室蘭製鉄所長などを歴任。次世代熱延や電炉プロジェクトリーダーなどを務め、2025年より現職。 |
| 藤田 展弘 | 代表取締役副社長 | 1989年に新日本製鐵に入社し、技術開発本部鉄鋼研究所長などを経て、2025年より代表取締役副社長技術開発本部長に就任。現職。 |
社外取締役は、澤田純(元日本電信電話社長)、肥塚見春(元高島屋代表取締役専務)、平松賢司(元駐インド特命全権大使)、関根愛子(元日本公認会計士協会会長)、竹内純子(東北大学特任教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「製鉄」「エンジニアリング」「ケミカル&マテリアル」「システムソリューション」事業を展開しています。
■製鉄
同社グループの中核事業であり、条鋼、鋼板、鋼管、特殊鋼などの各種鉄鋼製品をはじめ、チタンや鉄鋼スラグ製品などの製造販売を行っています。自動車やインフラ、エネルギーなど幅広い産業向けに高品質な素材を提供しています。
収益は、国内外の顧客に対する製品の販売によって得ています。運営は主に日本製鉄が行うほか、山陽特殊製鋼や日鉄鋼板などの多数のグループ会社が生産から加工、販売、物流に至るまでの事業を担っています。
■エンジニアリング
各種プラントやエネルギー導管、産業機械、鋼構造物等の設計・建設から、施設の運営・維持管理までを幅広く手掛けています。また、廃棄物の処理や再生資源化、電気・ガス等のエネルギー供給事業も展開しています。
主に顧客からの設備建設やプラントの運営委託等に伴う工事代金やサービス料として収益を得ています。運営は主に日鉄エンジニアリングが中心となって行い、国内外で大規模なインフラ案件等を推進しています。
■ケミカル&マテリアル
ピッチコークス等の石炭化学製品や、スチレンモノマー等の石油化学製品のほか、液晶ディスプレイ材料や半導体・電子部品用材料、炭素繊維複合材などの先端機能材料・部材の開発・製造販売を展開しています。
収益は、素材や化学製品、機能性材料などの販売から得ています。運営は主に日鉄ケミカル&マテリアルが行っており、鉄鋼製造プロセスから得られる副産物を有効活用した化学・素材ビジネスを推進しています。
■システムソリューション
コンピュータシステムに関するエンジニアリングやコンサルティング業務を行っています。また、ITを用いたアウトソーシングサービスなど、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する各種サービスを提供しています。
顧客からのシステム開発やコンサルティング、運用・保守等のITサービス提供に対する対価として収益を得ています。運営は主に日鉄ソリューションズが担い、製造業や金融分野など幅広い業界の顧客を支援しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、売上収益は海外事業の拡大や製品価格の是正等により、増収基調で推移しています。特に直近では米国企業の買収等の影響もあり、10兆円を超える規模に達しています。一方で当期利益は、事業環境の悪化や一時的な事業再編損等の計上が重なり、減少傾向となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 68,089億円 | 79,756億円 | 88,681億円 | 86,955億円 | 100,632億円 |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 6,373億円 | 6,940億円 | 5,494億円 | 3,502億円 | 172億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益を比較すると、売上収益は大幅な増収となったものの、売上総利益および営業利益は減益となっています。これは、原材料価格や諸コストの上昇、厳しい事業環境の継続に加えて、大規模な事業再編損を計上したことなどが大きく影響しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 86,955億円 | 100,632億円 |
| 売上総利益 | 5,517億円 | 5,078億円 |
| 売上総利益率(%) | 6.3% | 5.0% |
| 営業利益 | 5,480億円 | 2,429億円 |
| 営業利益率(%) | 6.3% | 2.4% |
販売費及び一般管理費のうち、販売品運賃及び荷役等諸掛が1,135億円(構成比11.4%)、給料手当及び賞与が602億円(同6.1%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上収益を見ると、中核である製鉄事業が前期比で大きく伸長し、全体の売上成長を牽引しています。これは主に米国鉄鋼メーカーの買収による連結子会社化が寄与したものです。また、システムソリューション事業も金融分野などの需要を取り込み、着実な増収を達成しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 製鉄 | 78,744億円 | 92,217億円 |
| エンジニアリング | 4,005億円 | 3,945億円 |
| ケミカル&マテリアル | 2,691億円 | 2,580億円 |
| システムソリューション | 3,394億円 | 3,829億円 |
| 調整額 | △1,878億円 | △1,938億円 |
| 連結(合計) | 86,955億円 | 100,632億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で安定した資金を獲得し、借入等の資金調達も活用しながら積極的な投資を実施する「積極型」の傾向を示しています。当期は米国企業の買収等により巨額の投資キャッシュ・フローのマイナスを計上し、それに伴う大規模な資金調達を実施しています。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.3%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.9%であり、いずれもプライム市場の平均を下回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 9,786億円 | 7,169億円 |
| 投資CF | △4,624億円 | △28,372億円 |
| 財務CF | △3,133億円 | 18,863億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します。」という基本理念を掲げています。信用・信頼を大切にし、変化を先取りして自らの変革に努めながら、お客様とともに発展することを使命としています。
■(2) 企業文化
「人を育て活かし、活力溢れるグループを築きます」という経営理念のもと、人材育成を経営の重要な基盤と位置づけています。一人ひとりの潜在力や専門性を引き出し、自律的な成長と挑戦を促すことが生産性や競争力の向上につながるという考え方が、同社の企業文化の根底にあります。
■(3) 経営計画・目標
2025年12月に策定された「2030中長期経営計画」において、一段と厳しい経営環境を想定し、世界No.1の鉄鋼メーカーへの復権を目指しています。2030年度を一つのマイルストーンとして、以下の財務目標を掲げています。
* 連結実力利益:1兆円以上
* ROE:10%程度
* D/Eレシオ:0.7程度
* D/EBITDA倍率:3.5以下
■(4) 成長戦略と重点施策
「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」を目指し、国内では収益基盤の強化による収益力向上を、海外ではグローバル成長戦略の実行による飛躍的利益拡大を推進します。また、カーボンニュートラルの実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)の推進や、研究開発・DXを通じた経営基盤の強化にも注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「世界最高の技術とものづくりは人づくりから」という考えのもと、業務刷新やDXによる生産性向上と、グローバル人材の育成・活躍推進に取り組んでいます。多様な人材が誇りをもって活躍できる環境を整備するため、柔軟な働き方の追求やDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の推進に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.3歳 | 19.5年 | 9,086,300円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.8% |
| 男性育児休業取得率 | 65.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 67.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 67.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 83.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(81.5%)、教育訓練時間(30時間/人・年)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経営環境(鉄鋼市場)の変動リスク
製鉄事業は国内外のマクロ経済や景気動向に大きく影響を受けます。人口減少による国内需要の縮小や、中国の過剰生産に伴う安価な鋼材輸出の増加による国際市況の低迷、保護主義的な通商政策の台頭などにより、同社グループの事業活動や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原燃料価格の変動と為替相場リスク
鉄鉱石や石炭などの主原料の多くを海外から輸入しているため、国際的な需給状況等による価格高騰を製品価格に転嫁できない場合、収益が悪化するリスクがあります。また、為替相場の変動により、輸出競争力の低下や調達コストの増大が生じ、業績や財政状態に影響を与える可能性があります。
■(3) カーボンニュートラル実現に向けた取組みの不確実性
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、水素還元技術や大型電炉の実装など巨額の投資と革新的技術の開発を進めています。しかし、政府の政策措置が不十分な場合や、グリーンエネルギーの安定供給等の外部条件が想定と異なる場合、期待される成果が得られず財務基盤に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(4) 情報システムの障害や情報漏洩リスク
同社の事業活動は情報システムに大きく依存しています。サイバー攻撃やウイルス感染等によりシステムが停止した場合、生産や業務の遅延が生じる恐れがあります。また、機密情報や個人情報の漏洩・改ざん等が発生した場合、社会的信用の低下や訴訟対応などにより業績に深刻な影響を与える可能性があります。



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