※本記事は、株式会社神戸製鋼所の有価証券報告書(第173期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 神戸製鋼所ってどんな会社?
神戸製鋼所は、鉄鋼やアルミなどの素材系事業、機械系事業、電力事業を幅広く展開する企業です。
■(1) 会社概要
1905年に創業し、1911年に設立されました。1949年には株式上場を果たしています。1959年に銑鋼一貫メーカー、1970年に総合鉄鋼メーカーへと発展しました。1999年に建設機械事業をコベルコ建機へ一元化し、2002年には神戸発電所の営業運転を開始して電力事業にも本格参入しています。
現在の従業員数は、連結で38,614名、単体で12,253名です。大株主の状況は、筆頭株主が資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位および第3位も同様に資産管理業務等を行う日本カストディ銀行と野村信託銀行となっており、信託銀行が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.25% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.12% |
| 野村信託銀行(投信口) | 2.70% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役社長は勝川四志彦です。社外取締役は6名で、社外取締役比率は46.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 勝川 四志彦 | 取締役社長(代表取締役) | 1985年入社。執行役員、常務執行役員、専務執行役員、取締役専務執行役員、取締役執行役員、取締役副社長執行役員を経て、2024年4月より現職。 |
| 永良 哉 | 取締役副社長執行役員(代表取締役) | 1985年入社。執行役員、常務執行役員、専務執行役員、取締役専務執行役員、取締役執行役員を経て、2023年4月より現職。 |
| 坂本 浩一 | 取締役執行役員 | 1990年入社。技術開発本部材料研究所長、開発企画部長、執行役員を経て、2023年6月より現職。 |
| 宮岡 伸司 | 取締役執行役員 | 1994年入社。経営企画部長、執行役員を経て、2023年6月より現職。 |
| 木本 和彦 | 取締役執行役員 | 1988年入社。執行役員、常務執行役員、執行役員を経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、伊藤ゆみ子(イトウ法律事務所代表)、北川慎介(日本商事仲裁協会理事長)、塚本良江(元NTTドコモビジネスX社長)、河野雅明(元オリエントコーポレーション会長)、三浦州夫(河本・三浦法律事務所代表)、関口暢子(エイチ・ツー・オーリテイリング社外取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、鉄鋼アルミ、素形材、溶接、機械、エンジニアリング、建設機械、電力の報告セグメントおよびその他事業を展開しています。
■(1) 鉄鋼アルミ
線材や薄板、厚板などの鉄鋼製品および自動車向けなどのアルミ板製品を提供しています。輸送機、電機、建設などのあらゆる産業の基礎資材として、国内外の幅広い顧客に対して素材を供給しています。
顧客への製品販売等から収益を得ています。運営は主に神戸製鋼所が行っているほか、関連会社の神鋼鋼線工業などの国内外のグループ会社や持分法適用会社が製造・販売などを担っています。
■(2) 素形材
鋳鍛鋼品やアルミニウム・マグネシウム合金鋳造品、チタン、アルミ押出材、銅圧延品、鉄粉などの素形材製品を提供しています。多様な素材とその加工技術を活用し、輸送機関連分野などにソリューションを提案しています。
製品の販売から収益を得ています。運営は主に神戸製鋼所が行っているほか、国内外の子会社が製造や販売事業を担っています。
■(3) 溶接
各種溶接材料や溶接ロボット、溶接機、溶接ロボットシステムを提供するほか、溶接関連の試験や分析、コンサルティング事業も展開しています。溶接技術を活かし、建設や造船等の顧客の課題解決を支援しています。
溶接関連製品の販売やサービスの提供から収益を得ています。運営は神戸製鋼所のほか、青島神鋼溶接材料などの国内外の子会社が担っています。
■(4) 機械
エネルギー・化学関連機器、タイヤ・ゴム機械、樹脂機械、各種圧縮機、冷凍機などの産業用機械製品や関連部品を提供しています。顧客の用途に合わせた最適な機器を提供し、幅広い産業を支援しています。
製品の販売およびサービスの提供から収益を得ています。運営は神戸製鋼所が行うほか、コベルコ・コンプレッサなどの子会社が圧縮機の製造や販売、サービスを担っています。
■(5) エンジニアリング
直接還元鉄プラントや水処理、廃棄物処理プラントなどの各種プラント設備、新交通システム、医薬関連機械等を提供しています。独自の還元製鉄法などの環境配慮型技術により、顧客の課題解決に貢献しています。
プラントの設計や販売、建設、保守点検などの工事契約やサービス提供から収益を得ています。運営は神戸製鋼所のほか、神鋼環境ソリューションなどの子会社が担っています。
■(6) 建設機械
油圧ショベル、ミニショベル、環境リサイクル機械、クローラクレーンなどの建設機械製品を提供しています。静音性や省エネ技術で高い評価を得る製品を、国内外の建設現場などに向けて供給しています。
建設機械の製造、販売およびサービス提供から収益を得ています。運営は主に子会社のコベルコ建機やコベルコ建機日本などが担っており、海外でも複数の子会社が製造や販売を行っています。
■(7) 電力
重要な社会インフラである電力の供給および熱供給のサービスを提供しています。国内最高効率レベルの石炭火力発電所やガス火力発電所を有し、電力広域的運営推進機関などを通じて社会へ電力を安定供給しています。
電力の供給による料金等から収益を得ています。運営は主に神戸製鋼所が行うほか、子会社のコベルコパワー神戸、コベルコパワー真岡、コベルコパワー神戸第二が発電所の操業を担っています。
■(8) その他
高圧ガス容器の製造および販売などを展開しています。多様なニーズに対応する製品を提供し、特定の産業分野において事業活動を行っています。
製品の販売から収益を得ています。運営は、神戸製鋼所の子会社および関連会社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、売上高は2025年3月期まで順調に拡大していましたが、2026年3月期には減収へと転じています。経常利益も2024年3月期をピークに減少傾向にあり、利益率も直近で低下しています。外部環境の変化や固定費の増加などが影響し、直近では減収減益の厳しい状況となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 20,826億円 | 24,725億円 | 25,431億円 | 25,550億円 | 24,366億円 |
| 経常利益 | 932億円 | 1,068億円 | 1,609億円 | 1,572億円 | 1,213億円 |
| 利益率(%) | 4.5% | 4.3% | 6.3% | 6.2% | 5.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 454億円 | 551億円 | 655億円 | 1,037億円 | 590億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期から減少しており、それに伴い売上総利益も縮小しています。売上総利益率はほぼ横ばいで推移していますが、コスト増などの影響により営業利益は減少し、営業利益率も悪化しています。収益性の改善が課題となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 25,550億円 | 24,366億円 |
| 売上総利益 | 4,232億円 | 4,032億円 |
| 売上総利益率(%) | 16.6% | 16.5% |
| 営業利益 | 1,587億円 | 1,299億円 |
| 営業利益率(%) | 6.2% | 5.3% |
販売費及び一般管理費のうち、減価償却費が101億円(構成比3.7%)、賞与引当金繰入額が72億円(同2.6%)を占めています。また、売上原価は20,334億円で、売上高に対する売上原価の構成比は83.5%となっています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上高を見ると、主力である鉄鋼アルミと電力の売上が前期比で減少しており、全体の減収に大きく影響しています。一方で、素形材、機械、エンジニアリングなどの分野は売上を伸ばしており、建設機械や溶接も堅調に推移しています。特定のセグメントで苦戦が見られるものの、複数事業による補完が行われています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 鉄鋼アルミ | 10,780億円 | 9,615億円 |
| 素形材 | 3,044億円 | 3,202億円 |
| 溶接 | 932億円 | 956億円 |
| 機械 | 2,516億円 | 2,690億円 |
| エンジニアリング | 1,724億円 | 1,915億円 |
| 建設機械 | 3,879億円 | 3,895億円 |
| 電力 | 2,588億円 | 2,032億円 |
| その他 | 74億円 | 41億円 |
| 調整額 | 13億円 | 20億円 |
| 連結(合計) | 25,550億円 | 24,366億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金で借入金の返済を行い、さらに投資活動も手元資金で賄っている状態です。これは財務の安全性を高めている健全型のキャッシュ・フロー状況と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,483億円 | 2,017億円 |
| 投資CF | -1,139億円 | -737億円 |
| 財務CF | -962億円 | -1,624億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も44.0%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、ビジョン・ミッションにあたる「KOBELCOが実現したい未来」「KOBELCOの使命・存在意義」と、価値観・行動規範である「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」の4要素からなるグループ企業理念を掲げています。技術や製品、サービスを通じて社会に新たな価値を提供し、「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。」の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
過去の品質事案を契機に閉鎖的だった企業風土の変革を目指し、グループ社員一人ひとりが参加するボトムアップのアプローチで企業理念を制定したという文化を持っています。各職場における「語り合う場」での議論を通じて社員の思いを抽出し、社会のニーズに向き合う中で培ってきた多様な人材や事業、技術を掛け合わせることで、同社ならではの社会課題の解決に挑み続ける姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画(2024~2026年度)において、「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」および「カーボンニュートラル(CN)への挑戦」を最重要課題に掲げています。持続的な成長に向けて、以下の具体的な数値目標を設定し、事業を支える財務体質の変革や生産プロセスにおける環境負荷低減を目指しています。
・安定的にROIC6%以上、将来の姿としてROIC8%以上
・2030年までにCO2排出量を30~40%削減(2013年度比)
・2026年度末の純資産比率40%台前半、D/Eレシオ0.7倍台半ば
■(4) 成長戦略と重点施策
最重要課題の達成に向け、「将来の外部環境を見据えた“事業基盤の再整備”」、「既存事業における“新たな需要の捕捉”、“事業の幅の拡大”による成長」、「生産プロセスのCO2削減」、「変革を通じたサステナビリティ経営の強化」の4つの重点施策を実行しています。これまでの事業で培った技術やノウハウと、DX関連技術などを掛け合わせる「KOBELCO-X」を通じて、ソリューションビジネスなどの新たな領域への展開と収益力強化を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業戦略のドライバーである「KOBELCO-X」を推進するため、重点人材の計画的な確保と適所適材の配置を目指しています。具体的には、「組織の多様性を高める」「一人ひとりの成長・挑戦を促す」「活躍できる環境を整備する」という3つのアプローチを軸に据えています。社内公募であるキャリアトライ制度や資格取得応援制度などを通じて自律的なキャリア形成を後押しし、多様な社員が安心して能力を発揮できる職場環境の構築を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.1歳 | 15.5年 | 8,322,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.8% |
| 男性育児休業取得率 | 150.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 81.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 81.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 78.1% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職人数(93人)、一人当たりの年間平均研修受講時間(50.4時間)、年次有給休暇取得日数(17.3日)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 主要市場の経済状況と製品需給の変動
同社の事業は、自動車や造船、建設など幅広い分野を対象としており、国内外の経済情勢や地政学的リスクの影響を受けます。特に鉄鋼事業では、中国における過剰生産能力問題が依然として需給や価格に影響を与えています。また、機械系事業においても汎用品や受注生産品の需給変動が激しく、これらの市場動向や競争環境の変化により、売上高や収益が減少し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原材料等の価格変動とサプライチェーンリスク
鉄鋼原料や非鉄金属等の調達価格、および海上運賃は、国際的な市況や為替相場、地政学的リスク等により変動します。調達先の分散や価格転嫁に努めているものの、大幅な価格変動が生じた場合、コストの増加を招きます。また、サプライチェーンにおいて災害や事故、急激な関税政策の変更などで混乱が生じた場合、原材料等の安定調達が阻害され、生産活動や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 品質問題および環境・気候関連規制への対応
過去の品質事案を教訓に品質ガバナンス体制の再構築に努めていますが、万一品質上の欠陥が発生した場合、訴訟や販売量の減少につながるおそれがあります。また、エネルギー多消費型の事業特性を持つため、カーボンプライシングなどの気候変動に係る政策や環境規制の強化は重大なリスクとなります。これらの規制に対応するためのコスト増加や事業活動の制約が、業績に直接的な影響を与える可能性があります。



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