※本記事は、大和工業株式会社の有価証券報告書(第107期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 大和工業ってどんな会社?
大和工業は形鋼等の鉄鋼製品および軌道用品を製造・販売し、米国やアジア等でグローバルな事業展開を推進する企業です。
■(1) 会社概要
1944年に創立され、1945年に軌道用品の製作・修理事業へ転換しました。1961年に東京・大阪両証券取引所に上場し、1987年には米国へ進出して合弁会社を設立しました。2003年に持株会社体制へ移行し、近年も2024年にインドネシアの企業を子会社化するなど、海外での事業基盤を積極的に拡大しています。
同社グループの従業員数は連結で2,463名、単体で130名です。大株主の状況としては、筆頭株主は創業者一族である取締役会長の井上浩行氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は創業者一族の関連会社である井上不動産が名を連ねており、創業家に関連する株主が高い保有比率を有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 井上浩行 | 12.62% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.50% |
| 井上不動産 | 7.65% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は8.0%です。代表取締役社長は小林幹生氏が務めています。社外取締役比率は30.8%(13名中4名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 井上浩行 | 取締役会長 | 1969年3月同社入社。調査企画室長、常務取締役、代表取締役専務取締役を経て、1981年12月代表取締役社長に就任。2017年6月より現職。 |
| 小林幹生 | 代表取締役社長 | 2008年4月三井物産入社、米州本部鉄鋼製品ディビジョナルオペレーティングオフィサー等を歴任。2012年4月同社入社、常務取締役を経て2017年6月より現職。 |
| 塚本一弘 | 代表取締役常務執行役員総務部・人事部・システム管理部・サステナビリティ経営統括部担当 | 2013年4月三井物産入社、欧州三井物産取締役等を歴任。2015年7月三井物産スチール常務執行役員を経て、2017年6月同社常務取締役。2024年9月より現職。 |
| 大木伸夫 | 取締役執行役員技術統括部担当 | 1998年4月同社入社。ヤマトスチール執行役員製鋼部長、ポスコ・ヤマト・ビナ・スチールジョイントストックカンパニー工場長を経て、2025年4月より現職。 |
| ダムリ タンシェヴァヴォン | 取締役 | 1999年1月サイアム・ヤマト・スチールカンパニーリミテッドマネージングダイレクター等を経て、2011年6月同社取締役。SCG Ceramics Public Co., Ltd. ダイレクター等を経て現職。 |
| 安福武之助 | 取締役 | 2007年6月神戸酒心館取締役副社長。2011年8月同社代表取締役社長。2015年6月より同社取締役。 |
社外取締役は、赤松清茂(元朝日工業社長)、武田邦俊(元ブリヂストン執行役員)、髙橋規(元三井物産副社長)、ピムジャイ ワンキアット(元The Siam Cement Public Co.,Ltd.コーポレートダイレクター)です。
2. 事業内容
同社グループは、「鉄鋼事業(日本)」「鉄鋼事業(タイ)」「鉄鋼事業(インドネシア)」「軌道用品事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 鉄鋼事業(日本)
主にH形鋼、溝形鋼、鋼矢板などの各種形鋼製品や、鋳鋼品、船舶製缶品、重機械加工品を製造・販売しています。建設・土木業界などを主要な顧客とし、多様なニーズに応える鋼材製品を安定的に供給し社会インフラを支えています。
顧客への製品販売による収益を主な収入源としています。国内における事業運営は、主に子会社であるヤマトスチールが担っており、製販一体となった短納期対応や販売強化を通じて収益の確保と市場シェアの拡大に努めています。
■(2) 鉄鋼事業(タイ)
タイ国内において、H形鋼、溝形鋼、鋼矢板、等辺山形鋼などの形鋼製品を製造・販売しています。現地の公共事業やデータセンター等の民間プロジェクトにおける建設需要に対応し、製品を供給しています。
現地顧客に対する鉄鋼製品の販売から収益を得るモデルです。事業運営は、子会社であるサイアム・ヤマト・スチールカンパニーリミテッドが行っており、タイ国内だけでなく周辺のASEAN地域等への輸出も含めて展開しています。
■(3) 鉄鋼事業(インドネシア)
インドネシアにおいて、H形鋼、溝形鋼、等辺山形鋼などの製造および販売を行っています。同国のインフラ投資や石油・ガス、データセンター関連などの民間プロジェクト向けに製品を供給しています。
建設用鋼材等の販売代金を収益源としています。本事業の運営は、子会社であるPTガルーダ・ヤマト・スチールが担当しており、高付加価値製品へのシフトや市場戦略の見直しを通じて構造的な収益力の強化を図っています。
■(4) 軌道用品事業
分岐器類、伸縮継目、接着絶縁レール、脱線防止ガード、タイプレート類などの軌道用品の加工および販売を行っています。鉄道インフラを支える重要部品として、鉄道会社などを主要な顧客としています。
顧客である鉄道事業者等への製品販売から収益を得ています。事業運営は子会社の大和軌道製造が中心となって行い、鉄道の高速化や省メンテナンス化に貢献する高品質な軌道用品を提供しています。
■(5) その他
主力事業に付随する各種サービスを展開しています。具体的には、製品等の運送事業、医療廃棄物処理事業、不動産事業、ならびにカウンターウエイトの製造および販売などを手がけています。
運送料や処理手数料、不動産賃貸料などが主な収益源です。事業運営は、大和商事、松原テクノ、ヤマト・コリア・ホールディングスカンパニーリミテッドといった子会社がそれぞれの専門領域を担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は1,500億円から1,800億円規模で推移していますが、直近では需要低迷や市況悪化の影響を受け減少傾向にあります。一方で、経常利益や純利益は米国事業等の好調により大きく増加しており、高い収益性を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,500億円 | 1,804億円 | 1,635億円 | 1,683億円 | 1,604億円 |
| 経常利益 | 576億円 | 905億円 | 992億円 | 544億円 | 652億円 |
| 利益率(%) | 38.4% | 50.2% | 60.7% | 32.3% | 40.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 214億円 | 225億円 | 455億円 | 456億円 | 943億円 |
■(2) 損益計算書
売上高、売上総利益、営業利益ともに前年度を下回っています。特に営業利益の減少幅が大きく、収益性の低下が見られます。これは国内外での鋼材需要の停滞や販売価格の下落が影響していると考えられます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,683億円 | 1,604億円 |
| 売上総利益 | 295億円 | 223億円 |
| 売上総利益率(%) | 17.5% | 13.9% |
| 営業利益 | 115億円 | 45億円 |
| 営業利益率(%) | 6.8% | 2.8% |
販売費及び一般管理費(178億円)のうち、荷造運搬費が54億円(構成比30%)、給料及び手当が35億円(同20%)を占めています。また、売上原価(1,381億円)の構成比は売上高に対して86%となっています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの売上高を見ると、鉄鋼事業(タイ)が最大の売上規模を誇りますが、軌道用品事業を除くすべての鉄鋼事業セグメントで前年度から減収となっています。これは、国内外の建設需要の低迷や安価な輸入鋼材との競争激化による販売価格の低下などが影響しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 鉄鋼事業(日本) | 595億円 | 530億円 |
| 鉄鋼事業(タイ) | 691億円 | 685億円 |
| 鉄鋼事業(インドネシア) | 280億円 | 250億円 |
| 軌道用品事業 | 87億円 | 97億円 |
| その他 | 29億円 | 42億円 |
| 連結(合計) | 1,683億円 | 1,604億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 710億円 | 520億円 |
| 投資CF | -857億円 | -409億円 |
| 財務CF | -430億円 | -578億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.4%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は85.5%と、いずれも市場平均を大きく上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「鉄で未来を 未来の鉄を」をミッションとして掲げています。グローバルな鉄事業を通じて、国際社会の発展や豊かな地域社会の実現に貢献することを使命とし、鉄事業で新たな価値を創造することでサステナブルな社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、グループの方針・理念として「Yamato SPIRIT」を制定し、伝統を踏まえつつ未来に向けた行動指針としています。社員一人ひとりが働きがいを持って活躍できる環境を整備し、国籍や性別を超えた多様なプロフェッショナル人材が高い倫理観とチームワークを発揮する組織文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
次期の業績予想として、中東情勢や中国の景気低迷など不確実な外部環境の中にあっても、安定した収益確保とコスト低減に努める方針です。具体的な経営目標として、以下の数値を掲げています。
* 売上高:1,660億円
* 営業利益:45億円
* 経常利益:680億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:470億円
■(4) 成長戦略と重点施策
「2030年ありたい姿」の実現に向け、「コア事業である形鋼事業の強靭化」と「新たな鉄・インフラ・グリーン事業領域への進出」を推進します。アジア等の成長地域での販売拡大や最先端技術の導入による収益力向上を図るほか、国内外での積極的なM&Aを通じてバリューチェーンを強化し、グローバルでの持続的成長を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「2030年ありたい姿」の実現に向け、人材を重要な経営基盤と位置づけています。「新たな挑戦を支えるプロフェッショナル人材」の創出を目指し、共通の価値観である「Yamato SPIRIT」の実践を人材育成の中核に据えています。また、全従業員をグローバル人材と定義し、海外研修等を通じた人材育成を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 38.6歳 | 9.3年 | 10,129,626円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.9% |
| 男性育児休業取得率 | 48.3% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 61.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 64.3% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 52.3% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海外進出に潜在するリスク
同社の生産・販売活動は米国、タイ、インドネシアなど世界市場で行われています。進出各国におけるテロや戦争による社会的混乱、あるいは政治・法的環境や経済状況の予期せぬ変化が発生した場合、事業遂行に支障をきたし、グループの業績および財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 製品販売価格と主原料価格の変動
主力である鉄鋼事業の業績は、製品の販売価格と主原料である鉄スクラップ価格の変動に大きな影響を受けます。これらの市場価格は、国内外の経済情勢をはじめとする外部環境の要因によって大きく変動する可能性があり、グループの収益を左右するリスク要因となっています。
■(3) 気候変動リスク
気候変動の進行に伴い、原材料や電力等のエネルギー、水などの調達コストが上昇する、あるいは供給が不安定になる可能性があります。さらに、カーボンプライシングなどの規制強化によって燃料価格が高騰し、製造コストが上昇するリスクも存在します。
■(4) サイバーセキュリティに関するリスク
業務の効率化や競争力強化のため情報システムを活用しており、機密情報や個人情報等を扱っています。サイバー攻撃などによりリスクが顕在化した場合、業務の停止や顧客への損害、風評被害、法的責任の発生により、事業活動や社会的信用に悪影響を及ぼす可能性があります。



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