※本記事は、トーカロ株式会社 の有価証券報告書(第74期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. トーカロってどんな会社?
金属やセラミックス等の皮膜を形成し、新たな機能を付与する「溶射加工」で国内トップクラスのシェアを持つ企業です。
■(1) 会社概要
1951年に東洋カロライジング工業として設立され、1981年に現在のトーカロへ商号変更しました。2003年に東証二部に上場し、2005年には東証一部へ指定替えを行っています。2015年には米国に現地法人を設立し、グローバル展開を加速させました。近年では、2024年に精密機械部品製造を行う寺田工作所を完全子会社化するなど、事業領域の拡大を進めています。
連結従業員数は1,516名、単体では943名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。第3位は外国法人の投資ファンドとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行 | 18.22% |
| 日本カストディ銀行 | 10.84% |
| BBH FOR FIDELITY LOW-PRICED STOCK FUND (PRINCIPAL ALL SECTOR SUBPORTFOLIO) | 4.60% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.0%です。代表取締役社長執行役員は小林和也氏が務めています。社外取締役比率は約44.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 三船 法行 | 代表取締役会長 | 1978年入社。北九州工場長、明石工場長、製造本部長を経て2013年より社長。2023年より現職。 |
| 小林 和也 | 代表取締役社長執行役員 | 1989年入社。北九州工場長、品質管理部長、明石工場長、製造本部長を経て2023年より現職。 |
| 黒木 信之 | 取締役副社長執行役員 | 1978年入社。東京工場長、営業本部長、東賀隆(昆山)電子有限公司董事長を経て2023年より現職。 |
| 後藤 浩志 | 取締役常務執行役員管理本部長 | 三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)東支社長、不二越執行役員を経て2016年入社。2021年より現職。 |
| 吉積 隆幸 | 取締役常務執行役員 | 1984年入社。名古屋工場長、東京工場長、営業本部長等を経て2025年より現職。漢泰国際電子股份有限公司董事長を兼任。 |
社外取締役は、鎌倉利光(弁護士)、瀧原圭子(大阪大学名誉教授)、佐藤陽子(公認会計士)、冨田和之(元パナソニックエコテクノロジーセンター社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「溶射加工(単体)」「国内子会社」「海外子会社」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 溶射加工(単体)
半導体・FPD製造装置部品、発電用ガスタービン等の産業用機械部品、鉄鋼・製紙用ロール、化学プラント部品などに対し、金属やセラミックス等の皮膜を形成する溶射加工を行っています。耐摩耗性や耐熱性、電気的特性などの機能を付与し、部材の性能向上に貢献しています。顧客は産業機械メーカーや装置メーカーが中心です。
収益は、顧客から預かった、もしくは自ら手配した基材に溶射加工を行い、製品を引き渡すことで加工料金等を受け取っています。この事業の運営は、主にトーカロが行っています。
■(2) 国内子会社
主にPVD(物理蒸着)処理加工と呼ばれる表面改質加工や、工作機械・精密機械部品の製造を行っています。PVD処理は真空中で硬質セラミック薄膜を形成し、切削工具や金型の耐摩耗性等を向上させます。精密機械部品製造は多様な素材を用いた加工技術を提供しています。
収益は、切削工具や金型等へのコーティング加工サービスの提供や、精密機械部品の製造・販売から得ています。運営は、日本コーティングセンターおよび寺田工作所が行っています。
■(3) 海外子会社
中国、台湾、米国において、主に溶射加工や洗浄、アルマイト等の表面改質加工を行っています。特に中国・台湾市場では半導体・FPD製造装置部品のメンテナンス事業を展開し、米国でも半導体製造装置部品のメンテナンス事業におけるサービス体制を構築しています。
収益は、現地の日系企業やローカル企業に対する表面改質加工サービスの提供から得ています。運営は、東華隆(広州)表面改質技術有限公司、東賀隆(昆山)電子有限公司、漢泰国際電子股份有限公司、TOCALO USA, Inc.などが行っています。
■(4) その他
TD処理加工(金型等への炭化物皮膜形成)、ZACコーティング加工(ポンプ部品等への複合セラミックス皮膜形成)、PTA処理加工(溶接肉盛加工)などを行っています。また、インドネシアやタイ等の非連結子会社における表面改質加工も含まれます。
収益は、各種表面改質加工サービスの提供から得ています。運営は、主にトーカロが行い、一部海外拠点は現地の非連結子会社が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの5期間において、売上高は着実に増加傾向にあります。特に直近の2025年3月期は大幅な増収増益となり、売上高、経常利益、当期利益はいずれも期間中で最高水準を記録しました。利益率も20%を超える高い水準を維持しており、収益力の高さがうかがえます。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 393億円 | 438億円 | 481億円 | 467億円 | 542億円 |
| 経常利益 | 89億円 | 106億円 | 110億円 | 97億円 | 126億円 |
| 利益率(%) | 22.7% | 24.1% | 22.9% | 20.7% | 23.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 55億円 | 69億円 | 74億円 | 63億円 | 81億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高の増加に伴い売上総利益も拡大しています。売上総利益率は30%台後半で推移しており、高付加価値な製品・サービスを提供できていることがわかります。営業利益率も20%を超えており、効率的な経営が行われています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 467億円 | 542億円 |
| 売上総利益 | 162億円 | 202億円 |
| 売上総利益率(%) | 34.8% | 37.3% |
| 営業利益 | 92億円 | 123億円 |
| 営業利益率(%) | 19.7% | 22.6% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が31億円(構成比39.3%)、その他が17億円(同21.7%)、研究開発費が12億円(同15.6%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の「溶射加工(単体)」は、半導体・FPD分野の需要拡大により大幅な増収増益となりました。「海外子会社」も円安の影響や好調な受注により、売上・利益ともに大きく伸長しています。「国内子会社」は売上が増加したものの利益は減少しました。全体として、半導体関連の好調が業績を牽引しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 溶射加工(単体) | 339億円 | 392億円 | 63億円 | 89億円 | 22.6% |
| 国内子会社 | 25億円 | 27億円 | 5億円 | 3億円 | 13.1% |
| 海外子会社 | 73億円 | 93億円 | 19億円 | 33億円 | 35.7% |
| その他 | 30億円 | 29億円 | 5億円 | 4億円 | 14.7% |
| 調整額 | 1億円 | 2億円 | 5億円 | -4億円 | - |
| 連結(合計) | 467億円 | 542億円 | 97億円 | 126億円 | 23.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
トーカロは、慎重な資金運営により、営業活動によるキャッシュ・フローは増加し、投資活動や財務活動では資金を使用しました。営業活動では、税金等調整前当期純利益や減価償却費が収入の主な内訳となり、仕入債務の減少が支出の主な内訳となりました。投資活動では、有形固定資産の取得や子会社化に伴う投資有価証券の取得が主な支出となりました。財務活動では、配当金の支払いと長期借入金の返済が主な支出となりました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 79億円 | 91億円 |
| 投資CF | -46億円 | -62億円 |
| 財務CF | -32億円 | -51億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「技術とアイデア」「若さと情熱」「和と信頼」「グッド・サービス」を社是として掲げています。表面処理皮膜が持つ省資源化等の機能を通じて社会に貢献し、ステークホルダーとの信頼関係を基礎に、「高技術・高収益体質の、内容の充実した企業グループ」を実現することを基本理念としています。
■(2) 企業文化
好不況に関係なく収益を確保できる「全天候型経営」、顧客ニーズに応える「問題解決型企業」、高品質な皮膜を追求する「研究開発主導型企業」を目指す文化があります。また、財務体質の強化やコーポレート・ガバナンスの充実、グループ全体の相乗効果追求など、持続的かつ健全な成長を志向しています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画(2022年3月期~2026年3月期)において、「人と自然の豊かな未来に貢献する」というビジョンを掲げています。最終年度の数値目標として以下を設定しています。
* 連結売上高:530億円(うち半導体分野向け260億円)
* 経常利益:120億円
* 自己資本比率:70%程度の維持
* ROE:15%目標
* 配当性向:50%程度(2023年度より)
■(4) 成長戦略と重点施策
「人」と「環境(自然)」を注力分野とし、「新商品開発」と「新市場開拓」を推進します。「人」分野では半導体・FPD、医療・農業、「環境」分野ではエネルギー、素材などをターゲットとします。既存事業の用途拡大に加え、新事業領域の上乗せを図ることで、社会課題の解決と企業価値向上を目指します。
* 設備投資:5年合計250-350億円(半導体増産、新技術プロセス等)
* 研究開発費:連結売上高比3%程度を維持
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「技術とアイデア」等を体現し、「今よりもっと」を考えて取り組む自律型人材の育成を目指しています。提案営業力の向上、ものづくりの創意工夫、品質管理スキルの獲得、柔軟な発想での技術開発などを通じ、市場開拓や技術開発体制の強化を図ります。また、心理的安全性の確保や多様な人材の活躍推進など、働きやすい環境整備にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 39.3歳 | 12.8年 | 7,318,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.9% |
| 男性育児休業取得率 | 61.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 65.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 73.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 62.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性正社員比率(12.5%)、技能検定の合格者数(241名)、QC検定の合格者数(116名)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 半導体・FPD関連業界の需要変動
同社グループの主力である溶射加工において、半導体・FPD製造装置分野の売上高比率は高く、2025年3月期では連結売上高の44.5%を占めています。業界の市況悪化や価格競争の激化、技術革新による溶射不要化などが起きた場合、業績に大きな影響を与える可能性があります。これに対し、メンテナンス需要の取り込みや次世代皮膜の開発等で影響の最小化に努めています。
■(2) 顧客による内製化および海外移転
溶射加工は大手機械メーカー等が自社内で行う場合があり、これら顧客が内製化比率を高めた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、顧客密着型の事業展開を行っているため、主要顧客が生産拠点を海外へ移転した場合も影響を受けるリスクがあります。
■(3) 原材料の調達リスク
希土類を含む原材料は限られた購買先からの調達となっており、特定の供給元からの調達に制約が生じた場合、生産活動や技術供与先への供給責任遂行に支障をきたす可能性があります。主要な購買先との強固な関係構築に努めていますが、調達難は業績への悪影響要因となります。
■(4) 特定の取引先への依存
東京エレクトロングループへの販売依存度が高水準(2025年3月期で27.2%)であり、同社グループの生産動向や受注状況が、トーカログループの業績に直接的な影響を与える可能性があります。



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