栗田工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

栗田工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

栗田工業は東京証券取引所プライム市場に上場し、水処理薬品・装置の製造販売や施設の運転維持管理など、水処理に関する総合的な技術を提供する企業です。直近の連結業績では、電子産業向けや一般水処理分野での受注が堅調に推移し増収となった一方、一部事業の減損損失等が影響し減益となっています。


※本記事は、栗田工業株式会社の有価証券報告書(第90期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 栗田工業ってどんな会社?


同社は、水処理薬品や水処理装置の製造販売、メンテナンスなど、水に関する総合的な技術を提供しています。

(1) 会社概要


1949年に水処理薬品の製造販売を目的として設立され、1954年に水処理装置の製造販売を開始しました。1961年に株式上場を果たしています。近年はグローバル展開を加速させており、2015年に欧州の水処理薬品事業を買収したほか、2019年には米国の水処理関連会社を複数買収し、事業基盤を拡大しました。

現在の従業員数は連結で8,268名、単体で1,677名となっています。主要な株主構成を見ると、筆頭株主ならびに第2位株主は資産管理業務などを行う信託銀行が占めており、第3位株主には日本生命保険相互会社が名を連ねるなど、機関投資家や金融機関を中心とした安定的な株主基盤が形成されています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 15.70%
日本カストディ銀行(信託口) 7.25%
日本生命保険相互会社 5.44%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表執行役社長は江尻裕彦氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
江尻 裕彦 取締役代表執行役社長 1985年同社入社。クリタ・ヨーロッパGmbH代表、グループ生産本部長等を歴任し、2021年代表取締役専務に就任。国内営業本部長等を経て、2023年より現職。
門田 道也 取締役会長 1983年同社入社。監査室長、管理本部財務経理部長を経て、2014年取締役に就任。管理本部長を務めたのち2016年に代表取締役社長に就任し、2023年より現職。
久世 邦博 代表執行役常務 1992年同社入社。プラント事業本部海外部門長、グローバル事業本部生産部門長等を経て、2023年に執行役ならびにグループ生産本部長に就任。CTO等を経て2026年より現職。
城出 秀司 取締役 2016年同社入社。経営管理本部副本部長、CFOを経て、2021年取締役に就任。経営管理本部長ならびに執行役常務として同社の事業を牽引し、2025年より現職。
可知 宣和 取締役 2018年同社入社。経営管理本部海外ファイナンス統括部長、財務部長、経営管理本部副本部長などの要職を歴任し、財務管理や事業戦略の推進に貢献。2025年より現職。


社外取締役は、小林賢次郎(元ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ副社長)、宮﨑正啓(元日立ハイテクノロジーズ社長)、高山与志子(現ジェイ・ユーラス・アイアール副会長)、松尾美枝(元日本アイ・ビー・エム常務)です。

2. 事業内容


同社グループは、「電子市場」および「一般水処理市場」の2つの報告セグメントで事業を展開しています。

電子市場


半導体や液晶ディスプレイなどの電子産業向けに、超純水製造装置や排水処理装置の製造販売、精密洗浄サービスを提供しています。また、装置のメンテナンスや水処理施設の運転・維持管理など、顧客の生産活動を継続的に支える包括的なソリューションをグローバルに展開しています。

主な収益源は、水処理装置の販売代金、継続契約に基づく超純水供給サービスなどの利用料、および装置のメンテナンスや洗浄に対する費用です。事業の運営は、同社を中心に、韓国の栗田韓水や中国の栗田工業(蘇州)水処理有限公司、米国のクリタ・アメリカなどがそれぞれの地域で担当しています。

一般水処理市場


食品、鉄鋼、電力など電子産業以外の幅広い産業向けに、水処理薬品や水処理装置の製造販売、メンテナンスサービスを提供しています。さらに、土壌・地下水浄化や環境分析、ソフトウエアサービスを通じ、節水や温室効果ガス削減に貢献する環境ソリューションも幅広く展開しています。

収益源は、水処理薬品や装置の販売代金、施設の運転・維持管理に関する継続的なサービス料、各種メンテナンスや分析作業に対する対価です。運営は同社をはじめ、国内ではクリタ東日本やクリタ西日本が担い、海外では米国のクリタ・アメリカ、シンガポールのクリタ・シンガポールなど多数の子会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績は、グローバルでの事業基盤拡大や環境対応ビジネスの伸長などを背景に、売上高が継続して拡大し堅調な成長傾向を示しています。税引前利益も売上規模の拡大や高付加価値サービスの伸長により増加傾向にありますが、直近の当期利益は一部事業の減損損失等の影響を受けて一時的に落ち込んでいます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 2,882億円 3,446億円 3,848億円 3,888億円 4,029億円
税引前利益 301億円 302億円 417億円 507億円 582億円
利益率(%) 10.4% 8.7% 10.8% 13.0% 14.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 185億円 201億円 292億円 203億円 160億円

(2) 損益計算書


売上高および売上総利益はともに増加しており、高付加価値な環境ソリューションの伸長などにより収益性の改善が進んでいます。これに伴い、営業利益および営業利益率も前年を上回る水準で着地し、本業における堅実な稼ぐ力とコスト管理の適正化が成果として表れています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 3,888億円 4,029億円
売上総利益 457億円 509億円
売上総利益率(%) 11.8% 12.6%
営業利益 499億円 583億円
営業利益率(%) 12.8% 14.5%


販売費及び一般管理費(958億円)のうち、役員報酬及び給料手当が98億円(構成比10%)、研究開発費が81億円(同8%)を占めています。一方、売上原価は2,497億円であり、売上高に対する構成比は62%となっています。

(3) セグメント収益


電子市場では、大型案件の獲得やメンテナンスの好調により増収となり、採算性の改善も進み増益を確保しました。一般水処理市場においても、国内外での水処理装置や薬品の需要増に加え、環境貢献効果の高い高付加価値ビジネスの伸長により原価率が改善し、大幅な増益を達成しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
電子市場 1,695億円 1,718億円 278億円 287億円 16.7%
一般水処理市場 2,193億円 2,311億円 221億円 296億円 12.8%
連結(合計) 3,888億円 4,029億円 499億円 583億円 14.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動で生み出したキャッシュを基に設備投資などの成長投資を行いつつ、借入金の返済や株主還元も自己資金で賄う「健全型」のキャッシュ・フロー状況にあります。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は62.6%で市場平均を上回っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 878億円 556億円
投資CF -521億円 -340億円
財務CF -254億円 -233億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「“水”を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」を企業理念に掲げています。また、新たな企業ビジョンとして「持続可能な社会の実現に貢献する『水の新たな価値』の開拓者」を制定しました。自然環境や社会システムの中に企業活動を位置づけ、水と環境の分野における事業活動を通じて持続的な成長と社会への貢献を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、従来のCSRから「サステナビリティ」へと経営の中核的概念を広げ、持続的な成長を指向する文化を持っています。また、「インテグリティ(自分たちの良心に照らし正しいことをする、良いことをするという思考)」を重視し、公正な事業活動を実践しています。一人ひとりが能力を発揮し、社会との共通価値を創造する風土が根付いています。

(3) 経営計画・目標


5カ年の中期経営計画「Pioneering Shared Value 2027(PSV-27計画)」のもと、2027年度に向けて以下の財務目標を掲げています。

* 売上高:4,700億円
* 売上高事業利益率:16%
* 親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE):12%以上
* 投下資本利益率(ROIC):10%以上

(4) 成長戦略と重点施策


顧客との親密性と高い社会価値の創出という競争優位性を軸に、独自のソリューション展開を推進しています。電子市場ではグローバルな半導体投資需要を取り込み、超純水供給などのサービス事業を拡大します。一般水処理市場では環境負荷低減に貢献するCSVビジネスを強化し、収益性の向上を図ります。さらに、社会課題を起点とした新規事業の創出にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「水と環境を大切に想う多様な人々が互いの違いを受け入れ、水の新たな価値を創造し続ける」というD&Iビジョンを掲げています。国籍や年齢を問わず多様な人材の確保を進め、特に経験者採用を積極的に強化しています。また、若年層のキャリア形成支援や自律的な学習環境の提供を通じて、一人ひとりが能力を最大限に発揮できる組織の構築に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 43.3歳 16.9年 10,017,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.8%
男性育児休業取得率 78.7%
男女賃金差異(全労働者) 70.6%
男女賃金差異(正規労働者) 69.8%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 86.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、経験者採用社員の割合(20.2%)、海外子会社幹部の現地社員割合(68%)、開発人材・デジタル人材・知財人材の充足度(80%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 資材調達に関する影響

製品の製造や建設等に使用する原材料や部品を外部から調達しており、市況変動や地政学リスク、エネルギー価格の上昇等により、調達価格の高騰やサプライチェーンの混乱が生じる可能性があります。これにより製造原価の上昇や工事の遅延等が発生し、業績に影響を与えるリスクがあります。

(2) 海外事業展開に係るリスク

海外市場への事業展開を進めていますが、各国における法令や規制の変更、政治・経済の混乱、紛争・テロ等が発生した場合、営業活動や工事の遂行、現地子会社の運営に支障をきたす可能性があります。治安悪化時には従業員の安全確保にも影響が及ぶリスクがあります。

(3) 不採算工事発生によるリスク

水処理装置事業における設備工事において、顧客との契約時の前提条件との差異や設計・施工上の課題により、追加原価の発生や工期の遅延が生じる可能性があります。重大な不具合が発生した場合には、やり直し工事や引当金の計上が必要となり、業績に悪影響を及ぼす恐れがあります。

(4) 情報システムに関するリスク

事業活動におけるデジタル技術への依存度が高まる中、サイバー攻撃やサプライチェーンを経由した不正アクセス等により、情報システムに支障が生じる可能性があります。業務の停止や重要情報の漏洩が発生した場合、社会的信用の低下や損害賠償費用の負担につながるリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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