※本記事は、株式会社椿本チエイン の有価証券報告書(第115期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 椿本チエインってどんな会社?
産業用チェーンの世界トップメーカーとして知られ、自動車部品や搬送システムも展開。「動かす」技術で社会課題の解決を目指す企業です。
■(1) 会社概要
1917年に大阪で創業し、機械用ローラチェーンの製造を開始しました。1949年に株式を上場し、1958年には自動車用タイミングチェーンの量産を始めました。その後、米国や欧州、アジアへ拠点を拡大し、マテハン事業の強化や海外企業のM&Aを推進。2024年には株式分割を実施するなど、事業基盤を盤石にしています。
2025年3月31日現在、グループ全体の従業員数は8,768名、単体では3,063名体制です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は太陽生命保険、第3位は従業員持株会である椿本チエイン持株共栄会となっています。安定した株主構成のもと、グローバルに事業を展開しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 11.32% |
| 太陽生命保険株式会社 | 8.90% |
| 椿本チエイン持株共栄会 | 4.75% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役会長最高経営責任者は古世憲二氏です。社外取締役比率は30.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 古 世 憲 二 | 代表取締役取締役会長最高経営責任者 | 1977年入社。チェーン事業統括、常務執行役員、取締役社長兼最高執行責任者などを経て、2022年6月より現職。 |
| 木 村 隆 利 | 代表取締役取締役社長最高執行責任者 | 1983年入社。マテハン事業部長、経営企画センター長、常務執行役員などを経て、2022年6月より現職。 |
| 宮 地 正 樹 | 取締役 | 1984年入社。自動車部品事業部長、モビリティ事業統括、上席執行役員などを経て、2022年6月より現職。 |
社外取締役は、安藤圭一(元株式会社三井住友銀行副頭取)、北山久恵(公認会計士・元あずさ監査法人専務役員)、谷所敬(元日立造船株式会社社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「チェーン」「モーションコントロール」「モビリティ」「マテハン」および「その他」事業を展開しています。
■(1) チェーン
産業用チェーンの製造販売を行っています。主な製品には、動力伝達用のドライブチェーン、搬送用のコンベヤチェーン、ケーブル・ホース支持案内装置などがあります。これらは一般産業機械から工作機械、造船、液晶・半導体製造装置まで幅広い業界で使用されています。
収益は、国内外の機械メーカーや代理店等への製品販売から得ています。運営は主に同社が行っていますが、特殊チェーンや一部製品については、株式会社椿本カスタムチエンや株式会社椿本スプロケット、海外ではU.S. TSUBAKI POWER TRANSMISSION, LLCなどが製造・販売を担っています。
■(2) モーションコントロール
減速機、直線作動機(電動シリンダ等)、軸継手、締結具、クラッチなどの製造販売を行っています。これらは精密な位置決めや速度制御が必要な産業機械や自動化設備に組み込まれ、工場の自動化・省力化に貢献しています。
収益は、製品の販売対価として得ています。運営は同社が中心となり行っていますが、海外においては椿本机械(上海)有限公司やTSUBAKIMOTO EUROPE B.V.などが販売や現地生産を行い、グローバルに展開しています。
■(3) モビリティ
自動車エンジン用タイミングチェーンシステムやトランスファーケース用チェーンなどの製造販売を行っています。世界の主要自動車メーカーに採用されており、エンジンの高性能化や環境対応に不可欠な部品を提供しています。
収益は、自動車メーカー等への製品販売から得ています。運営は同社および、米国のU.S. TSUBAKI AUTOMOTIVE, LLC、タイのTSUBAKIMOTO AUTOMOTIVE (THAILAND) CO.,LTD.などの海外現地法人が製造・販売を行っています。
■(4) マテハン
搬送・仕分け・保管システムの製造販売を行っています。物流センター向けの自動仕分けシステムや、自動車工場向けの塗装・組立搬送システム、工作機械向けの切屑搬送装置などを提供し、物流や製造現場の効率化を支援しています。
収益は、システムの設計・製造・施工請負およびアフターサービスから得ています。運営は同社のほか、株式会社椿本バルクシステムや椿本メイフラン株式会社、米国のCentral Conveyor Company, LLCなどが担っています。
■(5) その他
ビルメンテナンス業務や保険代理業、新規事業などを展開しています。これらは報告セグメントに含まれない事業として位置づけられています。
収益は、サービスの提供対価として得ています。運営は主に株式会社ツバキサポートセンターや株式会社ツバキベジムーブ(アグリビジネス)などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は一貫して増加傾向にあり、直近5期間で順調に規模を拡大しています。経常利益も波はあるものの増加基調を維持しており、特に直近では過去最高益水準に達しています。利益率も安定して高い水準を保っており、収益性を伴った成長が続いています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,934億円 | 2,159億円 | 2,516億円 | 2,668億円 | 2,792億円 |
| 経常利益 | 110億円 | 200億円 | 210億円 | 235億円 | 253億円 |
| 利益率(%) | 5.7% | 9.3% | 8.3% | 8.8% | 9.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 60億円 | 97億円 | 118億円 | 102億円 | 164億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い、売上総利益および営業利益ともに増加しています。原価率や販管費率は大きな変動がなく適切にコントロールされており、増収効果が利益増に直結しています。営業利益率は微増しており、効率的な事業運営がなされていることが伺えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,668億円 | 2,792億円 |
| 売上総利益 | 778億円 | 822億円 |
| 売上総利益率(%) | 29.1% | 29.4% |
| 営業利益 | 213億円 | 229億円 |
| 営業利益率(%) | 8.0% | 8.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が205億円(構成比35%)、荷造運送費が62億円(同10%)を占めています。売上原価については、材料費や労務費等の製造コストが適切に管理されています。
■(3) セグメント収益
全ての報告セグメントで増収を達成しています。特にモビリティ事業の売上と利益の伸びが顕著です。マテハン事業は前年の営業赤字から黒字転換を果たしました。チェーン事業は増収ながらも減益となりましたが、依然として最大の利益柱です。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| チェーン | 922億円 | 943億円 | 164億円 | 156億円 | 16.5% |
| モーションコントロール | 220億円 | 229億円 | 7億円 | 8億円 | 3.4% |
| モビリティ | 846億円 | 912億円 | 78億円 | 83億円 | 9.1% |
| マテハン | 652億円 | 681億円 | -12億円 | 12億円 | 1.8% |
| その他 | 27億円 | 27億円 | -9億円 | -8億円 | -30.7% |
| 調整額 | -34億円 | -35億円 | -15億円 | -22億円 | - |
| 連結(合計) | 2,668億円 | 2,792億円 | 213億円 | 229億円 | 8.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業で稼いだ資金を使って借入金の返済や株主還元を行いながら、投資も自己資金の範囲内でコントロールしている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 386億円 | 213億円 |
| 投資CF | -92億円 | -118億円 |
| 財務CF | -157億円 | -217億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は69.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「TSUBAKI SPIRIT」を企業理念として制定しています。その中で社会的使命として「動かすことに進化をもたらし、社会の期待を超えていきます。」を掲げ、モノづくりにこだわりつつ、それを超えたソリューションを提供することで、顧客や社会が求める価値を最大化することを目指しています。
■(2) 企業文化
「TSUBAKI SPIRIT」において、行動原則や創業の精神を明確化しています。創業の精神である「和を以て貴しと為す」に基づき、人を大切にし、力を合わせて切磋琢磨する姿勢を重視しています。また、安全と品質を全てに優先させることや、変革への挑戦、高いスキルの追求などを行動原則としています。
■(3) 経営計画・目標
2025年度を最終年度とする「中期経営計画2025」を推進しています。既存事業の収益力強化と、2030年に向けた新事業の種まきを行う期間と位置づけ、以下の数値目標を掲げています。
* 売上高:3,000~3,200億円
* 営業利益率:9~11%
* ROE:8%以上
* 配当性向:30%を基準(2025年3月期より35%以上に変更)
■(4) 成長戦略と重点施策
「長期ビジョン2030」の実現に向け、社会課題解決に貢献する新事業創出と既存事業の強化に取り組んでいます。特に「Linked Automation」技術を核に、自動化・省人化ニーズへの対応や、環境対応商品の開発を加速させています。
* 持続的成長が可能となる次世代ビジネスの創出(アグリビジネス、新事業領域等)
* 既存事業の市場地位確立と収益力強化(グローバルトップ商品の競争優位性維持など)
* モノづくり改革および人づくり強化
* ESGへの取り組み強化(CO2削減、CSV向上、ガバナンス強化)
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人材が最大の経営基盤」との認識のもと、多様な人材の確保と育成に注力しています。技術伝承を目的とした「つばきテクノスクール」などの独自研修制度や、グローバル人材育成プログラムを整備。また、ダイバーシティ推進として、女性管理職の登用、シニアの活躍、外国人雇用の拡大を進め、従業員が安心してイキイキと働ける環境整備を行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.4歳 | 16.8年 | 6,637,960円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.5% |
| 男性育児休業取得率 | 45.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 64.2% |
| 男女賃金差異(正規) | 80.1% |
| 男女賃金差異(非正規) | 24.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.72%)、有給休暇取得率(77.3%)、産休・育休後の復帰率(92.5%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場環境変動のリスク
同社グループの主要顧客である自動車業界等の設備投資減少や稼働率低下、特に内燃機関車の生産減少等の構造変化が起きた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、市場ニーズに基づくオンリーワン商品の開発等で対応しています。
■(2) 気候変動に関するリスク
CO2排出削減目標やカーボンニュートラルへの対応が遅れた場合、事業機会損失やコスト増のリスクがあります。また、自然災害の激甚化による操業停止リスクもあります。これに対し、シナリオ分析に基づく対策やCO2削減活動を推進しています。
■(3) 海外での事業展開に伴う地政学的なリスク
海外売上高比率が高いため、展開地域での政治的・軍事的な要因によるテロや紛争等が発生した場合、販売減少や生産停止等の影響を受ける可能性があります。グローバル生産体制の強化や拠点の分散によりリスク低減を図っています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。