※本記事は、株式会社ダイセルの有価証券報告書(第158期、自 2023年4月1日 至 2024年3月31日、2024年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ダイセルってどんな会社?
化学製品ならびに自動車エアバッグ用インフレータなどの製造・販売を行う化学メーカーです。独自のモノづくり革新やサステナブル経営に注力しています。
■(1) 会社概要
同社は1919年にセルロイド製造8社の合併により大日本セルロイドとして創立されました。1934年には写真フィルム部を分離し、現在の富士フイルムホールディングスの礎を築いています。1966年にダイセルへ商号変更し、有機合成事業や樹脂事業へ拡大しました。2020年には持分法適用関連会社であったポリプラスチックスを完全子会社化し、エンジニアリングプラスチック事業を強化しています。
2024年3月31日現在、連結従業員数は11,134名、単体従業員数は2,510名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に日本カストディ銀行(信託口)です。第3位には事業資金の借入先でもある日本生命保険が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.37% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.95% |
| 日本生命保険(相) | 6.30% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性3名の計16名で構成され、女性役員比率は18.8%です。代表取締役社長社長執行役員は小河義美氏です。社外取締役比率は54.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 小河 義美 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1983年入社。生産技術室長、常務執行役員、専務執行役員を経て、2019年6月より現職。 |
| 杉本 幸太郎 | 代表取締役専務執行役員 | 1984年入社。原料センター長、ダイセル物流社長、常務執行役員を経て、2020年6月より現職。 |
| 榊 康裕 | 取締役専務執行役員 | 1984年入社。有機合成カンパニー長、常務執行役員を経て、2019年6月より現職。 |
| 塩飽 俊雄 | 取締役専務執行役員 | 1987年ポリプラスチックス入社。同社社長を経て、2021年4月同社専務執行役員、2024年6月より現職。 |
| 川口 尚孝 | 取締役専務執行役員 | 1986年入社。執行役員、常務執行役員を経て、2023年4月専務執行役員、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、北山禎介(元三井住友銀行会長)、浅野敏雄(元旭化成社長)、古市健(元日本生命保険副会長)、小松百合弥(元大和クオンタム・キャピタルMD)、岡島眞理(元日本航空客室本部副本部長)、西山圭太(元経済産業省商務情報政策局長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「メディカル・ヘルスケア」「スマート」「セイフティ」「マテリアル」「エンジニアリングプラスチック」および「その他」事業を展開しています。
■(1) メディカル・ヘルスケア事業
健康食品原料や医薬品精製用の光学異性体分離カラムなどを提供しています。主な顧客は、健康食品メーカー、製薬会社、研究機関などです。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は、健康食品やカラムの製造・販売を行う同社に加え、Chiral Technologies, Inc.などの連結子会社が海外でのカラム販売や技術サービスを担当しています。
■(2) スマート事業
液晶保護フィルム用酢酸セルロース、電子材料向け機能品、高機能フィルム、光学製品、有機半導体デバイスなどを提供しています。主な顧客は、ディスプレイメーカーや半導体関連企業です。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は主に同社が行っていますが、Daicel Micro Optics Co.,Ltd.が光学製品を、パイクリスタルが有機半導体デバイスを、ダイセルビヨンドが高機能フィルムを担当しています。
■(3) セイフティ事業
自動車エアバッグ用インフレータ(ガス発生装置)やインフレータ用イニシエータなどを提供しています。主な顧客は、自動車部品メーカーや自動車メーカーです。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は、国内ではダイセル・セイフティ・システムズが製造し同社が販売を行い、海外ではDaicel Safety Systems Americas, Inc.などの連結子会社が製造・販売を行っています。
■(4) マテリアル事業
アセテート・トウ(タバコフィルター用)、酢酸セルロース、酢酸誘導体、カプロラクトン誘導体、エポキシ化合物などを提供しています。主な顧客は、タバコメーカーや化学品メーカーなど多岐にわたります。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は主に同社が行っていますが、協同酢酸などの連結子会社が原料供給や製造・販売の一部を担い、Daicel ChemTech, Inc.などの海外子会社が販売を行っています。
■(5) エンジニアリングプラスチック事業
ポリアセタール樹脂(POM)、PBT樹脂、液晶ポリマー(LCP)などのエンジニアリングプラスチックや、ABS樹脂、包装用フィルムなどを提供しています。主な顧客は、自動車、電子機器、産業機械などの部品メーカーです。
収益は、製品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は、主に連結子会社のポリプラスチックスおよびその海外子会社がエンジニアリングプラスチックの製造・販売を行い、ダイセルミライズが樹脂製品や包装用フィルムの販売を行っています。
■(6) その他
水処理用分離膜モジュールや、グループ内の物流サービスなどを提供しています。顧客は、水処理関連企業や同社グループ各社などです。
収益は、製品販売対価や保管・運送サービスの対価として受け取ります。運営は、ダイセン・メンブレン・システムズが分離膜モジュールを、ダイセル物流が物流サービスを担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は長期的に増加傾向にあり、特に直近の2024年3月期は5,581億円と過去最高水準に達しています。利益面では、経常利益および当期純利益ともに大きく伸長しており、利益率も向上しています。全体として、事業規模の拡大とともに収益性も高まっていることが読み取れます。
| 項目 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 4,128億円 | 3,936億円 | 4,679億円 | 5,380億円 | 5,581億円 |
| 税引前利益 / 経常利益 / 営業利益 | 318億円 | 347億円 | 573億円 | 520億円 | 684億円 |
| 利益率(%) | 7.7% | 8.8% | 12.2% | 9.7% | 12.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 50億円 | 197億円 | 313億円 | 407億円 | 558億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加し、売上原価の上昇を吸収して売上総利益が増加しました。販売費及び一般管理費は微減し、結果として営業利益および営業利益率が大きく改善しています。効率的な事業運営が進み、収益性が向上している状況が見て取れます。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,380億円 | 5,581億円 |
| 売上総利益 | 1,458億円 | 1,593億円 |
| 売上総利益率(%) | 27.1% | 28.5% |
| 営業利益 | 475億円 | 624億円 |
| 営業利益率(%) | 8.8% | 11.2% |
販売費及び一般管理費のうち、技術研究費が223億円(構成比23.0%)、従業員給料及び手当が224億円(同23.1%)、運賃及び荷造費が198億円(同20.5%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セイフティ事業は自動車生産の回復により増収となり、利益も大幅に増加しました。マテリアル事業は販売価格是正や為替影響で増収増益となりました。一方、メディカル・ヘルスケア事業やエンジニアリングプラスチック事業は需要低迷等の影響で減収減益となっています。スマート事業は増収ながらも営業損失を計上しました。
| 区分 | 売上(2023年3月期) | 売上(2024年3月期) | 利益(2023年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| メディカル・ヘルスケア事業 | 166億円 | 139億円 | 13億円 | 8億円 | 5.7% |
| スマート事業 | 296億円 | 307億円 | -6億円 | -29億円 | -9.3% |
| セイフティ事業 | 840億円 | 956億円 | 5億円 | 30億円 | 3.1% |
| マテリアル事業 | 1,608億円 | 1,853億円 | 207億円 | 427億円 | 23.1% |
| エンジニアリングプラスチック事業 | 238,062億円 | 226,821億円 | 253億円 | 183億円 | 8.1% |
| その他 | 91億円 | 57億円 | 3億円 | 4億円 | 7.4% |
| 調整額 | - | - | - | - | - |
| 連結(合計) | 5,380億円 | 5,581億円 | 475億円 | 624億円 | 11.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
ダイセルは、事業活動を通じて安定的に資金を生み出す力を維持しています。営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益や減価償却費などを主な要因として増加しました。一方で、設備投資や有価証券の取得などにより、投資活動によるキャッシュ・フローは減少しています。財務活動においては、借入による収入があったものの、社債の返済や配当金の支払い、自己株式の取得などにより、資金は減少しました。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 268億円 | 767億円 |
| 投資CF | -441億円 | -554億円 |
| 財務CF | 200億円 | -524億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「価値共創によって人々を幸せにする会社 ~ Sustainable Value Together ~」を基本理念として掲げています。この理念のもと、人々の豊かな生活を実現する新しい価値の創造、地球環境と共生する循環型プロセスの構築、そして多様な社員が成長する「人間中心の経営」を進める「サステナブル経営方針」を定めています。
■(2) 企業文化
同社は、経営方針を具現化するために、全役員・従業員が常に意識し実践する行動指針として「ダイセルグループ行動指針」を、またグローバル社会で普遍的に適用する規範として「ダイセルグループ倫理規範」を定めています。これらを通じて、多様な社員が存在感と達成感を味わいながら成長する「人間中心の経営」を推進する文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は長期ビジョン『DAICEL VISION 4.0』および中期戦略『Accelerate 2025』を策定しています。中期戦略の最終年度である2025年度には、以下の数値目標を掲げています。
* 売上高:6,600億円
* 営業利益:820億円
* EBITDA:1,360億円
* ROE:17.1%
* ROIC:9.3%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「健康」「安全・安心」「便利・快適」「環境」の4つの事業領域へポートフォリオをシフトし、価値提供型事業への転換を図っています。また、クロスバリューチェーンの実現に向けたバーチャルカンパニー化やデジタルアーキテクチャの構築、ポリプラスチックス完全子会社化によるグループシナジーの最大化を推進しています。
* 2025年度までにEBITDAで300億円のシナジー効果
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人間中心の経営」を掲げ、多様な社員が存在感と達成感を味わいながら成長できる環境づくりを進めています。人事においては、「変える!変わる!人事」を目指し、専門性を磨く人材育成や、挑戦する人を後押しする仕組み作り、公平性の高い評価システムの構築に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2024年3月期 | 42.2歳 | 16.1年 | 8,144,945円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.6% |
| 男性育児休業取得率 | 89.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 80.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 59.1% |
また、同社は「サステナブルナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、研修時間(5.3時間)、障がい者3年超在籍率(97.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場の急激な変動
同社グループの主要市場である自動車関連や電子デバイス分野は変化が激しく、経済変調による需要急減や供給過剰が販売価格・数量に影響する可能性があります。これに対し、新規用途開拓や徹底したコストダウンによる収益確保に取り組んでいます。
■(2) 海外事業展開拡大
中国、アジア、欧米など広域での事業拡大に伴い、地政学的リスクや経済安全保障上の問題が増大しています。予期せぬ法規制変更やサプライチェーン寸断のリスクに対し、供給体制が経済安全保障域内で完結するようサプライチェーンの見直しを進めています。
■(3) 原材料等の調達
主力製品の原材料には特殊なものが多く、一部は特定サプライヤーに依存しているため、調達難のリスクがあります。これに対し、複数購買による安定調達や、必要な原材料の確保に努めています。また、メタノール等の主要原料価格の高騰リスクに対しては、長期契約や出資などの対策を講じています。



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