※本記事は、株式会社ダイセルの有価証券報告書(第160期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ダイセルってどんな会社?
同社グループは、多様な化学製品の製造・販売を中核事業としてグローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
1919年に大日本セルロイドとして創立し、1949年に東京証券取引所へ上場しました。1964年には現在の完全子会社であるポリプラスチックスを設立しています。1966年にダイセルへ社名変更し、2011年に現在の社名となりました。2020年にはポリプラスチックスを完全子会社化しています。
現在の従業員数は連結で11,034名、単体で2,533名です。筆頭株主および第2位の株主は、資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。第3位株主には日本生命保険が位置しており、金融機関が上位を占める株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.81% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 10.36% |
| 日本生命保険(相) | 6.81% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性3名の計15名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は榊康裕氏が務めています。取締役11名のうち6名が社外取締役であり、社外取締役比率は54.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 榊康裕 | 代表取締役社長社長執行役員役員人事・報酬委員会委員経営戦略室管掌など | 1984年同社入社。有機合成カンパニー長、経営戦略本部長、SCM本部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 杉本幸太郎 | 代表取締役専務執行役員役員人事・報酬委員会委員事業支援本部長など | 1984年同社入社。原料センター長などを経て、2019年6月代表取締役、2020年6月より現職。 |
| 塩飽俊雄 | 取締役専務執行役員アセスメント本部長、研究開発本部長など | 1987年ポリプラスチックス入社。同社代表取締役社長などを経て、2021年4月同社専務執行役員、2024年6月より現職。 |
| 川口尚孝 | 取締役専務執行役員生産本部長、エンジニアリングセンター担当など | 1986年同社入社。特機・MSDカンパニー播磨工場長などを経て、2023年4月専務執行役員、2024年6月より現職。 |
| 小河義美 | 取締役会長役員人事・報酬委員会委員 | 1983年同社入社。生産技術本部生産革新センター所長、代表取締役社長などを経て、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、北山禎介氏(元三井住友フィナンシャルグループ取締役社長)、浅野敏雄氏(元旭化成代表取締役社長)、小松百合弥氏(元大和クオンタム・キャピタルマネージングディレクター)、岡島眞理氏(元日本航空客室本部副本部長)、西山圭太氏(元経済産業省商務情報政策局長)、鬼頭誠司氏(元日本生命保険代表取締役副社長執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、メディカル・ヘルスケア事業、スマート事業、セイフティ事業、マテリアル事業、エンジニアリングプラスチック事業およびその他事業を展開しています。
■メディカル・ヘルスケア事業
光学異性体分離カラム、健康食品素材などの製造および販売を行っており、主に医薬品メーカーや健康食品などの製品ユーザーを顧客としています。
収益源はこれらの製品の販売代金および技術サービスの提供対価です。運営は同社およびダイセルキラルテクノロジーズ中国などの子会社各社が行っています。
■スマート事業
カプロラクトン誘導体、エポキシ化合物、半導体レジスト材料、電子材料向け溶剤、機能フィルムなどの製造および販売を行っており、主にこれらの製品ユーザーを顧客としています。
収益源は製品の販売代金です。運営は同社が主体となり、大日ケミカルやダイセルビヨンドなどの子会社各社も製造・加工および販売を担っています。
■セイフティ事業
自動車エアバッグ用インフレータやインフレータ用イニシエータ、電流遮断器などの製造および販売を行っており、主にモビリティ関連の製品ユーザーを顧客としています。
収益源は自動車用安全部品などの販売代金です。運営は同社のほか、ダイセル・セイフティ・システムズなどの国内外の子会社各社が行っています。
■マテリアル事業
酢酸および酢酸誘導体、アセテート・トウ、酢酸セルロース、化粧品原料などの製造および販売を行っており、主に化学品や素材の製品ユーザーを顧客としています。
収益源はこれらの化学品および素材の販売代金です。運営は同社が主体となり、協同酢酸などの子会社各社も製造および販売を行っています。
■エンジニアリングプラスチック事業
ポリアセタール樹脂、PBT樹脂、液晶ポリマー、水溶性高分子などの製造および販売を行っており、主に高機能樹脂の製品ユーザーを顧客としています。
収益源はエンジニアリングプラスチック関連製品の販売代金です。運営は主に子会社のポリプラスチックスおよびダイセルミライズなどが行っています。
■その他事業
水処理用分離膜モジュールなどの製造および販売、ならびにグループ各社の製品や原材料の保管および運送などの物流サービスを提供しています。
収益源は分離膜モジュールなどの販売代金および保管・運送に対する物流サービス料金です。運営は主にダイセン・メンブレン・システムズやダイセル物流が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は増加傾向で推移していましたが、直近の2026年3月期はわずかに減少に転じています。経常利益と当期利益についても2024年3月期をピークとして減少傾向にあり、特に直近では大幅な減益となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,679億円 | 5,380億円 | 5,581億円 | 5,865億円 | 5,796億円 |
| 経常利益 | 573億円 | 520億円 | 684億円 | 623億円 | 451億円 |
| 利益率(%) | 12.2% | 9.7% | 12.3% | 10.6% | 7.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 284億円 | 280億円 | 680億円 | 588億円 | 61億円 |
■(2) 損益計算書
売上高および売上総利益ともに前年度を下回っています。売上総利益率も28.1%から25.2%へと低下しており、営業利益および営業利益率の悪化につながっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,865億円 | 5,796億円 |
| 売上総利益 | 1,647億円 | 1,463億円 |
| 売上総利益率(%) | 28.1% | 25.2% |
| 営業利益 | 610億円 | 421億円 |
| 営業利益率(%) | 10.4% | 7.3% |
販売費及び一般管理費のうち、技術研究費が248億円(構成比24%)、従業員給料及び手当が243億円(同23%)、運賃及び荷造費が218億円(同21%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力のマテリアル事業が大幅な減収減益となり、全体業績の足を引っ張る形となっています。一方で、メディカル・ヘルスケア事業、スマート事業、セイフティ事業は増収増益を達成しており、堅調に推移しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| メディカル・ヘルスケア事業 | 144億円 | 162億円 | 3億円 | 4億円 | 2.6% |
| スマート事業 | 373億円 | 377億円 | -8億円 | 5億円 | 1.4% |
| セイフティ事業 | 976億円 | 1,042億円 | 39億円 | 61億円 | 5.9% |
| マテリアル事業 | 1,834億円 | 1,613億円 | 296億円 | 150億円 | 9.3% |
| エンジニアリングプラスチック事業 | 2,480億円 | 2,547億円 | 270億円 | 192億円 | 7.5% |
| その他 | 58億円 | 54億円 | 10億円 | 9億円 | 16.6% |
| 連結(合計) | 5,865億円 | 5,796億円 | 610億円 | 421億円 | 7.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フローとなっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 934億円 | 678億円 |
| 投資CF | -479億円 | -477億円 |
| 財務CF | -489億円 | -228億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.9%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は42.6%であり、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「価値共創によって人々を幸せにする会社 ~ Sustainable Value Together ~」を基本理念として掲げています。また、サステナブル経営方針として、人々の豊かな生活を実現する「Sustainable Product」、地球環境と共生する「Sustainable Process」、多様な社員が成長する「Sustainable People」を定め、社会から信頼される企業グループを目指しています。
■(2) 企業文化
同社はサステナブル経営方針を具現化し、社員一人ひとりが常に行動で実践していくための指針として「ダイセルグループ行動指針」を定めています。また、すべての企業活動領域で普遍的に適用する規範として「ダイセルグループ倫理規範」を制定し、社会課題の解決や循環型社会の構築に貢献しながら、良き企業市民として活動する文化を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社は長期ビジョン「DAICEL VISION 4.0」に基づき、2030年度を最終年度とする中期戦略「Accelerate 2030」を策定しています。持続可能な社会と中長期的な企業価値向上の両立に向け、次世代育成事業と成長牽引事業のシェア拡大を目指しています。最終年度となる2030年度の経営指標として以下を掲げています。
* 売上高 7,500億円
* 営業利益 1,000億円
■(4) 成長戦略と重点施策
中期戦略において、エンジニアリングプラスチックス事業の確実な成長や、他社協業を起点とした次世代事業の育成などを通じた企業価値の向上を図っています。ハイパフォーマンスポリマーズ事業では高付加価値領域への展開を強化し、マテリアル事業では酢酸セルロースの環境素材市場を開拓します。また、機能別戦略として研究と開発の自立を図り、事業創出を目指すとともに、AIやIoTを活用したデジタルトランスフォーメーションを推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「Sustainable People」の方針のもと、人間中心の経営を推進しています。社員一人ひとりが自らの潜在力を最大限に引き出し、強みを発揮できる環境の実現を目指し、「人財の活躍推進」と「働きがいを高める環境整備」の2つを柱として人材戦略を展開しています。能力や役割に応じた評価制度を通じて、経営を担うマネジメント人材や専門性を持つプロフェッショナル人材の育成と定着を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.9歳 | 15.3年 | 8,655,282円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 80.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 81.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 66.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員エンゲージメント(62%)、障がい者3年超在籍率(100%)、5連続休暇取得率(68.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場の急激な変動や原燃料価格の変動
自動車関連や半導体などの対面市場における急激な需要減少や、中東情勢などの地政学リスクが業績に影響を及ぼす可能性があります。また、主要原料であるメタノールや各種燃料の価格高騰も収益を圧迫する恐れがあるため、複数の調達先確保や価格転嫁に努めています。
■(2) 海外事業展開と物流網に関する事業リスク
海外事業を積極的に拡大しているため、各国の法律変更や地政学的な問題が事業に支障をきたすリスクがあります。さらに、国内においては運送ドライバーの人手不足や物流費の高騰が競争力低下を招く恐れがあり、サプライチェーンの見直しや共同物流を推進しています。
■(3) 製品品質と製造時の事故に係るリスク
高機能な化学製品を幅広く提供しているため、製品の品質不具合や大規模な回収が発生した場合、重大な損害賠償責任を負うリスクがあります。また、化学品を扱う工場における火災や爆発などの事故も、長期の操業停止や業績の悪化につながる恐れがあります。



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