※本記事は、アイシンの有価証券報告書(第103期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月12日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. アイシンってどんな会社?
自動車の基本性能を支える部品やエナジーソリューション機器をグローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
同社は1943年に東海飛行機として設立され、戦後に愛知工業へと改称しミシンや自動車部品の製造を開始しました。1965年に新川工業と合併してアイシン精機となり、2001年にはアドヴィックスを共同設立するなど事業を拡大しました。2021年にアイシン・エィ・ダブリュを吸収合併し、現在のアイシンへと社名を変更しています。
現在の従業員数は連結で113,292名、単体で34,956名です。筆頭株主は事業会社のトヨタ自動車であり、第2位および第3位には資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| トヨタ自動車 | 22.34% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.94% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.92% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性3名の計12名で構成され、女性役員比率は25.0%です。取締役社長代表取締役は吉田守孝氏が務めています。社外取締役は取締役8名中4名を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 吉田守孝 | 取締役社長代表取締役 | トヨタ自動車副社長、豊田中央研究所代表取締役会長などを経て、2021年6月より現職。 |
| 伊藤慎太郎 | 取締役代表取締役 | アイシン精機専務役員、同社執行役員、副社長執行役員などを経て、2021年6月より現職。 |
| 山本義久 | 取締役 | アイシン・エィ・ダブリュ専務役員、同社副社長執行役員などを経て、2022年6月より現職。 |
| 西川昌宏 | 取締役 | アイシン精機専務役員、同社取締役、同社執行役員などを経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、小林耕士(トヨタ自動車番頭・Executive Fellow)、星野次彦(東急不動産ホールディングス社外取締役)、廣田康人(アシックス代表取締役会長CEO)、達脇恵子(伊勢化学工業社外監査役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「北米」「欧州」「中国」「アセアン・インド」および「その他」の事業を展開しています。
■(1) 日本
同地域において、自動車部品やエナジーソリューション関連機器の製造および販売を行っており、国内外の完成車メーカーなどが主な顧客です。
収益源はこれらの製品の販売代金であり、親会社であるアイシンをはじめ、アドヴィックスなどの国内子会社が事業を運営しています。
■(2) 北米
同地域において、主にパワートレインや走行安全関連などの自動車部品の製造および販売を行っています。
収益源は製品の販売代金であり、アイシン・ホールディングス・オブ・アメリカなどの現地連結子会社が事業を運営しています。
■(3) 欧州
同地域において、主にオートマチックトランスミッションなどの自動車部品の製造および販売を行っています。
収益源は製品の販売代金であり、アイシン・ヨーロッパなどの現地連結子会社が事業を運営しています。
■(4) 中国
同地域において、主にオートマチックトランスミッションなどの自動車部品の製造および販売を行っています。
収益源は製品の販売代金であり、アイシン(中国)投資などの現地連結子会社が事業を運営しています。
■(5) アセアン・インド
同地域において、主にパワートレインユニットなどの自動車部品の製造および販売を行っています。
収益源は製品の販売代金であり、アイシン・パワートレイン(タイランド)などの現地連結子会社が事業を運営しています。
■(6) その他
報告セグメントに含まれないブラジルなどにおいて、自動車部品事業を展開しています。
収益源は製品の販売代金であり、アイシン・オートモーティブなどの現地子会社が事業を運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、一時的な減益を経験したものの、その後は回復基調にあります。特に直近の事業年度では、得意先の車両生産台数やハイブリッド関連製品の販売増などにより、売上収益および各種利益ともに力強い成長を遂げています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 39,174億円 | 44,028億円 | 49,096億円 | 48,961億円 | 51,178億円 |
| 税引前利益 | 2,200億円 | 737億円 | 1,499億円 | 1,734億円 | 2,479億円 |
| 利益率(%) | 5.6% | 1.7% | 3.1% | 3.5% | 4.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,419億円 | 377億円 | 908億円 | 1,076億円 | 1,717億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は堅調に推移しており、営業利益も改善傾向にあります。継続的な企業体質改善の取り組みや構造改革の効果が、売上規模の拡大と相まって利益水準の向上に寄与しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 48,961億円 | 51,178億円 |
| 売上総利益 | 2,157億円 | 2,100億円 |
| 売上総利益率(%) | 4.4% | 4.1% |
| 営業利益 | 2,029億円 | 2,288億円 |
| 営業利益率(%) | 4.1% | 4.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が1,506億円(構成比39%)、運賃及び荷造費が574億円(同15%)を占めています。
■(3) セグメント収益
日本や北米、アセアン・インドにおいて、ハイブリッドトランスミッションなどの販売台数増が売上と利益の拡大に貢献しました。一方、欧州や中国ではオートマチックトランスミッションの販売減少や構造改革費用の計上が影響し、減収減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 31,393億円 | 32,147億円 | 737億円 | 803億円 | 2.5% |
| 北米 | 10,869億円 | 11,959億円 | 293億円 | 391億円 | 3.3% |
| 欧州 | 2,959億円 | 2,843億円 | 44億円 | 41億円 | 1.4% |
| 中国 | 6,189億円 | 5,989億円 | 324億円 | 307億円 | 5.1% |
| アセアン・インド | 5,302億円 | 6,134億円 | 594億円 | 696億円 | 11.3% |
| その他 | 379億円 | 395億円 | 35億円 | 42億円 | 10.6% |
| 調整額 | -8,131億円 | -8,289億円 | 3億円 | 8億円 | - |
| 連結(合計) | 48,961億円 | 51,178億円 | 2,029億円 | 2,288億円 | 4.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3,399億円 | 3,761億円 |
| 投資CF | -1,469億円 | -772億円 |
| 財務CF | -2,702億円 | -1,820億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は43.8%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「“移動”に感動を、未来に笑顔を。」を経営理念として掲げています。リアルの移動の進化に貢献するだけでなく、これまでの概念を飛び越えて人々の心を動かす“移動”体験を提供し、環境に配慮した事業を通じて持続可能な社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
サステナビリティ経営の基盤として「アイシングループサステナビリティ憲章」を策定し、これを企業活動における指針としています。また、従業員が遵守すべき具体的な行動を「アイシングループ行動規範」として定め、周知徹底を図り、挑戦する企業文化の醸成に努めています。
■(3) 経営計画・目標
2030年中長期事業戦略のもと「2028年中期経営計画」を策定し、「“移動”の価値を創造する会社」への変革を目指しています。
・売上収益:5兆3,000億円
・営業利益:3,300億円
・営業利益率:6.2%
・ROE:10.0%
・ROIC:11.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
「商品」「地域」「機能」の3つを軸に事業を強化しています。強みであるパワートレインやブレーキを進化させ、新たな移動価値を創造するほか、各地域のニーズに応じた現地生産の拡大を推進します。さらに、グループ経営の高度化や収益構造改革を通じて経営基盤を盤石にします。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「プロ人材の活躍・成長」「チャレンジの促進」「グループ総合力の強化」を軸に人的資本の拡充を推進しています。役割の明確化やデジタル領域へのリスキリングを進めるほか、失敗からの学びを評価する加点主義の風土改革や、女性をはじめとする多様な人材の活躍促進に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.7歳 | 17.3年 | 7,772,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.1% |
| 男性育児休業取得率 | 79.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 69.3% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 70.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員エンゲージメント(61%)、社員を活かす環境(59%)、重大災害件数(0件)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況の変動による需要の縮小
同社グループの売上収益の重要な部分を占める自動車関連製品の需要は、販売地域の経済状況に影響されます。主要市場である日本、北米、欧州、中国などにおける景気後退や自動車需要の縮小が、同社の業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原材料や部品の調達制約および価格高騰
製品の製造に必要な原材料や部品は複数の外部供給元から調達しています。特定鉱物資源の規制や地政学的リスク、供給元の被災により十分な調達が困難になる場合や、資源・エネルギー価格の高騰により調達コストが上昇する場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) トヨタグループへの依存と業績連動リスク
同社の自動車部品事業は、世界の主要自動車メーカーを顧客としています。特にトヨタグループに対する売上収益の割合が高いため、同グループの事業戦略や生産動向の変動など、同社が管理できない要因によって業績や財政状態に影響を受ける可能性があります。
■(4) 製品の欠陥に伴うリコール等の費用負担
自動車の走行や安全に関わる部品を主力製品としているため、製品の品質は顧客の信頼や企業価値に直結します。万が一、大規模なリコールや事故が発生した場合、ブランド価値の低下や多額の費用負担が生じ、同社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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