※本記事は、株式会社ブラザー工業 の有価証券報告書(第133期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ブラザー工業ってどんな会社?
ミシンの修理業から始まり、現在はプリンターや複合機、工作機械などをグローバルに展開する電気機器メーカーです。
■(1) 会社概要
1908年に安井ミシン商会として創業し、1934年に日本ミシン製造株式会社を設立しました。1963年には東京・名古屋・大阪の証券取引所に株式を上場。1971年に高速ドットプリンターを出荷し情報機器分野へ進出、2015年には英ドミノプリンティングサイエンス社を買収し産業用印刷分野を強化するなど、多角化を進めてきました。
同社グループの連結従業員数は42,801名、単体では3,903名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は日本カストディ銀行(信託口)、第3位は米国系カストディ銀行の常任代理人と、国内外の機関投資家が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 15.66% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 5.87% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001(常任代理人 株式会社みずほ銀行決済営業部) | 4.71% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性14名、女性2名の計16名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役社長は池田 和史氏です。社外取締役比率は31.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 小池 利和 | 取締役会長 | 1979年入社。米国販売子会社社長、代表取締役社長を経て2018年より代表取締役会長。2022年より現職。 |
| 佐々木 一郎 | 取締役副会長 | 1983年入社。英国販売子会社社長、代表取締役社長などを経て2024年より現職。 |
| 池田 和史 | 代表取締役社長 | 1985年入社。経営企画部長、米国販売子会社社長、代表取締役副社長などを経て2024年より現職。 |
| 石黒 雅 | 代表取締役副社長 | 1984年入社。米国販売子会社社長、取締役常務執行役員などを経て2021年より現職。 |
| 桑原 悟 | 代表取締役副社長 | 1987年入社。開発企画部長、中国生産子会社総経理、取締役専務執行役員などを経て2024年より現職。 |
| 村上 泰三 | 取締役専務執行役員 | 1984年入社。生産技術部長、マレーシア生産子会社社長などを経て2024年より現職。 |
社外取締役は、竹内 敬介(元日揮代表取締役会長)、白井 文(元尼崎市長)、内田 和成(元ボストン・コンサルティング・グループ日本代表)、日髙 直輝(元住友商事代表取締役副社長)、宮木 正彦(元デンソー代表取締役副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「プリンティング・アンド・ソリューションズ事業」「マシナリー事業」「ドミノ事業」「ニッセイ事業」「パーソナル・アンド・ホーム事業」「ネットワーク・アンド・コンテンツ事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) プリンティング・アンド・ソリューションズ事業
主にSOHO(小規模オフィス・在宅勤務)やSMB(中小規模ビジネス)向けに、プリンター、複合機、ラベルライター、ラベルプリンター、スキャナー等を製造・販売しています。
収益は、製品本体の販売およびトナーカートリッジ等の消耗品販売から得ています。運営はブラザー工業および各国の販売子会社等が行っています。
■(2) マシナリー事業
自動車やIT機器などの部品加工に用いられる工作機械、アパレル縫製工場向けの工業用ミシン、衣料品に直接印刷するガーメントプリンターを製造・販売しています。
収益は、工作機械や工業用ミシン等の製品販売から得ています。運営はブラザー工業およびブラザーマシナリー(インド)などの関係会社が行っています。
■(3) ドミノ事業
食品・飲料・医薬品などの製造ラインで使用されるコーディング・マーキング機器(日付やロット番号の印字機)や、デジタル印刷機などの産業用プリンティング機器を製造・販売しています。
収益は、機器本体の販売およびインク等の消耗品、アフターサービスから得ています。運営は英ドミノプリンティングサイエンス社を中心とするドミノグループが行っています。
■(4) ニッセイ事業
産業用ロボットやFA機器などに使用される減速機や歯車を製造・販売しています。
収益は、減速機や高精度歯車等の製品販売および不動産の賃貸から得ています。運営は株式会社ニッセイおよびその関係会社が行っています。
■(5) パーソナル・アンド・ホーム事業
家庭用ミシンやカッティングマシンなどのホビー機器を製造・販売しています。初心者向けから上級者向けの高機能刺しゅうミシンまで幅広いラインアップを展開しています。
収益は、ミシン本体および関連アクセサリーの販売から得ています。運営はブラザー工業および各国の販売子会社等が行っています。
■(6) ネットワーク・アンド・コンテンツ事業
業務用通信カラオケシステム「JOYSOUND」等の製造・販売・賃貸に加え、カラオケ店舗の運営、コンテンツ配信サービス、健康・音楽関連サービスなどを提供しています。
収益は、カラオケ機器の販売・賃貸料、コンテンツ利用料、カラオケ店舗の利用料などから得ています。運営は株式会社エクシングおよびその子会社が行っています。
■(7) その他事業
上記セグメントに含まれない製品の製造・販売および不動産の販売・賃貸事業などを行っています。
収益は、製品販売および不動産販売・賃貸料から得ています。運営はブラザー工業およびブラザー不動産株式会社などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は6,000億円台から8,000億円台へと順調に拡大しています。利益面では、2022年3月期に高い利益率を記録した後、一時は低下しましたが、直近の2025年3月期には再び増益基調となり、売上収益・当期利益ともに過去の水準を上回る結果となりました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 6,318億円 | 7,109億円 | 8,153億円 | 8,229億円 | 8,766億円 |
| 税引前利益 | 429億円 | 864億円 | 570億円 | 525億円 | 747億円 |
| 利益率(%) | 6.8% | 12.2% | 7.0% | 6.4% | 8.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 245億円 | 610億円 | 391億円 | 316億円 | 548億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益の増加に伴い売上総利益も増加しています。販売費及び一般管理費も増加していますが、増収効果や前期の減損損失の影響がなくなったことなどから、営業利益は大幅に改善し、営業利益率は上昇しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 8,229億円 | 8,766億円 |
| 売上総利益 | 3,553億円 | 3,816億円 |
| 売上総利益率(%) | 43.2% | 43.5% |
| 営業利益 | 498億円 | 699億円 |
| 営業利益率(%) | 6.1% | 8.0% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が1,315億円(構成比43%)、荷造運搬費が287億円(同9%)を占めています。売上原価においては、原材料費が3,888億円(構成比79%)と大半を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで売上高が増加または横ばいとなりましたが、利益面では明暗が分かれました。パーソナル・アンド・ホーム事業やドミノ事業が増益となった一方、主力事業の一つであるマシナリー事業は販管費の増加等により大幅な減益となりました。プリンティング・アンド・ソリューションズ事業もコスト増により若干の減益となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| プリンティング・アンド・ソリューションズ | 5,149億円 | 5,448億円 | 610億円 | 589億円 | 10.8% |
| マシナリー | 774億円 | 852億円 | 23億円 | 8億円 | 0.9% |
| ドミノ | 1,096億円 | 1,194億円 | -241億円 | 36億円 | 3.0% |
| ニッセイ | 208億円 | 200億円 | 10億円 | -0.2億円 | -0.1% |
| パーソナル・アンド・ホーム | 505億円 | 572億円 | 25億円 | 67億円 | 11.7% |
| ネットワーク・アンド・コンテンツ | 381億円 | 388億円 | 17億円 | 20億円 | 5.1% |
| その他 | 264億円 | 258億円 | 55億円 | -19億円 | -7.5% |
| 調整額 | -148億円 | -147億円 | -1億円 | -0.2億円 | - |
| 連結(合計) | 8,229億円 | 8,766億円 | 498億円 | 699億円 | 8.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
ブラザー工業は、営業活動を通じて資金を創出し、事業投資や株主還元に充当しています。
営業活動によるキャッシュ・フローは、本業で得た利益や債務の増加などにより増加しました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、設備や無形資産の取得により減少しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払いなどが主な要因で減少しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,410億円 | 900億円 |
| 投資CF | -421億円 | -482億円 |
| 財務CF | -616億円 | -346億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社はグループビジョン「At your side 2030」において、あり続けたい姿を「世界中の“あなた”の生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」と定義しています。顧客をはじめとする全ての人の願いを叶える存在であり続け、社会の持続的発展と地球環境への責任を果たすことを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は創業以来、「At your side.」の精神を掲げ、顧客のニーズに合った価値を提供し続けてきました。この精神はすべての活動の礎である「ブラザーグループ グローバル憲章」に受け継がれています。従業員の多様性を重視し、挑戦を奨励する風土のもと、時代や環境の変化に合わせて自らを変革し続ける姿勢を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
2027年度を最終年度とする中期戦略「CS B2027」において、長期的な企業価値向上に向けた事業ポートフォリオの変革と利益創出力の向上を目指しています。
* 売上収益:1兆円
* 営業利益額:1,000億円
* ROE:10%
* 産業用領域の売上比率:40%
■(4) 成長戦略と重点施策
「産業用領域」と「プリンティング領域」を2030年までの注力領域と位置づけています。産業用領域では飛躍的な成長を、プリンティング領域ではビジネスモデルの変容を図り、事業ポートフォリオを変革します。特に、産業機器、ドミノ事業、新規事業などを「成長事業」と位置づけ、M&Aを含めた成長投資を積極的に行い、将来の柱へと育成する方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「多様な人々の活躍」をマテリアリティ(重要課題)の一つと定め、従業員一人ひとりが能力を発揮できる環境づくりを推進しています。特に、グローバルベースでの従業員エンゲージメントの向上、各拠点・地域の状況に即した多様な人材の活躍促進、重点分野における人材ポートフォリオの強化を目標としています。また、挑戦を奨励する組織文化の醸成やリーダー人材への育成投資を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.6歳 | 14.2年 | 8,038,089円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.8% |
| 男性育児休業取得率 | 79.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 74.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 80.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外国籍従業員比率(1.4%)、経験者採用者比率(40%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 通商・地政学リスク
同社はグローバルに事業を展開しており、米中関係やロシア・ウクライナ情勢、中東情勢などの変化が事業に影響を及ぼす可能性があります。特に米国の関税政策の変更や新たな規制の発動は、輸入コストの上昇やサプライチェーンの混乱を招く恐れがあります。これに対し、関税動向の注視、生産拠点の最適化、利用航路・港の複線化などの対策を講じています。
■(2) プリンティング市場の縮小
デジタル化やペーパーレス化の進展により、オフィス・ホーム向けのプリンティング市場は緩やかに縮小することが予想されます。同事業は収益の柱であるため、業績への影響が懸念されます。これに対し、消耗品の自動配送など「つながるビジネス」の拡大や、成長分野である業務用ラベリング事業、産業用印刷市場への注力により、収益構造の転換を進めています。
■(3) サプライチェーンの寸断
主要な生産拠点がベトナム、フィリピン、中国などに集中しており、自然災害、感染症、地政学的要因などにより部材調達や生産に支障が出るリスクがあります。また、海上輸送の混乱による遅延やコスト増も懸念されます。これに対し、生産拠点の分散、部材調達先の複線化、戦略的な在庫保有、物流ルートの多様化などを進め、供給網の強靭化を図っています。
■(4) 為替変動リスク
海外売上比率が高いため、為替レートの変動が業績に影響を与えます。特に対ユーロでの円高は利益の減少要因となります。また、新興国通貨の変動は製造・調達コストに影響します。これに対し、外貨建取引における受取と支払のバランス調整や、為替予約取引の活用により、リスクの低減を図っています。



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