※本記事は、ブラザー工業株式会社の有価証券報告書(第134期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ブラザー工業ってどんな会社?
同社はプリンター等の通信機器から産業用機械、ミシンまで幅広い製品を展開するグローバルメーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1908年にミシンの修理業から始まり、1932年に家庭用ミシンの国産化に成功しました。1934年に現在の会社を設立し、1971年には高速ドットプリンターを出荷して情報機器分野へ進出しています。直近では2026年にMUTOHを子会社化し、産業用プリンター事業をさらに強化しています。
同社グループは連結で39,495名、単体で3,997名の従業員を擁しています。筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務などを行う信託銀行であり、第3位には外資系金融機関が名を連ねており、機関投資家による保有割合が高い構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.08% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.36% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 5.19% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性3名の計15名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は池田和史が務めており、社外取締役の比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 池田 和史 | 代表取締役社長* | 1985年同社入社。ブラザーインターナショナルコーポレーション(U.S.A.)取締役社長などを経て、2023年に代表取締役専務執行役員。2024年より現職。 |
| 小池 利和 | 取締役会長 | 1979年同社入社。ブラザーインターナショナルコーポレーション(U.S.A.)取締役社長、同社代表取締役社長などを経て、2022年より現職。 |
| 石黒 雅 | 代表取締役副社長*インダストリアル・プリンティング事業統括 | 1984年同社入社。ブラザーインターナショナルコーポレーション(U.S.A.)取締役社長などを経て、2017年に代表取締役専務執行役員。2021年より現職。 |
| 桑原 悟 | 代表取締役副社長*P&S事業統括 兼 P&S事業 LE開発部、LC開発部、IDS開発部、PA開発部、LM開発部、SC開発部 担当 | 1987年同社入社。同社開発企画部長などを経て、2023年に代表取締役専務執行役員。2024年より現職。 |
| 村上 泰三 | 取締役専務執行役員*品質・製造センター製造企画部、基盤技術部、品質革新部、IJ製造部、統括調達部 担当 | 1984年同社入社。同社生産技術部長、試作技術部長などを経て、2022年に取締役常務執行役員。2024年より現職。 |
社外取締役は、竹内敬介(元日揮代表取締役社長)、白井文(元尼崎市長)、内田和成(元ボストン・コンサルティング・グループ日本代表)、日髙直輝(元住友商事代表取締役副社長執行役員)、宮木正彦(元デンソー代表取締役副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「プリンティング・アンド・ソリューションズ事業」および「その他」など複数の事業を展開しています。
■(1) プリンティング・アンド・ソリューションズ事業
プリンター、複合機、ラベルライター、ラベルプリンター、スキャナーなどの情報通信機器を提供しています。SOHOや中小企業など幅広い顧客のワークスタイル革新をサポートしています。
主に製品本体および消耗品(インクやトナーなど)の販売から収益を得ています。運営は同社のほか、ブラザーインターナショナルコーポレーションや国内外の販売・製造子会社が行っています。
■(2) インダストリアル・プリンティング事業
衣料品向けガーメントプリンターや大判インクジェットプリンターなどの産業用プリンター、およびコーディング・マーキング機器等の産業用印刷機器を提供しています。
産業用印刷機器の本体や消耗品の販売、および保守などのアフターサービスから料金を受け取っています。運営は同社やドミノプリンティングサイエンス、MUTOHなどが担っています。
■(3) マシナリー事業
自動車やIT機器などの部品加工に用いられる工作機械、およびアパレル市場や自動車部品向けの工業用ミシンを提供し、顧客の生産性向上に貢献しています。
工作機械や工業用ミシンなどの産業機器の販売、および関連するサービス提供から収益を得ています。運営は同社や兄弟機械(西安)などの国内外のグループ会社が行っています。
■(4) ニッセイ事業
ギアモータや産業用ロボット・FA機器の駆動を担う高剛性減速機、高精度な歯車などを提供しています。拡大が予想される自動化・省人化分野の顧客ニーズに対応しています。
減速機や歯車の製造・販売から収益を得ています。運営は主に子会社のニッセイやその関連会社が行っています。
■(5) パーソナル・アンド・ホーム事業
高い開発力を生かし、家庭用ミシンや関連するアプリケーション等を提供しています。初心者から上級者まで幅広い個人の顧客を対象としています。
家庭用ミシン本体の販売、および刺しゅうデザインデータ作成アプリのサービスなどから料金を受け取っています。運営は同社や台弟工業などの国内外のグループ会社が行っています。
■(6) その他事業
上記の報告セグメント以外の製品の製造・販売、および不動産の販売・賃貸事業などを幅広く展開しています。
不動産の賃貸料やその他の関連製品の販売から収益を得ています。運営は同社や子会社のブラザー不動産などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上収益は順調に拡大傾向にあり、堅調な成長を続けています。税引前利益は一時期落ち込みを見せましたが、直近2期で回復に転じており、利益率も改善傾向にあります。事業の多角化やコストコントロールの成果が着実に表れていると言えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 7109億円 | 8153億円 | 8229億円 | 8489億円 | 8935億円 |
| 税引前利益 | 864億円 | 570億円 | 525億円 | 725億円 | 820億円 |
| 利益率(%) | 12.2% | 7.0% | 6.4% | 8.5% | 9.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 610億円 | 391億円 | 316億円 | 548億円 | 676億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期から当期にかけて増加しており、営業利益および営業利益率も改善しています。売上総利益率は低下していますが、価格対応の効果や事業譲渡益などの計上により営業利益ベースでは増益を確保しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8489億円 | 8935億円 |
| 売上総利益 | 1112億円 | 748億円 |
| 売上総利益率(%) | 13.1% | 8.4% |
| 営業利益 | 677億円 | 779億円 |
| 営業利益率(%) | 8.0% | 8.7% |
■(3) セグメント収益
主力であるプリンティング・アンド・ソリューションズ事業が安定して収益の柱となっており、当期も増収を記録しています。マシナリー事業やニッセイ事業も増益と好調ですが、インダストリアル・プリンティング事業は先行投資や競争環境の変化により営業赤字となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| プリンティング・アンド・ソリューションズ事業 | 5448億円 | 5706億円 | 589億円 | 581億円 | 10.2% |
| インダストリアル・プリンティング事業 | 1373億円 | 1393億円 | 32億円 | -17億円 | -1.2% |
| マシナリー事業 | 673億円 | 830億円 | 12億円 | 67億円 | 8.1% |
| ニッセイ事業 | 200億円 | 214億円 | -0億円 | 10億円 | 4.7% |
| パーソナル・アンド・ホーム事業 | 572億円 | 610億円 | 67億円 | 60億円 | 9.8% |
| その他事業 | 370億円 | 368億円 | -22億円 | 78億円 | 21.2% |
| 調整額等 | -147億円 | -186億円 | -0億円 | -0億円 | - |
| 連結(合計) | 8489億円 | 8935億円 | 677億円 | 779億円 | 8.7% |
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 900億円 | 1110億円 |
| 投資CF | -482億円 | -430億円 |
| 財務CF | -346億円 | -546億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.3%で市場平均をわずかに下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.0%で市場平均を大きく上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「世界中の“あなた”の生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」というあり続けたい姿を掲げています。価値創出を行い進歩し続けたいと願うすべての人々を“あなた”と位置付け、その人々の願いを叶えるための存在であり続けるとともに、社会の持続的な発展や地球環境への貢献を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「At your side.」の精神をすべての活動の礎とし、お客様のニーズにあった価値を提供し続けることを重視しています。多様な独自技術とグローバルネットワークを強みに、お客様のバリューチェーンに向き合い、成功へのボトルネックを見つけ解消する姿勢を大切にしており、モノづくりにとどまらない価値提供の幅を広げています。
■(3) 経営計画・目標
同社は中期戦略「CS B2027」を策定し、「挑む。未来へ、大胆に」をテーマに掲げて長期的な企業価値向上に取り組んでいます。事業ごとに設定された重点指標に基づいた戦略を遂行し、2027年度に向けて以下の財務目標の達成を目指しています。
* 売上収益:1兆円
* 営業利益額:1,000億円
* ROE:10%
* 産業用領域の売上比率:40%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「成長事業」「コア事業」「収益性追求事業」「収益性改革事業」の4つに事業を分類し、役割に応じた投資とリソース配分を行っています。インダストリアル・プリンティング事業などを成長事業と位置づけ、M&Aやアライアンスを中心とした成長投資を積極的に実施し、非連続な成長と将来の柱の構築を図ります。
* 3年間での成長投資:2,000億円規模
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「多様な人々の活躍」をマテリアリティとして定め、事業ポートフォリオ変革を加速するための人財基盤の強化に取り組んでいます。従業員のチャレンジを奨励する組織文化の醸成やリーダー人財への育成投資を進めるとともに、従業員一人ひとりが働きやすい環境づくりを行い、人的資本をさらに強化する方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.6歳 | 13.9年 | 8,053,735円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.1% |
| 男性育児休業取得率 | 29.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 80.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外国籍従業員比率(1.4%)、経験者採用者比率(48%)、管理職の経験者採用者比率(28%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 通商・地政学リスク
同社はグローバルに事業活動を展開しており、米中関係やロシア・ウクライナ情勢、中東情勢などの国際情勢の変化が事業運営に影響を及ぼす可能性があります。通商政策や関税制度の変更によって調達コストの上昇やサプライチェーンの混乱が生じるリスクや、国際物流環境の悪化による輸送コストの上昇が懸念されています。
■(2) 事業環境の変化と競争激化
プリンティング市場ではデジタル化の進展等により印刷ボリュームの減少が続いており、市場環境の変化への対応が遅れると業績に影響する可能性があります。また、グローバル企業や新興メーカーとの価格競争の激化、新技術の投入などにより、販売価格の低下や市場シェアの変動が生じるリスクがあります。
■(3) サプライチェーンの断絶
同社の主要な生産拠点はベトナム、フィリピン、中国等にあり、地政学的な対立や自然災害、取引先の事業見直し等が発生した場合、部材の継続調達が困難になるおそれがあります。物流網の混乱に伴う輸送遅延や運賃高騰が発生すると、市場への商品供給不足による販売機会の損失や顧客流出を招くリスクがあります。



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