※本記事は、日本トムソン株式会社の有価証券報告書(第77期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 日本トムソンってどんな会社?
独自の技術力で針状ころ軸受や直動案内機器などの重要機械部品を製造・販売し、世界中の産業を支えるメーカーです。
■(1) 会社概要
1950年に軸受等の販売を目的に大一工業として設立されました。1956年にニードルベアリングの研究開発に着手し、1963年に「IKO」を商標登録するとともに、現在の日本トムソンに社名変更しました。1968年に東京証券取引所および大阪証券取引所の市場第一部に指定され、現在はグローバルに販売・生産拠点を拡大しています。
従業員数は連結で2,547名、単体で1,030名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は日本トムソン取引先持株会、第3位は日本生命保険(常任代理人 日本マスタートラスト信託銀行)となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.96% |
| 日本トムソン取引先持株会 | 8.35% |
| 日本生命保険(常任代理人 日本マスタートラスト信託銀行) | 5.98% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.1%です。代表取締役社長CEOは細野幹人氏です。社外取締役比率は63.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 細野 幹人 | 代表取締役社長CEO | 1990年日本トムソン入社。岐阜製作所管理部長、人事総務部長、経営企画部長等を歴任し、2024年取締役を経て、2026年より現職。 |
| 宮地 茂樹 | 取締役会長 | 1979年東海銀行入行。2008年日本トムソン入社。経営企画部長、常務取締役、代表取締役社長、代表取締役会長を経て、2026年より現職。 |
| 秀島 信也 | 取締役副会長 | 1978年ヤマハ発動機入社。同社取締役常務執行役員等を経て、2019年日本トムソン社外取締役。専務取締役を経て、2025年より現職。 |
| 西村 修 | 取締役CFO | 2000年日本トムソン入社。岐阜製作所第三工場長、生産企画部長、経営企画部長等を歴任し、2025年取締役を経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、武井洋一(明哲綜合法律事務所パートナー)、齊藤聡(産業能率大学経営学部教授)、野田篤子(グロッセ・ジャパン代表取締役CEO)、松本展広(元三菱東京UFJ銀行執行役員)、那須健人(ブレークモア法律事務所パートナー)、林田和久(林田和久公認会計士事務所所長)、佐伯里香(ユーシステム代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「軸受等ならびに諸機械部品」の単一セグメントで事業を展開しています。
■軸受等および諸機械部品事業
半導体製造装置や電子部品実装機などのエレクトロニクス関連機器、工作機械、産業用ロボット、医療機器など幅広い分野に向けて、針状ころ軸受(ニードルベアリング)や直動案内機器を中心とした高付加価値な機械要素部品を提供しています。国内外の多様な産業の顧客のニーズに合わせた製品を開発・製造しています。
収益源は、これら軸受や諸機械部品の販売による代金です。運営は主に日本トムソンが行い、海外市場においてはIKO INTERNATIONAL, INC.(米国)、NIPPON THOMPSON EUROPE B.V.(オランダ)、艾克欧東晟商貿(上海)有限公司(中国)などの販売子会社や製造子会社と連携してグローバルに展開しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、エレクトロニクス関連や工作機械向けの需要変動により一時的に落ち込む時期もありましたが、当期は需要の回復や円安効果などにより売上高、経常利益ともに大幅な増収増益を達成しました。特に当期は経常利益率が8.2%まで改善し、収益力が回復しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 623億円 | 683億円 | 550億円 | 544億円 | 630億円 |
| 経常利益 | 81億円 | 107億円 | 47億円 | 14億円 | 52億円 |
| 利益率(%) | 13.0% | 15.7% | 8.5% | 2.6% | 8.2% |
| 当期利益 | 46億円 | 77億円 | 30億円 | 6億円 | 41億円 |
■(2) 損益計算書
直近の業績では、売上高の増加に伴い売上総利益が拡大し、売上総利益率は前期の30.7%から32.0%へと向上しました。販売費及び一般管理費の増加を吸収し、営業利益率は前期の2.2%から6.5%へと大幅に改善しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 544億円 | 630億円 |
| 売上総利益 | 167億円 | 202億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.7% | 32.0% |
| 営業利益 | 12億円 | 41億円 |
| 営業利益率(%) | 2.2% | 6.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与が68億円(構成比42%)、福利厚生費が12億円(同7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
日本トムソングループは、軸受等ならびに諸機械部品の製造・販売事業の単一セグメントであるため、部門別の売上推移を確認します。主力である軸受等は半導体製造装置向けなどの需要増で大幅な増収となり、諸機械部品も堅調に推移しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 軸受等 | 480億円 | 565億円 |
| 諸機械部品 | 64億円 | 65億円 |
| 連結(合計) | 544億円 | 630億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 64億円 | 95億円 |
| 投資CF | -34億円 | -37億円 |
| 財務CF | 9億円 | -62億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は66.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
日本トムソンは、「社会に貢献する技術開発型企業」という経営理念を掲げています。同社ブランドである「IKO」の理念に込められた、革新的で(Innovation)、高度な技術に立脚し(Know-how)、創造性に富む(Originality)企業活動の推進により、グループの持続的成長と社会の持続可能性の両立を図ることを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は、社会や顧客から信用・信頼される企業であり続けるため、それを支える「誠実、真面目な社風」と人材を価値創造の源泉として重視しています。全役職員が価値観を共有し行動するための指針である「行動憲章」や「IKOグループマテリアリティ」の実践を通じ、ステークホルダーとの信頼関係構築や豊かな地球環境の実現に努める文化があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2024年4月から3年間の「IKO中期経営計画2026 Connect for Growth ~I・K・Oでつなぐ、革新の未来~」を始動し、収益力と効率性の向上を目指しています。また、新たな株主還元方針として以下の目標を設定しています。
* 総還元性向50%以上
* DOE(自己資本配当率)2.5%(配当下限の目安)
■(4) 成長戦略と重点施策
同社の強みである「強い領域」を集中的に強化し、同時に「グローバル体制」の再構築を進めることで成長性を高めます。IoTやスマートファクトリーなどの高度化する市場ニーズに対し、高付加価値なトータルソリューションを提供するほか、ベトナムや中国の海外生産子会社の最大活用により収益性を向上させます。また、環境負荷低減製品の開発やカーボンニュートラルの実現など、ESG対応も推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「人材開発」「適材配置」「多様性」を人事戦略の三本柱に掲げています。中長期視点での人材育成を志向し、「経験に勝る育成は無し」という理念のもと、OJTを柱とした教育体制を整備しています。また、次世代リーダーの育成やDX人材の育成、育児と仕事の両立支援など、従業員一人ひとりがやりがいを持って働ける環境づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.6歳 | 15.8年 | 6,865,606円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.6% |
| 男性育児休業取得率 | 71.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 57.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 81.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | 63.3% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性比率(14.8%)、女性監督職比率(14.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 特定産業分野への依存と市場環境の変動
同社の製品は幅広い分野で使用されていますが、特に半導体製造装置や電子部品実装機等のエレクトロニクス関連機器向け、工作機械向けなどの特定産業分野への売上比率が高くなっています。これらの分野における急激な需要の縮小や、主要市場における景気後退が発生した場合、同社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 生産体制と原材料調達の制約
需要の変化に柔軟に対応できる生産体制の維持に努めていますが、予想を超える短期間での需要変動は、供給の遅延やコスト増加を招く恐れがあります。また、原材料や部品の価格高騰、品不足、供給元のトラブルや自然災害等により調達に支障を来した場合、製造原価の上昇や生産停止に繋がり、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 海外事業活動と為替変動のリスク
同社は海外市場における事業比率が高まっており、為替相場の変動が外貨建ての売上や費用、資産の円貨換算に影響を与えます。為替予約等によるヘッジを行っていますが、すべてのリスクを排除することはできません。また、海外諸国の法律や規制の変更、政治・経済の混乱等が事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 製品開発と品質維持に関するリスク
顧客ニーズを反映した高付加価値製品の開発を進めていますが、廉価な類似製品に需要が傾斜した場合、適切な販売価格の設定が困難になる恐れがあります。また、製品の品質管理には万全を期していますが、万が一不良品やクレームが発生した場合、賠償責任や社会的信用の低下により業績に影響を及ぼす可能性があります。



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