本記事は、株式会社酉島製作所の有価証券報告書(第145期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 酉島製作所ってどんな会社?
同社は各種ポンプや環境装置などの製造・販売、据付工事・サービスを主力とする企業です。
■(1) 会社概要
1919年8月に大阪市此花区にてポンプ専門製作工場として創設されました。1928年4月に会社が設立され、1949年5月に大阪証券取引所へ上場しています。1969年8月にはサービス部門を分離独立させ、その後もアジアやヨーロッパなど海外に多数の現地法人を設立し、グローバルに事業を拡大しています。
現在、同社グループの従業員数は連結で2,127名、単体で1,040名体制となっています。筆頭株主は公益財団法人の原田記念財団で、第2位は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第3位はりそな銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 公益財団法人原田記念財団 | 10.60% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.70% |
| りそな銀行 | 4.80% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役CEOは原田耕太郎氏が務めており、社外取締役の比率は54.5%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 原田耕太郎 | 代表取締役CEO(最高経営責任者) | 1984年大和銀行(現りそな銀行)入行。1997年同社入社。1999年取締役、2006年代表取締役社長を経て、2023年より現職。 |
| ジェラルドアッシュ | 取締役副CEO(副最高経営責任者) | 1988年Weir Pumps Ltd入社。2003年同社入社。2019年執行役員副社長を経て、2023年より現職。 |
| アリスターフレット | 取締役COO(最高執行責任者) | 1991年Weir Pumps Ltd入社。2004年同社入社。2019年専務執行役員などを経て、2026年より現職。 |
| 昼沢義則 | 取締役専務執行役員産業本部長 | 2002年同社入社。2019年常務執行役員産業本部長などを経て、2026年より現職。 |
| 羽牟幸一郎 | 取締役 | 1991年同社入社。2017年取締役、2019年代表取締役などを経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、井植敏雅(宝印刷社外取締役)、上田理恵子(奥村組社外取締役)、安陪裕二(関西みらい銀行社外監査役)、秋山洋(サンスター社外監査役)、山本操司(駒井ハルテック社外監査役)、入江千香子(安川電機社外取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ポンプ」および「環境・新エネルギー」事業を展開しています。
■(1) ポンプ事業
同社グループの主力であるポンプ事業では、各種ポンプやポンププラント、メカニカルシール、その他ポンプ関連機器の製造・販売および据付工事・サービスを提供しています。国内外の発電所や海水淡水化プラント、上下水道などの社会インフラ向けに製品を展開しています。
収益は、製品の販売代金や据付工事の請負代金、メンテナンスなどのサービス料金として顧客から受け取ります。運営は同社のほか、九州トリシマや新東邦などの国内子会社、およびアジア、中東、欧州などに展開する多数の海外現地法人が行っています。
■(2) 環境・新エネルギー事業
環境・新エネルギー事業では、環境装置の製造・販売や各種廃棄物の再利用品などの企画・製造・販売、小水力発電設備の販売および据付工事・サービスを提供しています。また、自社所有の風力発電施設での売電なども行っています。
収益は、環境関連製品の販売代金や工事代金、および売電量に応じた売電収入として顧客から受け取ります。運営は主に同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は522億円から929億円へと右肩上がりで順調に拡大しています。経常利益についても一時的な増減はあるものの、概ね50億円前後から60億円台で安定して推移しており、堅調な収益基盤を維持していることが読み取れます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 522億円 | 647億円 | 811億円 | 865億円 | 929億円 |
| 経常利益 | 52億円 | 57億円 | 63億円 | 45億円 | 52億円 |
| 利益率(%) | 9.9% | 8.8% | 7.8% | 5.2% | 5.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 27億円 | 34億円 | 37億円 | 31億円 | 39億円 |
■(2) 損益計算書
同社グループの収益構造を見ると、増収効果により売上総利益は前期より増加したものの、外注費や労務費などの固定費増加の影響を受け、営業利益はわずかに減少する結果となりました。利益率も微減傾向にあります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 865億円 | 929億円 |
| 売上総利益 | 235億円 | 243億円 |
| 売上総利益率(%) | 27.2% | 26.2% |
| 営業利益 | 54億円 | 50億円 |
| 営業利益率(%) | 6.3% | 5.4% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が80億円(構成比41%)、減価償却費が13億円(同7%)、販売手数料が11億円(同6%)を占めています。売上原価の内訳では、材料費が312億円(構成比46%)、経費が171億円(同25%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社グループは単一セグメントであるため、地域別の売上高を比較します。日本、中東、欧米などの主要地域で売上を伸ばしており、特に中東での伸長が目立ちます。一方、アジアやアフリカでは前期から減少しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 326億円 | 364億円 |
| アジア | 143億円 | 119億円 |
| 中東 | 159億円 | 248億円 |
| 欧米 | 67億円 | 85億円 |
| アフリカ | 148億円 | 74億円 |
| その他 | 23億円 | 38億円 |
| 連結(合計) | 865億円 | 929億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フロー状況を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -7億円 | 45億円 |
| 投資CF | -16億円 | -3億円 |
| 財務CF | 58億円 | -40億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.2%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.0%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「金銭の赤字は出しても信用の赤字は出すな」という社是を掲げています。また、「私たちはポンプを愛し、世界によりよい変化を生み出すために、進化し続けます。」という経営理念のもと、社会の心臓部であるポンプの安定供給と稼働を確保し、お客様との信頼を徹底的に追求することで「社会に欠かせない企業」を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、経営理念を体現・実践するための行動指針として「EVOLUTION(Teamwork / Diversity / Professional / Clarity / Enthusiasm / Innovation)」を定めています。多様な価値観を取り入れ、失敗を恐れずにチャレンジし、社員が自律的に行動して互いに学び合える風通しの良い職場環境を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、創業110周年となる2029年度に向けた中期経営計画「Beyond 110」において、「世界No.1」のポンプメーカーになるというビジョンを掲げ、以下の数値目標の達成を目指しています。
* 売上高1,000億円
* 営業利益100億円
* ROE10%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、脱炭素社会の実現に向けた水素・アンモニア等の次世代クリーンエネルギー向けポンプの開発や、高効率なスーパーエコポンプの拡販に注力しています。また、豪雨災害対策などインフラの事前防災に対応する製品展開も強化しています。さらに、サービスビジネスへの注力や、M&Aを通じたオイル&ガス向けポンプ市場への本格参入など、新たな成長基盤の構築を進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「社員活力の最大化」を重要な経営課題と位置づけ、適材適所の配置によるチーム力の最大化や、挑戦を支える組織風土の醸成を進めています。従業員のスキルを高めるための階層別研修の実施や、多様な人材が心身ともに健康で長く活躍できるよう、柔軟な働き方の推進や公正で透明性のある評価制度の運用に努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 145期 | 38.9歳 | 13.1年 | 7,014,610円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.4% |
| 男性育児休業取得率 | 96.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 78.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 61.3% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性マネジメント職比率(8.6%)、外国籍従業員比率(8.0%)、従業員女性比率(19.6%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 中東・アフリカ地域の地政学リスク
同社の売上高において中東・アフリカ地域が高い割合を占めています。紛争や経済制裁、法制度の変更などによる経済活動の困難化が、取引の中断や決済遅延、追加コストの発生などを招き、同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) サプライチェーンの多様化に伴う品質・構築リスク
グローバル調達網の構築を進める中で、新規調達先からの納入品に関して品質問題が発生するリスクや、安定的な供給体制の構築に失敗するリスクがあります。これらの問題が生じた場合、顧客への納期遅れや損害賠償による金銭的負担が発生する可能性があります。
■(3) 気候変動によるニーズ変化とコスト増加
炭素税の導入や再生可能エネルギー電力の採用による事業コストの増加が懸念されます。また、異常気象による資材調達や工事の遅延が生じるリスクや、脱炭素社会に向けた火力発電市場の縮小など、顧客ニーズの変化に適切に対応できない場合、業績に影響を与える可能性があります。
■(4) サイバーセキュリティとシステム障害
ランサムウェア攻撃などのサイバーインシデントやシステム障害、人為的な情報漏洩が発生するリスクがあります。これにより、操業停止や技術情報の流出、顧客からの信頼喪失を招き、対応費用の発生などで財務状況が悪化する可能性があります。



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