酉島製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

酉島製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の酉島製作所は、各種ポンプ・ポンププラント、環境装置、新エネルギー事業を展開する産業機械メーカーです。第144期は、受注環境が好調で売上高は865億円と増収を達成しましたが、為替差損の計上や外注費増加等の影響により、営業利益、経常利益、純利益はいずれも減益となりました。


※本記事は、株式会社酉島製作所の有価証券報告書(第144期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 酉島製作所ってどんな会社?


創業100年を超えるポンプ専業メーカーで、海水淡水化や発電所向けなど社会インフラを支える製品をグローバルに展開しています。

(1) 会社概要


1919年に大阪でポンプ専門製作工場として創業し、1949年に大阪証券取引所へ上場しました。1981年には東京証券取引所市場第一部に上場し、2022年の市場区分見直しによりプライム市場へ移行しています。2009年にはサービス部門強化のため酉島エンジニアリングの事業を譲受するなど、製造からメンテナンスまで一貫した体制を構築しています。

連結従業員数は1,921名(単体1,000名)です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は学術研究への助成を行う公益財団法人です。第3位も信託銀行となっており、安定株主と機関投資家が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 11.20%
公益財団法人原田記念財団 10.40%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 10.10%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表者は代表取締役CEOの原田耕太郎氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
原田 耕太郎 代表取締役CEO(最高経営責任者) 1984年大和銀行(現りそな銀行)入行。1997年同社入社。営業本部長等を経て2006年代表取締役社長に就任。2023年4月より現職。
ジェラルド アッシュ 取締役副CEO(副最高経営責任者) 1988年Weir Pumps Ltd入社。2003年同社入社。海外営業本部長、副社長を経て2023年6月より現職。
アリスター フレット 取締役共同COO(共同最高執行責任者) 1991年Weir Pumps Ltd入社。2004年同社入社。海外本部長等を経て2023年6月より現職。
羽牟 幸一郎 取締役共同COO(共同最高執行責任者) 1991年同社入社。技術本部長、経営企画室長、サポート本部長等を歴任。2023年4月より現職。
角 治壽 取締役(常勤監査等委員) 1977年同社入社。人事総務部長、管理本部長、東京支社長等を歴任。2021年6月より現職。


社外取締役は、井植敏雅(元三洋電機社長)、上田理恵子(マザーネット社長)、安陪裕二(元りそなHDコンプライアンス統括部長)、秋山洋(弁護士)、山本操司(公認会計士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ポンプ事業」および「環境・新エネルギー事業」を展開しています。

(1) ポンプ事業(ハイテク・プロジェクト・サービス)


各種ポンプ、ポンププラント、メカニカルシール等の製造・販売、据付工事およびサービスを行っています。主な顧客は官公庁や電力会社、海外のプラント事業者などです。製品販売(ハイテク)、据付工事(プロジェクト)、保守メンテナンス(サービス)の3区分で事業を展開しています。

収益源は、製品の販売代金、工事進行基準に基づく工事代金、およびメンテナンス完了時のサービス料です。運営は主に酉島製作所が行い、製造は九州トリシマや海外の子会社、サービスは国内外の拠点が担っています。中東やアジアなど海外売上比率が高く、グローバルな事業運営が特徴です。

(2) 環境・新エネルギー事業


環境装置の製造・販売、廃棄物再利用品の企画・販売、および小水力発電設備の販売を行っています。また、風力発電による売電事業も手がけています。環境負荷低減に寄与する技術を提供し、持続可能な社会の実現を目指しています。

収益源は、環境装置の販売代金および風力発電による売電収入です。運営は酉島製作所および関連会社の肥前風力エネルギー開発が行っています。同事業はポンプ事業に次ぐ柱として位置づけられていますが、売上規模はポンプ事業が9割以上を占めています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


同社は直近5期間において、売上高は着実に増加傾向にあります。特に2024年3月期から2025年3月期にかけては800億円台で推移し、過去最高の売上規模を更新しています。一方で利益面では、2024年3月期をピークに2025年3月期は減益となりましたが、売上高経常利益率は5%台を維持しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 508億円 522億円 647億円 811億円 865億円
経常利益 46億円 52億円 57億円 63億円 45億円
利益率(%) 9.1% 9.9% 8.8% 7.8% 5.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 34億円 36億円 44億円 62億円 41億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は6.7%増加しましたが、売上原価の増加率がそれを上回ったため、売上総利益率は低下しました。販売費及び一般管理費も増加しており、営業利益は減少しました。為替差損の発生などにより経常利益も減益となりましたが、一定の収益性は確保しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 811億円 865億円
売上総利益 231億円 235億円
売上総利益率(%) 28.5% 27.2%
営業利益 68億円 54億円
営業利益率(%) 8.4% 6.3%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が68億円(構成比38%)、販売手数料が13億円(同7%)を占めています。売上原価では、材料費が約59%、外注加工費等の経費が約32%を占めています。

(3) セグメント収益


全セグメントにおいて売上高は増加傾向または横ばいで推移していますが、特に「プロジェクト」および「サービス」の伸びが顕著です。ハイテク(製品販売)は若干減少しましたが、工事やサービスといったストック型ビジネスが拡大しています。環境・新エネルギー事業は規模が縮小しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
ハイテク(ポンプ製造) 365億円 349億円
プロジェクト(ポンプ据付) 214億円 256億円
サービス(ポンプ保守) 223億円 254億円
環境・新エネルギー 9億円 5億円
連結(合計) 811億円 865億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがマイナス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスであるため、本業は赤字だが、将来成長のため借入で投資を継続する「勝負型」に分類されます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 29億円 -7億円
投資CF 4億円 -16億円
財務CF -33億円 58億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は48.4%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「金銭の赤字は出しても信用の赤字は出すな」を社是とし、「私たちはポンプを愛し、世界によりよい変化を生みだすために、進化し続けます」という経営理念を掲げています。社会に欠かせないインフラ企業として、ポンプ製品やサービスを通じて社会課題を解決し、持続的な発展に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


「EVOLUTION」をキーワードに、「Teamwork(チームワーク)」「Diversity(多様性)」「Professional(プロフェッショナル)」「Clarity(明確性)」「Enthusiasm(熱意)」「Innovation(革新)」の6つを行動指針としています。これらの価値観を社員が自律的に実践することで、企業価値の向上を図る文化を育んでいます。

(3) 経営計画・目標


2050年のカーボンニュートラル社会実現に向けた長期ビジョンに基づき、現在は2029年度を最終年度とする「STEP期間」の取り組みを推進しています。2029年度に向けた主要な数値目標として以下を掲げています。

* 売上高1,000億円規模
* 営業利益率10%以上
* ROE10%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「脱炭素社会実現に向けたエネルギー課題への取組」「安全・安心な社会の構築」「データ・AIの活用による新しいモノづくりとサービスの構築」を重要課題としています。特に水素・アンモニアポンプの開発や、省エネポンプの普及、スマートメンテナンス「TR-COM」の拡販に注力しています。

* 2025年度は設計工程での「フロントローディング」導入による生産性向上
* 国内外子会社での設備投資による生産能力増強
* 中東地域を中心としたサービス拠点の拡充によるアフターサービス強化

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人財」を最大の財産と捉え、「社員活力の最大化」を重要課題としています。多様な経験を持つ人材育成のためのジョブローテーションや階層別研修を実施し、自律的なキャリア形成を支援しています。また、国籍・性別・年齢を問わない多様な人材の確保と、ハラスメントのない安全で健康的な職場環境の整備に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 38.7歳 13.3年 6,514,730円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.4%
男性育児休業取得率 81.3%
男女賃金差異(全労働者) 76.3%
男女賃金差異(正規雇用) 76.6%
男女賃金差異(非正規) 75.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性マネジメント職比率(7.0%)、新入社員(女性)(22.4%)、育児休業取得率(女性)(100.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 地政学上のリスク


中東・アフリカ地域での受注割合が高いため、同地域の紛争や内乱、経済制裁などの影響を受ける可能性があります。これに対し、現地情報の収集やリスク評価に基づくプロジェクト管理、決済条件の交渉、調達ルートの複数化などの対策を講じています。

(2) サプライチェーンの多様化に伴うリスク


新規調達先からの品質不良や、グローバル調達網構築の遅れなどのリスクがあります。一方で、調達先を分散させることで地政学リスクを軽減できる機会もあります。調達品の要求水準の標準化や、現地工場の指導、グローバル調達人材の育成により対応しています。

(3) 気候変動に起因する最終顧客のニーズ変化


炭素税導入によるコスト増や、脱炭素ニーズによる既存製品の需要低下がリスクとなる一方、水素・アンモニア発電向けポンプや減災技術の需要増は機会となります。新エネルギー向け製品の開発や、既存製品の高効率化を進めています。

(4) サイバーセキュリティとシステム


システム障害やランサムウェア攻撃による情報漏洩、操業停止のリスクがあります。これに対し、アクセス制御やCSIRT(セキュリティ対応組織)の設置、従業員教育の徹底などの対策を実施しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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