※本記事は、シャープ株式会社の有価証券報告書(第132期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. シャープってどんな会社?
家電からオフィス機器、最先端ディスプレイまで幅広く展開する総合エレクトロニクスメーカーです。
■(1) 会社概要
1912年に早川徳次氏が創業し、1915年に金属繰出鉛筆(エバーレディーシャープペンシル)を発明・発売したことが社名の由来です。1924年にラジオ受信機の製作を開始し、1949年に株式を上場しました。その後、テレビや電卓、液晶ディスプレイ、太陽電池など革新的な製品を次々と世に送り出しています。
現在の従業員数は連結で34,549名、単体で5,553名です。筆頭株主は事業会社(親会社)のHON HAI PRECISION INDUSTRY CO., LTD.であり、第2位および第3位にも関連の事業会社が名を連ねており、鴻海精密工業グループと強固な資本関係を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| HON HAI PRECISION INDUSTRY CO., LTD. | 22.32% |
| FOXCONN (FAR EAST) LIMITED | 11.81% |
| SIO INTERNATIONAL HOLDINGS LIMITED | 10.07% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.0%です。代表取締役副会長執行役員の呉柏勲氏らが経営を牽引しています。社外取締役比率は57%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 呉 柏 勲 | 代表取締役副会長執行役員 | 鴻海精密工業に入社後、関連会社の社長等を経て、シャープ代表取締役社長執行役員兼CEO等を歴任。2024年より現職。 |
| 沖 津 雅 浩 | 代表取締役副会長 | シャープ入社後、健康・環境システム事業本部長、スマートライフグループ長、代表取締役社長執行役員CEO等を歴任。2026年より現職。 |
| 村 瀬 裕 之 | 取締役(監査等委員) | シャープ入社後、コーポレート統括本部経理部経理グループチーフ、管理統轄本部管理本部経理部長等を歴任。2025年より現職。 |
社外取締役は、永塚誠一(元通商産業省商務情報政策局長)、矢野康治(元財務事務次官)、姫岩康雄(姫岩公認会計士事務所所長)、梶原ゆみ子(元富士通執行役員常務)です。
2. 事業内容
同社グループは、「スマートライフ」「スマートワークプレイス」「ディスプレイデバイス」および「その他」事業を展開しています。
■スマートライフ
白物家電を中心とした「Smart Appliances & Solutions」事業と、テレビやオーディオ機器などを手掛ける「TVシステム」事業、太陽電池などのエネルギーソリューションを展開しています。一般消費者や企業向けに製品とサービスを提供しています。
製品の販売代金やエネルギーソリューションシステムの導入費用などを収益源としています。事業の運営はシャープが主体となり、国内外の子会社とともに製品開発・製造および販売を推進しています。
■スマートワークプレイス
デジタル複合機などの「スマートビジネスソリューション」事業、パソコンを展開する「PC」事業、スマートフォンなどの「通信」事業で構成されています。国内外の法人や一般消費者向けに製品とITサービスを提供しています。
機器の販売代金のほか、オフィス関連ソリューションや保守サービスによる継続的な利用料などを収益源としています。シャープのほか、子会社のDynabookやシャープマーケティングジャパンなどが事業を運営しています。
■ディスプレイデバイス
スマートフォン向け小型ディスプレイや車載用ディスプレイ、産業用ディスプレイモジュールなどの高付加価値製品を中心に、BtoB市場において世界の完成車メーカーや電子機器メーカーへ提供しています。
顧客の仕様に合わせたデバイスの製造および販売代金を主な収益源としています。事業の運営は、子会社のシャープディスプレイテクノロジーなどが中心となって製造と販売を担っています。
■その他
上記報告セグメントに含まれない事業として、エレクトロニックデバイス事業や大型ディスプレイ事業などを含んでいますが、アセットライト化の方針により事業譲渡や生産終息を進めています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
同社の直近5年間の業績推移を見ると、構造改革の実施により売上高は減少傾向にありますが、経常利益は大幅に回復し、黒字転換を果たしています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 24,956億円 | 25,481億円 | 23,219億円 | 21,601億円 | 18,928億円 |
| 経常利益 | 1,150億円 | -305億円 | -71億円 | 177億円 | 580億円 |
| 利益率(%) | 4.6% | -1.2% | -0.3% | 0.8% | 3.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 816億円 | -1,428億円 | -1,121億円 | -367億円 | 695億円 |
■(2) 損益計算書
アセットライト化やコスト削減、高付加価値化の推進により、売上高が減少する一方で売上総利益は増加し、営業利益率も改善傾向を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 21,601億円 | 18,928億円 |
| 売上総利益 | 4,057億円 | 4,208億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.8% | 22.2% |
| 営業利益 | 273億円 | 486億円 |
| 営業利益率(%) | 1.3% | 2.6% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料及び諸手当が1,361億円(構成比37%)、運送費及び保管費が445億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ブランド事業は堅調な収益を確保し、ディスプレイデバイス事業もコストダウンやモデルミックスの改善により収益性が改善しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| スマートライフ | 6,426億円 | 5,975億円 |
| スマートワークプレイス | 8,354億円 | 8,323億円 |
| ディスプレイデバイス | 4,441億円 | 4,191億円 |
| その他 | 2,380億円 | 439億円 |
| 連結(合計) | 21,601億円 | 18,928億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -16億円 | -2億円 |
| 投資CF | 1,037億円 | 717億円 |
| 財務CF | -748億円 | -1,058億円 |
本業が低迷し、事業の見直しが迫られる状況
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は21.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は19.6%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、創業者の言葉「他社がまねするような商品をつくれ」を経営理念の根幹に据えています。これを体現するべく、Our Mission「誠意をもって人々の日常を見つめ、創意をもって新たな体験を提案する」を策定し、コーポレートスローガン「ひとの願いの、半歩先。」を掲げて新たな価値創造を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「誠意と創意」を重視し、他社とは一味違った「シャープらしい」価値創造にこだわる企業文化を持っています。事業活動を通じて広く世界の文化と福祉の向上に貢献し、会社に働く人々の能力開発と生活福祉の向上に努め、会社の発展と一人ひとりの幸せとの一致を図ることを大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社は中期経営計画のもと、「ブランド事業のグローバル拡大と事業変革の加速」「持続的な事業拡大を支える成長基盤の構築」「成長をドライブするマネジメント力の強化」を掲げ、競争力の向上と財務基盤の改善を進めています。亀山工場等の継続事業での黒字化や、全社的な営業利益の創出目標を設定しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「『暮らす』『働く』のあらゆるシーンにAIを掛け合わせ、人の未来を拓く」を方針とし、スマートライフおよびスマートワークプレイス領域へのAI導入を加速します。モビリティやロボティクス、AIインフラへの価値提供領域の拡大に加え、デバイス事業のアセットライト化による構造改革を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「成長を支える人材の育成・獲得」と「多様な人材が活躍する環境づくり」を人材戦略の柱としています。新規事業やグローバル展開を支えるAI・デジタル人材、グローバル人材の育成を急務とし、次世代経営幹部や若手人材向けの研修拡充、役割等級制度による若手の早期登用などを通じて組織力の向上を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.5歳 | 20.1年 | 7,818,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.7% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 80.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 79.2% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 74.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.45%)、エンゲージメントスコア(B)、AI・デジタル技術リスキリングプログラム受講者数(1,019人)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 世界市場の動向と貿易摩擦の影響
同社はグローバルに事業を展開しているため、各国の景気動向や企業による設備投資の動向が業績に影響を及ぼします。また、米国の通商政策による貿易摩擦や地政学的な緊張によるサプライチェーンの混乱、資源・エネルギー供給の不安定化が、事業活動や財務状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 特定の事業・製品・顧客に対する依存
ディスプレイデバイス事業は、顧客の仕様にカスタマイズした製品を供給するため、大口顧客への依存が生じやすい特性があります。そのため、大口顧客の需要減少や仕様変更、営業戦略の変更等が発生した場合、販売が大きく落ち込み、同社の業績および財政状態に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 親会社グループとの関係による影響
HON HAI PRECISION INDUSTRY CO., LTD.などの親会社グループとの間で連携を図っていますが、事業シナジーが想定通りに実現しないリスクがあります。また、親会社グループの戦略変更や競合関係の発生、意思決定における親会社からの影響により独立性・自主性が損なわれることで、事業運営に支障をきたす可能性があります。
■(4) 急速な技術革新への対応遅れ
事業領域における技術の進化や変化に適切に対応できない場合、製品・サービスの競争力が低下するリスクがあります。研究開発における選択と集中や新領域への技術力強化が不十分な場合、成長性や業績に悪影響を及ぼします。さらに、先端技術の輸出管理強化による規制が事業に間接的な影響を与える可能性もあります。



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