※本記事は、アンリツ株式会社の有価証券報告書(第100期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. アンリツってどんな会社?
通信や食品・医薬品分野を支える高度な計測・品質保証技術を提供し、グローバル社会の発展に貢献する企業です。
■(1) 会社概要
1931年に安中電機製作所と共立電機の合併により設立され、1950年に第二会社として再発足しました。1968年に東京証券取引所市場第一部に上場し、1985年に現在のアンリツに社名変更しています。その後、1990年の米国企業の買収や、2025年のオーストリアのDEWETRON GmbHの買収など、積極的なM&Aによりグローバルでの事業基盤を拡大しています。
従業員数は連結で4,114名、単体で1,734名です。大株主の筆頭は信託業務を行う信託銀行であり、第2位も同様に資産管理等を行う信託銀行となっています。国内外の機関投資家が上位に名を連ねており、安定した株主構成を持っています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.30% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 9.34% |
| NORTHERN TRUST CO.(AVFC) RE NON TREATY CLIENTS ACCOUNT (常任代理人 香港上海銀行東京支店) | 2.81% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長グループCEOは濱田宏一氏が務めています。社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 濱田 宏一 | 代表取締役社長グループCEO | 1988年同社入社。計測事業研究開発総括などを経て、2018年に代表取締役社長に就任。2019年よりグループCEOに就任し現職。 |
| 杉田 俊一 | 取締役専務執行役員CFO | 1986年同社入社。経営企画室長やアンリツエンジニアリング代表取締役社長などを歴任。2024年に常務執行役員CFOおよび取締役に就任し、2026年より現職。 |
| 島 岳史 | 取締役専務執行役員計測事業総括通信計測カンパニー プレジデント | 1988年同社入社。グローバルセールスセンター長などを歴任後、2019年に米国法人社長および取締役に就任。2020年に通信計測カンパニープレジデントとなり、2026年より現職。 |
| 天野 嘉之 | 取締役監査等委員 | 1986年同社入社。グローバルオーディット室長などを経て、2020年に米国法人社長に就任。2022年に常務理事経営監査室を経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、正村達郎(元日本無線取締役)、上田望美(紀尾井坂テーミス綜合法律事務所パートナー)、青柳淳一(青柳淳一公認会計士事務所代表)、西郷英敏(元沖電気工業常務執行役員)、小林昭夫(元あらた監査法人代表社員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「通信計測」「PQA」「環境計測」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 通信計測
デジタル通信・IPネットワーク用、光通信用、移動通信用などの多岐にわたる測定器や、サービス・アシュアランスを開発・製造・販売しています。主な顧客は通信事業者やネットワーク機器メーカー、スマートフォンメーカーなどです。
顧客への計測機器の販売や保守サポートサービスの提供から収益を得ています。運営は主に同社や子会社の東北アンリツ、アンリツカスタマーサポートのほか、米国や欧州、アジアなどに展開する多数の海外子会社を通じてグローバルに行われています。
■(2) PQA
自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの品質管理・制御システムを開発・製造・販売しています。主に食品、医薬品、化粧品産業などを顧客とし、生産ラインの品質検査工程の自動化や省人化に貢献しています。
顧客への機器販売や保守サービスの提供により収益を得ています。運営は同社や子会社のアンリツインフィビスを中心に行われ、米国、オランダ、中国、タイなどの海外拠点を通じても広く事業を展開しています。
■(3) 環境計測
EVや電池向けの試験装置をはじめ、電力計測器やデータ収集システム、道路やダム等の映像監視用モニタリングソリューションを開発・製造・販売しています。主な顧客は自動車メーカーや電池関連企業、インフラ関連企業です。
試験装置やデータ収集システムの販売、および付随するサービスから収益を得ています。運営は同社のほか、子会社の東北アンリツや高砂製作所、鶴岡高砂製作所、およびオーストリアのDEWETRON GmbHなどが担当しています。
■(4) その他
報告セグメントに含まれない事業として、光デバイスや超高速電子デバイスなどのセンシング&デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸、製造請負業務などを展開しています。
デバイス製品の販売や物流・施設サービスの提供、不動産の賃貸料などから収益を得ています。運営は同社に加え、子会社のアンリツデバイス、アンリツ興産、アンリツ不動産、ハピスマなどがそれぞれの領域を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は1,000億円台で堅調に推移し、特に直近2期間ではデータセンター向けの需要増加等により連続増収を記録しています。利益面では2024年3月期にかけて一時的に落ち込みましたが、その後は回復基調にあり、直近では利益率も向上し安定した収益基盤を示しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,054億円 | 1,109億円 | 1,100億円 | 1,130億円 | 1,175億円 |
| 税引前利益 | 172億円 | 124億円 | 100億円 | 127億円 | 161億円 |
| 利益率(%) | 16.3% | 11.2% | 9.1% | 11.3% | 13.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 128億円 | 93億円 | 77億円 | 93億円 | 117億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益が増加する中で売上総利益も順調に拡大しており、売上総利益率は上昇傾向にあります。これに伴い営業利益も増加し、営業利益率は2桁台を維持しながら着実な改善を見せ、本業における収益力の高まりが確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,130億円 | 1,175億円 |
| 売上総利益 | 289億円 | 312億円 |
| 売上総利益率(%) | 25.6% | 26.6% |
| 営業利益 | 121億円 | 148億円 |
| 営業利益率(%) | 10.7% | 12.6% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与賞与が70億円(構成比19%)、研究開発費が59億円(同16%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力となる通信計測事業は、棚卸資産の圧縮やコストコントロールにより減収ながらも大幅な増益を達成しました。一方、PQA事業は食品市場での自動化需要などを取り込んで増収増益となり、環境計測事業は子会社の新規連結効果もあって売上が大きく伸びています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 通信計測 | 701億円 | 688億円 | 84億円 | 108億円 | 15.7% |
| PQA | 282億円 | 310億円 | 28億円 | 33億円 | 10.7% |
| 環境計測 | 85億円 | 108億円 | 9億円 | 9億円 | 7.9% |
| その他 | 92億円 | 105億円 | 15億円 | 20億円 | 18.7% |
| 調整額 | -31億円 | -37億円 | -14億円 | -21億円 | - |
| 連結(合計) | 1,130億円 | 1,175億円 | 121億円 | 148億円 | 12.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で稼いだキャッシュの範囲内で投資や借入金の返済を行う「健全型」のキャッシュ・フロー構造となっています。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.1%で市場平均をわずかに下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は75.8%で市場平均を大きく上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 211億円 | 179億円 |
| 投資CF | -39億円 | -147億円 |
| 財務CF | -123億円 | -64億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「誠と和と意欲」をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献することを経営理念として掲げています。さらに、「『はかる』を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。」という経営ビジョンを通じ、社会課題の解決に挑む姿勢を示しています。
■(2) 企業文化
経営方針において、「克己心を持ち誠実な取り組みにより進化を遂げる」「和の精神で協力関係を育む」「進取の気性に富み意欲を持つ」「人と地球にやさしい未来をつくる志を持つ」という4つの価値観を掲げています。個々人が自ら挑戦し、ステークホルダーと共創しながら価値を提供する文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2024年に開始した中期経営計画「GLP2026」において、2027年3月期を最終年度とする具体的な数値目標を設定し、2030年度の連結売上高2,000億円を見据えた持続的成長を目指しています。
* 売上高:1,400億円
* 営業利益:200億円
* ROE:10%以上(安定的に達成するポートフォリオ構築)
■(4) 成長戦略と重点施策
「はかる」というコンピテンシーを核としつつ、従来領域を超えた新たな価値の創出に注力しています。特に6Gに向けた準備を進めるとともに、「産業計測」「EV/電池」「医薬品」の3つの新領域ビジネスを重点的に拡大し、M&Aやオーガニック成長を通じて次世代の収益柱を育成する方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「会社と多様な従業員がベクトルを合わせ、事業貢献意識を持ち、仕事と私生活のバランスを取りながら生き生きと働いている」ことを人材ビジョンに掲げています。新領域ビジネスに向けた人材の確保・育成に注力するとともに、若年層やリーダー層の登用、シニア層の活躍支援を通じて組織全体の事業推進力を強化しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 46.1歳 | 21.3年 | 7,838,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.4% |
| 男性育児休業取得率 | 97.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 81.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 81.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 85.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.8%)、エンゲージメント調査の働きがいポジティブ回答率(74.5%)、女性取締役比率(11.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術革新とマーケティング戦略の遅れ
同社の主力である情報通信市場は技術革新のスピードが極めて速いため、市場のニーズを的確に捉えた製品やソリューションをタイムリーに提供できない場合、競争力を失い、同社グループの財政状態および経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 主要市場の設備投資動向による影響
通信計測事業やPQA事業、環境計測事業は、通信事業者や食品メーカー、自動車メーカーなどの設備投資動向に大きく左右されます。経済状況の悪化や技術トレンドの変化によって顧客の投資が縮小・延伸した場合、収益が減少するリスクがあります。
■(3) 新領域開拓やM&A等の戦略投資の成否
新たな事業の柱を構築するために外部との連携やM&Aなどの戦略的成長投資を推進しています。しかし、事前の検証や統合プロセスの実施にもかかわらず、急激な市場環境の変化等により期待通りの成果が得られず、業績に影響をもたらすリスクがあります。
■(4) グローバル展開に伴う海外動向の影響
同社グループの海外売上比率は約7割を占めており、世界各国で事業を展開しています。そのため、各国の経済動向や国際情勢の急変、各地域における法令・規制への対応状況が、サプライチェーンや事業活動を通じて同社の業績に大きな影響を与える可能性があります。



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