※本記事は、株式会社セイコーエプソン の有価証券報告書(第83期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. セイコーエプソンってどんな会社?
家庭用・オフィス用プリンターやプロジェクター、産業用ロボットなどをグローバルに展開する精密機器メーカーです。
■(1) 会社概要
1942年5月に大和工業として設立され、ウオッチ事業を開始しました。1961年に信州精器(後のエプソン)を設立し、1985年11月に合併によりセイコーエプソンへ商号変更しました。2003年6月に東京証券取引所市場第一部へ上場し、2022年4月にプライム市場へ移行しています。2024年12月にはFiery, LLCを完全子会社化しました。
連結従業員数は75,352人、単体では12,792人です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第2位は同様に日本カストディ銀行(信託口)です。第3位のセイコーグループは、創業のルーツを共有する事業会社であり、同社製品の主要な販売先の一つでもあります。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 22.19% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 8.57% |
| セイコーグループ株式会社 | 3.43% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表者は代表取締役社長の吉田潤吉氏です。社外取締役比率は54.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 小川 恭範 | 取締役会長 | 1988年4月同社入社。ビジュアルプロダクツ事業部長、技術開発本部長などを経て、2020年4月代表取締役社長に就任。2025年4月より現職。 |
| 吉田 潤吉 | 代表取締役社長 | 1988年4月同社入社。プリンター事業戦略推進部長、プリンティングソリューションズ事業本部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 吉野 泰徳 | 取締役 執行役員経営戦略本部長 兼マニュファクチャリングソリューションズ事業部長 | 2001年4月同社入社。ビジュアルプロダクツ事業部長などを経て、2024年4月より経営戦略本部長兼マニュファクチャリングソリューションズ事業部長。同年6月より現職。 |
| 阿部 栄一 | 取締役 | 1985年4月同社入社。PT. Indonesia Epson Industry社長、人事本部長、人的資本・健康経営本部長、代表取締役執行役員などを経て、2025年4月より現職。 |
| 川名 政幸 | 取締役 常勤監査等委員 | 1988年4月セイコーエプソン生活協同組合入社。同社人事本部長、オリエント時計社長、同社CSR推進室長、健康経営推進室長などを経て、2021年6月より現職。 |
社外取締役は、嶋本正(元野村総合研究所会長)、山内雅喜(元ヤマトホールディングス会長)、三宅香(元イオン執行役)、村越進(元日本弁護士連合会会長)、大塚美智子(公認会計士)、丸本明(元マツダ社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「プリンティングソリューションズ事業」、「ビジュアルコミュニケーション事業」、「マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) プリンティングソリューションズ事業
オフィス・ホーム向けおよび商業・産業向けのインクジェットプリンター、ページプリンター、乾式オフィス製紙機、プリントヘッドなどを取り扱っています。独自のマイクロピエゾ技術などを活かし、製品の開発から販売、サービスまでを行っています。
製品本体の販売に加え、インクカートリッジやインクボトルなどの消耗品、保守サービスから収益を得ています。主な運営は、セイコーエプソン、東北エプソン、秋田エプソンなどの製造会社と、エプソン販売などの販売会社が行っています。2024年12月に完全子会社化したFiery, LLCも当事業に含まれます。
■(2) ビジュアルコミュニケーション事業
ビジネス、教育、ホーム、イベント向けの液晶プロジェクターやスマートグラスなどを提供しています。独自のマイクロディスプレイ技術やプロジェクション技術を強みとし、大画面による映像体験やコミュニケーション環境を提案しています。
プロジェクター等の製品販売が主な収益源です。主な運営は、セイコーエプソン、Epson Engineering (Shenzhen) Ltd.などの製造会社、およびエプソン販売、Epson America, Inc.などの各国の販売会社が行っています。
■(3) マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業
産業用ロボット、ウオッチ、水晶デバイス、半導体、金属粉末、PCなどを提供しています。精密メカトロニクスやセンシング技術を活かした生産システムや、微細加工技術によるデバイス開発を行っています。
製品の販売および関連サービスから収益を得ています。運営は、産業用ロボット等はセイコーエプソンやエプソン販売、ウオッチは秋田エプソン等、デバイス事業は宮崎エプソンや東北エプソン等が担当し、PC事業はエプソンダイレクトが販売を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの5期間を見ると、売上収益は1兆円前後から1兆3000億円台へと拡大基調にあります。特に2023年3月期に大きく伸長しました。利益面では、2022年3月期に高い利益率を記録した後、調整局面が見られましたが、直近の2025年3月期は増収増益となり、回復傾向を示しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 9,959億円 | 11,289億円 | 13,303億円 | 13,140億円 | 13,629億円 |
| 税引前利益 | 449億円 | 972億円 | 1,038億円 | 701億円 | 784億円 |
| 利益率(%) | 4.5% | 8.6% | 7.8% | 5.3% | 5.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 309億円 | 923億円 | 750億円 | 526億円 | 552億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構造を見ると、売上収益の増加に伴い売上総利益も拡大しています。売上総利益率は34.8%から36.2%へ改善しました。これに伴い、営業利益も前期比で増加し、営業利益率は4.4%から5.5%へと上昇しており、収益性が向上していることがわかります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 13,140億円 | 13,629億円 |
| 売上総利益 | 4,567億円 | 4,930億円 |
| 売上総利益率(%) | 34.8% | 36.2% |
| 営業利益 | 575億円 | 751億円 |
| 営業利益率(%) | 4.4% | 5.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が1,569億円(構成比39%)、研究開発費が428億円(同11%)を占めています。
■(3) セグメント収益
プリンティングソリューションズ事業は、新興国での大容量インクタンクモデルの販売増などにより増収増益となり、全社の利益成長を牽引しました。一方、ビジュアルコミュニケーション事業は教育市場の需要減などで減収減益、マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業はマイクロデバイスの不振等により減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| プリンティングソリューションズ事業 | 9,187億円 | 9,801億円 | 961億円 | 1,248億円 | 12.7% |
| ビジュアルコミュニケーション事業 | 2,175億円 | 2,038億円 | 316億円 | 290億円 | 14.2% |
| マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業 | 1,799億円 | 1,815億円 | -16億円 | -32億円 | -1.8% |
| 調整額 | -20億円 | -25億円 | -614億円 | -611億円 | - |
| 連結(合計) | 13,140億円 | 13,629億円 | 575億円 | 751億円 | 5.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFで得た資金の範囲内で投資と財務活動(借入返済や株主還元)を行っており、**健全型**と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,656億円 | 1,381億円 |
| 投資CF | -590億円 | -1,508億円 |
| 財務CF | -654億円 | -451億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は55.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社はパーパスとして「『省・小・精』から生み出す価値で、人と地球を豊かに彩る」を制定しています。普遍的な考え方である「エプソンウェイ」に基づき、ビジョンを通じてパーパスを実現することで、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図り、社会へ新しい価値を提供することを目指しています。
■(2) 企業文化
創業以来の強みである「省・小・精の技術」を核とし、自らの常識やビジョンを超えて果敢に挑戦する風土があります。「エプソンウェイ」としてグループの価値観・行動様式を共有し、全社員が総合力を発揮しつつ自律的に行動すること、そして創造と挑戦を続けることを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
長期ビジョン「Epson 25 Renewed」を掲げ、持続可能でこころ豊かな社会の実現を目指しています。2025年度の財務目標として、以下の指標を設定しています。
* ROIC(投下資本利益率):5.2%
* ROE(自己資本利益率):5.1%
* ROS(売上高営業利益率):5.7%
■(4) 成長戦略と重点施策
「環境」「DX」「共創」を重要施策とし、5つのイノベーション領域(オフィス・ホームプリンティング、商業・産業プリンティング、マニュファクチャリング、ビジュアル、ライフスタイル)に取り組みます。特にオフィス・商業産業プリンティングなどの成長領域へ経営資源を投下し、環境変化を機会と捉えて成長を目指します。
* 2030年:1.5℃シナリオに沿った温室効果ガス総排出量削減
* 2050年:「カーボンマイナス」「地下資源消費ゼロ」の達成
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「強化領域への人材重点配置」「人材育成強化」「組織活性化」を柱としています。成長・新領域へ社内外から人材を積極的に配置し、グローバル視点での最適な体制構築を進めます。また、社員が自律的にキャリアを形成できるよう、リスキリングやローテーション等の機会を提供し、多様な人材が活躍できる組織風土の醸成に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.2歳 | 18.3年 | 7,941,000円 |
※平均年間給与は、賞与および基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.3% |
| 男性育児休業取得率 | 91.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.5% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 75.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性係長級比率(8.1%)、障がい者雇用率(2.58%)、ハラスメント防止e-ラーニング受講率(97.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) プリンターの売上変動による影響
連結売上収益の約7割をプリンティングソリューションズ事業が占めており、特にインクジェットプリンターや消耗品の売上比重が高い構造です。そのため、市場環境の変化や競合などの要因により、これらの製品の売上が変動した場合、同社の経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 他社との競合
主力製品であるプリンターやプロジェクターは、他社との競合激化により販売価格の低下や数量減少のリスクがあります。また、インクジェット方式やプロジェクターの投影方式などにおいて、他社技術や代替技術(フラットパネルディスプレイ等)との競合により、同社の技術的優位性が損なわれる可能性もあります。
■(3) 経営環境の急激な変化
同社が注力するイノベーション領域は技術革新が速く、製品ライフサイクルも短いため、市場ニーズや技術変化への対応が遅れるリスクがあります。また、世界的な景気変動やデジタル化の進展による需要動向の変化、他社との競争激化などに適切に対応できない場合、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 第三者による消耗品の販売
インクジェットプリンターの収益源であるインクカートリッジ等の消耗品について、廉価な非純正品(代替品)が市場に流通しています。同社は純正品の品質訴求や大容量タンクモデルの展開などで対抗していますが、非純正品のシェア拡大により純正品の販売が減少した場合、収益に影響が出る可能性があります。



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