セイコーエプソン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

セイコーエプソン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

セイコーエプソンは東京証券取引所プライム市場に上場し、オフィス・ホーム用や商業・産業用のプリンター、プロジェクター、産業用ロボットなどの開発・製造・販売を主力としています。直近の業績は、プリンティングソリューションズ事業などの拡販により売上収益は増加したものの、利益面では減益のトレンドです。


※本記事は、セイコーエプソンの有価証券報告書(第84期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. セイコーエプソンってどんな会社?


プリンターやプロジェクター、産業用ロボットなどの精密機器をグローバルに展開するメーカーです。

(1) 会社概要


同社は1942年に時計部品加工等を目的として設立され、ウオッチ事業を開始しました。1968年にミニプリンター事業、1989年に液晶プロジェクター事業へと進出し、1985年にセイコーエプソンへと商号変更しました。2003年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、2024年にはFieryを完全子会社化しています。

現在の従業員数は連結で74,619名、単体で12,311名という体制で事業を展開しています。筆頭株主ならびに第2位株主は資産管理業務などを行う信託銀行です。第3位株主には、同社製品の主要な販売先であり、資本関係を持つセイコーグループが名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 23.06%
日本カストディ銀行(信託口) 8.90%
セイコーグループ 3.43%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長は吉田潤吉氏が務めています。社外取締役の比率は54.5%です。

氏名 役職 主な経歴
吉田 潤吉 代表取締役社長 1988年入社。プリンター事業戦略推進部長やプリンティングソリューションズ事業本部長等を歴任し、2025年4月より現職。
小川 恭範 取締役会長 1988年入社。ビジュアルプロダクツ事業部長や技術開発本部長、代表取締役社長等を歴任し、2025年4月より現職。
吉野 泰徳 取締役 執行役員経営戦略本部長 兼ビジュアルプロダクツ事業部長 兼ロボティクス事業部長 2001年入社。ビジュアルプロダクツ事業部長やマニュファクチャリングソリューションズ事業部長等を歴任し、2026年4月より現職。
深石 明宏 取締役 執行役員営業本部長 兼P商業・産業ソリューションズ事業部長 1987年入社。ビジネスシステム事業部長やエプソン中国董事長兼総経理等を歴任し、2025年6月より現職。
川名 政幸 取締役 常勤監査等委員 1999年入社。人事部長やオリエント時計社長、CSR推進室長等を歴任し、2021年6月より現職。


社外取締役は、嶋本正(元野村総合研究所社長)、山内雅喜(元ヤマトホールディングス社長)、三宅香(元クレアーズ日本社長)、村越進(元日本弁護士連合会会長)、大塚美智子(大塚公認会計士事務所公認会計士)、丸本明(元マツダ社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「プリンティングソリューションズ事業」、「ビジュアルコミュニケーション事業」、「マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業」の報告セグメントを展開しています。

プリンティングソリューションズ事業


オフィス・ホーム向けのインクジェットプリンターなどのほか、商業・産業用のインクジェットプリンターやプリントヘッド、POSシステム関連製品、デジタル印刷ソフトなどを提供し、一般消費者から法人顧客まで幅広く対応しています。

プリンター本体や消耗品、ソフトウエアソリューションの販売により収益を得ています。主な運営は、国内では東北エプソン、秋田エプソン、海外ではエプソンポートランドやFieryなどが担当し、販売はエプソン販売等が行っています。

ビジュアルコミュニケーション事業


独自のマイクロディスプレイ技術やプロジェクション技術を活用し、ビジネス・教育・ホーム・イベント向けの液晶プロジェクターやスマートグラスなどの開発・製造・販売を展開しています。企業や教育機関、一般家庭などが主な顧客です。

各種プロジェクターやスマートグラスなどの製品販売、およびそれに付帯するサービス提供から収益を得ています。製造はエプソンエンジニアリング深圳などが担い、販売はエプソン販売や各国の海外販売会社が担当しています。

マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業


精密メカトロニクス技術やセンシング技術を生かした産業用ロボット、ウオッチ、水晶デバイス、半導体、高機能金属粉末などの開発・製造を行っています。製造業や民生機器・車載関連のメーカーなど、多岐にわたる産業分野を顧客としています。

産業用ロボットやウオッチ、各種デバイス、金属粉末などの製品販売により収益を上げています。運営は、ウオッチ関連を秋田エプソンなど、デバイス関連を宮崎エプソンや東北エプソン、金属粉末をエプソンアトミックスが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の連結業績を見ると、売上収益は需要変動や為替の影響等を受けつつも、新興市場での拡大等により全体として増加傾向にあります。一方で、税引前利益や当期利益は、コスト上昇圧力や市場環境の変化、のれんの減損損失の計上等により、直近では減益の傾向となっています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 11,289億円 13,303億円 13,140億円 13,629億円 14,133億円
税引前利益 972億円 1,038億円 701億円 784億円 500億円
利益率(%) 8.6% 7.8% 5.3% 5.8% 3.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 923億円 750億円 526億円 552億円 182億円

(2) 損益計算書


売上収益は増加していますが、売上総利益および営業利益は前年度を下回る結果となっています。為替のプラス影響があったものの、コスト増などに伴う費用の増加が利益を圧迫していることがデータから窺えます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 13,629億円 14,133億円
売上総利益 1,309億円 389億円
売上総利益率(%) 9.6% 2.8%
営業利益 751億円 496億円
営業利益率(%) 5.5% 3.5%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が194億円(構成比25%)、給与手当が166億円(同22%)を占めています。

(3) セグメント収益


プリンティングソリューションズ事業は新興国市場等での拡販により増収となりました。マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業も需要拡大により増収ですが、ビジュアルコミュニケーション事業は教育市場等での販売減により減収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
プリンティングソリューションズ事業 9,801億円 10,295億円
ビジュアルコミュニケーション事業 2,038億円 1,814億円
マニュファクチャリング関連・ウエアラブル事業 1,815億円 2,061億円
調整額 -25億円 -37億円
連結(合計) 13,629億円 14,133億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 1,381億円 1,124億円
投資CF -1,508億円 -656億円
財務CF -451億円 -396億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は56.4%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、パーパスとして「『省・小・精』から生み出す価値で、人と地球を豊かに彩る」を掲げています。これは、同社が社会に対して提供する価値や存在意義、志を社内外に示したものです。そして、グループの共通の価値観や行動様式を定めた「エプソンウェイ」の普遍的な考え方である経営理念を礎とし、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図っています。

(2) 企業文化


同社は、グループの価値観・行動様式を定めた「エプソンウェイ」を共有し、多様な個性や能力を持つ人材が集まり、社会の一員として責任を持ちながら会社とともに成長する文化を重視しています。失敗を恐れず前向きに挑戦し続ける自律した人材が、組織としてイノベーションを起こし、価値を生み出し続ける組織カルチャーの定着を図っています。

(3) 経営計画・目標


同社は、新長期ビジョン「ENGINEERED FUTURE 2035」のもと、2026年度から2028年度までの中期経営計画「Phase 1」を推進し、以下の目標を掲げています。

・売上収益:1兆5,000億円
・ROIC:8.0%
・ROE:10.0%
・ROS:8.0%
・産業領域事業利益構成比:60%

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、資本効率の改善と成長領域への資源配分に向けて、「収益基盤の変革」と「成長領域への資源集中投下」を重点施策としています。グローバルオペレーション改革による効率化と地域戦略・収益モデルの変革を一体で推進し、在庫水準の適正化を進めます。また、インクジェットやマイクロデバイスなどの領域を成長エンジンと位置付け、積極的な投資による競争優位性の強化と事業拡大を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、不確実性の高い環境下でも構想・実行できるリーダー人材や、技術を社会に実装していくエンジニアリング人材の育成・確保を進めています。グループ横断的なアサインメントや地域・事業の枠を超えた人材登用を推進し、グローバルな組織・人材基盤の活用を高度化することで、事業成長と社員のエンゲージメント向上を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.9歳 18.1年 8,087,000円

※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.9%
男性育児休業取得率 95.7%
男女賃金差異(全労働者) 78.4%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 78.5%
男女賃金差異(非正規雇用労働者) 79.2%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.76%)、年間総実労働時間(1,872時間)、ハラスメント防止e-ラーニング受講率(95.8%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) プリンター事業の売上変動リスク


同社の売上収益の約7割をプリンティングソリューションズ事業が占めており、その中でもインクジェットプリンター等の各種プリンターおよび消耗品の売上が大部分を占めています。そのため、これらのプリンターや消耗品の販売状況が市場の需要変動等によって大きく変動した場合、同社の経営成績等に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) インクジェットプリンター用消耗品における第三者製品との競合


プリンターの主な消耗品であるインクカートリッジ等は、同社の収益にとって重要な基盤です。しかし、一般的に安価な第三者による消耗品が、特に新興国市場を中心に流通しています。同社は大容量インクタンク搭載モデルの展開等で対抗していますが、第三者製品の販売が拡大し、純正品のシェア低下や価格競争が生じた場合、収益が減少するリスクがあります。

(3) グローバル事業展開における法規制や地政学的リスク


同社は売上収益の8割以上を海外市場が占め、生産や販売の拠点も世界各国に展開しています。そのため、各国政府による法規制の変更、保護貿易主義の台頭、地政学的な緊張、あるいはインフラの障害や熟練労働者の不足などが生じた場合、安定的な生産・供給体制に支障をきたし、同社の経営成績や事業展開に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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