※本記事は、日本ケミコン株式会社 の有価証券報告書(第78期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本ケミコンってどんな会社?
アルミ電解コンデンサで世界トップクラスのシェアを持つ電子部品メーカーです。素材開発から製品化までの一貫生産体制が特徴です。
■(1) 会社概要
1931年に創業し、日本で初めて電解蓄電器の製品化に成功しました。1947年に設立され、1970年に東京証券取引所市場第二部に上場、1977年には同市場第一部に指定されました。1995年にはマルコン電子を買収して事業を拡大し、1999年にはケーデーケーと合併して材料から製品までの一貫体制を強化しています。2014年以降は国内工場の再編や米国統括会社の設立などを進めています。
連結従業員数は5,551名、単体では895名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行ですが、第2位株主は韓国の関連会社である三瑩電子工業が実質的に保有しています。第3位には海外の投資ファンドが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 12.56% |
| KOREA SECURITIES DEPOSITORY-SAMSUNG | 7.59% |
| BBH CO FOR ARCUS JAPAN VALUE FUND | 3.77% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は今野健一氏です。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 上山 典男 | 代表取締役会長会長執行役員 | 1983年入社。技術センター固体技術部長、品質保証本部長、CTO等を歴任。2019年より代表取締役社長を務め、2025年4月より現職。 |
| 今野 健一 | 代表取締役社長社長執行役員監査室担当 | 1984年入社。生産本部モジュール生産企画部長、製品事業統括などを経て、ケミコン東日本社長に就任。2023年取締役となり、2025年4月より現職。 |
| 石井 治 | 取締役専務執行役員経理部担当経営戦略部担当デジタル戦略部担当 | 1984年入社。経理部長、経営戦略部担当などを経て、2021年よりCFOを務める。2023年6月より現職。 |
社外取締役は、宮田鈴子(元テレビ東京ホールディングス常務)、吉田浩(元旭化成取締役副社長)、駒形崇(ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「コンデンサ」および「その他」事業を展開しています。
■(1) コンデンサ
アルミ電解コンデンサを中心に、積層セラミックコンデンサや電気二重層キャパシタなどの電子部品およびその材料である電極箔などを製造・販売しています。主な顧客はエレクトロニクス関連のメーカーで、車載、産業機器、ICTなどの市場に向けて製品を供給しています。
製品の販売およびコンデンサ用材料の販売によって収益を得ています。運営は主に同社が行い、製造は国内子会社のケミコン東日本、ケミコンデバイスや、米国のUnited Chemi-Con,Inc.などの海外子会社が担当しています。材料製造は同社およびケミコン東日本マテリアル等が担っています。
■(2) その他
CMOSカメラモジュールやインダクタ(コイル)などの電子部品を製造・販売しています。これらは車載機器や産業機器などの分野で使用されており、自動運転を見据えた車載用途などの需要に対応しています。
顧客への製品販売により収益を得ています。製造は主に国内子会社のケミコンデバイスなどが担当しており、同社が仕入・販売を行う体制をとっています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は第76期をピークに減少傾向にあり、当期は大きく落ち込みました。利益面では、第75期と第77期に巨額の最終赤字を計上するなど変動が激しく、不安定な推移となっています。当期は黒字転換を果たしたものの、利益水準は低く、収益性の回復が課題となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,108億円 | 1,403億円 | 1,619億円 | 1,507億円 | 1,227億円 |
| 経常利益 | 21億円 | 80億円 | 110億円 | 79億円 | 16億円 |
| 利益率(%) | 1.9% | 5.7% | 6.8% | 5.2% | 1.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 20億円 | -121億円 | 23億円 | -213億円 | 0.4億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の大幅な減少に伴い、売上総利益および営業利益が大きく縮小しています。売上総利益率は低下し、営業利益は前期比で半減以下となりました。コスト削減に努めているものの、売上減の影響を吸収しきれていない状況が見て取れます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,507億円 | 1,227億円 |
| 売上総利益 | 319億円 | 237億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.1% | 19.3% |
| 営業利益 | 94億円 | 37億円 |
| 営業利益率(%) | 6.3% | 3.0% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が46億円(構成比23.0%)、研究開発費が42億円(同21.2%)を占めています。売上原価については詳細な内訳データはありません。
■(3) セグメント収益
主力のコンデンサ事業において、産機関連需要の減少等により大幅な減収減益となりました。その他事業についても、車載関連市場の在庫調整の影響等を受け、売上・利益ともに減少しました。全セグメントで厳しい事業環境となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| コンデンサ | 1,457億円 | 1,180億円 | 88億円 | 33億円 | 2.8% |
| その他 | 50億円 | 47億円 | 6億円 | 4億円 | 9.4% |
| 連結(合計) | 1,507億円 | 1,227億円 | 94億円 | 37億円 | 3.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
なお、同社は在庫を多く抱える事業を主力としているため、営業CFのマイナスは棚卸資産(商品・販売用不動産等)の増加(事業拡大)に起因している可能性があり、必ずしも業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -130億円 | -5億円 |
| 投資CF | -48億円 | -98億円 |
| 財務CF | 354億円 | -119億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.1%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も34.5%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「環境と人にやさしい技術への貢献」を企業理念として掲げています。研究開発から生産活動に至るまで地球環境の保全に取り組み、電子部品の開発・供給を通じてエレクトロニクス産業の発展に寄与することで、企業価値と株主共同の利益の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
変動性や不確実性が高まる時代において、困難な環境に適応し、乗り越え、自ら成長する力をつけることを重視しています。この適応力強化による質の高い成長を目標とする「レジリエンス経営」を実践し、全社一丸となって目標達成に邁進する風土の醸成に努めています。
■(3) 経営計画・目標
2023年4月より第10次中期経営計画をスタートさせており、長期目標として「Create Next Value(次の価値を創造しよう)」を掲げています。企業価値向上に向けた資産効率の改善に取り組み、重要な経営指標として以下の数値を目標としています。
* 自己資本利益率(ROE)
* 投下資本利益率(ROIC)
■(4) 成長戦略と重点施策
「レジリエンス経営」の実践のもと、車載、産業機器、ICTの3つの戦略市場への拡販を進めています。特に安定的成長が期待されるICT市場に注力するとともに、生産面では高付加価値品を中心とした生産能力増強や最適地生産を実現し、カントリーリスクへの備えを強化しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「10年後を担う人財」を育成方針に掲げ、組織や仕組みの改革を行い境界を越えて挑戦できる人材の育成を目指しています。教育制度の充実や柔軟な労働環境の整備、ダイバーシティの推進を通じて、イノベーションの創出や環境変化への適応力を強化する方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.1歳 | 17.3年 | 5,868,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.9% |
| 男性育児休業取得率 | 47.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.9% |
| 男女賃金差異(正規) | 74.3% |
| 男女賃金差異(非正規) | 95.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用における外国人比率(14.3%)、中途採用者管理職比率(17.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 法令その他の公的規制等に関するリスク
国内外での法令規制の変更や違反による費用負担、行政処分、損害賠償請求等が業績に影響を与える可能性があります。過去にはアルミ電解コンデンサ等の取引に関わる競争法違反について集団民事訴訟を受け、一部で和解契約を締結していますが、未解決の訴訟も存在します。また、環境法令等の規制強化への対応も課題です。
■(2) 自然災害や突発的事象発生のリスク
地震等の自然災害や感染症の拡大などにより、設備の破損や電力・水道の供給困難、生産停止が発生した場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。同社はBCP(事業継続計画)の見直しや防災設備の拡充を進めていますが、サプライチェーン全体を含む影響を完全に回避できる保証はありません。
■(3) 原材料等の価格変動と調達について
物流費や原材料費の高騰により、コストアップの圧力がかかっています。また、地政学的リスクやサプライヤーの事情による原材料の調達困難が生じた場合、製品出荷の停滞を招く恐れがあります。同社は複数社購買や現地調達の推進などでリスク回避に努めていますが、急激な変動や広範な不足は業績に影響する可能性があります。
■(4) 経済状況および為替レートの変動
グローバルに事業を展開しているため、各地域の経済状況や為替変動の影響を受けます。特に米国の関税政策や地政学リスクの高まりは経営環境の不透明要因となります。海外売上比率が高いため、為替予約等でヘッジを行っていますが、円換算額の変動により業績が影響を受ける可能性があります。



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