※本記事は、日本ケミコン株式会社の有価証券報告書(第79期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本ケミコンってどんな会社?
アルミ電解コンデンサを主力とする電子部品の製造・販売を手掛ける国内有数の電子部品メーカーです。
■(1) 会社概要
1931年に佐藤電機工業所として設立され、日本初の電解蓄電器の製品化に成功しました。1947年に日本ケミカルコンデンサーとして改組され、1970年に東証二部、1977年に東証一部に上場しました。1981年に現在の日本ケミコンに社名を変更し、2001年には中国に現地法人を設立するなど海外展開を推進しています。
従業員数は連結で5,348名、単体で847名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)であり、第2位は投資事業組合のジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合、第3位は海外金融機関のKOREA SECURITIES DEPOSITORYです。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.62% |
| ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合 | 7.18% |
| KOREA SECURITIES DEPOSITORY-SAMSUNG | 6.65% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.0%です。代表取締役社長兼社長執行役員は今野健一氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 今野健一 | 代表取締役社長社長執行役員監査室担当経営戦略部担当 | 1984年同社入社。生産本部モジュール生産企画部長等を経て2023年に取締役就任。2025年4月より現職。 |
| 上山典男 | 取締役会長執行役員 | 1983年同社入社。技術本部長、研究開発本部長、代表取締役社長等を経て、2025年6月より現職。 |
| 石井治 | 取締役専務執行役員経理部担当経営戦略部副担当デジタル戦略部担当 | 1984年同社入社。経理部長等を経て2014年に執行役員就任。2023年6月に取締役専務執行役員となり、2025年6月より現職。 |
| 入江峰年 | 取締役上席執行役員営業本部長 | 1998年同社入社。欧州や米国の現地法人社長を経て2024年に執行役員兼営業本部長。2025年6月より現職。 |
社外取締役は、宮田鈴子(元テレビ東京ホールディングス専務)、吉田浩(元旭化成副社長)、中野智美(公認会計士・税理士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「コンデンサ」および「その他」事業を展開しています。
■(1) コンデンサ
アルミ電解コンデンサなどのコンデンサ製品や、それらの製造に必要となるコンデンサ用材料の開発、製造、販売を行っています。主な顧客は、AIサーバー向けデータセンター関連企業や、電気自動車をはじめとする自動車関連市場、産業機器関連市場のメーカーなど、国内外の幅広いエレクトロニクス企業です。
収益は、国内外の顧客に対するコンデンサ製品やコンデンサ用材料の販売代金から得ています。製品の製造は同社およびケミコン東日本、ケミコンデバイスなどの国内子会社のほか、米国やインドネシア、中国の海外子会社が担い、同社や各地域の子会社を通じてグローバルに販売を行っています。
■(2) その他
コンデンサ以外の電子部品事業として、車載機器や産業機器に使用されるインダクタ(コイル)や、自動車のバックビューカメラなどに採用されるCMOSカメラモジュールの製造・販売を行っています。顧客は主に自動車業界や産業機器市場のメーカーです。
収益は、顧客へのインダクタやカメラモジュールなどの電子部品の販売代金から得ています。この事業の運営は、主に同社および国内子会社のケミコンデバイス、さらには海外子会社1社が製造を担い、同社が仕入れて顧客に対して販売を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は第76期をピークに一時減少したものの、直近の第79期には回復傾向にあります。経常利益も変動が大きいですが、第78期に落ち込んだ後、第79期には増益を果たし、利益率も改善しています。AIサーバーや車載向け需要の取り込みが業績の回復に寄与しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1403億円 | 1619億円 | 1507億円 | 1227億円 | 1368億円 |
| 経常利益 | 80億円 | 110億円 | 79億円 | 16億円 | 21億円 |
| 利益率(%) | 5.7% | 6.8% | 5.2% | 1.3% | 1.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -121億円 | 23億円 | -213億円 | 0.4億円 | 24億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の回復に伴い売上総利益も拡大していますが、販売費及び一般管理費が増加した影響を受け、営業利益は前期からやや減益となりました。成長市場への投資と並行して、原価低減やコストコントロールを進めることが今後の収益性向上の鍵となります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1227億円 | 1368億円 |
| 売上総利益 | 237億円 | 244億円 |
| 売上総利益率(%) | 19.3% | 17.9% |
| 営業利益 | 37億円 | 34億円 |
| 営業利益率(%) | 3.0% | 2.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が44億円(構成比21%)、研究開発費が39億円(同18%)、荷造運賃が34億円(同16%)を占めています。売上原価は1,124億円で、売上原価合計に対する構成比として大部分が材料費や製造経費などの製造コストに充てられています。
■(3) セグメント収益
コンデンサ事業はICT・産業機器関連の需要増加により増収を達成しましたが、原材料の高騰などが影響し、微減益となりました。その他事業もインダクタの販売増により増収となったものの、同様に原材料高騰の影響を受けて利益を落としています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| コンデンサ | 1180億円 | 1318億円 | 33億円 | 32億円 | 2.4% |
| その他 | 47億円 | 50億円 | 4億円 | 1億円 | 2.0% |
| 連結(合計) | 1227億円 | 1368億円 | 37億円 | 34億円 | 2.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動によるキャッシュ・フローがプラスに転じ、投資活動や借入返済などの財務活動による支出を手元資金で賄う健全な状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -5億円 | 76億円 |
| 投資CF | -98億円 | -53億円 |
| 財務CF | -119億円 | -62億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は37.6%であり、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「環境と人にやさしい技術への貢献」を企業理念に掲げています。研究開発から生産活動などの企業活動の全域にわたり地球環境の保全に取り組むとともに、各種電子部品の開発・供給を通じてエレクトロニクス産業の発展に寄与することが、企業価値および株主共同の利益の向上につながるとしています。
■(2) 企業文化
世の中を支える技術とその発展は環境や人を傷つけるものであってはならないこと、そして電子部品の開発・製造を通じてモノづくりを支え、確かな技術で社会に貢献することを存在意義としています。不確実性の高い環境下において、変化にいち早く対応する適応力とイノベーションによる競争力の獲得を重視する文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
企業価値の向上を図るため資産効率の改善に継続的に取り組んでおり、自己資本利益率(ROE)および投下資本利益率(ROIC)を重要な指標として位置づけています。また、サステナビリティに関する気候変動の目標として以下の数値を掲げています。
* 2030年度エネルギー原単位改善率:年平均1%以上
* 2030年度CO2排出量削減:国内46%程度、海外平均29%(2013年度比)
■(4) 成長戦略と重点施策
適応力強化による質の高い成長を実現する「レジリエンス経営」を深化させ、事業成長に向けた収益創出を目指しています。市場を高成長が見込まれる「成長市場」と「マス市場」に区分し、AIサーバーや車載向けなど高付加価値製品へのアプローチを強化する一方、マス市場ではコスト構造改革によるシェア奪還を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業戦略を確実に進めるため、「組織や仕組みの改革を進め、あらゆる境界を越えて挑戦できる人材」の獲得・育成・定着を目指しています。高度技術を含めたスキル向上に積極的な人材や、イノベーションを創出できる人材、グローバルな視点を持つ人材を重視し、多様な採用活動や研修制度の強化、従業員満足度の向上に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.2歳 | 17.4年 | 6,186,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.7% |
| 男性育児休業取得率 | 83.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 104.7% |
また、同社は「人的資本に関する指標及び目標」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用における女性比率(27.3%)、新卒採用における外国人比率(6.8%)、障がい者雇用比率(2.1%)、中途採用者管理職比率(19.9%)、女性の産前産後休暇取得率(100.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 法令その他の公的規制等に関するリスク
国内外の進出先における法令や公的規制等の変更、またはそれらを遵守するための費用負担が増加するリスクがあります。規制に違反したと判断された場合における刑事処分や課徴金、損害賠償請求などが、同社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、環境責任のリスクを抱える可能性もあります。
■(2) 自然災害や突発的事象発生のリスク
地震等の自然災害や感染症などの突発的事象に起因して、設備の破損や電力・水道の供給困難が生じ、生産が停止するリスクがあります。感染症の拡大による市場の減退や、各国政府の方針による休業要請などが事業継続に影響を及ぼし、同社グループの業績および財政状態に影響を与える可能性があります。
■(3) 人材確保・人材育成に関するリスク
持続的な成長には専門性や多様な知見を持つ人材の確保・育成が不可欠ですが、労働市場における人材獲得競争の激化や人材流出などにより、必要な人材を計画通りに確保・育成できないリスクがあります。その結果、事業運営や経営戦略の遂行に支障が生じ、業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 情報セキュリティに関するリスク
外部からのサイバー攻撃や不正アクセスが発生した場合、機密情報の漏えいやデータの改ざん、システム停止等の事業中断が生じるリスクがあります。ランサムウェア等による被害が発生した場合、復旧対応費用や顧客への説明対応等が必要となり、同社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。



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