※本記事は、株式会社アドバンテストの有価証券報告書(第84期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. アドバンテストってどんな会社?
同社グループは、半導体のテストシステムやメカトロニクス応用製品を展開する世界的な計測器メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1954年に電子計測器専門メーカーのタケダ理研工業として設立されました。1983年に東京証券取引所市場第二部へ株式を上場し、1985年に市場第一部へ指定替えされたのち、現在のアドバンテストに社名を変更しました。その後もグローバル展開を進め、2011年にはVerigy Ltd.を完全子会社化するなど、継続的な成長を遂げています。
現在の従業員数は連結で7,241名、単体で2,033名です。主要な株主構成を見ると、筆頭株主は信託業務を担う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に資産管理業務を行う日本カストディ銀行となっています。上位には機関投資家や信託銀行が多く名を連ねており、市場からの関心の高さがうかがえます。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 28.52% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 11.56% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 2.97% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.0%です。代表取締役兼経営執行役員Group CEOはDouglas Lefever氏が務めています。社外取締役は5名で、全役員の過半数を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| Douglas Lefever | 代表取締役兼経営執行役員Group CEO | 1998年Advantest America, Inc.入社。同社CEO等を経て、2021年同社取締役兼経営執行役員CSO。2023年代表取締役兼執行役員副社長Group COOなどを経て、2025年より現職。 |
| 津久井 幸一 | 代表取締役兼経営執行役員社長Group COO | 1987年同社入社。常務執行役員、取締役兼経営執行役員CTO、代表取締役兼執行役員副社長Group Co-COOなどを歴任し、2025年より現職。 |
| 吉田 芳明 | 取締役会長 | 1999年同社入社。常務執行役員、取締役兼専務執行役員、代表取締役兼執行役員社長CEO、Group CEOなどを経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、占部利充氏(元三菱商事常務執行役員)、Nicholas Benes氏(公益社団法人会社役員育成機構理事)、西田直人氏(元東芝取締役執行役専務)、住田清芽氏(元あずさ監査法人パートナー)、中田朋子氏(東京ヘリテージ法律事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「テストシステム事業」および「サービス他」事業を展開しています。
■テストシステム事業
SoC半導体デバイスやメモリ半導体デバイス向けのテストシステム、半導体デバイスを扱うテストハンドラなどのメカトロニクス応用製品、デバイスインタフェースといった製品群の開発・製造を行っています。半導体やモジュールのシステムレベルテストなどの包括的なソリューションも顧客に提供しています。
半導体メーカーなどの顧客にテストシステムや周辺機器を販売して収益を得るモデルです。事業の運営、開発および生産活動は同社が主体となり、一部を外部企業に委託しています。また、海外での販売や開発については、Advantest America, Inc.などの海外子会社が担当しています。
■サービス他
テストシステム事業に関連した総合的な顧客ソリューションの提供をはじめ、ナノテクノロジー関連の製品群、製品導入後のサポートやサービスの提供、および関連する消耗品の販売などを行っています。
顧客に対してテストシステムの保守サービスを提供し、さらに必要なインタフェースボードなどの消耗品を販売することで収益を得ています。運営は同社および各地域の子会社が連携して行い、製品の稼働を継続的にサポートする体制を構築しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績を見ると、市場の変動を受けつつも直近2期間で力強い成長を遂げています。第82期は一時的な調整局面で減収減益となりましたが、第83期以降はAI関連向け半導体の旺盛な需要を捉え、売上収益と税引前利益が大きく拡大しています。特に当期は利益率が大幅に向上しており、高付加価値製品の販売好調がうかがえます。
| 項目 | 第80期 | 第81期 | 第82期 | 第83期 | 第84期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,169億円 | 5,602億円 | 4,865億円 | 7,797億円 | 11,286億円 |
| 税引前利益 | 1,163億円 | 1,713億円 | 782億円 | 2,248億円 | 5,167億円 |
| 利益率(%) | 27.9% | 30.6% | 16.1% | 28.8% | 45.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 873億円 | 1,304億円 | 623億円 | 1,612億円 | 3,754億円 |
■(2) 損益計算書
当期の売上高は前期比で大きく伸長し、それに伴い売上総利益と営業利益も大幅な増益を記録しています。製品ミックスの改善や付加価値の高いテストシステムの販売増が寄与し、売上総利益率と営業利益率はともに前期を大きく上回る高水準に達しており、高い収益性を実現しています。
| 項目 | 第83期 | 第84期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 7,797億円 | 11,286億円 |
| 売上総利益 | 3,766億円 | 6,168億円 |
| 売上総利益率(%) | 48.3% | 54.6% |
| 営業利益 | 2,282億円 | 4,991億円 |
| 営業利益率(%) | 29.3% | 44.2% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が775億円(構成比37%)、業務委託費が555億円(同26%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上動向を見ると、主力のテストシステム事業が前期間から大幅な増収となっています。HPCデバイスやAI関連半導体の複雑化と性能向上を背景に、高性能SoC半導体向けテスタの需要が牽引しました。また、サービス他事業においても、製品設置台数の増加に伴う保守サービスや消耗品の販売増が寄与し、堅調に推移しています。
| 区分 | 売上(第83期) | 売上(第84期) |
|---|---|---|
| テストシステム事業 | 6,828億円 | 10,194億円 |
| サービス他 | 969億円 | 1,092億円 |
| 調整額 | - | -0.1億円 |
| 連結(合計) | 7,797億円 | 11,286億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローがプラス、投資活動と財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型の優良企業といえます。また、企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は57.6%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は58.4%で、いずれも市場平均を上回っています。
| 項目 | 第83期 | 第84期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2,860億円 | 3,352億円 |
| 投資CF | -422億円 | -346億円 |
| 財務CF | -828億円 | -2,306億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
経営理念は「先端技術を先端で支える」です。同グループは、世界中の顧客に満足される製品やサービスを提供するためにたえず自己研鑽に励み、最先端の技術開発を通して社会の発展に貢献することを使命としています。また、ビジョン・ステートメントとして「半導体バリューチェーンで最も信頼され、最も価値あるテスト・ソリューション・カンパニーへ」を掲げています。
■(2) 企業文化
同社は、経営理念を体現し、多様な文化や価値観を持つ組織の結束を深めるために企業理念体系「The Advantest Way」を定めています。その中でコア・バリューとして「INTEGRITY」を掲げ、これをあらゆる事業活動の基盤としています。また、役員や従業員に求める価値観や行動の指針として「本質を究める」ことを掲げ、表層の現象にとらわれず問題の根源を追及する姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、第3期中期経営計画において、半導体市場の成長やテストの複雑化による事業機会の拡大を見据え、収益拡大や資本効率の向上を通じた企業価値の向上を目指しています。市場変動の影響を平準化するため、3か年平均の値で経営指標を管理しています。
* 売上高:8,350〜9,300億円
* 営業利益率:33〜36%
* 当期利益:2,070〜2,480億円
* 投下資本利益率(ROIC):34〜39%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、複雑化する顧客課題を解決するため「Automation of Test(半導体テストの効率性向上)」の提供を戦略の軸としています。コア市場の成長を上回る事業展開を図るとともに、システムレベルテストなどの近縁・新規事業領域へ展開することで提供価値の拡大を目指します。さらに、DXを通じた社内オペレーションの迅速化や人的資本の強化など、経営全般の効率性を高める施策を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は人的資本を重要な戦略資本と位置づけ、イノベーションを推進できる専門人材の確保と育成に取り組んでいます。「Advantest Employee Lifecycle」という独自の戦略を導入し、採用から定着に至るまでキャリアの全段階で一貫した支援を提供しています。また、コア・バリューである「INTEGRITY」の浸透を通じた企業文化の醸成や、エンゲージメントの向上にも力を入れています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 第84期 | 45.7歳 | 20.2年 | 10,977,033円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.5% |
| 男性育児休業取得率 | 60.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 74.1% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | 55.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、全従業員における女性の割合(22.6%)、自己都合離職率(4.5%)、Gallup社による従業員エンゲージメントのスコア(3.76)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 半導体市場の変動リスク
同社は半導体関連企業を顧客としているため、業界全体の設備投資水準の変動に直接的な影響を受けやすい事業構造です。半導体需要が減速した場合は顧客の投資が先送りされて業績が悪化する恐れがあり、逆に需要が急拡大した際に製品の供給が追いつかない場合には、販売機会の逸失や顧客からの信頼低下を招くリスクがあります。
■(2) 特定顧客への売上依存
同社の売上高は、半導体製造装置市場の特性から特定の大口顧客が占める割合が高い構造となっています。当期は上位5社に対する売上高が全体の約50%を占めており、これら大口顧客の事業動向や設備投資計画の変化、あるいは取引関係の縮小が起きた場合には、業績に短期間で大きな影響が及ぶ可能性があります。
■(3) 地政学的環境と規制変化
同社は世界各地で事業活動を展開しているため、各国の政治・経済情勢や規制環境の影響を強く受けます。国際的な緊張の高まりや経済安全保障を背景とした輸出管理・投資規制の厳格化により、特定の国や地域での製品販売やサービス提供が制限される可能性があり、調達コストの上昇や供給遅延が生じる恐れがあります。
■(4) 情報セキュリティとIT障害
事業活動の基盤となるITシステムにおいて、サイバー攻撃やインフラ障害が発生し基幹システムが停止した場合、受発注や生産、出荷などの業務が中断し、納期遅延や復旧コストの増加が生じるリスクがあります。また、技術情報や顧客情報の漏洩が起きた際には、社会的信用の低下や競争力の喪失につながる可能性があります。



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