※本記事は、シスメックス株式会社の有価証券報告書(第59期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. シスメックスってどんな会社?
シスメックスは検体検査機器および試薬の開発・製造・販売をグローバルに展開するヘルスケア企業です。
■(1) 会社概要
同社は1968年に東亞特殊電機が製造する血球計数装置の販売会社として東亞医用電子を設立したことに始まります。1995年に大証二部に上場、1996年に東証二部へ上場し、1998年に現在のシスメックスへ社名を変更しました。近年はシスメックス国際試薬の吸収合併などグループ再編やM&Aを積極的に行い、事業基盤を拡大しています。
従業員数は連結で10,861名、単体で3,011名となっています。大株主については、筆頭株主が資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)であり、第2位および第3位は公益財団法人の中谷財団と神戸やまぶき財団が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.52% |
| 公益財団法人中谷財団 | 6.18% |
| 公益財団法人神戸やまぶき財団 | 5.75% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長は松井石根氏です。社外取締役比率は46.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 家次 恒 | 取締役会長(代表取締役) | 1973年三和銀行入行。1986年同社取締役、1996年代表取締役。2023年より現職。 |
| 松井 石根 | 取締役社長(代表取締役) | 1985年同社入社。2001年シスメックスヨーロッパ社長等を経て、2026年より現職。 |
| 浅野 薫 | 取締役 | 1987年同社入社。中央研究所長等を経て、2021年CTO。2026年より現職。 |
| 立花 健治 | 取締役 | 1980年同社入社。シスメックスシンガポール社長等を経て、2026年より現職。 |
| 吉田 智一 | 取締役 | 2000年同社入社。中央研究所長等を経て、2023年より現職。 |
| 小野 隆 | 取締役 | 1987年同社入社。SCM本部長等を経て、2023年より現職。 |
| 新牧 智夫 | 取締役(監査等委員) | 1989年同社入社。経営管理本部長等を経て、2022年より現職。 |
社外取締役は、太田和男(元川崎重工業常務取締役)、井上治夫(元三菱UFJニコス代表取締役社長)、藤岡由佳(藤岡金属代表取締役社長)、大島まり(東京大学生産技術研究所教授)、橋本和正(元関西アーバン銀行頭取)、岩佐道秀(元神鋼物流代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「本社統括」「米州統括」「EMEA統括」「中国統括」「AP統括」の報告セグメントを展開しています。
■(1) 本社統括
同社グループが開発した検体検査機器および検体検査試薬の日本および韓国市場等への提供を担っています。主に医療機関に向けて販売およびサービスを行っています。
収益は、機器や試薬の販売代金、保守サービス料として受け取ります。運営は同社のほか、シスメックスRAやオックスフォード ジーン テクノロジー等が担当しています。
■(2) 米州統括
北米や中南米の各地域において、検体検査機器および検体検査試薬の製造、販売、保守サービスを提供しています。現地の医療ニーズに応じた製品展開を行っています。
収益は、機器や試薬の販売代金および保守サービス料として医療機関等から受け取ります。運営は主にシスメックス アメリカ インクなどが担当しています。
■(3) EMEA統括
欧州、中東、アフリカ地域において、検体検査分野の製品やサービスの提供を行っています。主要国を中心にヘマトロジー分野や尿検査分野の機器・試薬を販売しています。
収益は、機器や試薬の販売代金、保守サービス料として受け取ります。運営は主にシスメックス ヨーロッパ エスイーなどが担当しています。
■(4) 中国統括
中国市場において、検体検査機器および検体検査試薬の製造、販売を行っています。医療費抑制政策などの現地動向に対応しながら製品を供給しています。
収益は、機器や試薬の販売代金、保守サービス料として受け取ります。運営は主に希森美康医用電子(上海)有限公司などが担当しています。
■(5) AP統括
アジア・パシフィック地域において、検体検査機器および検体検査試薬の製造、販売、サービスを行っています。新興国市場の成長に応じた供給体制を強化しています。
収益は、機器や試薬の販売代金、保守サービス料として受け取ります。運営は主にシスメックス アジア パシフィック ピーティーイー リミテッドなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上収益は順調に拡大を続けてきましたが、直近では減収に転じています。利益面においても同様の傾向が見られ、特に直近の税引前利益率は低下しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3,638億円 | 4,105億円 | 4,615億円 | 5,086億円 | 5,000億円 |
| 税引前利益 | 643億円 | 687億円 | 746億円 | 792億円 | 491億円 |
| 利益率(%) | 17.7% | 16.7% | 16.2% | 15.6% | 9.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 441億円 | 458億円 | 496億円 | 537億円 | 355億円 |
■(2) 損益計算書
減収に伴い、売上総利益および営業利益も減少しています。利益率も低下傾向にあり、収益性の改善が課題となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,086億円 | 5,000億円 |
| 売上総利益 | 1,366億円 | 1,023億円 |
| 売上総利益率(%) | 26.9% | 20.5% |
| 営業利益 | 876億円 | 518億円 |
| 営業利益率(%) | 17.2% | 10.4% |
販売費及び一般管理費のうち、支払手数料が142億円(構成比17%)、減価償却費が128億円(同16%)、給料手当・賞与が83億円(同10%)を占めています。
■(3) セグメント収益
米州やEMEA、APで増収となりましたが、日本および中国での減収が影響し、全体として減収減益となっています。特に本社統括での減益幅が大きくなっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 本社統括 | 940億円 | 876億円 | 591億円 | 178億円 | 20.3% |
| 米州統括 | 1,229億円 | 1,305億円 | 67億円 | 85億円 | 6.5% |
| EMEA統括 | 1,357億円 | 1,521億円 | 106億円 | 99億円 | 6.5% |
| 中国統括 | 1,178億円 | 893億円 | 106億円 | 93億円 | 10.4% |
| AP統括 | 382億円 | 406億円 | 36億円 | 37億円 | 9.1% |
| 調整額 | - | - | -31億円 | 26億円 | - |
| 連結(合計) | 5,086億円 | 5,000億円 | 876億円 | 518億円 | 10.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」に分類されます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 882億円 | 738億円 |
| 投資CF | -525億円 | -515億円 |
| 財務CF | -243億円 | -377億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、創業以来の経営基本方針である「3つの安心(お客様、取引先、従業員への安心)」を再定義したグループ企業理念「Sysmex Way」を定めています。健康で長生きしたいという人々の願いに寄り添い、生涯にわたり健康な状態が維持できる社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、グループ企業理念「Sysmex Way」に基づく「Shared Values」を重視し、株主や社会を含むステークホルダーからの高い信頼獲得を目指しています。多様性を受け入れ、自主性とチャレンジ精神を尊重し、安心して能力を発揮できる職場環境を整える企業風土の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2029年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定しています。連結売上高および営業利益の拡大を目指し、具体的な数値目標を設定して事業を推進しています。
* 連結売上高:6,000億円
* 連結営業利益:1,000億円
* ROE:12.0%(2028年度)
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、AIなどの最新技術を融合させた新製品のグローバル投入によりダイアグノスティクス事業の競争力を強化します。また、豊富な検査データとAI解析技術を組み合わせた独自の医療DXソリューションを提供し、診断薬分野におけるバリューチェーン改革や財務・資本戦略の再設計を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、人材を持続的な成長を可能にする重要な経営資源と位置づけ、「グローバルHRポリシー」を定めています。多様な人材の能力開発や育成を推進し、成果に対して公正に報いる仕組みを整えています。ハイブリッドワークスタイルの導入やジョブ型人事制度の展開により、個々の働きがいとエンゲージメントの向上を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.4歳 | 12.8年 | 8,835,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 11.3% |
| 男性育児休業取得率 | 80.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 66.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 47.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(74%)、一人当たり付加価値生産性(1,901万円)、女性マネジメント比率(19.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 地政学に関わるリスク
生産や販売をグローバルに展開しているため、国家間の対立や輸出入規制の厳格化により事業活動が制限される可能性があります。同社は、グローバル調達や海外生産機能の強化により安定供給体制を構築し、地政学リスクの低減に努めています。
■(2) 経済動向・為替変動リスク
各国政府の医療財政ひっ迫やインフレの進行により、医療機関の設備投資意欲が低下し、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、海外売上高比率が高いため、為替相場の変動により円換算ベースでの業績が変動するリスクを抱えています。
■(3) 技術革新への対応遅延リスク
AIやロボティクスなどの技術革新が急速に進展する中で、対応が遅れると競争優位性が低下する可能性があります。同社は、オープンイノベーションの推進や積極的な研究開発投資により、社会課題の解決に資する新たな技術の創出に取り組んでいます。



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