※本記事は、シスメックス株式会社 の有価証券報告書(第55期、自 2021年4月1日 至 2022年3月31日、2022年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. シスメックスってどんな会社?
検体検査機器・試薬・サービスを総合的に提供し、ヘマトロジー(血球計数検査)分野で世界トップシェアを誇るグローバルな医療機器メーカーです。
■(1) 会社概要
1968年に東亞医用電子として設立され、1978年にブランドを「Sysmex」に変更しました。1995年の大阪証券取引所市場第二部への上場を経て、2000年には東京証券取引所・大阪証券取引所の市場第一部に指定されました。1998年に現在の社名へ変更し、海外主要地域に現地法人を設立するなどグローバル展開を加速させています。近年では、2013年に韓国代理店を子会社化、2017年に英国企業の株式取得など、事業基盤の強化を進めています。
連結従業員数は8,771名、単体では2,259名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(13.51%)です。第2位は公益財団法人神戸やまぶき財団(5.74%)、第3位は公益財団法人中谷医工計測技術振興財団(5.65%)となっており、創業家や関連する財団法人が上位株主として名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 13.51% |
| 公益財団法人神戸やまぶき財団 | 5.74% |
| 公益財団法人中谷医工計測技術振興財団 | 5.65% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性1名の計12名で構成され、女性役員比率は8.3%です。代表取締役会長兼社長 CEOは家次恒氏です。社外取締役比率は41.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 家次 恒 | 取締役会長兼社長(代表取締役) | 1973年三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。1986年同社取締役、1996年取締役社長を経て、2018年より現職。 |
| 浅野 薫 | 取締役 | 1987年同社入社。中央研究所長、研究開発企画本部長、専務執行役員LSビジネスユニットCOO兼CTOなどを経て、2021年より現職。 |
| 立花 健治 | 取締役 | 1980年同社入社。海外事業推進本部長、事業戦略本部長、専務執行役員IVDビジネスユニットCOOなどを経て、2021年より現職。 |
| 松井 石根 | 取締役 | 1985年同社入社。欧州現地法人社長、IVD事業戦略本部長、経営企画本部長、海外事業推進本部長などを経て、2019年より現職。 |
| 神田 博 | 取締役 | 1980年同社入社。上海現地法人総経理、西日本営業本部長、ICHビジネスユニット凝固プロダクトエンジニアリング本部長などを経て、2019年より現職。 |
| 吉田 智一 | 取締役 | 2000年同社入社。中央研究所長、MR事業推進室長、MR事業本部長などを経て、2021年より現職。 |
| 新牧 智夫 | 取締役(監査等委員) | 1989年同社入社。経営管理本部長、経営管理本部エグゼクティブプランナーを経て、2022年より現職。 |
社外取締役は、髙橋政代(眼科医、理化学研究所客員研究員)、太田和男(元川崎重工業取締役常務執行役員)、福本秀和(元三菱UFJ銀行副頭取)、橋本和正(元関西みらい銀行会長)、岩佐道秀(元神鋼物流社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「米州」「EMEA」「中国」「アジア・パシフィック」の5つの地域別セグメントで事業を展開しています。
■(1) 日本
国内市場において、検体検査機器、検査用試薬、および関連するサービスを提供しています。病院や検査センターなどの医療機関が主な顧客です。また、一部の製品の開発、製造も行っています。
収益は、医療機関等への機器販売、試薬の継続的な販売、および保守サービス料から得ています。運営は、主に同社が製品の開発・製造・販売・サービスを担当し、一部の試薬製造などを子会社が担当しています。
■(2) 米州
北米および中南米地域において、検体検査機器および検査用試薬の販売を行っています。現地の医療機関や検査ラボが主な顧客となります。
収益は、機器および試薬の販売、保守サービス料から構成されています。運営は、米国にある地域統括会社シスメックス アメリカ インクを中心に、各国の販売子会社等が事業を展開しています。
■(3) EMEA
欧州、中東、アフリカ地域において、検体検査機器の販売および検査用試薬の製造・販売を行っています。広範な地域の医療需要に対応しています。
収益は、機器・試薬の販売およびサービス提供から得ています。運営は、ドイツのシスメックス ヨーロッパ エスイーやシスメックス ドイチュラント ゲーエムベーハーなど、各国の現地法人が担当しています。
■(4) 中国
中国市場において、検体検査機器および検査用試薬の販売を行っています。経済成長に伴う医療需要の拡大に対応し、製品を提供しています。
収益は、現地医療機関等への機器・試薬販売から得ています。運営は、希森美康医用電子(上海)有限公司などの現地法人が担っています。
■(5) アジア・パシフィック
アジア(中国除く)およびパシフィック地域において、検体検査機器の販売および検査用試薬の製造・販売を行っています。新興国を含む多様な市場ニーズに対応しています。
収益は、機器・試薬の販売およびサービス提供から構成されています。運営は、シンガポールのシスメックス アジア パシフィック ピーティーイー リミテッドや韓国のシスメックス コリア カンパニー リミテッドなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は2021年3月期まで横ばいで推移していましたが、2022年3月期に大きく伸長しました。税引前利益も同様の傾向で、最新期には利益率も改善しています。当期利益は安定して黒字を計上しており、2022年3月期は過去最高の利益水準となっています。
| 項目 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2,819億円 | 2,935億円 | 3,020億円 | 3,051億円 | 3,638億円 |
| 税引前利益 | 581億円 | 580億円 | 494億円 | 463億円 | 643億円 |
| 利益率(%) | 20.6% | 19.7% | 16.4% | 15.2% | 17.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 392億円 | 412億円 | 349億円 | 319億円 | 441億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高の増加に伴い売上総利益が増加しています。営業利益も大幅に増加しており、営業利益率は16.4%から18.5%へ上昇しました。コストコントロールを行いつつ、売上拡大による利益成長を実現していることがわかります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,051億円 | 3,638億円 |
| 売上総利益 | 1,543億円 | 1,906億円 |
| 売上総利益率(%) | 50.6% | 52.4% |
| 営業利益 | 500億円 | 674億円 |
| 営業利益率(%) | 16.4% | 18.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当・賞与(引当金含む)が103億円(構成比11%)、研究開発費が257億円(同27%)、支払手数料が107億円(同11%)を占めています。研究開発への投資比率が高いことが特徴です。
■(3) セグメント収益
全ての地域で売上が増加していますが、特に米州と中国の利益成長が顕著です。日本も堅調に利益を伸ばしています。中国セグメントは利益が倍増し、高い利益率を記録しています。米州も売上増に伴い利益率が大きく改善しました。
| 区分 | 売上(2021年3月期) | 売上(2022年3月期) | 利益(2021年3月期) | 利益(2022年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 527億円 | 597億円 | 287億円 | 382億円 | 64.0% |
| 米州 | 615億円 | 790億円 | 25億円 | 46億円 | 5.9% |
| EMEA | 829億円 | 1,024億円 | 101億円 | 123億円 | 12.0% |
| 中国 | 837億円 | 933億円 | 51億円 | 116億円 | 12.4% |
| アジア・パシフィック | 243億円 | 294億円 | 21億円 | 22億円 | 7.4% |
| 調整額 | - | - | 16億円 | -15億円 | - |
| 連結(合計) | 3,051億円 | 3,638億円 | 500億円 | 674億円 | 18.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業活動で得た資金を元に、投資活動と財務活動(配当支払等)を行っている**健全型**のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 569億円 | 587億円 |
| 投資CF | -292億円 | -351億円 |
| 財務CF | -203億円 | -205億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は72.0%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「Sysmex Way」という企業理念を掲げています。ミッションとして「ヘルスケアの進化をデザインする。」を定め、独創性あふれる新しい価値の創造と人々への安心の追求をバリューとしています。これに基づき、社会からの信頼とさらなる飛躍を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「3つの安心」という創業以来の価値観を受け継いでいます。また、「Sysmex Way」のマインドにおいて、「情熱としなやかさをもって、自らの強みと最高のチームワークを発揮します」と謳っており、個人の強みとチームワークの融合を重視する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
2024年3月期を最終年度とする中期経営計画において、以下の経営指標の達成を目指しています。
* 連結売上高:4,200億円
* 連結営業利益:800億円
■(4) 成長戦略と重点施策
長期ビジョンの実現に向け、ヘマトロジー(血球計数検査)分野に加え、血液凝固、免疫、ライフサイエンスを重点分野と定め、研究開発を強化します。また、手術支援ロボットによる新規事業の育成や、DXによるビジネスプロセス改革も推進しています。
* ヘマトロジー分野:新製品のグローバル展開と新興国市場の開拓
* 重点分野投資:血液凝固、免疫、ライフサイエンス分野への資源集中と製品拡充
* 新規事業:手術支援ロボット「hinotori」の展開と医療データ活用の推進
* DX推進:次世代基幹システム刷新と顧客向けデジタルソリューションの強化
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続的な成長を支えるため、次世代リーダーや高度専門人材の獲得・育成を強化する方針です。グローバル共通のジョブ型人材マネジメントシステムの定着を進めるとともに、健康経営施策を通じて従業員が心身ともに健康で安心して働ける環境を整備し、エンゲージメントの向上を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 41.7歳 | 12.6年 | 8,355,000円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 新型感染症の拡大による影響
新型コロナウイルス感染症などの影響で、物流網や原材料調達に混乱が生じる可能性があります。状況が長期化すれば、製品の安定供給やサービス活動に支障をきたし、経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。対策チームを設置し、事業継続に努めています。
■(2) 為替変動による影響
海外売上高比率が高いため、為替レートの変動が業績に影響します。特に米ドル、ユーロ、中国元の変動は売上高や営業利益に大きな影響を与える可能性があります。為替予約等でリスク軽減を図っていますが、予測を上回る変動があった場合、業績に影響する可能性があります。
■(3) 医療制度改革の影響
各国の医療費適正化政策や医療制度改革により、市場環境が変化する可能性があります。また、薬事規制の強化や変更に対応できず、製品の承認取得が遅延した場合、市場機会の損失やコスト増につながるリスクがあります。
■(4) 情報システム利用におけるリスク
事業活動において情報システムやネットワークへの依存度が高まっています。システム障害、サイバー攻撃、不正アクセスなどが発生した場合、業務の停止や情報の漏洩などにより、社会的信用の失墜や業績への悪影響が生じる可能性があります。セキュリティ対策とBCPの見直しを進めています。



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