三菱重工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三菱重工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場などに上場。エナジー、プラント・インフラ、物流・冷熱・ドライブシステム、航空・防衛・宇宙などの重工業製品を広範に展開しています。2025年3月期は、ガスタービンや防衛関連の受注が好調で、売上収益・事業利益ともに過去最高を更新し、増収増益となりました。


※本記事は、三菱重工業株式会社 の有価証券報告書(第100期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 三菱重工業ってどんな会社?


エネルギー、社会インフラ、防衛・宇宙など幅広い分野で製品・サービスを提供する重厚長大産業のリーディングカンパニーです。

(1) 会社概要


1884年に工部省から長崎造船局を借り受け創業しました。1917年に三菱造船を設立し、1934年に三菱重工業へ商号変更しました。戦後の財閥解体による3社分割を経て、1964年に再統合し現在の体制となりました。2014年には火力発電システム事業を統合した三菱日立パワーシステムズ(現 三菱パワー)が営業を開始しました。

連結従業員数は約7.7万人、単体では約2.2万人です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第2位は日本カストディ銀行(信託口)で、主に国内外の機関投資家が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 15.70%
日本カストディ銀行(信託口) 5.59%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 2.64%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名、計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表者は取締役社長(代表取締役)CEOの伊藤 栄作氏です。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
伊藤 栄作 取締役社長(代表取締役)CEO 1987年入社。ビジネスインテリジェンス&イノベーション部長、CTO、CoCSOなどを経て、2025年6月より現職。
泉澤 清次 取締役会長 1981年入社。技術戦略推進室長、CSO、社長CEOなどを歴任し、2025年4月より現職。
末松 正之 取締役(代表取締役)常務執行役員CSO 1986年入社。三菱マヒンドラ農機社長、グループ戦略推進室長などを経て、2025年6月より現職。
西尾 浩 取締役(代表取締役)執行役員CFO 1990年入社。米国法人副社長、財務企画総括部長、シニアフェローなどを経て、2025年6月より現職。
藤沢 昌之 取締役常勤監査等委員 1983年入社。パワードメイン副ドメイン長、三菱パワー取締役常務執行役員などを経て、2024年6月より現職。
小澤 壽人 取締役常勤監査等委員 1986年入社。CFOとして財務基盤の強化に貢献した後、2025年6月より現職。


社外取締役は、小林 健(元三菱商事会長)、平野 信行(元三菱東京UFJ銀行頭取)、古澤 満宏(元IMF副専務理事)、鵜浦 博夫(元日本電信電話社長)、森川 典子(元ボッシュ取締役副社長)、井伊 雅子(一橋大学大学院教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「エナジー」「プラント・インフラ」「物流・冷熱・ドライブシステム」「航空・防衛・宇宙」および「その他」事業を展開しています。

(1) エナジー


火力発電システム(GTCC、スチームパワー)、原子力発電システム、風力発電システム、航空機用エンジン等を電力会社や産業向けに提供しています。脱炭素化に向けた水素・アンモニア発電技術の開発も進めています。

製品・プラントの設計、製造、建設に加え、保守・サービスや運営から収益を得ています。運営は主に三菱重工業や、海外子会社のMitsubishi Power Americas, Inc.、三菱重工航空エンジン等が担っています。

(2) プラント・インフラ


製鉄機械、商船、エンジニアリング、環境設備、機械システム等を展開しています。製鉄所や化学プラント、交通システム、船舶などを幅広い顧客に提供しています。

プラントや設備の設計・調達・建設(EPC)およびアフターサービス、ライセンス供与等から収益を得ています。運営は三菱重工業のほか、Primetals Technologies, Limited、三菱造船、三菱重工環境・化学エンジニアリング等が行っています。

(3) 物流・冷熱・ドライブシステム


フォークリフト等の物流機器、カーエアコンや空調機器等の冷熱製品、エンジン、ターボチャージャ等を扱っています。物流業界や自動車メーカー、一般消費者など顧客層は多岐にわたります。

製品の販売およびメンテナンスサービス、部品販売から収益を得ています。運営は主に三菱ロジスネクスト、三菱重工サーマルシステムズ、三菱重工エンジン&ターボチャージャ等が行っています。

(4) 航空・防衛・宇宙


民間航空機、防衛航空機、艦艇、飛しょう体、宇宙機器等を製造しています。防衛省やJAXA、航空機メーカーなどが主要顧客です。

機体や機器の開発、製造、修理・保守等から対価を得ています。防衛分野では国の防衛力整備計画に基づく受注が中心です。運営は三菱重工業および三菱重工マリタイムシステムズ等が行っています。

(5) その他


報告セグメントに含まれない電化・データセンター事業等の成長分野に関する事業や、不動産等のアセットビジネスを展開しています。

データセンター向けの冷却・電源システムの提供や、保有不動産の賃貸・売却等から収益を得ています。運営は三菱重工業およびConcentric, LLC等の関係会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上収益は3兆7000億円規模から5兆円台へと順調に拡大しており、5期連続の増収を達成しています。利益面でも、税引前利益が約500億円から3700億円超へと大幅に伸長し、利益率も1%台から7%台へと改善傾向にあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 36,999億円 38,603億円 42,028億円 46,571億円 50,272億円
税引前利益 494億円 1,737億円 1,911億円 3,152億円 3,745億円
利益率(%) 1.3% 4.5% 4.5% 6.8% 7.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 406億円 1,135億円 1,305億円 2,220億円 2,454億円

(2) 損益計算書


売上収益の増加に伴い、売上総利益も順調に拡大しています。売上総利益率は約20%の水準を維持・向上させており、コストコントロールが進んでいることがうかがえます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 46,571億円 50,272億円
売上総利益 9,301億円 10,312億円
売上総利益率(%) 20.0% 20.5%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が2,839億円(構成比40%)、研究開発費が743億円(同10%)を占めています。技術開発と人材への投資を継続的に行っている構造です。

(3) セグメント収益


全セグメントで黒字を確保しています。特にエナジーセグメントはGTCC等の伸長により大幅な増益となり、全社利益を牽引しています。航空・防衛・宇宙セグメントも防衛関連の拡大により利益率が高水準です。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
エナジー 17,237億円 18,158億円 1,499億円 2,054億円 11.3%
プラント・インフラ 8,332億円 8,521億円 447億円 596億円 7.0%
物流・冷熱・ドライブシステム 13,146億円 13,071億円 728億円 493億円 3.8%
航空・防衛・宇宙 7,915億円 10,306億円 727億円 1,000億円 9.7%
その他 332億円 745億円 159億円 300億円 40.3%
調整額 -390億円 -530億円 -734億円 -611億円 -
連結(合計) 46,571億円 50,272億円 2,825億円 3,832億円 7.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFで得た資金の範囲内で投資を行い、財務CFのマイナス(借入返済等)を進めていることから、健全型のキャッシュ・フロー状態といえます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 3,312億円 5,305億円
投資CF -1,310億円 -1,877億円
財務CF -1,589億円 -1,141億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は35.2%(親会社所有者帰属持分比率)で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


長い歴史の中で培われた技術に最先端の知見を取り入れ、変化する社会課題の解決に挑み、サステナブルで安全・安心・快適な社会と人々の豊かな暮らしの実現に貢献していくことを経営の方針としています。

(2) 企業文化


「社業を通じて社会の進歩に貢献する」という社是を社員が常に念頭に置くべき共通の心構えとしています。また、多様なバックグラウンドを持つ社員の行動規範として「三菱重工グループグローバル行動基準」を制定し、法令遵守と誠実・公正な事業活動を重視する文化を醸成しています。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画「2024事業計画」において、事業成長と収益力の強化を目指しています。

* 2026年度目標:売上収益5.7兆円以上
* 2026年度目標:事業利益4,500億円以上(事業利益率8%以上)
* 2026年度目標:ROE12%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「伸長事業」であるエネルギー、原子力、防衛分野での確実な受注・生産遂行と、「成長領域」であるデータセンター、水素・アンモニア、CCUS(CO2回収・利用・貯留)分野の事業化を推進しています。また、既存技術とデジタル技術を組み合わせる「Innovative Total Optimization(ITO)」を実践し、新たな価値創出を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「2024事業計画」に基づき、各事業の戦略に応じた人材基盤の強化を進めています。一人ひとりが顧客視点で考え行動できる人材の育成、エンゲージメントの向上、および多様な人材が活躍できるダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進を重視しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 42.5歳 18.9年 10,176,595円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.7%
男性育児休業取得率 85.8%
男女賃金差異(全労働者) 71.4%
男女賃金差異(正規雇用) 74.7%
男女賃金差異(非正規雇用) 60.0%


※男性育児休業取得率および男女賃金差異は提出会社の数値(有報記載の単体データ)に基づきます。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業環境の変化と複雑化


国際情勢の分断や経済環境の変化に加え、国内の人材不足や社会インフラの老朽化、SNSによる評判リスクなどが事業に影響を与える可能性があります。また、脱炭素化の流れの停滞や環境規制の強化が、同社の製品・サービスの需要や収益性に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 大規模災害や地政学リスク


日本やタイなどの主要生産拠点における地震・津波・洪水等の自然災害、あるいは戦争・テロ等の発生により、生産設備の損壊やサプライチェーンの寸断が生じ、操業停止や納入遅延を引き起こすリスクがあります。

(3) 製品・サービスの品質・コスト問題


製品の性能未達、納期遅延、品質問題、あるいは原材料価格の高騰や仕様変更によるコスト悪化が発生した場合、損害賠償請求や追加費用の発生、社会的信用の失墜を招く可能性があります。AI等の技術進展により製造技術の優位性が低下するリスクもあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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