三菱重工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三菱重工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三菱重工業は、東京証券取引所プライム市場および名古屋証券取引所プレミア市場などに上場する総合重工メーカーです。エナジー、プラント・インフラ、物流・冷熱・ドライブシステム、航空・防衛・宇宙の4事業を柱にグローバルに展開しています。直近の業績は、大型案件の受注等により過去最高を更新し、増収増益の好調なトレンドを維持しています。


※本記事は、三菱重工業株式会社の有価証券報告書(第2025年度期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 三菱重工業ってどんな会社?


同社は、エナジーや航空・防衛・宇宙など幅広い分野で高度な技術を活かした製品を提供する総合重機メーカーです。

(1) 会社概要


1884年の長崎造船局借り受けによる創業に始まり、1964年に新三菱重工業、三菱日本重工業、三菱造船が合併して現在の体制で発足しました。近年は、2014年に三菱日立パワーシステムズ(現三菱パワー)が営業を開始し、2021年には火力発電システム事業等を同社から承継するなど、事業の再編と強化を進めています。

従業員数は連結で78,793名、単体で23,373名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に資産管理等を行う日本カストディ銀行です。海外の預託銀行も上位に名を連ねており、グローバルな投資家からの支持を集める安定した資本構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 15.69%
日本カストディ銀行(信託口) 5.23%
THE BANK OF NEW YORK MELLON AS DEPOSITARY BANK FOR DEPOSITARY RECEIPT HOLDERS 3.40%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表者は取締役社長(代表取締役)CEOの伊藤栄作氏です。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
伊藤 栄作 取締役社長(代表取締役)CEO 1987年同社入社。総合研究所副所長、常務執行役員CTO等を経て2025年6月より現職。
末松 正之 取締役(代表取締役)常務執行役員CSO兼ドメインCEOインダストリアル・ソリューションドメイン長 1986年同社入社。三菱マヒンドラ農機CEO、常務執行役員CSO等を経て2026年4月より現職。
泉澤 清次 取締役会長 1981年同社入社。取締役社長CEO等を歴任し、2025年4月より現職。
西尾 浩 取締役(代表取締役)執行役員CFO 1990年同社入社。財務企画総括部長、シニアフェローCoCFO等を経て2025年6月より現職。
藤沢 昌之 取締役常勤監査等委員 1983年同社入社。三菱パワー取締役常務執行役員CSO兼CFO等を経て2024年6月より現職。
小澤 壽人 取締役常勤監査等委員 1986年同社入社。取締役(代表取締役)常務執行役員CFO等を経て2025年6月より現職。


社外取締役は、小林健(元三菱商事社長)、平野信行(元三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)、古澤満宏(元国際通貨基金副専務理事)、鵜浦博夫(元日本電信電話社長)、森川典子(元ボッシュ副社長)、井伊雅子(元一橋大学大学院教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「エナジー」「プラント・インフラ」「物流・冷熱・ドライブシステム」「航空・防衛・宇宙」の4つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。

(1) エナジー


火力・原子力・風力等の発電システムや航空機用エンジン、コンプレッサなどの設計から製造、サービスまでを提供しています。国内外の電力会社や産業インフラ企業が主な顧客となります。

収益は、製品の販売や据付工事、長期の保守サービスから得ています。運営は同社のほか、三菱重工航空エンジンや海外の三菱パワーグループ会社などが担っています。

(2) プラント・インフラ


製鉄機械や商船、交通システム、化学プラント、環境設備などの設計、製造、サービスを提供しています。交通機関や製造業など、社会基盤を支える幅広い企業が顧客です。

収益は、プラントや機械設備の建設・販売、アフターサービスから得ています。運営は同社のほか、三菱造船、三菱重工環境・化学エンジニアリングなどが担当しています。

(3) 物流・冷熱・ドライブシステム


冷熱製品、エンジン、ターボチャージャ、カーエアコンなどの設計、製造、販売、サービスを行っています。自動車産業や物流施設、データセンターなどが主要な顧客層です。

収益は、機器の販売や設置、メンテナンスサービスにより得ています。運営は同社に加え、三菱重工サーマルシステムズや三菱重工エンジン&ターボチャージャなどが行っています。

(4) 航空・防衛・宇宙


民間・防衛航空機、飛しょう体、艦艇、宇宙機器などの設計、製造、サービスを提供しています。防衛省などの政府機関や国内外の航空・宇宙関連企業が主な顧客です。

収益は、航空機や防衛装備品の製造・納入、宇宙機器の開発・打ち上げサービスから得ています。運営は同社を中心に、三菱重工マリタイムシステムズなどが担っています。

(5) その他


データセンターやエネルギーマネジメント事業などの成長分野やアセットビジネスを展開しています。急速に拡大するデジタルインフラ市場のニーズに対応したソリューションを提供しています。

収益は、ユーティリティシステムの供給や機器の保守サービスを通じて得ています。運営は同社や、海外のグループ会社などが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

直近5期間を見ると、売上収益は堅調に推移し、特に当期は大型案件の受注などにより大幅な増収となっています。税引前利益も右肩上がりで拡大を続けており、利益率も4%台から9%台へと着実に改善しています。事業ポートフォリオの強化や成長投資の成果が利益の拡大に結びついています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 38,603億円 42,028億円 46,571億円 43,611億円 49,742億円
税引前利益 1,737億円 1,911億円 3,152億円 3,521億円 4,747億円
利益率(%) 4.5% 4.5% 6.8% 8.1% 9.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 1,135億円 1,305億円 2,220億円 2,454億円 3,321億円


売上収益は前期から大きく伸長し、それに伴い売上総利益も拡大しています。売上総利益率も改善傾向にあり、各事業での収益力強化やプロジェクトの確実な遂行が高利益体質への変革を後押ししていることがうかがえます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 43,611億円 49,742億円
売上総利益 3,590億円 4,879億円
売上総利益率(%) 8.2% 9.8%


エナジーおよび航空・防衛・宇宙が売上収益の大きな柱となっており、いずれも当期は大幅な増収を記録しています。特に航空・防衛・宇宙は防衛関連や民間航空機の需要増が寄与しました。一方、物流・冷熱・ドライブシステムは市況の影響等で微減となりましたが、全体としては各分野が連携して成長を牽引しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
エナジー 18,158億円 20,626億円
プラント・インフラ 8,521億円 8,809億円
物流・冷熱・ドライブシステム 6,410億円 6,308億円
航空・防衛・宇宙 10,306億円 13,939億円
その他 745億円 760億円
調整額(消去等) -529億円 -700億円
連結(合計) 43,611億円 49,742億円


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業(健全型)のキャッシュ・フロー推移となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 5,305億円 9,426億円
投資CF -1,877億円 -492億円
財務CF -1,141億円 -2,746億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.2%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は26.5%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


長い歴史の中で培われた技術に最先端の知見を取り入れ、変化する社会課題の解決に挑むことを使命としています。サステナブルで安全・安心・快適な社会と人々の豊かな暮らしの実現に貢献するという理念の下、社業を通じて社会の進歩に貢献することを追求しています。

(2) 企業文化


「常に社会の視点に軸足を置き、社会の期待に応え、信頼される企業」を目指し、サステナビリティを経営の基軸に据えています。「三菱重工グループ グローバル行動基準」や「CSR行動指針」を共通の規範として、多様な経歴や文化を持つ社員が協働し、誠実・公平・公正な事業活動を推進する文化を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


2024年から開始した中期経営計画「2024事業計画」では、事業成長と収益力の更なる強化の両立を目指しています。

* 2026年度目標 売上収益:5.7兆円以上
* 2026年度目標 事業利益:4,500億円以上(事業利益率8%以上)
* 2026年度目標 ROE:12%以上

(4) 成長戦略と重点施策


高利益体質と成長投資の好循環を掲げ、全体最適と領域拡大に取り組む「Innovative Total Optimization(ITO)」を推進しています。GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)や防衛分野での着実な事業遂行に加え、データセンター向けシステムなどの成長領域の事業化を加速します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


価値創造を具体化する事業戦略と、人の力を最大限に活かすHR戦略の緊密な連携を推進しています。「三菱重工グループ人材育成方針」に基づき、社員一人ひとりの主体性や活力を引き出す教育を実施するとともに、多様な人材が活躍できる職場づくりやAIを活用した熟練技能の形式知化による次世代への伝承に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.3歳 18.5年 10,724,514円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.9%
男性育児休業取得率 90.2%
男女賃金差異(全労働者) 74.9%
男女賃金差異(正規雇用) 80.0%
男女賃金差異(非正規雇用) 60.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、休業災害度数率(0.31)、社員意識調査における「成長の機会」への肯定的回答(116%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) モノづくり産業基盤の弱体化と技術の陳腐化


人材不足による技術・技能の断絶や、AIを中心としたデジタル技術の急速な進展による既存ビジネスモデルの陳腐化がリスクとなります。同社はAIを活用した熟練技能の形式知化を推進し、次世代への技能伝承や新たな価値創造への対応を強化しています。

(2) グローバルな市場環境と規制の変化への対応


各国の政治情勢や脱炭素関連の環境規制の強化、サプライチェーンの寸断リスクが事業に影響を及ぼす可能性があります。同社はエナジートランジションを成長領域と位置づけ、CO2回収等のソリューション提供を通じて経済と環境の両立を図ることでリスク低減に努めています。

(3) 製品・サービスの品質とプロジェクト遂行リスク


長工期の大型案件などを手掛けるため、仕様変更や工程遅延によるコスト悪化、品質問題などが収益を圧迫するリスクがあります。同社は個別案件の事前審議やモニタリングの強化、マネジメント層への教育徹底など、事業リスクマネジメント体制を整備し再発防止を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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