※本記事は、川崎重工業株式会社の有価証券報告書(第203期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 川崎重工業ってどんな会社?
航空宇宙から車両、精密機械、二輪車まで幅広い事業を展開する総合重機メーカーです。
■(1) 会社概要
1878年に川崎正蔵が川崎築地造船所を創業。1896年に川崎造船所を設立し、その後、川崎車輌や川崎航空機工業などを設立・分離。1939年に川崎重工業に改称。1969年に川崎航空機工業および川崎車輌を合併し、総合重機メーカーの体制を確立しました。近年は2021年に車両や二輪事業を分社化しています。
従業員数は連結41,652名、単体15,361名です。筆頭株主および第2位株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第3位株主には日本生命保険相互会社が名を連ねており、機関投資家や大手金融機関が安定した資本基盤を支えています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.57% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.00% |
| 日本生命保険相互会社 | 3.42% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性4名の計12名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長執行役員 最高経営責任者は橋本康彦氏が務めており、全取締役12名中、社外取締役は7名(58.3%)を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 橋本 康彦 | 取締役社長執行役員(代表取締役)最高経営責任者 | 1981年同社入社。精密機械カンパニーロボットビジネスセンター長、常務執行役員などを経て、2020年6月より現職。 |
| 金花 芳則 | 取締役会長 | 1976年同社入社。車両カンパニープレジデント、社長執行役員最高経営責任者などを歴任し、2020年6月より現職。 |
| 山本 克也 | 取締役副社長執行役員(代表取締役)社長補佐、最高財務責任者等担当 | 1981年同社入社。精密機械カンパニー企画本部長、常務執行役員などを経て、2020年4月より現職。 |
| 中谷 浩 | 取締役副社長執行役員(代表取締役)社長補佐、技術・生産・DX戦略等担当 | 1984年同社入社。技術開発本部長兼技術研究所長、常務執行役員などを経て、2022年4月より現職。 |
| 柿原 アツ子 | 取締役(監査等委員) | 1985年同社入社。CSR部長、マーケティング・渉外本部長などを経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、ジェニファーロジャーズ(アシュリオンジャパンGCI)、辻村英雄(元サントリー食品副社長)、吉田勝彦(一般社団法人日本子育て支援協会理事長)、メラニー・ブロック(Melanie Brock Advisory代表)、津久井進(弁護士)、天谷知子(元金融国際審議官)、板垣利明(元中外製薬CFO)です。
2. 事業内容
同社グループは、「航空宇宙システム」「車両」「エネルギーソリューション&マリン」「精密機械・ロボット」「パワースポーツ&エンジン」および「その他」事業を展開しています。
■航空宇宙システム
航空機、航空機用エンジン、宇宙関連機器等の製造・販売を行っており、防衛省向けや民間航空機向けの分担製造を主力としています。防衛力強化や航空旅客需要の回復に応える製品を提供しています。
顧客からの受注に基づく製造やメンテナンスから収益を得ています。運営は同社のほか、独自に製造・販売並びに製造の一部分担を行う日本飛行機が担っています。
■車両
鉄道車両、除雪機械などの製造・販売を行っています。国内外の鉄道事業者向けに新型地下鉄電車等の車両を納入するほか、状態監視などの保守分野のサービスも提供しています。
車両の納入や保守サービスの提供により収益を得ています。運営は主に川崎車両が行っており、海外向け鉄道車両についてはKawasaki Rail Carなどが一部の製造・販売を担っています。
■エネルギーソリューション&マリン
エネルギー関連機器、水素関連設備、舶用推進システム、プラント関連機器、船舶などの製造・販売を行っています。クリーンエネルギーの安定供給や脱炭素化に貢献する設備を国内外に提供しています。
製品の販売や設備の建設工事、メンテナンスから収益を得ています。同社のほか、川重冷熱工業がボイラ及び空調機器を、カワサキマシンシステムズがガスタービン等の販売を行っています。
■精密機械・ロボット
建設機械向けの油圧機器や、半導体製造・医療分野などで活躍する産業用・医療用ロボット等の製造・販売を行っています。AIや遠隔操作技術を活用し、労働力不足の解消に貢献しています。
油圧機器やロボットの販売により収益を得ています。同社のほか、海外子会社のFlutekなどが油圧機器を、Kawasaki Roboticsなどが産業用ロボットの製造・販売を担っています。
■パワースポーツ&エンジン
二輪車、オフロード四輪車、パーソナルウォータークラフト「ジェットスキー」、汎用ガソリンエンジンなどの製造・販売を行っています。主に北米や欧州などの市場向けに展開しています。
製品の販売により収益を得ています。運営は主にカワサキモータースが行っており、海外ではKawasaki Motors Corp., U.S.A.などが販売を、メキシコ等の子会社が製造を担っています。
■その他
主力セグメントに含まれない事業として、商業、販売・受注の仲介・斡旋、福利施設の管理などを展開しています。また、水素サプライチェーン構築に向けた企画・調査なども行っています。
製品の販売仲介や不動産の賃貸、保険代理業等から手数料や利用料を得ています。運営は、川重商事やカワサキライフコーポレーション、日本水素エネルギーなどがそれぞれ担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、売上収益が右肩上がりで拡大を続けています。特に2025年3月期以降は売上収益が2兆円を突破し、利益面でも大幅な改善を見せています。為替の円安効果やパワースポーツ関連事業の成長が寄与し、堅調な拡大基調を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆5009億円 | 1兆7256億円 | 1兆8493億円 | 2兆1293億円 | 2兆3113億円 |
| 税引前利益 | 277億円 | 703億円 | 320億円 | 1075億円 | 1455億円 |
| 利益率(%) | 1.8% | 4.1% | 1.7% | 5.0% | 6.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 126億円 | 530億円 | 254億円 | 880億円 | 1082億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益が順調に伸びる中、売上総利益率も改善傾向にあります。増収に伴いコスト吸収力が高まり、利益体質が一段と強化されていることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆1293億円 | 2兆3113億円 |
| 売上総利益 | 1621億円 | 1907億円 |
| 売上総利益率(%) | 7.6% | 8.3% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が371億円(構成比11.3%)、給料及び手当が317億円(同9.6%)を占めています。また、売上原価は1兆8563億円で、売上収益に対する構成比は80.3%となっています。
■(3) セグメント収益
航空宇宙システムやエネルギーソリューション&マリン事業など、多くのセグメントで増収を達成しています。一方でパワースポーツ&エンジン事業などは関税コストの上昇や市場競争の激化により利益確保の面で影響を受けています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 航空宇宙システム | 5836億円 | 6279億円 |
| 車両 | 2225億円 | 2363億円 |
| エネルギーソリューション&マリン | 4224億円 | 4601億円 |
| 精密機械・ロボット | 2628億円 | 2799億円 |
| パワースポーツ&エンジン | 6107億円 | 6840億円 |
| その他 | 1187億円 | 1163億円 |
| 調整額 | -915億円 | -933億円 |
| 連結(合計) | 2兆1293億円 | 2兆3113億円 |
同社のキャッシュ・フローは、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型の状態です。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は19.6%で市場平均を下回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1489億円 | 1401億円 |
| 投資CF | -1112億円 | -1280億円 |
| 財務CF | 96億円 | -332億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
グループミッション「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」を掲げています。最先端の技術で新たな価値を創造し、顧客や社会の可能性を切り拓く企業グループを目指し、社会課題に対するソリューションの提供を通じて持続可能な社会への貢献を使命としています。
■(2) 企業文化
「質主量従」と「リスクマネジメント」を指針とし、経済的価値と社会的価値の2つの軸で企業価値を高める経営を推進しています。また、従業員の多様性を尊重したうえで個性と能力を発揮できる環境をつくり、一人ひとりが自ら高い目標を掲げ、達成に向かって挑戦し続けるオープンで自由闊達な組織風土を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年に向けて目指す将来像として「グループビジョン2030」を策定し、持続的な成長を追求しています。事業利益率および税後ROICを客観的な指標とし、以下の数値目標を掲げています。
* グループ全体の事業利益率:2027年度までに8%、2030年度までに10%超
* 税後ROIC:資本コスト(WACC)+3%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業の強化や新事業育成を進め、「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」の3つのフィールドに注力しています。特に水素社会実現に向けたサプライチェーン構築や、AI・ロボティクスを活用した医療・インフラの高度化など、国家の安全保障や地球環境問題に関わる事業投資を積極化させています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「ともに挑み続け、ともに成し遂げる。」をスローガンに、人的資本に関する基本方針「HRポリシー」を掲げています。社会課題起点での事業変革をリードする「適所適材」の配置や、DX・AIなどの専門性を高める人材育成を推進しています。多様な価値観を尊重し、働きがいと働きやすさを実感できる「Well-Being」な職場環境の整備に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.7歳 | 15.3年 | 9,101,888円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.6% |
| 男性育児休業取得率 | 48.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 69.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 84.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性・外国人・キャリア採用者の部長級以上への登用率(9.5%)、休業災害度数率(0.44)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 地政学・経済安全保障リスク
国際情勢の変化による各国の経済安全保障政策や輸出規制、関税措置などが事業継続に影響を及ぼす可能性があります。同社は世界各地に生産・販売拠点を有しており、調達の停滞やコスト上昇に対する代替調達先の確保や物流体制の見直しを進めています。
■(2) 品質管理リスク
多岐にわたる製品・サービスの製造過程において厳格な品質管理を行っていますが、予期せぬ製品の欠陥や不備が発生した場合、損害賠償を求められるリスクがあります。TQMによる品質向上や検査プロセスの自動化など、全社的な品質保証体制の強化に取り組んでいます。
■(3) プロジェクトの契約・履行リスク
大型プロジェクトにおいて、見積もりや技術仕様、債権管理などの面で損失が発生するリスクがあります。特に大規模な水素サプライチェーン構築などでは、受注前の適正なリスク評価や法務チェックを強化し、経営への影響を最小限に抑えるよう努めています。
■(4) 脱炭素トランジションリスク
世界的な電力需要の増加により既存の火力発電への依存が続く場合、同社が推進する水素関連製品への移行が想定より遅れるリスクがあります。市場のニーズに合わせ、天然ガスと水素の両方を利用できる製品の展開を図りつつ、長期的な開発投資を継続しています。



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