川崎重工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

川崎重工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム・名証プレミア上場。航空宇宙、車両、エネルギー、精密機械、二輪車など幅広い事業を展開する総合重工メーカーです。2025年3月期は、航空宇宙システムやエネルギーソリューション&マリン等の需要回復により、受注・売上・利益・配当すべてにおいて過去最高を更新し、増収増益となりました。


※本記事は、川崎重工業株式会社 の有価証券報告書(第202期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 川崎重工業ってどんな会社?


陸・海・空から宇宙、深海に至る広範な領域で、輸送機器やエネルギー機器等の製品・サービスを提供する重工業メーカーです。

(1) 会社概要


1896年に株式会社川崎造船所として設立され、1939年に川崎重工業へ商号変更しました。1969年には川崎航空機工業および川崎車輌と合併し、現在の総合重工体制の基盤を確立しました。2021年には車両事業を川崎車両、モーターサイクル&エンジン事業をカワサキモータースへそれぞれ分社化し、事業体制の再編を進めています。

同グループの連結従業員数は40,640名、単体では14,597名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主と第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。第3位には生命保険会社が入っており、安定した株主構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 15.01%
日本カストディ銀行(信託口) 8.09%
日本生命保険相互会社 3.42%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性5名の計13名で構成され、女性役員比率は38.5%です。代表者は代表取締役社長執行役員の橋本 康彦氏が務めています。社外取締役比率は53.8%です。

氏名 役職 主な経歴
金花 芳則 取締役会長 2009年執行役員、2013年常務取締役車両カンパニープレジデント、2016年取締役社長を経て2021年6月より現職。
橋本 康彦 取締役社長執行役員(代表取締役)最高経営責任者 2012年精密機械カンパニーロボットビジネスセンター長、2018年精密機械・ロボットカンパニープレジデントなどを経て2020年6月より現職。
山本 克也 取締役副社長執行役員(代表取締役)社長補佐、最高財務責任者・コーポレートコミュニケーション・企画・管理・マーケティング・渉外担当 2011年精密機械カンパニー企画本部長、2017年常務執行役員企画本部長などを経て2024年4月より現職。
中谷 浩 取締役副社長執行役員(代表取締役)社長補佐、技術・生産・調達・TQM・DX戦略担当 2016年執行役員技術開発本部副本部長兼技術研究所長、2019年常務執行役員などを経て2024年4月より現職。
柿原 アツ子 取締役(監査等委員) 2013年CSR推進本部CSR部長、2020年執行役員サステナビリティ推進本部長、2022年マーケティング本部長などを経て2024年6月より現職。
加藤 信久 取締役(監査等委員) 2011年車両カンパニー企画本部管理部長、2016年財務本部長、2019年管理本部長などを経て2022年6月より現職。


社外取締役は、ジェニファーロジャーズ(アシュリオンジャパン・ホールディングス合同会社 ゼネラル・カウンセル インターナショナル)、辻村 英雄(元サントリー食品インターナショナル取締役副社長)、吉田 勝彦(元花王代表取締役専務執行役員)、メラニー・ブロック(在日オーストラリア・ニュージーランド商工会議所名誉会頭)、石井 淳子(元厚生労働省社会・援護局長)、津久井 進(弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所代表社員弁護士)、天谷 知子(元金融庁金融国際審議官)です。

2. 事業内容


同社グループは、「航空宇宙システム」「車両」「エネルギーソリューション&マリン」「精密機械・ロボット」「パワースポーツ&エンジン」および「その他」事業を展開しています。

航空宇宙システム


防衛省向けの航空機やヘリコプタ、民間航空機およびその部品、航空機用エンジン、宇宙関連機器などを製造・販売しています。主な顧客は防衛省や国内外の航空機メーカー、航空会社などです。

収益は、製品の販売や開発、修理・メンテナンス等のサービス提供から得ています。運営は主に同社が行っていますが、日本飛行機などが一部製品の製造・販売を独自に行ったり、製造の一部を分担したりしています。

車両


鉄道車両や除雪機械などの製造・販売を行っています。国内外の鉄道事業者等を主な顧客としています。

収益は、鉄道車両等の製品販売および保守サービス等から得ています。運営は主に子会社の川崎車両が行っていますが、海外向けについてはKawasaki Rail Car, Inc.などが製造・販売の一部を担っています。

エネルギーソリューション&マリン


エネルギー関連機器、水素関連設備、舶用推進機器、プラント関連機器、船舶、破砕機などを製造・販売しています。エネルギー事業者や海運会社などが主な顧客です。

収益は、各種機器・プラント・船舶の販売およびアフターサービス等から得ています。運営は同社に加え、川重冷熱工業(ボイラ・空調)、カワサキマシンシステムズ(ガスタービン販売)、アーステクニカ(破砕機)などの子会社や関連会社が担っています。

精密機械・ロボット


建設機械向けなどの油圧機器や、産業用ロボット、医療用ロボットを製造・販売しています。建設機械メーカーや自動車メーカー、医療機関などが顧客です。

収益は、機器・ロボットの販売およびメンテナンスサービス等から得ています。運営は同社のほか、Flutek, Ltd.(油圧機器)、Kawasaki Robotics (USA) Inc.(産業用ロボット)、メディカロイド(医療用ロボット)などが担当しています。

パワースポーツ&エンジン


二輪車、オフロード四輪車、パーソナルウォータークラフト「ジェットスキー」、汎用ガソリンエンジン等を製造・販売しています。一般消費者を主なエンドユーザーとしています。

収益は、製品および部品の販売から得ています。運営は子会社のカワサキモータースが中心となり、製造はKawasaki Motors Manufacturing Corp., U.S.A.などが、販売はカワサキモータースジャパンやKawasaki Motors Corp., U.S.A.などが世界各地で行っています。

その他


上記セグメントに含まれない事業として、商業、販売・受注の仲介・斡旋、福利施設の管理などを行っています。

収益は、物品販売やサービスの提供から得ています。運営は、川重商事(商業)やカワサキライフコーポレーション(福利厚生・不動産等)などが担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2022年3月期から2025年3月期までの業績を見ると、売上収益は順調に拡大傾向にあります。特に直近の2025年3月期は売上収益が2兆円を突破し、税引前利益も1,000億円を超える高水準となりました。利益率も改善傾向にあり、当期利益も大幅に増加しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 15,009億円 17,256億円 18,493億円 21,293億円
税引前利益 277億円 703億円 320億円 1,075億円
利益率(%) 1.8% 4.1% 1.7% 5.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 126億円 530億円 254億円 880億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上収益の増加に伴い売上総利益が拡大し、利益率も向上しています。コスト管理と増収効果により、収益性が高まっていることが確認できます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 18,493億円 21,293億円
売上総利益 3,122億円 4,315億円
売上総利益率(%) 16.9% 20.3%


販売費及び一般管理費のうち、その他が1,534億円(構成比50%)、給料及び手当が814億円(同27%)を占めています。売上原価においては、材料費や労務費等の製造コストが大半を占めています。

(3) セグメント収益


売上の最大を占める「パワースポーツ&エンジン事業」が安定して利益を稼ぎ出していることに加え、「航空宇宙システム事業」が前期の赤字から大幅な黒字転換を果たし、全社の増益を大きく牽引しました。

「エネルギーソリューション&マリン事業」も利益率が11.1%と最も高く、収益に大きく貢献しています。精密機械・ロボット事業も黒字転換を果たしており、総じて全セグメントが黒字化し、全社的な収益性の向上が確認できます。

項目 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
航空宇宙システム事業 3,962億円 5,678億円 -150億円 558億円 9.8%
車両事業 1,959億円 2,223億円 38億円 84億円 3.8%
エネルギーソリューション&マリン事業 3,532億円 3,981億円 319億円 443億円 11.1%
精密機械・ロボット事業 2,279億円 2,415億円 -19億円 70億円 2.9%
パワースポーツ&エンジン事業 5,924億円 6,094億円 481億円 479億円 7.9%
その他事業 836億円 902億円 11億円 53億円 5.9%
調整額 -億円 -億円 -217億円 -256億円 -%
連結(合計) 18,493億円 21,293億円 462億円 1,431億円 6.7%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラスで投資CFがマイナス、財務CFがプラスであることから、本業で得た資金に加え、外部調達も活用して積極的な投資を行っている「積極型」の状況です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 317億円 1,489億円
投資CF -898億円 -1,112億円
財務CF 129億円 96億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.2%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は14.5%で市場平均を大きく下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」をグループミッションとして掲げています。最先端の技術で新たな価値を創造し、顧客や社会の可能性を切り拓く企業グループを目指しています。

(2) 企業文化


「選択と集中」「質主量従」「リスクマネジメント」を指針とし、経済的価値と社会的価値の両軸で企業価値を高める経営を推進しています。また、コンプライアンス違反を深刻に受け止め、「不正ができない仕組みの構築」「不正発見の強化」「組織風土・意識改革」を柱に改革に取り組む姿勢を明確にしています。

(3) 経営計画・目標


「グループビジョン2030」の実現に向け、資本コストを上回る利益の安定的創出を目指しています。経営目標の達成状況を判断する指標として以下を設定しています。

* 事業利益率:2027年度までに8%、2030年度までに10%超
* 税後ROIC:資本コスト(WACC)+3%以上

(4) 成長戦略と重点施策


社会課題解決のため、「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」の3つのフィールドに注力しています。特に水素事業では液化水素サプライチェーンの商用化を目指すほか、医療・介護ロボットや無人輸送機などの新規事業育成を進めています。DXによる業務効率化や人材育成にも投資し、事業ポートフォリオの変革と持続的成長を追求します。

* 事業利益率10%超の達成
* 水素サプライチェーンの商用化

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「グループビジョン2030」の実現に向け、多様な人材が個性と能力を発揮できる環境整備を重視しています。「チャレンジ&コミットメント」をコンセプトとする人事制度により、年齢・性別・国籍に関わらず意欲ある人材を登用・評価します。また、経営者育成プログラムの実施や、エンゲージメントサーベイを活用した組織風土改革、DXによる業務効率化を通じて、挑戦し続ける人と組織の実現を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.5歳 15.4年 7,925,901円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.6%
男性育児休業取得率 31.6%
男女賃金差異(全労働者) 69.0%
男女賃金差異(正規雇用) 68.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 79.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、健康スコア(3.93点)、休業災害度数率(0.33)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) コンプライアンス


役員・従業員による法令違反等は、損害賠償や社会的信用の失墜を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に潜水艦修繕や舶用エンジンでの不正事案を受け、特別調査委員会の設置や再発防止策の徹底を進めています。

(2) 品質管理


多岐にわたる製品・サービスを提供しており、予期せぬ欠陥や品質不備が発生した場合、損害賠償請求等により業績に影響を与える可能性があります。全社的なTQM活動やデジタル技術を活用した品質管理強化に取り組んでいます。

(3) プロジェクトの契約・履行


大型プロジェクトにおいて、見積りや契約条件、技術仕様等の問題により損失が発生するリスクがあります。特に水素サプライチェーン構築等の新規プロジェクトでは、各フェーズでの問題早期発見とリスク最小化に努めています。

(4) 脱炭素トランジション


各国の政策変更等により、水素関連や電動化への移行が想定より遅れる可能性があります。カーボンニュートラルに向けた開発を継続しつつ、移行期の市場ニーズにも対応できる製品の充実を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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