※本記事は、いすゞ自動車株式会社の有価証券報告書(第124期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. いすゞ自動車ってどんな会社?
同社は商用車やピックアップトラックなどの製造・販売、および金融サービスを展開するグローバル企業です。
■(1) 会社概要
1937年に東京自動車工業として設立され、1949年にいすゞ自動車へ社名変更して上場しました。1962年に藤沢工場を稼働し、以降国内外へ生産・販売網を拡大しました。2021年にはUDトラックスを完全子会社化し、商用車事業における協業や基盤強化を推進しています。
連結従業員数は43,005人、単体では9,089人です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は事業会社である三菱商事、第3位は伊藤忠自動車投資合同会社が名を連ねており、商社等との関係性がうかがえます。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.36% |
| 三菱商事 | 9.24% |
| 伊藤忠自動車投資合同会社 | 7.69% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役 取締役社長CEOは山口真宏が務めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山口真宏 | 代表取締役 取締役社長CEO | 1986年同社入社。営業・開発・企画部門を歴任し、2023年グループCFOに就任。CSO等を経て2026年4月より現職。 |
| 片山正則 | 取締役会長 | 1978年同社入社。2014年取締役副社長、2015年代表取締役社長を歴任し、2023年より現職。日本自動車工業会会長も歴任。 |
| 南真介 | 取締役副会長 | 1983年同社入社。営業や企画・財務部門を統括し、2023年代表取締役社長COOを経て、2026年4月より現職。 |
| 髙橋信一 | 取締役副社長CHRO | 1980年同社入社。技術本部開発部門や品質保証部門を統括し、2024年CMzOを経て、2026年4月より現職。 |
| 藤森俊 | 取締役CTO商品技術戦略部門EVP | 1984年同社入社。商品技術戦略部門や開発部門を統括。CV協業推進などを経て、2026年4月より現職。 |
社外取締役は、柴田光義(元古河電気工業社長)、宮井真千子(元森永製菓取締役)、中野哲也(元味の素執行役常務)、阿部博友(一橋大学名誉教授)、桜木君枝(元ベネッセホールディングス常勤監査役)、細井友美子(元有限責任あずさ監査法人パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「自動車」および「金融」事業を展開しています。
■(1) 自動車
大型トラック・バス、小型トラックなどの商用車(CV)やピックアップトラック(LCV)、エンジンの製造・販売を主力としています。国内の大口顧客や官庁には直接販売し、一般需要者には販売会社を通じて提供するほか、ゼネラルモーターズ等の販売網を活用してグローバルに展開しています。
主な収益源は、トラックやエンジン等の車両・部品の販売代金や、アフターサービスに伴う整備・部品代金です。生産は同社の藤沢工場等で行うほか、海外現地法人による組み立て生産を行っています。国内販売はいすゞ自動車販売等のグループ会社が担い、開発から販売までをグループ一体で運営しています。
■(2) 金融
同社グループが製造・販売する自動車などの製品販売を補完する目的で、顧客に対する金融サービスや車両のリース事業を展開しています。車両導入時の初期費用負担を軽減するファイナンスリースやメンテナンスリースを提供し、顧客の稼働をトータルライフサイクルで支えています。
収益源は、顧客に提供したリース契約や金融商品に対するリース料、割賦手数料、金利利息などです。事業の運営は、いすゞリーシングサービスをはじめとする国内の金融関連子会社や、海外で展開するリース会社であるIsuzu Financial Services Australiaなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近3期間の業績は、売上収益が3.2兆円から3.4兆円規模で推移し、増収傾向にあります。一方で、税引前利益は2,973億円から2,306億円へと減少しており、利益率も低下傾向にあります。市場の堅調な需要が売上を牽引するものの、資材費の高騰や為替影響などが利益を圧迫しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 34,046億円 | 32,356億円 | 34,791億円 |
| 税引前利益 | 2,973億円 | 2,450億円 | 2,306億円 |
| 利益率(%) | 8.7% | 7.6% | 6.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,690億円 | 1,401億円 | 1,349億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は3兆2,356億円から3兆4,791億円へ増加していますが、売上総利益はほぼ横ばいで推移しており、売上総利益率は20.5%から19.1%へ低下しています。これに伴い、営業利益も減益となり、営業利益率も7.1%から5.9%へと低下しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 32,356億円 | 34,791億円 |
| 売上総利益 | 6,623億円 | 6,649億円 |
| 売上総利益率(%) | 20.5% | 19.1% |
| 営業利益 | 2,295億円 | 2,037億円 |
| 営業利益率(%) | 7.1% | 5.9% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が356億円(構成比8%)、運搬費が266億円(同6%)を占めています。売上原価は2兆8,142億円で、売上収益に対する構成比は81%となっています。
■(3) セグメント収益
自動車事業は国内外での販売台数増加により増収を達成しましたが、諸経費や成長関連費用の増加により減益となりました。金融事業もリース取扱の堅調な推移により増収となったものの、諸経費の増加等が影響し、利益率が低下して減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自動車事業 | 31,964億円 | 34,350億円 | 2,159億円 | 1,899億円 | 5.5% |
| 金融事業 | 1,851億円 | 2,108億円 | 145億円 | 139億円 | 6.6% |
| 調整額 | -1,458億円 | -1,667億円 | -9億円 | -1億円 | - |
| 連結(合計) | 32,356億円 | 34,791億円 | 2,295億円 | 2,037億円 | 5.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2,541億円 | 2,474億円 |
| 投資CF | -2,023億円 | -1,700億円 |
| 財務CF | -906億円 | -832億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.4%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
経営理念体系「ISUZU ID」において、PURPOSE(使命)として「地球の『運ぶ』を創造する」を掲げています。お客様やパートナーと共にすべてのモノ・ヒトの「運ぶ」を主体的に創造し、カーボンニュートラルへの対応など新たな価値を提供して社会を豊かにすることを目指しています。
■(2) 企業文化
「ISUZU ID」のCORE VALUE(コア・バリュー)として「相互成長」を重視しています。イノベーションリーダーとして、従業員一人ひとりが挑戦・変化・貢献する意欲を持ち、集団として互いに尊重・信頼・刺激し合うことで、個人と企業が共に成長していく文化の醸成を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画「IX(ISUZU Transformation - Growth to 2030)」では、「商用モビリティソリューションカンパニー」への変革を目指し、2030年度に向けて以下の数値目標を掲げています。
* 売上収益:6兆円
* 営業利益率:10%以上
* ROE:15%以上
* 新車販売台数:85万台以上
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業の強化と新事業への挑戦を両輪で推進します。「自動運転」「コネクテッド」「カーボンニュートラル」の3領域を軸に総額1兆円規模のイノベーション投資を実行し、自動運転レベル4技術の事業化やEVモデルの拡充を図ります。同時に、UDトラックスとの連携を深め、生産・販売体制の再構築によるシナジー創出を進めます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人的資本経営への進化を目指し、グローバル基準の人財マネジメント基盤の整備を推進しています。「人(能力)」基準から「仕事(職務)」を基準とした人事制度(ジョブ型)へ転換し、職務の明確化と適所適財の配置を実施しています。対話と育成の文化を醸成し、従業員の主体的なキャリア形成を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.1歳 | 15.6年 | 8,376,000円 |
※平均年間給与は基準外給与及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.3% |
| 男性育児休業取得率 | 50.0% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 85.9% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントの肯定的回答率(49%)、労働災害件数(19件)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 主要市場の経済状況・競争激化
自動車市場における新興国を含む主要国の景気後退や需要縮小は、業績に直接影響します。また、EV化や環境規制への対応、各国の補助金政策など外部環境の変化に伴う競争が激化しており、製品の競争優位性が失われた場合、シェア低下や収益悪化につながる恐れがあります。
■(2) 地政学リスク・サプライチェーンの混乱
グローバルに事業を展開しているため、国家間紛争、関税政策の変更、輸出入制限などの地政学リスクに晒されています。また、自然災害や労働争議、海上交通の混乱等によりサプライチェーンが寸断され、部品や原材料の調達が遅延した場合、生産停止やコスト増を招く可能性があります。
■(3) 新しい技術革新やビジネスモデル変化
自動運転やコネクテッド、カーボンニュートラル対応といった「CASE」の技術革新への対応が急務です。こうした新技術の開発遅延や、アライアンス先との提携目的が未達に終わった場合、市場の多様なニーズに応えられず、商用車業界におけるブランド力や業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。



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