スズキ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

スズキ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

スズキは東京証券取引所プライム市場に上場し、四輪車、二輪車、船外機等の製造販売をグローバルに展開する企業です。直近の業績ではインド市場等での堅調な販売により増収を達成した一方で、人財や技術への将来投資を拡大した影響から営業利益は減益となりました。小型車に強みを持ち、環境対応技術の開発も加速しています。


※本記事は、スズキ株式会社 の有価証券報告書(第160期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. スズキってどんな会社?


四輪車や二輪車、船外機などの製造販売をグローバルに展開するモビリティメーカーです。

(1) 会社概要


1909年に鈴木式織機製作所として創業し、1952年に輸送用機器部門へ進出しました。1955年には軽四輪乗用車を発売し、日本の軽自動車市場を牽引してきました。1982年のインド国営企業との合弁合意を機に海外展開を本格化させ、2019年にはトヨタ自動車と資本提携を行うなど、事業の拡大と競争力強化を進めています。

現在の従業員数は連結で76,889名、単体で17,871名となっています。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に資産管理業務を行う日本カストディ銀行(信託口)、第3位には資本提携先である事業会社のトヨタ自動車が名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 15.08%
日本カストディ銀行(信託口) 6.49%
トヨタ自動車 4.98%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.0%です。代表取締役社長は鈴木俊宏氏が務めています。また、取締役9名のうち4名が社外取締役です。

氏名 役職 主な経歴
鈴木俊宏 取締役社長(代表取締役)(取締役会議長) 1994年スズキ入社。生産本部磐田工場長、四輪技術本部商品企画統括部長などを歴任。2011年に代表取締役副社長に就任し、2015年に代表取締役社長に就任。2021年より現職。
石井直己 取締役副社長(代表取締役) 1989年トヨタ自動車入社。2020年にスズキへ入社し、専務役員社長補佐経営企画室長などを経て、2022年に副社長、2023年に代表取締役副社長に就任。2026年より現職。
加藤勝弘 取締役副社長 1986年スズキ入社。品質保証本部長や専務役員技術統括等を経て、2025年に取締役副社長に就任。2026年より現職。
岡島有孝 取締役専務役員 1983年スズキ入社。スズキ自販滋賀や神奈川などの代表取締役社長を歴任。常務役員等を経て2025年に取締役専務役員に就任。2026年より現職。
村松鋭一 取締役専務役員 1984年スズキ入社。スズキ自販京葉や千葉などの代表取締役社長を歴任。グローバル営業統括部長等を経て、2025年に専務役員および取締役専務役員に就任。2026年より現職。


社外取締役は、堂道秀明(元外務省中東アフリカ局長)、江草俊(元東芝電池事業部長)、高橋尚子(シドニー五輪女子マラソン優勝)、青山朝子(TDK電子部品ビジネスカンパニーCFO)です。

2. 事業内容


同社グループは、四輪事業、二輪事業、マリン事業およびその他事業を展開しています。

(1) 四輪事業


軽自動車や小型自動車、普通自動車等の開発・製造を行っています。顧客のニーズに合わせた内燃機関車に加え、ハイブリッド車やバッテリーEV等の環境対応車の展開も進め、日本、インド、欧州をはじめとするグローバル市場の一般消費者等へ製品を提供しています。

収益源は、販売会社や製造販売会社を通じた四輪車本体および関連部品の販売による代金です。運営はスズキが製造を担うほか、海外ではマルチ・スズキ・インディア等の子会社が製造し、国内はスズキ自販近畿等の販売会社を通じて事業を展開しています。

(2) 二輪事業


日常の足として利用されるコミューターから、趣味・嗜好性の高い大型スポーツモデル、バギーまで幅広い二輪製品を開発・製造しています。欧米を中心とした趣味需要と、インド等の新興国における生活・業務需要の双方の顧客に向けた製品展開を行っています。

収益源は、国内および海外の販売網を通じた二輪車本体や関連部品の販売代金です。運営は主にスズキが行うほか、海外ではスズキ・モーターサイクル・インディア等の子会社が製造し、スズキ二輪等の販売会社を通じてグローバルに製品を供給しています。

(3) マリン事業


主にプレジャーボートや漁船等に搭載される船外機の開発・製造を行っています。レジャーとして水上を楽しむ顧客と、漁業や水上輸送などで働く顧客の両層に向けて、耐久性と信頼性に優れたマリン製品を提供し、水辺の環境保全活動にも取り組んでいます。

収益源は、国内および海外における船外機本体や関連部品の販売による代金です。運営はスズキが主に製造を担い、海外の一部ではタイ・スズキ・モーター等の子会社が行い、スズキマリン等の販売会社を通じて製品を市場へ提供しています。

(4) その他事業


モビリティ事業で培った技術を応用し、高齢者等の移動を支える電動車いすの開発・製造を行っています。また、環境負荷低減に寄与する太陽光発電事業や、地域に密着した不動産事業など、多角的なサービスを提供しています。

収益源は、電動車いすの販売代金や不動産取引等に伴う手数料収入などです。運営は、電動車いす事業をスズキ自販近畿等の販売会社が担い、不動産事業についてはスズキビジネスが中心となってサービスを提供しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近3期間の業績は、グローバル市場での販売増を背景に売上収益が継続して拡大しています。税引前利益についても、原材料価格の上昇等があるものの、販売台数の増加や原価低減などの収益改善効果により増益基調を維持しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 5兆3,575億円 5兆8,252億円 6兆2,930億円
税引前利益 5,917億円 7,302億円 7,307億円
利益率(%) 11.0% 12.5% 11.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 3,170億円 4,161億円 4,393億円

(2) 損益計算書


増収に伴い売上総利益も順調に増加しており、売上総利益率は安定して推移しています。一方で、人財育成や次世代技術等の成長投資を積極的に進めた結果、営業費用が増加し営業利益率は低下傾向にあります。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 5兆8,252億円 6兆2,930億円
売上総利益 6,206億円 6,741億円
売上総利益率(%) 10.7% 10.7%
営業利益 6,429億円 6,229億円
営業利益率(%) 11.0% 9.9%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が2,598億円(構成比26%)、発送費が979億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力である四輪事業が全体の売上を牽引しており、特にインド市場等での需要増が貢献しています。二輪事業も堅調に推移し増収増益を達成しました。一方で、マリン事業は増収となったものの、外部環境等の影響により減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
四輪事業 5兆3,052億円 5兆7,064億円 5,676億円 5,476億円 9.6%
二輪事業 3,981億円 4,545億円 408億円 448億円 9.9%
マリン事業 1,097億円 1,195億円 306億円 266億円 22.3%
その他事業 121億円 126億円 38億円 39億円 31.0%
連結(合計) 5兆8,252億円 6兆2,930億円 6,429億円 6,229億円 9.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業の営業活動で十分なキャッシュを創出し、借入金の返済や配当といった財務活動に加え、将来の成長に向けた設備投資等の投資活動を自己資金で賄えている「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 6,698億円 7,175億円
投資CF -4,756億円 -4,995億円
財務CF -1,860億円 -1,273億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.8%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は49.7%となっており、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「お客様の立場になって」という社是を経営の根幹に据えています。企業の社会的使命を果たすこと(製品づくり)、所属する会社という組織に対する努力(会社づくり)、そして自分自身に対する努力(人間づくり)の3つの目標を掲げ、お客様や社会に必要とされるモビリティメーカーとして持続的な発展を目指しています。

(2) 企業文化


同社は「現場・現物・現実・原理・原則」や「小・少・軽・短・美」、「中小企業型経営」を行動理念として掲げています。既存の業務や考え方にとらわれず、本質的な課題にアプローチして新しいことに果敢に挑戦する姿勢を重視しており、役員や本部長から現場に至るまで、全社で対話や学びを深める自律的な成長文化を育んでいます。

(3) 経営計画・目標


2030年度の経営目標として売上収益や営業利益等の数値目標を掲げています。BEV比率の増加や労務費の上昇等の環境下でも収益体質を改善させ、2030年代前半にはROE15%の達成を見据えています。

・売上収益:8兆円(2030年度)
・営業利益:8,000億円(2030年度)
・営業利益率:10%(2030年度)
・ROE:13%(2030年度)

(4) 成長戦略と重点施策


技術哲学「エネルギー極少化」と「人に寄り添う技術」を軸に、モビリティの本質価値を極大化する戦略を推進しています。軽量で安全な車体や、適所適材なバッテリーとハイブリッドシステムの組み合わせなど6つの柱で技術開発を進め、インド等の成長市場における需要拡大に向けた生産能力増強と積極的な成長投資を実行していきます。

・設備投資:2兆円(2030年度まで)
・研究開発費:2兆円(2030年度まで)

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「人財開発は会社の一丁目一番地」との思いのもと、劇的な事業構造の変化を乗り越えるため、多様な人財の採用と育成に注力しています。従業員一人ひとりが社是や行動理念を体現し、能力を最大限に発揮できるよう、職務・役割に応じた人事制度への刷新や、年齢・国籍等の多様性を尊重した働きがいのある職場環境整備を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.5歳 18.5年 8,276,061円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.2%
男性育児休業取得率 73.2%
男女賃金差異(全労働者) 66.0%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 66.8%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 56.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(79.2%)、障がい者雇用率(2.5%)、育児短時間勤務利用者数(445人)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 気候変動及び低炭素社会への移行


各国の環境規制の強化に伴い、研究開発費用の増加や、規制未達による罰金、販売機会の逸失が生じる可能性があります。また、炭素税などの導入による操業コストの増加や、自然災害の激甚化による事業拠点の被災が同社の業績に影響を及ぼすリスクがあります。

(2) 特定の事業および市場への集中


同社グループはインド市場での売上収益が全体の4割強を占めており、特定地域への依存度が高くなっています。インド事業に関わる需要の急減や市況の悪化、競合他社との競争激化などが予測を超えて進行した場合、グループ全体の業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(3) 部品の安定調達


調達先の分散に取り組んでいますが、一部の部品において特定の取引先に依存している場合があります。火災や自然災害、設備の故障、急激な需給バランスの変化等により、継続的かつ安定的な部品確保が困難になった場合、生産の遅延やコストの増加を引き起こす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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