※本記事は、三菱自動車工業株式会社の有価証券報告書(第2025期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 三菱自動車工業ってどんな会社?
自動車およびその部品の開発・生産・販売を主力とし、アセアン地域に強みを持つグローバル企業です。
■(1) 会社概要
1970年に三菱重工業の自動車部門を譲り受けて営業を開始しました。1988年に株式上場を果たし、2003年にはトラック・バス事業を分社化しています。2016年には日産自動車と戦略的アライアンスを締結し、購買やプラットフォームの共用などで協力体制を築きながら、グローバルでの競争力を強化しています。
同社グループは連結で27,695名、単体で13,498名の従業員を擁しています。筆頭株主は日産自動車で、第2位は三菱商事となっており、事業会社との資本業務提携を通じて強固な事業基盤を築いています。また、第3位には資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日産自動車 | 26.67% |
| 三菱商事 | 22.23% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.29% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性19名、女性3名の計22名で構成され、女性役員比率は13.6%です。代表執行役CEOは加藤隆雄氏が務めており、取締役12名中10名(83.3%)が社外取締役となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 加藤 隆雄 | 取締役 代表執行役CEO | 1984年入社。ロシア組立事業推進室上級エキスパート等を経て、2019年より現職。 |
| 岸浦 恵介 | 代表執行役社長 兼 COO | 1993年入社。欧州拠点社長や経営企画室長、米州本部長等を歴任し、2026年より現職。 |
| 松岡 健太郎 | 代表執行役副社長 CFO | 1987年三菱銀行入行。三菱UFJ銀行取締役専務執行役員等を経て、2023年より現職。 |
| 山口 武 | 代表執行役副社長(開発・デザイン・TCS担当) | 1988年日産自動車入社。同社常務執行役員や東風汽車副総裁等を経て、2024年より現職。 |
| 五十嵐 京矢 | 代表執行役副社長(営業担当) | 1991年入社。西日本三菱自動車販売社長や国内営業本部長等を歴任し、2026年より現職。 |
| 稲田 仁士 | 取締役 | 1980年三菱商事入社。同社法務部長等を経て同社入社、常務執行役員等を経て2022年より現職。 |
社外取締役は、平工奉文(元経済産業省製造産業局長)、宮永俊一(元三菱重工業社長)、幸田真音(作家)、佐々江賢一郎(元外務事務次官)、坂本秀行(元日産自動車副社長)、中村嘉彦(元あずさ監査法人パートナー)、田川丈二(元日産自動車専務執行役員)、垣内威彦(元三菱商事社長)、三毛兼承(元三菱東京UFJ銀行頭取)、大串淳子(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「自動車」「金融」の2つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 自動車
同社は、日本国内および海外において、普通・小型乗用車や軽自動車などの開発、生産、販売を行っています。アセアン地域などの成長市場やオフロード商品群に経営資源を集中し、お客様のニーズに応じた最適な電動車をはじめとする多様なモビリティを提供しているのが特徴です。
収益は、顧客や販売会社に対する車両および純正部品の販売から得ています。製品の開発や国内での生産は主に同社が担い、販売は東日本三菱自動車販売などが担当しています。海外では、タイのMitsubishi Motors (Thailand) などが生産・販売事業を運営しています。
■(2) 金融
自動車の購入を支援するため、顧客に対してリース事業や販売金融事業などの各種金融サービスを提供しています。自動車販売と連動したバリューチェーン事業の一環として、新車販売に加え、中古車販売やアフターサービスと連携しながら、クルマ1台当たりの生涯価値を最大化する役割を担っています。
主な収益源は、販売金融における顧客からの利息収入や、オペレーティング・リースおよびファイナンス・リースに係るリース料収入です。国内における金融事業は主に三菱自動車ファイナンスが運営し、海外ではフィリピンのMitsubishi Motors Finance Philippinesなどが事業を展開しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は為替の好影響や販売価格の最適化などにより緩やかな拡大傾向が続いており、直近では増収を確保しています。一方、利益面はインフレによるコスト上昇や地政学リスクの影響を強く受け、2024年3月期をピークに減少傾向にあります。今後は商品力の強化とコスト削減による収益体質の強靭化が課題となります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆389億円 | 2兆4581億円 | 2兆7896億円 | 2兆7882億円 | 2兆8965億円 |
| 経常利益 | 1010億円 | 1820億円 | 2090億円 | 986億円 | 789億円 |
| 利益率(%) | 5.0% | 7.4% | 7.5% | 3.5% | 2.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 401億円 | 1891億円 | 1661億円 | 410億円 | 100億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加しているものの、インフレや原材料費の高騰などにより売上総利益が圧縮され、営業利益率も低下しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2兆7882億円 | 2兆8965億円 |
| 売上総利益 | 5367億円 | 4491億円 |
| 売上総利益率(%) | 19.2% | 15.5% |
| 営業利益 | 1388億円 | 755億円 |
| 営業利益率(%) | 5.0% | 2.6% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃が926億円(構成比25%)、役員報酬及び給料手当が857億円(同23%)を占めています。研究開発費は649億円(同17%)となっています。
■(3) セグメント収益
主力の自動車事業は、販売台数の着実な立ち上がりにより増収となりましたが、外部環境の悪化やコスト増が響き減益となりました。一方、金融事業はリース収益等が堅調に推移し増収となったものの、金利負担の増加等により減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 自動車 | 2兆7500億円 | 2兆8545億円 | 1341億円 | 725億円 | 2.5% |
| 金融 | 382億円 | 420億円 | 42億円 | 28億円 | 6.7% |
| 連結(合計) | 2兆7882億円 | 2兆8965億円 | 1388億円 | 755億円 | 2.6% |
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で利益を確保しつつ、借入等の資金調達も行いながら積極的な投資を継続する「積極型」の傾向を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1747億円 | 358億円 |
| 投資CF | -1148億円 | -1224億円 |
| 財務CF | -2748億円 | 469億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.1%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は38.0%となっており、いずれもプライム市場の平均を下回る水準に留まっています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「モビリティの可能性を追求し、活力ある社会をつくります」というビジョンを掲げています。お客様や株主をはじめとした全てのステークホルダーの期待を超える価値創造を目指し、自動車という製品を通じて持続的な成長と豊かな社会の実現に取り組むことを社会的意義として位置づけています。
■(2) 企業文化
三菱グループ共通の基本理念である「三綱領」を企業活動の指針としています。また、ビジョンを実現するために社員一人ひとりが実践すべき行動指針として「MMC WAY」を定めています。コンプライアンスを最優先に考え、経営の健全性や透明性を確保しながら、一丸となって行動する文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
中長期的な方向性として、「尖った商品・ブランドの強化でお客様満足と企業価値を向上」を掲げています。成長力・収益力の強化を最重要課題とし、事業規模に応じた損益分岐点の最適化を目指しています。
・2029年度:営業利益1,600億円、営業利益率4.5%、ROE10%
・2030年度以降:営業利益2,000~2,500億円、営業利益率5.5%以上、ROE12%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
ブランドを軸とした「成長戦略」と収益体質強靭化のための「構造転換」を同時に推進します。同社の強みを発揮できるアセアン商品群やオフロード商品群に経営資源を集中し、販売金融やアフターサービスなどのバリューチェーン事業も強化します。
・2031年度までの6年間で13車種の新型車を投入
・フィリピン、ベトナム、日本を重点国とし成長投資を重点的に配分
・2029年度までの4年間で約1兆円の成長投資を実行
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業環境が変化する中で、持続的な成長と企業価値向上の鍵は「人材」であると認識しています。行動指針「MMC WAY」を体現できる人材の育成を中核とし、「より一層働きやすい職場への改革」「教育・リスキリングプログラムの充実」「多様で幅広い人材確保の推進」を重点項目として環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.4歳 | 16.0年 | 7,895,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.8% |
| 男性育児休業取得率 | 86.9% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(全労働者) | 79.8% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(正規雇用) | 78.4% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(パート・有期) | 87.6% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.50%超)、従業員エンゲージメントスコアの上昇幅(前年度比+2ポイント)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場環境変化の影響
中東地域における地政学的緊張の高まりや紛争の長期化により、エネルギー価格の上昇や物流コストの増加が生じています。これにより、サプライチェーンの混乱や原材料価格の高騰、世界的な景気減速などが引き起こされ、同社グループの事業基盤や収益性に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 部品・原材料調達の影響
製品の製造に必要な希少金属を含む部品や原材料をグローバルに調達しているため、需給状況の変動や輸出入規制の強化、サプライチェーン上の人権リスク問題が発生した場合、生産の遅延や停止、コスト増を招く恐れがあります。これらが適時に解決されない場合、経営成績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 法規制等のコンプライアンス対応
事業を展開する各国において、環境規制(排出ガス・燃費等)や労働規制、輸出入貿易規制などの広範な法令の適用を受けています。コンプライアンス体制を整備しているものの、法令違反が発生し、あるいは対応が不十分と指摘された場合、制裁金や社会的信用の低下につながり、ブランドに悪影響を与える可能性があります。



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