※本記事は、理想科学工業株式会社の有価証券報告書(第72期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 理想科学工業ってどんな会社?
同社は、独自の技術を活かした印刷機器関連事業を世界規模で展開するグローバル企業です。
■(1) 会社概要
1955年に理想科学研究所として設立され、1963年に現在の理想科学工業に商号変更しました。1981年頃から直販体制の構築を進め、1989年に店頭登録、2006年に東証一部へ上場しました。現在は東証プライム市場に所属し、2024年には理想テクノロジーズを設立してインクジェットヘッド事業を統合しています。
従業員数は連結で2,865名、単体で1,529名です。大株主については、筆頭株主が理想社、第2位が理想教育財団、第3位があかつき興産となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 理想社 | 15.71% |
| 理想教育財団 | 8.46% |
| あかつき興産 | 6.22% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長社長執行役員は羽山明が務めており、取締役5名のうち社外取締役が2名を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 羽山明 | 代表取締役社長社長執行役員兼 プリントクリエイト事業部担当 | 1987年旭化成工業入社。1990年同社入社。1995年取締役、1999年代表取締役社長、2019年より社長執行役員を務める。 |
| 川津俊彦 | 取締役執行役員営業統括本部長兼 日本営業部長兼 デジタルコミュニケーション事業部担当 | 1989年同社入社。営業本部RPS統括部長、海外営業本部欧米営業部長などを経て2021年取締役。2025年より現職。 |
| 成宮慶臣 | 取締役執行役員コーポレート本部長兼 内部統制部、環境活動推進部、品質保証部担当兼 リスク・コンプライアンス担当兼 不動産事業部担当 | 1985年同社入社。経理部長、経営企画部長、営業本部長などを経て2025年よりコーポレート本部長、内部統制部等の担当取締役を務める。 |
社外取締役は、権藤嘉江子(元グラフィック・パッケージング・インターナショナル代表取締役社長)、渡部秀敏(元ワタベウェディング代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「印刷機器関連事業」「不動産事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 印刷機器関連事業
高速インクジェットプリンター「オルフィス」やデジタル印刷機「リソグラフ」などの製品とインクジェットヘッドを開発・製造・販売しています。全世界の多様な顧客向けに、生産性や経済性の向上に貢献するソリューションを提供しています。
製品本体の販売代金に加え、インクやマスターなどの消耗品販売が主な収益源です。開発や一部製造・販売は同社が担い、海外販売は米国、欧州、アジアの各地域の子会社が担当するほか、理想テクノロジーズがインクジェットヘッド事業を運営しています。
■(2) 不動産事業
保有する不動産資産を有効活用し、テナント企業に対してオフィスビル等の賃貸サービスを提供しています。
入居するテナントからの不動産賃貸収入(家賃)を主な収益源としています。この事業は主に同社が単体で運営しています。
■(3) その他
プリントクリエイト事業、デジタルコミュニケーション事業、および教育現場などで活用されるアプリケーションソフトウェア事業を展開しています。
デジタル教材をはじめとしたシステムやサービスの提供に伴う利用料等を収益源としています。これらの事業の運営は主に同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上高は安定して成長を続けており、堅調な推移を示しています。一方で、経常利益や利益率は一時的に上昇したのち直近ではやや低下傾向にあり、投資や為替の影響などによる収益性の変化がうかがえます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 693億円 | 747億円 | 746億円 | 787億円 | 790億円 |
| 経常利益 | 46億円 | 62億円 | 62億円 | 64億円 | 59億円 |
| 利益率(%) | 6.7% | 8.3% | 8.3% | 8.1% | 7.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 33億円 | 49億円 | 51億円 | 50億円 | 44億円 |
■(2) 損益計算書
売上高はわずかに増加し、売上総利益率も安定した水準を維持しています。しかし、事業統合の効果や為替影響等により販売費及び一般管理費が増加したため、営業利益は減少しました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 787億円 | 790億円 |
| 売上総利益 | 470億円 | 472億円 |
| 売上総利益率(%) | 59.7% | 59.8% |
| 営業利益 | 62億円 | 51億円 |
| 営業利益率(%) | 7.9% | 6.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当及び賞与が153億円(構成比36%)、研究開発費が59億円(同14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力事業である印刷機器関連事業が全体の大半を占め、着実な成長により微増収となっています。不動産事業も堅調に推移していますが、その他の事業においては販売がやや減少しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 印刷機器関連事業 | 770億円 | 773億円 |
| 不動産事業 | 10億円 | 11億円 |
| その他 | 7億円 | 6億円 |
| 連結(合計) | 787億円 | 790億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」のパターンを示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 33億円 | 75億円 |
| 投資CF | -83億円 | -32億円 |
| 財務CF | -15億円 | -32億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は72.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「世界に類のないものを創る」というポリシーのもと、お客様の役に立つ独自の製品やサービスを提供することで、お客様のコミュニケーションをより良いものにすることを掲げています。社会や環境の変化に柔軟に対応し、サステナビリティを巡る課題に取り組みながら、持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、社員一人ひとりが健康で、チャレンジと成長ができる風土の醸成に取り組んでいます。また、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が互いに尊重し合い、個々の能力を最大限に発揮できる環境整備を重視しています。コンプライアンス行動指針等に基づいた、倫理観と透明性の高い組織運営も特徴です。
■(3) 経営計画・目標
2027年3月期に向けて、女性管理職比率や年次有給休暇の取得率、さらに温室効果ガス排出量の削減などで具体的な数値目標を掲げています。
- 女性管理職比率:4.8%以上(2027年3月末まで)
- 年次有給休暇の取得率:73%以上(2027年3月末まで)
- スコープ1・2排出量:2030年度までに2024年度比で42%削減
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、経営環境の変化に適応し、効率的で強い企業体質への転換を図ることを中長期的な課題としています。これを実現するため、主力である印刷機器関連事業の収益力を強化するとともに、製品・サービスの特長を活かした販売活動を全世界で展開し、新規事業の創出に向けた活動を推進していく方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、社員一人ひとりが新たな事業価値を生み出す存在であると捉え、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が主体的に能力を発揮できる環境と機会の提供に努めています。働きがいのある職場環境を整備するとともに、能力や役割に応じた公正な評価と競争力のある処遇を実現し、個の成長と多様性を尊重する組織づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 45.8歳 | 22.1年 | 8,520,952円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.4% |
| 男性育児休業取得率 | 68.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 74.6% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 79.9% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 為替レートの変動が業績に与える影響
同社の印刷機器関連事業は売上高の半分程度を海外の顧客向けが占めています。各地域における売上や費用は円換算されるため、元の現地通貨における価値が変わらなくても、米ドルやユーロに対する円高の進行によって業績や財務状況に悪影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 海外事業展開に伴うカントリーリスク
同社グループは中国やタイに製造拠点を持ち、世界各国に販売子会社を展開しています。これらの国や地域において政情不安や経済環境の悪化、人件費の高騰、労働争議、自然災害といった不測の事態が発生した場合、生産や販売活動の停止につながる可能性があります。
■(3) 自然災害や事故に係るリスク
製造拠点は分散されているものの、地震や火災などの災害により設備が壊滅的な被害を受けた場合、操業の中断や生産・出荷の遅延が発生する恐れがあります。また、修復に多額の費用がかかることで、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 法令違反に関するリスク
同社は世界各国において多様な法的規制を受けて事業を展開しています。倫理観に基づいた社員教育や各種ホットラインの設置などコンプライアンスの徹底に努めていますが、役職員による法令違反が発生した場合には社会的信用が失墜し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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