三越伊勢丹ホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三越伊勢丹ホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する、三越と伊勢丹を中核とする国内最大級の百貨店グループです。百貨店業を中心に、金融、不動産事業等を展開しています。2025年3月期の連結業績は、百貨店事業の好調やインバウンド需要の取り込みにより、売上高は5,555億円と増収、経常利益は881億円と大幅な増益を達成しました。



※本記事は、株式会社三越伊勢丹ホールディングス の有価証券報告書(第17期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 三越伊勢丹ホールディングスってどんな会社?


百貨店業を中核に、クレジット・金融・友の会業、不動産業などを展開する小売グループです。「個客業」への変革を掲げています。

(1) 会社概要


同社は、2008年に三越と伊勢丹の経営統合により設立されました。2011年には両社が合併し三越伊勢丹が発足しました。その後、札幌、福岡などの地域百貨店の再編や、クレジットカード事業の強化を進めてきました。2020年には監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行し、ガバナンス体制を強化しています。

連結従業員数は8,921名、単体では381名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第3位には公益財団法人三越厚生事業団が名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 16.72%
日本カストディ銀行(信託口) 8.33%
公益財団法人三越厚生事業団 3.61%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表執行役社長 CEOは細谷 敏幸氏です。社外取締役比率は54.5%です。

氏名 役職 主な経歴
細谷 敏幸 取締役代表執行役社長 CEO 1987年伊勢丹入社。2018年岩田屋三越社長などを経て、2021年4月より同社代表執行役社長CEOおよび三越伊勢丹社長執行役員に就任。
牧野 欣功 取締役執行役常務 1990年伊勢丹入社。三越伊勢丹フードサービス取締役などを経て、2025年4月より同社取締役執行役常務 経営戦略領域管掌CFOおよび三越伊勢丹取締役に就任。
金原 章 執行役常務 1990年伊勢丹入社。静岡伊勢丹取締役、三越伊勢丹執行役員などを経て、2025年4月より同社執行役常務 業務領域管掌CAO兼CROおよび三越伊勢丹常務執行役員に就任。
山下 卓也 執行役常務 1991年伊勢丹入社。2020年三越伊勢丹執行役員、2023年同社執行役常務CMOを経て、2025年4月より同社執行役常務 営業戦略領域管掌CMOに就任。
石塚 由紀 取締役 1985年伊勢丹入社。三越伊勢丹執行役員、三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ社長、仙台三越社長を経て、2022年6月より同社取締役に就任。


社外取締役は、橋本 副孝(弁護士)、安藤 知子(日本ロレアル元副社長)、越智 仁(三菱ケミカルHD元社長)、岩本 敏男(NTTデータ元社長)、助野 健児(富士フイルムHD会長)、松田 千恵子(都立大教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「百貨店業」、「クレジット・金融・友の会業」、「不動産業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 百貨店業


国内および海外において、衣料品、身廻品、雑貨、家庭用品、食料品等の販売を行っています。伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店などの基幹店に加え、地域百貨店や海外店舗を展開しています。

収益は、顧客への商品販売代金や消化仕入に係る純額収益等からなります。運営は、国内では株式会社三越伊勢丹、株式会社札幌丸井三越、株式会社岩田屋三越などが、海外ではイセタン(シンガポール)Ltd.、米国三越INC.などが行っています。

(2) クレジット・金融・友の会業


クレジットカードの発行・運営、貸金、保険代理業、友の会運営などを行っています。エムアイカードによるカスタマー・ロイヤルティ・プログラムを提供し、グループ全体の顧客基盤強化を担っています。

収益は、会員からの年会費、百貨店および外部加盟店からの手数料、友の会会費等からなります。運営は、株式会社エムアイカードおよび株式会社エムアイ友の会が行っています。

(3) 不動産業


不動産賃貸、テナントマネジメント、建物内装、建装・デザイン事業などを行っています。グループ保有物件の有効活用や、商業施設の開発・運営を手掛けています。

収益は、不動産の賃貸料や工事契約に基づく請負代金等からなります。運営は、株式会社三越伊勢丹、株式会社三越伊勢丹プロパティ・デザイン、株式会社伊勢丹会館などが行っています。

(4) その他


小売、卸売、物流、人事サービス、情報処理サービス、メディア、旅行業など多岐にわたる事業を展開しています。スーパーマーケット「クイーンズ伊勢丹」の運営や、システム開発、広告事業などが含まれます。

収益は、商品販売、サービス提供の対価等からなります。運営は、株式会社エムアイフードスタイル、株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ、株式会社スタジオアルタ、株式会社三越伊勢丹ニッコウトラベルなどが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期はコロナ禍の影響で赤字となりましたが、その後は回復基調にあります。売上高は「収益認識に関する会計基準」の適用により変動していますが、実質的な業績は改善傾向です。特に直近の2025年3月期は、国内百貨店事業の好調やインバウンド需要の回復により、営業利益、経常利益ともに大幅な増益となり、高い利益率を達成しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 8,160億円 4,183億円 4,874億円 5,364億円 5,555億円
経常利益 -172億円 95億円 300億円 599億円 881億円
利益率(%) -2.1% 2.3% 6.2% 11.2% 15.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 42億円 104億円 81億円 243億円 176億円

(2) 損益計算書


売上高の増加に加え、売上総利益率が改善しています。販売費及び一般管理費は抑制傾向にあり、営業利益率の大幅な向上に寄与しています。増収効果とコストコントロールの両面から利益体質が強化されています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 5,364億円 5,555億円
売上総利益 3,189億円 3,377億円
売上総利益率(%) 59.5% 60.8%
営業利益 544億円 763億円
営業利益率(%) 10.1% 13.7%


販売費及び一般管理費のうち、その他が897億円(構成比34%)、給料手当及び賞与が759億円(同29%)を占めています。

(3) セグメント収益


百貨店業は、国内店舗の入店客数増加や高感度上質戦略の奏功により増収増益となりました。クレジット・金融・友の会業もカード取扱高の増加等により増収増益です。不動産業は賃料収入増や建装事業の受注増で増収増益でした。その他事業は旅行業や広告業が好調で増収となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
百貨店業 4,455億円 4,582億円 452億円 646億円 14.1%
クレジット・金融・友の会業 194億円 200億円 41億円 57億円 28.7%
不動産業 211億円 243億円 30億円 36億円 14.9%
その他 505億円 530億円 21億円 21億円 3.9%
調整額 -億円 -億円 0億円 3億円 -%
連結(合計) 5,364億円 5,555億円 544億円 763億円 13.7%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


健全型:営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 569億円 896億円
投資CF -270億円 -260億円
財務CF -685億円 -949億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は49.9%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「こころ動かす、ひとの力で。」をミッションに掲げ、長期に目指す姿として「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」を定めています。創業以来の「お客さま第一」の精神を持ち、時代の変化に合わせて生活に豊かさを提供することを目指しています。

(2) 企業文化


サステナビリティ活動のスローガンとして「think good」を掲げています。これは、彩りある豊かな未来に向けて「想像力を働かせ、真摯に考えることからスタートする」という想いが込められています。従業員一人ひとりが自律的に考え行動し、社会課題の解決と事業成長の両立を目指す文化を醸成しています。

(3) 経営計画・目標


2025年度から2030年度までの新中期経営計画を策定しています。2030年度に向けた長期的な視点で、「館業」から「個客業」への変革を進めます。フェーズⅠ(2025~2027年度)とフェーズⅡ(2028~2030年度)に区分し、持続的成長と企業価値向上に取り組みます。

* 2027年度 営業利益:850億円
* 2027年度 ROE:9.8%
* 2027年度 識別顧客売上高:6,870億円
* 2030年度 営業利益水準:1,000~1,100億円
* 2030年度 ROE:10~11%

(4) 成長戦略と重点施策


従来のマス向けビジネスモデルである「館業」から、個々の顧客とのつながりを基盤とする「個客業」への変革を本格化させます。「集客」「識別化」「利用拡大」「生涯顧客化」のプロセスを回し、百貨店事業だけでなく、金融、不動産などグループ全体の事業を連携させる「連邦」戦略や、百貨店を核にまちの魅力を高める「まち化」戦略を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「三越伊勢丹グループ人財マネジメント方針」のもと、「個客業」への変革に向けた企業風土改革や、生産性向上と人的資本投資の両立を推進しています。「ひとの力の最大化」を目指し、従業員の自律的なキャリア形成を支援する「生涯CDP」や、グループ内での人材流動化による「横の人財創造」に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 47.5歳 23.8年 9,228,366円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 27.7%
男性育児休業取得率 103.1%
男女賃金差異(全労働者) 52.9%
男女賃金差異(正規) 58.9%
男女賃金差異(非正規) 102.9%


※数値は「株式会社三越伊勢丹」の実績または連結子会社の状況等に基づきます。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) サステナビリティ経営推進に関するリスク


気候変動や人権尊重などの社会課題への対応が遅れた場合、ステークホルダーからの信用失墜や市場競争力の低下を招く可能性があります。特に脱炭素への取り組みの遅れは、将来的な環境規制強化やエネルギーコスト増加につながり、財務状況に悪影響を及ぼす恐れがあります。

(2) デジタル社会への対応に関するリスク


DX推進の遅れやデジタル人材の不足は、変化する顧客ニーズへの対応力低下や競争力の喪失につながります。また、システム障害の発生は営業活動に支障をきたし、SNSトラブルやAIの不適切利用は社会的信用の失墜や機密情報漏洩のリスクとなります。

(3) ビジネスモデル変革に関するリスク


少子高齢化や消費の二極化など社会構造の変化に対応するため、「館業」から「個客業」への変革を進めていますが、この変革が遅れた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、インフレや労働市場の逼迫によるコスト増も変革の阻害要因となるリスクがあります。

(4) 災害等の対応に関するリスク


大規模地震や台風、水害などの自然災害、感染症の拡大等は、店舗の営業停止やサプライチェーンの寸断を引き起こし、業績に甚大な影響を与える可能性があります。また、火災や事故の発生も、人的被害や建物への損害に加え、賠償責任や信用の低下を招くリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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