※本記事は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの有価証券報告書(第18期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 三越伊勢丹ホールディングスってどんな会社?
百貨店を中核事業とし、クレジットカードや不動産、関連サービス等を提供する小売グループです。
■(1) 会社概要
2008年に三越と伊勢丹の経営統合により持株会社として設立されました。同年に株式上場を果たし、2011年には中核子会社2社が合併して三越伊勢丹が発足しました。2020年に指名委員会等設置会社へ移行し、客観性と透明性の高いガバナンス体制を構築しています。
現在の従業員数は連結で8,670名、単体で386名です。大株主については、筆頭株主および第2位の株主として資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねており、第3位には外資系金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.82% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.14% |
| JP MORGAN CHASE BANK 385642 | 3.88% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表執行役社長CEOは細谷敏幸氏が務めています。取締役9名のうち6名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 細谷敏幸 | 取締役代表執行役社長 CEO | 伊勢丹入社後、岩田屋三越社長などを経て、2021年より三越伊勢丹ホールディングス代表執行役社長CEOおよび三越伊勢丹社長に就任。 |
| 牧野欣功 | 取締役執行役常務経営戦略領域管掌CFO | 伊勢丹入社後、エムアイフードスタイル取締役や三越伊勢丹常務などを経て、2025年より取締役執行役常務経営戦略領域管掌CFOに就任。 |
| 石塚由紀 | 取締役 | 伊勢丹入社後、三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズ社長や仙台三越社長を経て、2022年より取締役に就任。 |
社外取締役は、安藤知子(元日本ロレアル副社長)、越智仁(元三菱ケミカルホールディングス社長)、岩本敏男(元NTTデータ社長・指名委員長)、助野健児(元富士フイルムホールディングス社長)、松田千恵子(東京都立大学経済経営学部教授・報酬委員長)、藤田直介(元ゴールドマン・サックス証券法務部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「百貨店業」「クレジット・金融・友の会業」「不動産業」および「その他」事業を展開しています。
■百貨店業
衣料品、雑貨、家庭用品、食料品などの販売を行い、一般消費者および外商顧客に向けて付加価値の高い商品やサービスを提供しています。独自のコンテンツや体験型イベントなどを通じて高感度な顧客体験を創出しています。
商品販売に伴う代金や消化仕入による収益が主な収益源です。運営は中核企業である三越伊勢丹を中心に、札幌丸井三越、岩田屋三越などの国内地域会社、および海外の事業会社が担当しています。
■クレジット・金融・友の会業
クレジットカードの発行・運営、貸金、損害保険や生命保険の代理店業務、金融商品仲介などを提供しています。百貨店の顧客基盤を活用した総合金融サービスを展開し、顧客の利便性向上を図っています。
カード会員からの年会費や、加盟店および百貨店内で利用された際の決済手数料などを主な収益源としています。事業の運営はエムアイカードやエムアイ友の会などの子会社が担当しています。
■不動産業
商業施設やオフィスビルなどの不動産賃貸のほか、テナントマネジメント、建装・デザイン事業などを展開しています。百貨店を核としたまちづくりを推進し、空間価値の最大化を図っています。
保有物件からの賃料収入や、ホテル、店舗、オフィスなどの内装設計・施工に伴う工事収益を主要な収益源としています。主に三越伊勢丹プロパティ・デザインなどの子会社が運営を担っています。
■その他
スーパーマーケットの運営、旅行業、メディア事業、物流業、人材サービス、情報処理サービスなど、百貨店事業を支える多様な関連サービスを提供しています。
小売販売代金や旅行企画の販売、広告制作やシステム開発の手数料などを収益源としています。運営はエムアイフードスタイル、三越伊勢丹ニッコウトラベル、スタジオアルタなど複数の子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は増加傾向から直近で微減に転じたものの、経常利益率は順調に向上しています。構造改革や高感度な顧客体験の提供が寄与し、収益性の改善が進んでいることが読み取れます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4183億円 | 4874億円 | 5364億円 | 5555億円 | 5456億円 |
| 経常利益 | 95億円 | 300億円 | 599億円 | 881億円 | 866億円 |
| 利益率(%) | 2.3% | 6.2% | 11.2% | 15.9% | 15.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 104億円 | 81億円 | 243億円 | 176億円 | 340億円 |
■(2) 損益計算書
売上高はわずかに減少しましたが、売上総利益率および営業利益率は改善しています。徹底した経費構造改革や販管費のコントロールが奏功し、本業の収益力が高まっていることがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5555億円 | 5456億円 |
| 売上総利益 | 3377億円 | 3367億円 |
| 売上総利益率(%) | 60.8% | 61.7% |
| 営業利益 | 763億円 | 800億円 |
| 営業利益率(%) | 13.7% | 14.7% |
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上高を見ると、主力である百貨店業が微減となったものの、クレジット・金融・友の会業やその他の事業は増収を確保しています。富裕層向けの金融サービスの強化や関連事業のグループ間連携が進展していることが要因です。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 百貨店業 | 4582億円 | 4468億円 |
| クレジット・金融・友の会業 | 200億円 | 210億円 |
| 不動産業 | 243億円 | 222億円 |
| その他 | 530億円 | 557億円 |
| 連結(合計) | 5555億円 | 5456億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
キャッシュ・フローの状況を見ると、営業活動で安定した資金を創出し、投資活動のプラス(資産売却等)と合わせて財務活動のマイナス(借入返済等)を進めている「改善型」の局面となっています。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も50.8%であり、いずれも市場平均を上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 896億円 | 907億円 |
| 投資CF | -260億円 | 216億円 |
| 財務CF | -949億円 | -769億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「こころ動かす、ひとの力で。」を企業理念に掲げています。また、長期に目指す姿(ビジョン)として「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」を定めています。創業以来一貫した“お客さま第一”の精神のもと、生活に豊かさを提供することに邁進しています。
■(2) 企業文化
同社グループは、サステナビリティ活動のスローガンとして「think good」を掲げています。これは、彩りある豊かな未来に向けて「想像力を働かせ、真摯に考えることからスタートする」という想いが込められています。事業活動を通じて社会課題の解決に貢献し、ステークホルダーとの信頼関係を深めながら持続可能な社会の実現を目指す文化を重んじています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、6カ年の中期経営計画(2025〜2030年度)を推進しており、最終年度の目標水準を掲げています。また、顧客とのつながりを重視する独自の指標として「顧客KPI」を設定しています。
- 2027年度 営業利益目標:850億円
- 2030年度 営業利益目標:1,000〜1,100億円規模
- 2026年度 顧客KPI(識別顧客売上高):6,960億円
- 2026年度 顧客KPI(グループ年間300万円以上購買顧客売上高):2,520億円
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、従来のマス向けビジネスモデルである「館業」から、一人ひとりの顧客との関係をベースとする「個客業」への変革を進めています。「世界」「用途」「空間」「時間」の4つをキーワードに新たな事業機会を獲得し、百貨店を核に多様なコンテンツを掛け合わせる「まち化」戦略を推進します。カードやアプリを用いた顧客の識別化を進め、グループ内外の連携によるLTV(ライフタイム・バリュー)の最大化を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社グループは、人的資本を「個客業へのビジネスモデル変革」を支える中核と位置づけています。店舗・仕入・外商を横断的に経験させることで「三位一体人財」を育成し、事業間での人財流動化を促進します。また、多様性と包摂性を尊重し、すべての従業員が力を発揮できる「働きがい」と「働きやすさ」を実感できる職場環境の整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 47.4歳 | 23.6年 | 8,964,463円 |
※平均年間給与は賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 29.8% |
| 男性育児休業取得率 | 112.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 54.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 60.4% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 102.1% |
また、同社は「サステナビリティに関する個別課題」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、人的資本投資計画額(約300億円)、管理職向けの実践研修実施人数(約1300名)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) サステナビリティ経営への対応遅れ
気候変動や人権尊重など、サステナビリティ課題に対するステークホルダーの要請が高まっています。脱炭素や人権デュー・ディリジェンスへの対応が遅れた場合、市場競争力の低下や資金調達環境の悪化、さらには将来的な環境規制の強化に伴うコスト増加など、業績や財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) デジタル社会におけるDX推進の遅れ
顧客ニーズや購買行動がデジタル化に伴って変化する中、実店舗とオンラインをシームレスにつなぐDX戦略が求められています。デジタル人財の不足やシステムの障害、さらには従業員によるSNSトラブルやAIの不適切利用が発生した場合、競争力の低下や情報漏洩を招き、企業のブランドイメージや業績を損なう恐れがあります。
■(3) 百貨店ビジネスモデルの変革リスク
少子高齢化や消費の二極化など社会構造が変化する中で、従来のマスマーケティング型の「館業」から顧客関係を重視する「個客業」への転換が急務となっています。このビジネスモデル変革が遅滞した場合や、物価高騰・人件費の上昇によって変革への投資やコストコントロールが阻害された場合、長期的な収益性に重大な影響を与える可能性があります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。