※本記事は、株式会社大和証券グループ本社 の有価証券報告書(第88期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 大和証券グループ本社ってどんな会社?
国内大手証券会社を傘下に持つ持株会社であり、リテールからホールセール、資産運用まで幅広く展開する総合金融グループです。
■(1) 会社概要
1943年に藤本証券と日本信託銀行の合併により大和証券として設立され、1961年に株式上場を果たしました。1999年には持株会社体制へ移行し、現在の商号に変更するとともに、リテール証券業務を新設の大和証券へ譲渡しました。2012年にはリテール事業会社がホールセール事業会社を吸収合併し、現在の大和証券の体制となりました。近年では、2024年にあおぞら銀行やかんぽ生命保険との資本業務提携を実現しています。
同グループの連結従業員数は14,783人、持株会社単体では616人です。株主構成については、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行(信託口)です。第3位には、業務提携関係にある太陽生命保険が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 15.72% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 4.86% |
| 太陽生命保険株式会社 | 2.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性7名の計18名で構成され、女性役員比率は38.9%です。代表執行役社長最高経営責任者(CEO)は荻野明彦氏が務めています。取締役会における社外取締役の比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 中田 誠司 | 取締役会長 | 1983年入社。企画、人事担当役員等を経て、2017年より代表執行役社長CEO。2024年4月より現職。 |
| 荻野 明彦 | 取締役代表執行役社長最高経営責任者(CEO) | 1989年入社。企画、法務、人事担当役員等を経て、2022年より取締役兼執行役副社長。2024年4月より現職。 |
| 新妻 信介 | 取締役代表執行役副社長最高執行責任者(COO)兼 ウェルスマネジメント担当 | 1988年入社。リテール部門や営業企画担当役員等を経て、2024年4月より現職。大和証券代表取締役副社長を兼務。 |
| 田代 桂子 | 取締役執行役副社長アセットマネジメント担当 兼 証券アセットマネジメント担当 兼 サステナビリティ担当 兼 金融経済教育担当 | 1986年入社。海外、SDGs、シンクタンク担当役員等を経て、2019年より取締役兼執行役副社長。2025年4月より現職。 |
| 村瀬 智之 | 執行役副社長情報技術担当(CIO) 兼 データ管理担当(CDO) | 1987年入社。大和総研への転籍等を経て、システム担当役員を歴任。2023年4月より現職。大和証券代表取締役副社長を兼務。 |
| 佐藤 英二 | 取締役専務執行役企画担当 兼 海外副担当 | 1991年入社。経営企画部長、最高財務責任者(CFO)等を歴任。2024年6月より現職。大和証券専務取締役を兼務。 |
| 櫻井 裕子 | 専務執行役コンプライアンス担当 | 1988年入社。IR室長、プライベートバンキング担当役員等を経て、2023年4月より現職。大和証券代表取締役専務取締役を兼務。 |
| 芹澤 潤一 | 専務執行役ウェルスマネジメント副担当 | 1992年入社。支店長、営業担当役員等を経て、2024年4月より現職。大和証券専務取締役を兼務。 |
| 小林 奨 | 専務執行役最高リスク管理責任者(CRO) | 1990年入社。エクイティ、金融市場、リスクマネジメント担当役員等を歴任。2025年4月より現職。大和証券専務取締役を兼務。 |
| 吉田 光太郎 | 常務執行役最高財務責任者(CFO) | 1992年入社。経営企画部長、プロダクト・ソリューション担当役員等を経て、2024年4月より現職。 |
| 花岡 幸子 | 取締役 | 1990年入社。投資情報部長、執行役員を経て、2019年6月より現職。大和証券、大和アセットマネジメント等の監査役を兼務。 |
社外取締役は、河合江理子(京都大学名誉教授・報酬委員長)、西川克行(元検事総長・監査委員長)、岩本敏男(元NTTデータ社長・指名委員長)、村上由美子(元OECD東京センター所長)、伊岐典子(元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長)、柚木真美(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ウェルスマネジメント部門」「アセットマネジメント部門」「グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門」および「その他」事業を展開しています。
■(1) ウェルスマネジメント部門
個人投資家や未上場法人を主な顧客とし、資産管理・運用に関するコンサルティングや商品・サービスを提供しています。また、銀行代理業を通じて預金やローン等の銀行サービスも取り扱っています。
収益は、顧客からの株式・投資信託等の売買委託手数料、投資信託の信託報酬(代行手数料)、ラップ口座の契約資産残高に応じた管理料、および銀行業務における預貸金利ざや等が中心です。運営は主に大和証券および大和ネクスト銀行が行っています。
■(2) アセットマネジメント部門
国内外の個人・機関投資家に対し、投資信託の設定・運用、投資助言、および不動産や再生可能エネルギー等を対象としたオルタナティブ投資商品の提供を行っています。
収益は、投資信託や投資顧問契約に基づく運用報酬(信託報酬)、不動産アセットマネジメントにおける管理報酬、および投資案件の売却益(キャピタルゲイン)等が挙げられます。運営は主に大和アセットマネジメント、大和リアル・エステート・アセット・マネジメント、大和エナジー・インフラ等が行っています。
■(3) グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門
機関投資家や事業法人、金融法人等を顧客とし、株式・債券・為替等のセールス&トレーディング業務、および株式・債券の引受け、M&Aアドバイザリー等の投資銀行業務を提供しています。
収益は、有価証券の売買に伴うトレーディング損益、引受手数料、M&Aアドバイザリー手数料等が中心です。運営は主に大和証券が担っています。
■(4) その他
主に法人顧客に対し、リサーチ、コンサルティング、システム開発・運用サービス等を提供しています。
収益は、システム開発・運用やコンサルティング業務に対する受託手数料等です。運営は主に大和総研グループが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、営業収益は2021年3月期以降、増加傾向にあり、特に2024年3月期から2025年3月期にかけて大きく伸長しています。利益面では、経常利益、当期純利益ともに2023年3月期に一時落ち込みましたが、その後はV字回復し、2025年3月期には過去5期間で最高益を記録しています。利益率も改善傾向にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 営業収益 | 5,762億円 | 6,195億円 | 8,661億円 | 12,775億円 | 13,720億円 |
| 経常利益 | 1,152億円 | 1,358億円 | 869億円 | 1,746億円 | 2,247億円 |
| 利益率(%) | 20.0% | 21.9% | 10.0% | 13.7% | 16.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,084億円 | 949億円 | 639億円 | 1,216億円 | 1,544億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、営業収益、純営業収益ともに増加し、増収となっています。売上高に相当する純営業収益の伸びに伴い、営業利益も増加しました。純営業収益に対する営業利益率は20%台後半で安定的に推移しています。経常利益ベースでの成長が著しく、収益性が向上しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業収益 | 12,775億円 | 13,720億円 |
| 純営業収益 | 5,909億円 | 6,460億円 |
| 純営業収益率(%) | 46.3% | 47.1% |
| 営業利益 | 1,537億円 | 1,667億円 |
| 営業利益率(%) | 26.0% | 25.8% |
販売費・一般管理費のうち、人件費が2,450億円(構成比51%)、取引関係費が918億円(同19%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントともに増収となりました。特にウェルスマネジメント部門は、顧客へのコンサルティング強化や商品拡充により収益を伸ばし、利益も大きく増加しました。グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門も増収となりましたが、利益は微減しました。アセットマネジメント部門は運用資産残高の拡大等により増収増益を達成しました。
| 区分 | 純営業収益(2024年3月期) | 純営業収益(2025年3月期) | 経常利益(2024年3月期) | 経常利益(2025年3月期) | 経常利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ウェルスマネジメント部門 | 2,281億円 | 2,558億円 | 662億円 | 807億円 | 31.5% |
| アセットマネジメント部門 | 978億円 | 1,025億円 | 664億円 | 774億円 | 75.5% |
| グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門 | 2,205億円 | 2,342億円 | 440億円 | 427億円 | 18.2% |
| その他 | 445億円 | 534億円 | -21億円 | 239億円 | 44.7% |
| 調整額 | -177億円 | -171億円 | -14億円 | 206億円 | - |
| 連結(合計) | 5,909億円 | 6,460億円 | 1,746億円 | 2,247億円 | 34.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローの状況は、本業で現金を減らし、投資活動でも現金を支出する一方、財務活動で資金を調達している「勝負型(事業拡大に伴う資産増加)」です。なお、同社は金融・証券関連事業を主力としているため、営業CFのマイナスは主にトレーディング商品の増加(事業拡大)によるものであり、直ちに業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 7,051億円 | -4,541億円 |
| 投資CF | -2,240億円 | -3,534億円 |
| 財務CF | -28億円 | 1,990億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は4.6%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「信頼の構築」「人材の重視」「社会への貢献」「健全な利益の確保」を企業理念として掲げています。グループ経営基本方針として「お客様の資産価値最大化」を定め、顧客のニーズや課題を深く理解し、最善・最適なソリューションを提供することで、中長期的な顧客の資産価値および企業価値の最大化に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、経営ビジョン「2030Vision」の中で、「Passion for the Best」をスローガンとして掲げています。これは、社員一人ひとりが情熱を持って最高品質の商品・サービスを提供し続ける姿勢を表しています。また、サステナビリティを経営の根幹に据え、多様な人材が活躍できる環境づくりや社会課題の解決に取り組む姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2024年度を初年度とする中期経営計画「“Passion for the Best”2026」において、2026年度の数値目標を設定しています。
* 連結経常利益:2,400億円以上
* 連結ROE:10%程度
* ベース利益(ウェルスマネジメント部門、証券アセットマネジメント、不動産アセットマネジメントの経常利益合計):1,500億円
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画の達成に向け、ウェルスマネジメントビジネスの深化とアセットマネジメントビジネスの高度化を推進しています。具体的には、富裕層や法人顧客へのオーダーメイドなソリューション提供、デジタルマーケティングの活用、外部企業との提携による顧客基盤の拡大などに取り組んでいます。また、インオーガニック戦略(M&Aや資本提携)による事業基盤の拡充も進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人材の重視」を企業理念に掲げ、人事戦略を経営戦略の一環と位置付けています。「採用」「育成」「人財ポートフォリオ」「評価・処遇」を進化・深化させ、社員のエンゲージメントを高めることで競争力強化を図っています。具体的には、ポテンシャル人材の積極採用、デジタル人材の育成、自律的なキャリア形成支援、そして公正な評価・処遇体系の構築などに取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.9歳 | 13.7年 | 16,264,750円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 20.3% |
| 男性育児休業取得率 | 116.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 71.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 51.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、キャリア採用比率(37.3%)、CFP・証券アナリスト資格取得者(3,253名)、持続可能なエンゲージメント(81%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済情勢および金融市場の変動
日本および世界の景気、経済情勢、金融市場の変動は、同社グループの業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。具体的には、国内外の株価下落、為替・金利の変動、企業業績の悪化などが、手数料収入の減少やトレーディング損益の悪化などを招くリスクがあります。特に、地政学的リスクの高まりや各国の金融政策の変更などが市場に急激な変動をもたらす可能性があります。
■(2) 外的要因による影響
戦争、テロ、自然災害(地震、津波、洪水等)、感染症の流行、インフラ障害などの予測不可能な外的要因は、市場の急変や業務の中断を引き起こし、同社グループの事業、財政状態および経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。過去には米国同時多発テロや東日本大震災、金融政策の転換などが業績に大きな影響を与えています。
■(3) 気候変動への対応
脱炭素社会への移行に伴う政策や規制の強化(カーボンプライシング等)、技術革新、市場の変化(座礁資産化等)といった移行リスクや、自然災害の激甚化による物理的リスク(資産価値の毀損、事業中断等)が存在します。これらのリスクへの対応が不十分な場合、コスト増加や収益悪化、レピュテーションの毀損につながる可能性があります。
■(4) 競争環境の激化
証券業界における規制緩和や異業種からの参入により、国内外の金融グループ等との競争が激化しています。価格競争やサービスの差別化において十分な競争力を発揮できない場合、市場シェアの低下や収益性の悪化を招くリスクがあります。これに対処するため、グループ総合力を活かした付加価値の高いサービスの提供を目指していますが、競争環境の変化が業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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