※本記事は、いちよし証券株式会社の有価証券報告書(第84期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月12日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. いちよし証券ってどんな会社?
金融商品取引業を中核とし、個人富裕層向けの中長期的な資産運用アドバイスに強みを持つ証券会社です。
■(1) 会社概要
1944年に証券業3店が合併し三栄証券として設立されました。1950年に一吉証券に商号変更し、1986年に総合証券となりました。1989年に東京証券取引所等の市場第二部に上場し、2000年に現在のいちよし証券に商号変更しています。2023年には有価証券の引受け業務を取りやめ、資産管理型ビジネスへの集中を図っています。
従業員数は連結で1,014名、単体で920名です。筆頭株主は信託・カストディ業務等を行うUS BANK NATIONAL ASSOCIATION(常任代理人 三菱UFJ銀行)で、第2位も資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位は事業会社の野村総合研究所です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| US BANK NATIONAL ASSOCIATION JP ACCTS TS(常任代理人 三菱UFJ銀行) | 18.82% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.67% |
| 野村総合研究所 | 2.73% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は29.0%です。代表取締役社長の玉田弘文氏をはじめとする経営陣が組織を牽引しており、社外取締役の比率は57.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 玉田弘文 | 取締役(兼)代表執行役社長 | 1995年三洋証券入社。1998年同社入社。神戸支店長、近畿アドバイザー本部長などを経て、2020年4月代表執行役社長に就任。2025年4月より現職。 |
| 武樋政司 | 取締役会長 | 1967年野村證券入社。同社常務取締役を経て1993年同社代表取締役副社長に就任。1995年代表取締役社長、2007年代表執行役社長などを経て、2018年4月より現職。 |
| 山﨑昇一 | 取締役(兼)代表執行役副社長 | 1978年野村證券入社。セガ・エンタープライゼスなどを経て2015年同社執行役員に就任。財務・経営部門などを管掌し、2025年5月より現職。 |
社外取締役は、五木田彬(弁護士)、真下陽子(社会保険労務士)、平野英治(元日本銀行理事)、沼田優子(明治大学専門職大学院専任教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「投資・金融サービス業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 投資・金融サービス事業
有価証券の売買等およびその委託の媒介、有価証券の募集や私募の取り扱いなど、お客様の多様なニーズに対応した投資・金融サービスを提供しています。主に個人富裕層に向けた資産運用アドバイスや、中小型成長企業のリサーチに基づく情報提供を行っています。
収益源は、主に投資信託の信託報酬やファンドラップの運用管理手数料などの安定収益です。運営はいちよし証券が中核となり、いちよし経済研究所がリサーチ業務を、いちよしアセットマネジメントが資産運用業を、いちよしIFAが金融商品仲介業を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、営業収益は増減を繰り返しながらも直近で大きく拡大しています。経常利益も同様の傾向を示しており、直近の期には預り資産の増加に伴う安定収益の拡大により、利益率が大幅に改善し過去最高水準の業績を記録しました。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 196億円 | 167億円 | 188億円 | 188億円 | 246億円 |
| 経常利益 | 34億円 | 12億円 | 29億円 | 24億円 | 62億円 |
| 利益率(%) | 17.6% | 7.3% | 15.3% | 12.8% | 25.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 29億円 | 8億円 | 13億円 | 11億円 | 43億円 |
■(2) 損益計算書
営業収益は前期比で大きく伸長しました。預り資産の増加による受入手数料等の拡大が寄与し、営業利益は前期から大幅な増益を達成しました。これにより営業利益率も大きく改善しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 188億円 | 246億円 |
| 売上総利益 | - | - |
| 売上総利益率(%) | - | - |
| 営業利益 | 23億円 | 62億円 |
| 営業利益率(%) | 12.2% | 25.1% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が103億円(構成比56.0%)、事務費が25億円(同13.7%)を占めています。
■(3) キャッシュ・フローと財務指標
営業キャッシュ・フローがプラス、投資キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態である「健全型」に分類されます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3億円 | 40億円 |
| 投資CF | -3億円 | -22億円 |
| 財務CF | -30億円 | -13億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.0%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も56.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「いちよしの存在価値」として「一人一人のお客様のお役に立つことにより、地域社会と証券市場の発展に貢献する」を掲げています。また、経営理念に「お客様に信頼され選ばれる企業であり続ける」を据え、経営目標として「金融・証券界のブランド・ブティックハウス」となることを目指しています。
■(2) 企業文化
2006年に制定された企業理念「いちよしのクレド」を中心とし、「今までの日本にない証券会社をつくろう」を合言葉に行動しています。行動指針として「感謝・誠実・勇気・迅速・継続」を掲げ、お客様との深い信頼関係を重視し、お客様のためにならない商品は取り扱わない「いちよし基準」を徹底しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年3月末を目標とする新中期経営計画「ターゲット5 <ONE TEAM>」において、持続的な成長を実現するための数値目標を掲げています。
* 預り資産:5兆円
* ベース資産・準ベース資産の預り資産全体に占める割合:30%
* コストカバー率:100%
* ROE(自己資本当期純利益率):15%
■(4) 成長戦略と重点施策
「ストック型ビジネスモデル」への転換を加速させるため、預り資産の拡大を持続的な成長の源泉と位置づけています。同社グループの強みであるリサーチ力、運用力、アドバイス力を活かし、お客様独自のオーダーメイドのポートフォリオ提案に取り組みます。また、先行投資として人材、AI、DXに注力し、生産性と効率の向上を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材こそが成長の源泉であり最大の先行投資であるとし、採用、育成、定着の循環を強化しています。多様な人材を確保するため中途採用やリターン採用を推進し、「いちよしのクレド」の浸透や手厚い研修によるアドバイザーの育成に注力しています。また、働きやすくやりがいのある職場づくりを進め、ワークライフバランスの充実に努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.1歳 | 14.6年 | 7,836,232円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 20.3% |
| 男性育児休業取得率 | 110.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 73.8% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 80.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇の取得率(56.5%)、新卒・中途採用における女性採用比率(36.1%)、社員に占める中途採用者の割合(47.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 金融商品取引業の収益変動リスク
国内外の株式や債券相場の下落、流通市場での売買高の減少により、同社の委託手数料が減少する可能性があります。また、これに付随して発行市場においても同様の影響を受けるリスクが存在します。
■(2) 信用(取引先)リスク
取引先の債務不履行や信用状態の悪化等により、貸付金などの回収が困難となる可能性があり、同社グループの経営成績や財政状態に損失を及ぼすリスクがあります。
■(3) システムに関するリスク
業務遂行において不可欠なコンピュータシステムが、災害や停電などによるダウン、誤作動を引き起こした場合や、外部からの不正アクセス等によりシステムが不正使用された場合、業務に重大な支障をきたし損失が発生する可能性があります。



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