※本記事は、いちよし証券株式会社 の有価証券報告書(第83期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. いちよし証券ってどんな会社?
中小型成長株と富裕層ビジネスに特化した独自の「ブランド・ブティックハウス」を目指す独立系証券会社です。
■(1) 会社概要
1944年に三栄証券として設立され、1950年に一吉証券へ商号変更しました。2000年に現在のいちよし証券へ商号変更し、同年にいちよし経済研究所といちよし投資顧問(現いちよしアセットマネジメント)を連結子会社化しました。2006年には東京証券取引所市場第一部および大阪証券取引所市場第一部に指定されています。
2025年3月31日現在の連結従業員数は965名、単体では874名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位はBNYメロン(常任代理人三菱UFJ銀行)、第3位は株式会社日本カストディ銀行となっており、信託銀行やカストディ銀行が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.82% |
| BNYM AS AGT/CLTS NON TREATY JASDEC | 5.21% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.88% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は29.0%です。代表執行役社長は玉田弘文氏が務めています。社外取締役比率は57.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 玉田 弘文 | 取締役(兼)代表執行役社長 | 1995年三洋証券入社。1998年同社入社。近畿アドバイザー本部長、管理・企画部門担当などを歴任し、2020年4月より現職。 |
| 武樋 政司 | 取締役取締役会長取締役会議長指名委員報酬委員 | 1967年野村證券入社。同社常務取締役を経て1993年同社入社。代表執行役社長、執行役会長などを歴任し、2018年4月より現職。 |
| 山﨑 昇一 | 取締役(兼)代表執行役副社長 | 1978年野村證券入社。SBIホールディングス等を経て2015年同社入社。財務・経営部門などを管掌し、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、五木田彬(元検事・弁護士)、真下陽子(社会保険労務士)、平野英治(元日本銀行理事)、沼田優子(明治大学専門職大学院教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「投資・金融サービス業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 金融商品取引業
個人および法人顧客に対し、有価証券の売買、媒介、募集、売出し等の金融サービスを提供しています。特に中小型成長株や富裕層向けビジネスに強みを持ち、対面営業を中心としたアドバイスを行っています。
収益は主に顧客からの委託手数料、投資信託の募集・販売手数料、ファンドラップ等の管理報酬(信託報酬やフィー)から成ります。運営は主にいちよし証券が行い、金融商品仲介業としていちよしビジネスサービス、いちよしIFAが関わっています。
■(2) リサーチ・資産運用事業
機関投資家や個人投資家に対し、中小型成長企業のリサーチ情報や投資信託等の運用商品を提供しています。リサーチ部門は中小型株に特化した調査を行い、運用部門は投資信託の設定・運用や投資助言を行っています。
収益はリサーチ情報の提供対価や、投資信託および投資一任契約に基づく信託報酬、運用報酬等です。運営はリサーチ業務を株式会社いちよし経済研究所、資産運用業務をいちよしアセットマネジメント株式会社が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの業績を見ると、売上高(営業収益)は市場環境の影響を受けつつ推移しています。2022年3月期に利益が拡大した後、2023年3月期は減益となりましたが、2024年3月期には回復を見せました。直近の2025年3月期は再び減益となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 164億円 | 173億円 | 143億円 | 161億円 | 158億円 |
| 経常利益 | 13億円 | 34億円 | 12億円 | 29億円 | 24億円 |
| 利益率(%) | - | - | - | - | - |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 10億円 | 29億円 | 8億円 | 13億円 | 11億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績を比較すると、売上高はほぼ横ばいですが、利益面では減少傾向にあります。売上総利益率は高い水準を維持しているものの、営業利益および営業利益率は低下しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 188億円 | 188億円 |
| 売上総利益 | - | - |
| 売上総利益率(%) | - | - |
| 営業利益 | 23億円 | 23億円 |
| 営業利益率(%) | 12.1% | 12.2% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が89億円(構成比54.1%)、不動産関係費が23億円(同14.2%)を占めています。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、本業で現金を稼ぎ出し、それを原資に借入返済や自己株式取得などの財務活動を行っている「健全型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 38億円 | 3億円 |
| 投資CF | -5億円 | -3億円 |
| 財務CF | -11億円 | -30億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.5%で市場平均を安定的ですが、プライム市場平均(9.4%)を下回っています。一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は65.4%で、プライム市場非製造業平均(24.2%)を大きく上回る高い水準を維持しています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「いちよしの存在価値」として、一人一人のお客様の役に立つことで地域社会と証券市場の発展に貢献することを掲げています。「今までの日本にない証券会社をつくろう」を合言葉に、「金融・証券界のブランド・ブティックハウス」の構築を経営目標とし、顧客からの信頼に基づく持続的な成長を目指しています。
■(2) 企業文化
「いちよしのクレド」を行動指針の中心に据え、全役職員共通の価値観としています。20年来、「売れる商品でも、売らない信念(いちよし基準)」を掲げ、仕組み債や個別外国株など顧客のためにならない商品は取り扱わない方針を徹底しています。また、新たに「お客様独自のオーダーを仕立てる信念」を掲げ、顧客本位の姿勢を強化しています。
■(3) 経営計画・目標
2026年3月末をターゲットとする中期経営計画「3・D」を推進しています。預り資産の拡大を最重要指標と位置づけ、ストック型ビジネスモデルへの転換加速を目指しています。
* 預り資産:3兆円
* コストカバー率:70%
* ROE(自己資本当期純利益率):10%
■(4) 成長戦略と重点施策
「金融・証券界のブランド・ブティックハウス」への登頂を目指し、20年振りの「改革の断行」を進めています。特に、売買手数料中心のフロー型から、投資信託やファンドラップの安定収益を中心としたストック型ビジネスモデルへの転換を一層推進します。
具体的には、支店主導の営業推進体制への切り替えや小型店舗(プラネットプラザ)の出店による店舗網の再編を実施しています。また、グループの総合力(アドバイス力、リサーチ力、運用力)を結集し、預り資産の拡大とコストカバー率の向上による安定的な収益基盤の構築を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材こそが成長の源泉であり最大の先行投資対象であると位置づけています。アドバイザーの質向上や若手・次期管理職の育成に注力するとともに、女性やシニア層の積極的な活用・登用を進めています。「働きやすい・やりがいがある職場」作りを通じて社員のやる気を高め、長く働ける環境の整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均(763万円)をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.2歳 | 15.5年 | 7,265,364円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 19.2% |
| 男性育児休業取得率 | 108.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 73.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 85.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、中途採用比率(46.0%)、有給休暇の取得率(53.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 金融商品取引業の収益変動リスク
国内外の株式・債券相場が下落または低迷した場合、流通市場での売買高が減少し、同社の売買委託手数料が減少する可能性があります。また、これに伴い発行市場においても同様の影響を受ける可能性があります。
■(2) 信用(取引先)リスク
取引先の債務不履行や信用状態の変化により、損失を被る可能性があります。同社は金融商品取引業者として多くの取引先と関わりがあるため、取引先の信用リスク管理が重要となります。
■(3) システムに関するリスク
コンピュータシステムのダウン、誤作動、災害や停電による障害等により損失が発生する可能性があります。また、コンピュータの不正使用による損失発生のリスクもあります。同社はシステムへの依存度が高いため、安定稼働に向けた対策を講じています。
■(4) リーガルリスク
法令違反等があった場合、損失の発生、訴訟の提起、監督当局からの行政処分等を受ける可能性があります。金融商品取引業は規制産業であり、法令遵守体制の不備は経営に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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