京浜急行電鉄 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

京浜急行電鉄 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の京浜急行電鉄は、鉄道・バス等の交通事業を中核に、不動産、レジャー・サービス、流通事業を展開しています。2025年3月期は、鉄道旅客運賃改定の効果や移動需要の回復により増収となり、営業利益・経常利益も大幅に増加しましたが、前期の固定資産売却益の反動等により最終利益は減益となりました。


※本記事は、京浜急行電鉄株式会社 の有価証券報告書(第104期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 京浜急行電鉄ってどんな会社?


首都圏の品川・羽田・横浜・三浦半島を結ぶ鉄道・バスなどの交通事業を基盤に、沿線の不動産や流通事業も展開する企業グループです。

(1) 会社概要


1898年に大師電気鉄道として創立し、翌年京浜電気鉄道へ商号変更しました。1948年に現在の京浜急行電鉄が発足し、1949年に東証へ上場しています。1968年の都心乗り入れ、1998年の羽田空港ターミナル乗り入れなど、ネットワークを拡大してきました。近年はみなとみらい地区での開発など不動産事業も強化しています。

連結従業員数は8,484名、単体では2,907名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は投資会社のフォルティス、第3位は日本カストディ銀行(信託口)です。上位には金融機関や投資会社が名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11.46%
フォルティス 5.99%
日本カストディ銀行(信託口) 3.75%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性2名(HTML参照では社外含め13名中2名女性、比率15.0%)の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表者は取締役社長の川俣 幸宏氏です。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
原  田  一  之 取締役会長(代表取締役) 1976年同社入社。2013年取締役社長、2019年取締役社長執行役員を経て、2022年4月より現職。
川 俣 幸 宏 取締役社長(代表取締役)社長執行役員グループ業務監査部担当 1986年同社入社。2019年取締役常務執行役員を経て、2022年4月より現職。
金 子 雄 一 取締役専務執行役員経営戦略室長人財戦略部担当 1988年同社入社。2021年常務執行役員、2023年取締役常務執行役員を経て、2025年4月より現職。
櫻 井 和 秀 取締役常務執行役員生活事業創造本部長 1988年同社入社。2022年常務執行役員、同年6月より現職。
竹 谷 英 樹 取締役常務執行役員鉄道本部長生活事業創造本部品川開発推進部担当 1988年同社入社。2023年常務執行役員、同年6月より現職。
杉 山   勲 取締役常務執行役員新しい価値共創室長 1990年同社入社。2024年常務執行役員、同年6月より現職。


社外取締役は、寺島 剛紀(元日本生命保険相互会社代表取締役副社長)、柿﨑 環(明治大学法学部教授)、野原 佐和子(イプシ・マーケティング研究所代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「交通事業」「不動産事業」「レジャー・サービス事業」「流通事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 交通事業


鉄道、バス、タクシー等による旅客輸送サービスを提供しており、首都圏の品川・羽田・横浜・三浦半島エリアを主要な事業基盤としています。通勤・通学輸送に加え、羽田空港アクセスとしての役割も担っています。

運賃収入等が主な収益源です。鉄道事業は同社が運営し、バス事業は京浜急行バス、川崎鶴見臨港バスなどが、タクシー事業は京急交通などがそれぞれ運営を行っています。

(2) 不動産事業


沿線地域を中心に、分譲マンションや戸建住宅の販売を行う不動産販売業と、オフィスビルや商業施設等の賃貸を行う不動産賃貸業を展開しています。近年は資産の流動化による回転型ビジネスへの転換を進めています。

不動産の販売代金や賃貸料が主な収益源です。運営は主に同社および京急不動産が行っており、賃貸事業の一部は京急開発や臨港エステートなども担当しています。

(3) レジャー・サービス事業


「京急EXイン」等のビジネスホテルチェーンの展開や、水族館・マリーナ等のレジャー施設の運営、ボートレース事業などを行っています。

宿泊料や施設利用料などが主な収益源です。ビジネスホテル業は同社および京急イーエックスインが、レジャー関連施設業は同社や京急開発などが運営を行っています。

(4) 流通事業


沿線住民を主な顧客として、百貨店やスーパーマーケット、ショッピングセンターの運営を行っています。

商品の販売代金が主な収益源です。百貨店業は京急百貨店が、ストア業は京急ストアがそれぞれ運営を行っています。

(5) その他


建設工事、鉄道車両の整備・改造、ビル管理、電気設備工事など、グループ各事業を支える周辺事業を展開しています。

工事代金や管理委託料などが収益源です。京急建設が土木・建築工事を、京急ファインテックが車両整備を、京急サービスがビル管理をそれぞれ担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期はコロナ禍の影響で赤字となりましたが、その後は回復基調にあります。2024年3月期は大幅な増益となりました。2025年3月期は、運賃改定等の効果で営業利益・経常利益は伸長しましたが、特別利益の減少により当期純利益は減少しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益(または売上高) 2,350億円 2,652億円 2,530億円 2,806億円 2,939億円
経常利益 -202億円 51億円 122億円 284億円 350億円
利益率(%) -8.6% 1.9% 4.8% 10.1% 11.9%
当期利益(親会社所有者帰属) -272億円 125億円 158億円 838億円 243億円

(2) 損益計算書


売上高は増加し、営業利益率も向上しています。これは主に交通事業における運賃改定効果や移動需要の回復によるものです。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 2,806億円 2,939億円
売上総利益 694億円 786億円
売上総利益率(%) 24.7% 26.8%
営業利益 280億円 356億円
営業利益率(%) 10.0% 12.1%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が197億円(構成比46%)、経費が171億円(同40%)を占めています。

(3) セグメント収益


交通事業は運賃改定や空港利用者の増加により大幅な増収増益となりました。一方、不動産事業は前期のマンション販売の反動により減収減益となりました。流通事業は百貨店やストアが堅調でしたが、人件費増により利益は横ばいでした。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
交通事業 1,089億円 1,171億円 108億円 189億円 16.1%
不動産事業 546億円 483億円 97億円 69億円 14.4%
レジャー・サービス事業 266億円 285億円 46億円 49億円 17.3%
流通事業 713億円 798億円 21億円 21億円 2.6%
その他 193億円 202億円 15億円 36億円 18.1%
調整額 -億円 -億円 -6億円 -8億円 -%
連結(合計) 2,806億円 2,939億円 280億円 356億円 12.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業(健全型)です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 662億円 148億円
投資CF 297億円 -692億円
財務CF -38億円 -209億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は35.7%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同グループは、「都市生活を支える事業を通して、新しい価値を創造し、社会の発展に貢献する」ことをグループ理念として掲げています。また、「社会の持続的発展への貢献」と「同グループの持続的発展」のよりよい循環を目指すサステナビリティ基本方針を定めています。

(2) 企業文化


「伝統のもとに、創意あふれる清新な気風をもって、総合力を発揮し、社業の躍進をめざす」ことや、「グループの繁栄と全員の幸福との一致を追求する」ことを理念として掲げ、これらを基礎とした経営・事業活動を推進しています。

(3) 経営計画・目標


2024年度から2026年度を中期経営計画期間とする第20次総合経営計画を推進しています。2026年度の目標経営指標として以下を掲げています。
* 営業利益:450億円
* 純有利子負債/EBITDA倍率:7倍台以下
* ROE:8%

(4) 成長戦略と重点施策


移動とまち創造の両プラットフォームの「相互価値共創」を軸とする「沿線価値共創戦略」を推進しています。特に品川・羽田・横浜を結ぶ「成長トライアングルゾーン」の開発を重点事業としており、品川駅周辺開発や羽田空港引上線の整備に取り組んでいます。また、不動産事業では回転型ビジネスへの転換を進め、資本収益性の向上を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


多様な視点で価値創造ができる「個」の成長後押しと、信頼と協力を大切にし「個」の創発を促す組織・カルチャー醸成の両輪により、企業価値向上を目指しています。具体的には、リスキリング機会の創出やマネジメント研修の強化、エンゲージメントサーベイの実施による組織風土改革などを推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 40.6歳 17.8年 7,045,243円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.0%
男性育児休業取得率 82.0%
男女賃金差異(全労働者) 77.2%
男女賃金差異(正規雇用) 75.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 50.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメント(肯定的回答:37%)、障がい者雇用比率(3.3%)、年次有給休暇取得率(93.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 人口減少・少子高齢化の影響


同社グループの事業は沿線地域に集中しているため、少子高齢化の進行などにより地域人口が減少した場合、財政状態や業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) リスクが沿線全域に与える影響


事業が都心から品川、羽田空港、川崎、横浜を経て三浦半島に至る沿線地域に集中しているため、社会的・自然的要因等により沿線地域の発展が阻害された場合や、沿線地域が壊滅的な被害を受けた場合、大きな経済的影響を受ける可能性があります。

(3) 品川駅周辺開発による影響


品川駅西口基盤整備事業の推進に伴い、所有地の譲渡や施設の一部閉鎖などにより一時的に業績に影響が出る可能性があります。また、不動産賃貸需要の著しい減少や建設工事費の高騰があった場合、開発計画が変更となる可能性があります。

(4) 法的規制による影響


基幹事業である交通事業は鉄道事業法等の厳格な法規制の下にあり、運賃設定や安全対策等において規制を受けています。規制の強化や社会情勢等の変化によっては、財政状態や業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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