東京地下鉄 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京地下鉄 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する東京地下鉄は、首都圏の地下鉄ネットワークを運営する運輸業を中核に、不動産事業やライフ・ビジネスサービス事業を展開しています。直近の業績は、旅客運輸収入が好調に推移したこと等により増収増益を達成しており、安定した収益基盤と多角的な事業展開が特徴の企業です。


※本記事は、東京地下鉄株式会社の有価証券報告書(第22期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 東京地下鉄ってどんな会社?


首都圏で9路線の地下鉄を運営し、鉄道事業を軸に不動産や商業施設事業を展開する企業です。

(1) 会社概要


1941年に設立された帝都高速度交通営団を前身とし、2004年に同営団の事業を承継して東京地下鉄が設立されました。その後、2008年に副都心線が全線開通するなど首都圏の鉄道ネットワークを拡充し、2024年10月には東京証券取引所プライム市場への上場を果たしました。

現在の従業員数は連結で11,441名、単体で9,532名です。大株主については、筆頭株主が財務大臣、第2位が東京都となっており、国と地方公共団体が主要な株主となっています。第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
財務大臣 26.73%
東京都 23.31%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 4.84%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性4名の計14名で構成され、女性役員比率は28.6%です。代表取締役社長は小坂彰洋氏が務めています。社外取締役は4名です。

氏名 役職 主な経歴
小坂彰洋 代表取締役社長社長執行役員 1986年帝都高速度交通営団入団。同社経営企画本部企業価値創造部長などを経て、2023年代表取締役専務執行役員を歴任。2025年6月より現職。
上原淳 代表取締役副社長コンプライアンス・リスクマネジメント責任者 1987年運輸省入省。国土交通省にて鉄道局長などを歴任し、2024年運輸総合研究所理事長に就任。2025年6月より現職。
潮田勉 代表取締役副社長サステナビリティ責任者 1985年東京都入都。財務局長、副知事を歴任し、東京臨海熱供給代表取締役社長を経て、2025年6月より現職。
小川孝行 代表取締役専務執行役員鉄道本部長 1986年帝都高速度交通営団入団。同社鉄道統括部長を経て、2017年に取締役就任。常務取締役などを歴任し、2023年6月より現職。
鈴木信行 代表取締役専務執行役員経営企画本部長 1990年帝都高速度交通営団入団。同社財務部長を経て、2023年取締役執行役員財務部担当に就任。2025年6月より現職。
堂免敬一 取締役常務執行役員人事部担当 1990年帝都高速度交通営団入団。同社広報部長、人事部長を経て、2023年取締役執行役員人事部長に就任。2025年6月より現職。


社外取締役は、小林英三(元日本証券金融社長)、武井奈津子(元ソニーグループ常務)、井村順子(井村公認会計士事務所開設)、加藤一誠(慶應義塾大学商学部教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「運輸業」「不動産事業」「ライフ・ビジネスサービス事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 運輸業


東京都区部を中心に、9路線からなる地下鉄ネットワークを保有し、鉄道の運行および運営、鉄道施設等の保守管理を行っています。また、海外都市鉄道の運営や維持支援も展開しています。

主に顧客から受け取る旅客運輸収入が収益源です。鉄道事業を同社が担うほか、メトロコマースが駅の運営管理を、メトロ車両などが施設の保守管理を行っています。海外ではベトナム東京メトロなどが事業を展開しています。

(2) 不動産事業


鉄道事業とのシナジー効果が発揮できる事業展開を基本とし、同社路線の沿線において、オフィスビルやホテルを中心とした不動産の開発や賃貸を行っています。

入居テナントなどからの不動産賃貸収入が主な収益源です。不動産の開発と同社保有物件の賃貸は同社が行い、東京メトロ都市開発が不動産の賃貸および管理を担っています。また、東京メトロアセットマネジメントが投資法人の資産運用を行っています。

(3) ライフ・ビジネスサービス事業


同社資産などを活用し、駅構内や周辺での商業施設の運営、駅構内や車両内の広告媒体の販売、携帯電話通信サービスの営業許諾などを行っています。

テナントからの賃貸収入や広告主からの広告収入などが主な収益源です。商業施設の開発や通信サービスは同社が、商業施設の運営はメトロプロパティーズ等が、広告事業はメトロアドエージェンシーが担当しています。

(4) その他


報告セグメントに含まれない事業として、同社施設の管理運営事業や福利厚生施設の運営、施設の清掃などを行っています。

グループ内の各種業務受託による収入が主な収益源です。福利厚生施設の運営をメトロライフサポートが、人事・経理・システムに関する事務をメトロビジネスアソシエが、施設の清掃をメトロフルールが担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は継続的な増加傾向にあります。経常利益は新型コロナウイルス感染症の影響などにより赤字を計上した時期もありましたが、その後は旅客需要の回復などにより黒字転換し、直近では増益基調が定着しています。安定した収益基盤の回復が確認できます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 3,069億円 3,454億円 3,893億円 4,078億円 4,224億円
経常利益 -205億円 197億円 659億円 770億円 792億円
利益率(%) - - - - -
当期利益(親会社所有者帰属) -150億円 266億円 458億円 519億円 563億円

(2) 損益計算書


営業収益と営業利益はともに増加しており、堅調な事業運営がうかがえます。旅客運輸収入の好調な推移が増収に寄与し、経費や人件費の増加といった営業費の拡大を吸収して営業増益を確保しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業収益 4,078億円 4,224億円
売上総利益 - -
売上総利益率(%) - -
営業利益 869億円 896億円
営業利益率(%) - -


販売費及び一般管理費のうち、経費が171億円(構成比31.0%)、人件費が169億円(同30.6%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の運輸業が全体の売上の大部分を占めており、安定した旅客需要を背景に前期から増収となっています。また、ライフ・ビジネスサービス事業や不動産事業も堅調に推移しており、各セグメントにおいて事業基盤の維持と成長が確認できます。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
運輸業 3,701億円 3,841億円
不動産事業 144億円 145億円
ライフ・ビジネスサービス事業 230億円 236億円
その他 2億円 2億円
連結(合計) 4,078億円 4,224億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 1,235億円 1,338億円
投資CF -895億円 -874億円
財務CF -509億円 -518億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は35.9%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「東京を走らせる力」をグループ理念(ミッション)として掲げています。鉄道事業を中心とした事業展開により首都東京の都市機能を支え、都市としての魅力と活力を引き出すことを使命としています。また、優れた技術力と創造力で安全・安心で快適なサービスを提供し、東京に集う人々の毎日に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「次の『あたりまえ』と『ワクワク』を」というビジョンの実現に向け、多様なステークホルダーとの価値協創を重視する文化を持っています。また、多様な社員がお互いに認め合い、アイデアを出し合って切磋琢磨する組織風土の醸成に取り組んでいます。社員には「自律」「挑戦」「協働」を体現することが求められています。

(3) 経営計画・目標


同社は中期経営計画「Run!~次代を翔けろ~」において、持続的な成長に向けて本業の収益力を向上させるとともに、一定の財務健全性を確保しながら資本効率を意識した経営を目指しています。2028年3月期末の経営目標として、以下の数値を掲げています。

* 連結営業利益:930億円
* 連結EBITDA:1,740億円
* 連結純有利子負債/EBITDA倍率:6.3倍

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、基幹事業である鉄道事業において、自然災害対策やバリアフリー化を含めた安全・サービス向上に取り組むとともに、新線建設を着実に推進します。また、労働人口減少への対応として自動運転技術などの新技術を導入しオペレーションを進化させます。さらに、まちづくりに寄与する不動産事業やライフ・ビジネスサービス事業を拡大し、収益基盤の多角化を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、経営戦略の実現に向けて「自律」「挑戦」「協働」を体現できる人材の育成を重視しています。DE&Iを人財戦略の基盤に据え、採用強化や働きやすさ向上、やりがい創出、福利厚生の拡充など多角的な人事施策を実行しています。多様な社員がお互いに認め合い、一人ひとりが能力を最大限発揮できる企業風土を醸成することで、持続的な企業価値の向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 39.7歳 18.1年 8,365,521円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.3%
男性育児休業取得率 97.0%
男女賃金差異(全労働者) 67.3%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 68.9%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 219.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性社員比率(7.5%)、従業員あたり研修受講時間(71.5時間)、新任マネジメント層への研修受講率(99.3%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 首都圏の人口動向等による需要変動リスク


同社は首都圏を中心に鉄道事業を展開しており、就業・就学人口の減少や高齢化、テレワークの定着による移動需要の減少など、社会構造の変化が業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、企画乗車券の販売やデジタルマーケティングを推進するとともに、不動産などの事業多角化により需要変動の平準化を図っています。

(2) 法的規制や運賃改定制度に伴う事業リスク


鉄道事業は鉄道事業法等の法的規制を受けており、運賃の改定には国土交通大臣の認可や届出などの所定の手続が必要です。機動的な運賃改定ができない場合や、バリアフリー料金制度に関する法令・運用の変更が生じた場合には、事業活動や業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は関係者と連携し、適切な対応に努めています。

(3) 新線建設の長期化やコスト増加リスク


有楽町線や南北線の延伸工事など新線の建設において、輸送需要を含めた事業環境の変化、想定外のスケジュール長期化や追加コストの発生が生じた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。十分な公的支援などを前提としつつ、同社の経営に悪影響を及ぼさない範囲内で慎重に事業を推進する方針を掲げています。

(4) 資金調達コストの上昇リスク


地下鉄ネットワークの整備や継続的な設備投資のため、同社は社債や金融機関からの借入により多額の長期資金を調達しています。金融環境の変化に伴う金利の大幅な上昇や信用格付の引き下げが発生した場合、資金調達コストが増加するリスクがあります。そのため、債務残高を一定水準に抑制し、財務規律の維持を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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