東京地下鉄(東京メトロ) 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京地下鉄(東京メトロ) 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場する東京地下鉄は、東京都区部を中心に9路線の地下鉄ネットワークを運営する鉄道事業者です。旅客運輸収入の回復により、直近の業績は増収増益で堅調に推移しています。鉄道事業に加え、沿線開発などの不動産事業や駅ナカ店舗運営などの流通・広告事業も展開しています。


※本記事は、東京地下鉄株式会社 の有価証券報告書(第21期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 東京地下鉄ってどんな会社?

首都圏の鉄道ネットワークの中核を担い、不動産や流通事業も展開する企業グループです。

(1) 会社概要

同社は、帝都高速度交通営団の民営化に伴い2004年に設立されました。2007年にICカード乗車券「PASMO」のサービスを開始し、2008年には副都心線を開業しました。その後も関連事業の再編などを進め、2024年10月に東京証券取引所プライム市場へ上場を果たしました。

連結従業員数は11,328名、単体では9,462名です。大株主は、筆頭株主が財務大臣、第2位が東京都であり、国と東京都が株式の約半数を保有しています。これに資産管理業務を行う信託銀行等が続きます。

氏名 持株比率
財務大臣 26.71%
東京都 23.29%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.45%

(2) 経営陣

同社の役員は男性12名、女性3名の計15名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長社長執行役員は山村明義氏です。社外取締役比率は36.4%(取締役11名中4名)です。

氏名 役職 主な経歴
山村 明義 代表取締役社長社長執行役員 1980年帝都高速度交通営団入団。鉄道本部鉄道統括部長、常務取締役、専務取締役などを経て、2023年6月より現職。
川澄 俊文 代表取締役会長 1980年東京都入都。福祉保健局長、副知事、(公財)東京都環境公社理事長、当社代表取締役副会長を経て、2023年6月より現職。
小坂 彰洋 代表取締役専務執行役員 1986年帝都高速度交通営団入団。経営企画本部企業価値創造部長、取締役、常務取締役などを経て、2023年6月より現職。
小川 孝行 代表取締役専務執行役員 1986年帝都高速度交通営団入団。鉄道本部鉄道統括部長、取締役、常務取締役などを経て、2023年6月より現職。
中澤 英樹 取締役常務執行役員 1986年帝都高速度交通営団入団。鉄道本部運転部長、取締役を経て、2023年6月より現職。
堂免 敬一 取締役執行役員 1990年帝都高速度交通営団入団。広報部長兼秘書室長、人事部長を経て、2024年4月より現職。
鈴木 信行 取締役執行役員 1990年帝都高速度交通営団入団。財務部長を経て、2023年6月より現職。


社外取締役は、杉山武彦(一橋大学元学長)、小林英三(日本証券金融執行役会長)、武井奈津子(ソニーグループ常務法務部シニアゼネラルマネージャー)、井村順子(公認会計士)です。

2. 事業内容

同社グループは、「運輸業」、「不動産事業」、「流通・広告事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 運輸業

東京都区部を中心に9路線からなる地下鉄ネットワークを保有し、鉄道の運行および運営、ならびに鉄道施設等の保守管理を行っています。また、海外都市鉄道の運営・維持支援も手掛けています。

旅客からの運賃収入が主な収益源です。鉄道事業の運営は東京地下鉄が行い、駅の清掃等は株式会社メトロセルビス、駅の運営管理は株式会社メトロコマース、車両整備はメトロ車両株式会社などが担当しています。

(2) 不動産事業

鉄道事業とのシナジー効果の発揮を目指し、同社路線の沿線において、オフィスビルやホテルを中心とした不動産の開発および賃貸を行っています。代表的な物件には渋谷マークシティや渋谷ヒカリエなどがあります。

テナントからの賃貸料収入が主な収益源です。不動産の開発および賃貸は東京地下鉄が行い、一部の不動産賃貸および管理は東京メトロ都市開発株式会社が担当しています。また、東京メトロアセットマネジメント株式会社が投資法人の資産運用を行っています。

(3) 流通・広告事業

同社資産を活用し、駅構内店舗「Echika」などの商業施設運営を行う流通事業、駅構内や車両内の広告を取り扱う広告事業、情報通信事業を行っています。

店舗テナントからの賃貸料や広告主からの広告掲載料、通信事業者からの設備使用料等が収益源です。商業施設の運営は株式会社メトロプロパティーズや株式会社メトロコマース等が、広告事業は株式会社メトロアドエージェンシーが、情報通信事業は東京地下鉄が行っています。

(4) その他

報告セグメントに含まれない事業として、福利厚生施設の運営や、人事・経理・システムサービスに関する事務受託、施設の清掃業務などを行っています。

グループ会社等からの業務受託料等が収益源です。福利厚生施設の運営は株式会社メトロライフサポート、事務業務は株式会社メトロビジネスアソシエ、施設の清掃は株式会社メトロフルールが行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、コロナ禍の影響を受けた時期から回復基調にあります。売上収益は増加傾向にあり、利益面でも赤字から黒字転換し、直近では増益を続けています。旅客運輸収入の回復が業績改善に寄与しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益(または売上高) 2,957億円 3,069億円 3,454億円 3,893億円 4,078億円
経常利益 -477億円 -205億円 197億円 659億円 770億円
利益率(%) -16.1% -6.7% 5.7% 16.9% 18.9%
当期利益(親会社所有者帰属) -529億円 -134億円 278億円 463億円 537億円

(2) 損益計算書

売上高の増加に伴い、各利益段階での黒字幅が拡大しています。売上総利益率、営業利益率ともに改善傾向にあり、収益性が向上しています。コスト構造改革等の効果も表れています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 3,893億円 4,078億円
売上総利益 1,256億円 1,398億円
売上総利益率(%) 32.3% 34.3%
営業利益 764億円 869億円
営業利益率(%) 19.6% 21.3%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が162億円(構成比31%)、諸税が157億円(同30%)、経費が153億円(同29%)を占めています。

(3) セグメント収益

主力の運輸業が増収増益となり、全体の業績を牽引しています。不動産事業も増収となりましたが、営業利益は減少しました。流通・広告事業は増収増益で推移しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
運輸業 3,565億円 3,729億円 638億円 742億円 19.9%
不動産事業 137億円 147億円 46億円 42億円 28.6%
流通・広告事業 239億円 250億円 80億円 84億円 33.6%
その他 37億円 41億円 -1億円 1億円 1.5%
調整額 -85億円 -88億円 1億円 1億円 -
連結(合計) 3,893億円 4,078億円 764億円 869億円 21.3%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社のCF状況は「健全型」です。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.8%でプライム市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は35.3%でプライム市場(非製造業)平均を上回っています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 1,351億円 1,235億円
投資CF -1,002億円 -895億円
財務CF -332億円 -509億円

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社グループは「東京を走らせる力」をグループ理念として掲げています。鉄道事業を中心とした事業展開により首都東京の都市機能を支え、都市の魅力と活力を引き出すとともに、優れた技術力と創造力で安全・安心・快適なサービスを提供し、東京に集う人々の毎日に貢献することを使命としています。

(2) 企業文化

東京メトロの経営指針は、ミッション「東京を走らせる力」のもと、「ビジョン」「バリュー」「スピリット」の3つで構成されています。

ビジョンは、地下鉄事業を軸に不動産や生活サービスなどと連携しながら、東京の都市機能を支え、その魅力と活力を高め続ける未来像を示したものです。

バリューは、「安全・安定輸送の徹底」と「お客様視点に立った質の高いサービス」の提供を約束するもので、利用者にとって安心で快適な移動を実現することを重視しています。

スピリットは「自律・挑戦・協働」といった姿勢を指し、社員一人ひとりが主体性を持って課題に向き合い、新しい価値創造に挑戦し、仲間と力を合わせてミッションとビジョンの実現を目指すという行動指針になっています。

(3) 経営計画・目標

中期経営計画「Run!~次代を翔けろ~」において、以下の2028年3月期末目標を掲げています。

* 連結ROE 7.7%
* 連結営業利益 930億円
* 連結EBITDA 1,740億円
* 連結純有利子負債/EBITDA倍率 6.3倍(新線除く 5.2倍)

(4) 成長戦略と重点施策

鉄道事業では、自然災害対策やホームドア整備等の安全性・利便性向上、有楽町線・南北線の延伸工事推進、新技術(CBTC、CBM)導入やQRコード乗車等の新サービスに取り組みます。都市・生活創造事業では不動産取得や新規ビジネス開発を推進し、海外鉄道ビジネスの拡大や脱炭素化も進めます。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

「採用強化」「働きやすさ向上」「やりがい創出」「人財育成」「福利厚生拡充」「健康経営推進」の観点から人事施策を実行し、人材獲得と社員の最大活躍を目指しています。「自律」「挑戦」「協働」する人材像を掲げ、エンゲージメント調査等を通じて戦略の実効性を検証しています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.5歳 18.1年 7,950,155円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでいます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
管理職に占める女性労働者の割合 3.0%
男性労働者の育児休業取得率 98.3%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 59.9%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用) 65.6%
労働者の男女の賃金の差異(非正規雇用) 141.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、部長研修受講率(100%)、女性社員比率(7.2%)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 人口動向等について

首都圏の人口減少、少子高齢化、テレワークの定着等による移動需要の減少がリスク要因です。また、経済情勢の変化や大企業の本社移転等が東京都区部の鉄道利用に影響を与え、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) コスト高騰リスク

鉄道事業は多大な電力を消費し、継続的な設備投資や維持補修が必要です。円安や燃料価格上昇に伴う電力料金の高騰、原材料価格や労務費の上昇が長期化した場合、運営コストが増加し、業績に影響を与える可能性があります。

(3) 自然災害・感染症・気候変動

首都直下地震や大規模水害等の自然災害、感染症の流行、事故、テロ等により運行に支障が生じた場合、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。特に路線や施設が地下に集中しているため、浸水等の被害が甚大になるリスクがあります。

(4) 法的規制および運賃改定

鉄道事業法や東京地下鉄株式会社法等の規制を受けており、運賃改定には認可や届出が必要です。機動的な運賃改定が困難な場合や、法令改正により事業活動の柔軟性が制限されたり費用が増加したりすることで、業績に影響が及ぶ可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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