日本郵船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本郵船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する海運大手。定期船、航空運送、物流、自動車、ドライバルク、エネルギー事業などをグローバルに展開しています。2025年3月期の連結業績は、売上高が2兆5887億円で前期比増収、経常利益は4909億円で増益、親会社株主に帰属する当期純利益も増益となりました。


※本記事は、日本郵船株式会社 の有価証券報告書(第138期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本郵船ってどんな会社?


三菱グループに属する国内最大手の総合物流企業です。海・陸・空に広がるグローバルな輸送ネットワークを強みとしています。

(1) 会社概要


1885年9月、郵便汽船三菱会社と共同運輸会社の合併により設立され、同年10月に創業しました。1949年5月には東京、大阪、名古屋の各証券取引所へ上場を果たします。1978年には日本貨物航空(NCA)を設立しました。2010年には郵船航空サービスを郵船ロジスティクスへ商号変更し、2018年4月には定期コンテナ船事業の統合会社OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.がサービスを開始しました。

同社グループの従業員数は連結35,230名、単体1,336名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主および第2位株主は、ともに資産管理業務を行う信託銀行です。第3位株主は外資系証券会社の代理人となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 16.63%
日本カストディ銀行(信託口) 6.01%
GOLDMAN SACHS INTERNATIONAL 3.11%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性3名の計12名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長社長執行役員は曽我 貴也氏です。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
長澤 仁志 取締役会長 1980年4月同社入社。LNGグループ長、経営委員、常務経営委員等を経て、2019年6月代表取締役社長・社長経営委員に就任。2023年4月より現職。
曽我 貴也 代表取締役社長社長執行役員 1984年4月同社入社。自動車物流グループ長、経営委員、常務経営委員等を経て、2021年4月専務執行役員。2023年4月より現職。
河野 晃 代表取締役副社長執行役員 1984年4月同社入社。LNGグループ長、経営委員、常務経営委員等を経て、2020年4月専務経営委員。2023年6月より現職。
日暮 豊 取締役 1985年4月同社入社。法務グループ長、経営委員、常務経営委員、取締役・専務執行役員などを歴任。2025年4月より現職。
髙橋 栄一 取締役監査等委員(常勤) 1982年4月同社入社。主計グループ長、経営委員、常務経営委員、代表取締役・専務執行役員、監査役等を経て、2023年6月より現職。
小杉 桂子 取締役監査等委員(常勤) 1989年4月同社入社。内部監査室長、監査役室調査役を経て、2023年6月より現職。


社外取締役は、田邊栄一(元三菱商事代表取締役副社長執行役員)、兼原信克(元内閣官房副長官補)、志濟聡子(元日本アイ・ビー・エム執行役員)、中曽宏(元日本銀行副総裁)、桑原聡子(外苑法律事務所パートナー)、山田辰己(元住友商事・公認会計士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「定期船事業」「航空運送事業」「物流事業」「自動車事業」「ドライバルク事業」「エネルギー事業」および「その他」事業を展開しています。

定期船事業


定期船による国際的な海上貨物輸送、コンテナターミナル業、港湾運送業、曳船業を行っています。主な顧客はグローバルに展開する荷主企業等です。

運賃、貸船料、コンテナ関連収益等を収受しています。運営は主に日本郵船およびOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.などの関係会社が行っています。

航空運送事業


航空機を用いた国際的な貨物運送業を行っています。半導体製造装置や自動車関連貨物、Eコマース商品などの輸送需要に対応しています。

航空運送サービスの対価として運賃等を収受しています。運営は主に日本貨物航空が行っています。

物流事業


倉庫業、貨物運送取扱業、沿海貨物海運業をグローバルに展開し、海・陸・空の総合物流ネットワークを提供しています。

顧客から物流サービスの対価を受け取っています。運営は主に日本郵船および郵船ロジスティクスなどの関係会社が行っています。

自動車事業


自動車専用船等による国際的な海上貨物輸送、自動車物流事業、その他海運事業等を行っています。世界の自動車メーカー等が主な顧客です。

運賃、貸船料、ターミナル利用料等を収受しています。運営は主に日本郵船およびその関係会社が行っています。

ドライバルク事業


鉄鉱石、石炭、穀物などの資源を輸送するドライバルカー等による国際的な海上貨物輸送、船舶貸渡業、その他海運事業等を行っています。

運賃、貸船料、運航受託手数料等を収受しています。運営は主に日本郵船およびNYKバルク・プロジェクトなどの関係会社が行っています。

エネルギー事業


原油、LNG、LPG、石油製品などを輸送するタンカー等による国際的な海上貨物輸送、船舶貸渡業、その他海運事業等を行っています。エネルギー関連企業が主な顧客です。

運賃、貸船料、運航受託手数料等を収受しています。運営は主に日本郵船およびその関係会社が行っています。

その他事業


不動産の賃貸・管理・販売業、客船事業、機械器具卸売業(船舶用)、その他運輸付帯サービス業、情報処理サービス業、石油製品の卸売業などを行っています。

サービスの提供や製品の販売対価等を収受しています。運営は郵船商事、郵船クルーズなどの関係会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期から2025年3月期までの5期間を見ると、売上高は1.6兆円台から2.6兆円台へと拡大傾向にあります。経常利益は2022年3月期と2023年3月期に1兆円を超える高水準を記録した後、2024年3月期に一旦減少しましたが、2025年3月期には再び増加に転じています。当期純利益も同様の傾向を示しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 16,084億円 22,808億円 26,161億円 23,872億円 25,887億円
経常利益 2,153億円 10,032億円 11,098億円 2,613億円 4,909億円
利益率(%) 13.4% 44.0% 42.4% 10.9% 19.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 383億円 4,882億円 6,003億円 2,591億円 2,854億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高は2兆3000億円台から2兆5000億円台へと増加しました。売上総利益も増加し、売上総利益率は約17%から約18%へと改善しています。営業利益も増加し、営業利益率は約7%から約8%へと上昇しており、収益性が向上していることが読み取れます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 23,872億円 25,887億円
売上総利益 4,133億円 4,693億円
売上総利益率(%) 17.3% 18.1%
営業利益 1,747億円 2,108億円
営業利益率(%) 7.3% 8.1%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給与が1,141億円(構成比44%)、賞与引当金繰入額が148億円(同6%)を占めています。

(3) セグメント収益


各セグメントの売上高を見ると、物流事業が最も規模が大きく、次いでドライバルク事業、自動車事業となっています。当期は航空運送事業、物流事業、自動車事業、ドライバルク事業などで前期比増収となりましたが、定期船事業やその他事業では減収となりました。全体としては増収を達成しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
定期船事業 1,866億円 1,744億円
航空運送事業 1,546億円 1,792億円
物流事業 6,993億円 8,090億円
自動車事業 4,906億円 5,319億円
ドライバルク事業 5,670億円 6,013億円
エネルギー事業 1,731億円 1,782億円
その他事業 1,161億円 1,147億円
連結(合計) 23,872億円 25,887億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 4,014億円 5,108億円
投資CF -2,856億円 -598億円
財務CF -1,634億円 -4,277億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は17.2%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は67.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、存在意義・社会的使命として「Bringing value to life.」を企業理念に掲げています。また、2030年に向けたビジョンとして「総合物流企業の枠を超え、中核事業の深化と新規事業の成長で、未来に必要な価値を共創します」を掲げています。

(2) 企業文化


同社は、企業理念を実現するための心構えとして、グループ・バリュー「誠意、創意、熱意」を定めています。また、企業行動憲章や行動規準を定め、これらに則った経営体制の強化やコンプライアンスの周知徹底に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


2023年3月に中期経営計画「Sail Green, Drive Transformations 2026 - A Passion for Planetary Wellbeing -」を策定しました。2026年度までに行動計画に基づき事業を推進しています。

* 当期純利益:2,000~3,000億円(2026年目途)
* ROIC:6.5%以上(2026年目途)
* ROE:8.0~10.0%(2026年目途)

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画に基づき、「両利きの経営(AX)」と「事業変革(BX)」を基軸戦略としています。既存中核事業の深化と新規成長事業の進化を進め、これらを支える人材・組織・グループ経営の変革(CX)、DX、EX(エネルギートランスフォーメーション)を推進します。

* 事業投資計画:2026年度までに1.4兆円規模(策定時の1.2兆円から増額)
* 脱炭素に向けた取組み:アンモニアサプライチェーン構築、洋上風力関連事業等

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


中期経営計画のビジョン達成に向け、人材・組織・グループ経営の変革(CX)を推進しています。「35,000人のグループ全社員の能力を挑戦に活かす日本郵船グループ」の実現を目指し、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を経営戦略の重要な柱と位置付けています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 38.1歳 14.4年 14,354,240円


※平均年間給与は、基本給、賞与、基準外賃金等を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 13.9%
男性育児休業取得率 92.3%
男女賃金差異(全労働者) 74.6%
男女賃金差異(正規) 81.8%
男女賃金差異(非正規) 55.2%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職比率(連結)(26.3%)、重大事故件数(0件)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) コンプライアンスリスク


世界的にルール強化が進む中、法令等に抵触する事態が発生した場合、社会的信用やブランドイメージの低下、損害賠償等により、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。同社グループは委員会設置や研修実施等により体制強化に努めていますが、リスクを完全に回避できない可能性があります。

(2) 重大な事故等による影響


船舶や航空機の運航において、油濁等の環境汚染、人命に関わる重大事故、テロ、感染症発生等が起きた場合、運送契約解除や損害賠償、営業制限等に直面する可能性があります。安全運航体制や緊急対応体制を整備していますが、保険でカバーしきれないリスクが顕在化した場合、業績に影響を与える可能性があります。

(3) 本社及び主要拠点の被災リスク


地震、津波、台風等の自然災害やテロ、紛争等により、本社や主要な事業会社が被災し、経営機能やオペレーションが麻痺するリスクがあります。事業継続計画(BCP)を策定していますが、想定を超える災害等が発生した場合、業績や財務状況に影響を与える可能性があります。

(4) 情報システムセキュリティに関するリスク


ITシステムは事業基盤として不可欠ですが、サイバー攻撃や災害によるシステムダウン、顧客情報の流出等が発生する可能性があります。セキュリティ対策の強化や管理体制の構築を進めていますが、高度化するサイバー攻撃等を完全に排除することは困難であり、信頼毀損や対応コストの発生等が業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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