※本記事は、川崎汽船株式会社 の有価証券報告書(第157期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 川崎汽船ってどんな会社?
海運業を主軸に、ドライバルク、エネルギー資源輸送、製品物流事業をグローバルに展開する総合物流企業です。
■(1) 会社概要
1919年4月に川崎造船所の現物出資により設立され、1950年1月に株式を上場しました。2017年7月にはコンテナ船事業の統合を目的に、商船三井、日本郵船と共に持分法適用関連会社となるOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(ONE社)等を設立し、2018年4月に営業を開始しました。2022年6月には川崎近海汽船を完全子会社化し、グループ体制を強化しています。
連結従業員数は5,176人、単体では900人です。筆頭株主は英国領ケイマン諸島のイーシーエム エムエフで、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行です。第3位も英国の投資ファンド関連名義となっており、機関投資家や海外投資家が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| イーシーエム エムエフ(常任代理人 立花証券株式会社) | 12.21% |
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 9.99% |
| エムエルアイ フオー セグリゲーテイツド ピービー クライアント(常任代理人 BOFA証券株式会社) | 7.97% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.1%です。代表執行役社長は五十嵐武宣氏です。2025年6月19日時点での取締役会における社外取締役比率は70.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 明 珍 幸 一 | 取締役会長 | 1984年入社。執行役員、代表取締役社長、社長執行役員を経て、2025年3月より現職。 |
| 五十嵐 武 宣 | 取締役代表執行役社長 | 1991年入社。経営企画グループ長、執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て、2025年3月より現職。 |
| 芥 川 裕 | 代表執行役専務 | 1988年第一勧業銀行入社。みずほ銀行常務執行役員などを経て同社に入社し、業務顧問、監査役、常務執行役員を経て、2025年3月より現職。 |
| 荒 井 邦 彦 | 取締役 | 1982年入社。常務執行役員、特任顧問、監査役を経て、2025年3月より現職。 |
社外取締役は、山田啓二(元京都府知事・指名委員長)、内田龍平(Effissimo Capital Management Pte Ltdディレクター)、小高功嗣(弁護士・監査委員長)、牧寛之(バッファロー社長CEO)、政井貴子(元日銀審議委員・報酬委員長)、原澤敦美(弁護士)、久保伸介(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ドライバルク」、「エネルギー資源」及び「製品物流」の報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■(1) ドライバルク
鉄鉱石、石炭、穀物、木材チップなどの乾散貨物を輸送する不定期船事業を行っています。大型船から中・小型船まで多様な船隊を擁し、世界中の顧客の輸送需要に応えています。
収益は主に顧客からの運賃収入や貸船料です。運営は主に川崎汽船が担い、英国の"K" LINE BULK SHIPPING (UK) LIMITEDやシンガポールの"K" LINE PTE LTDなどの海外子会社も事業を展開しています。
■(2) エネルギー資源
液化天然ガス(LNG)輸送船、電力炭船、油槽船、LPG船などのエネルギー輸送事業や、ドリルシップ、FPSO等の海洋事業、洋上風力発電支援船事業などを展開しています。カーボンニュートラル社会の実現に向けた新エネルギー輸送にも取り組んでいます。
収益は主に中長期契約に基づく運賃収入や傭船料です。運営は川崎汽船のほか、洋上風力関連ではケイライン・ウインド・サービス、海外では"K" LINE LNG SHIPPING (UK) LIMITEDなどが事業を行っています。
■(3) 製品物流
自動車船事業、物流事業、近海・内航事業、コンテナ船事業で構成されています。自動車船では完成車輸送を、物流事業ではフォワーディングや港湾運送を、近海・内航事業では近海域や国内での輸送サービスを提供しています。
収益は運賃収入や物流サービス料、港湾作業料などです。運営は川崎汽船、川崎近海汽船、ダイトーコーポレーション、ケイラインロジスティックスなどが担います。なお、コンテナ船事業は持分法適用関連会社のOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(ONE社)が行っています。
■(4) その他
報告セグメントに含まれない事業として、船舶管理業、旅行代理店業、不動産賃貸・管理業などを展開しています。
収益は船舶管理手数料、旅行取扱手数料、不動産賃貸料などです。運営はケイラインマリンソリューションズ、ケイラインビジネスサポート、ケイライントラベルなどのグループ会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期からの推移を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあります。利益面では、2022年3月期と2023年3月期に海運市況の好調等により極めて高い利益水準を記録しました。2024年3月期はいったん落ち着きを見せましたが、直近の2025年3月期は再び大幅な増益となり、高い収益性を維持しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,255億円 | 7,570億円 | 9,426億円 | 9,579億円 | 10,479億円 |
| 経常利益 | 895億円 | 6,575億円 | 6,908億円 | 1,327億円 | 3,081億円 |
| 利益率(%) | 14.3% | 86.9% | 73.3% | 13.9% | 29.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,087億円 | 6,424億円 | 6,949億円 | 1,020億円 | 3,054億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の比較では、売上高の増加に伴い売上総利益も伸長しています。売上総利益率はほぼ横ばいから微増しており、効率的な事業運営が継続しています。営業利益も増益となっており、本業の収益力が向上していることが分かります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 9,579億円 | 10,479億円 |
| 売上総利益 | 1,596億円 | 1,823億円 |
| 売上総利益率(%) | 16.7% | 17.4% |
| 営業利益 | 842億円 | 1,029億円 |
| 営業利益率(%) | 8.8% | 9.8% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与が339億円(構成比43%)、賞与引当金繰入額が35億円(同4%)を占めています。売上原価においては、借船料が3,887億円(構成比45%)、燃料費が1,869億円(同22%)を占めています。
■(3) セグメント収益
当期は、ドライバルクと製品物流セグメントが増収増益となり、業績を牽引しました。特に製品物流は大幅な増益を達成しています。一方、エネルギー資源セグメントは減収減益となりました。持分法適用会社のONE社が含まれる製品物流セグメントの利益貢献度が非常に高くなっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ドライバルク | 2,935億円 | 3,224億円 | 35億円 | 135億円 | 4.2% |
| エネルギー資源 | 1,057億円 | 1,019億円 | 75億円 | 49億円 | 4.8% |
| 製品物流 | 5,487億円 | 6,129億円 | 1,286億円 | 2,943億円 | 48.0% |
| その他 | 101億円 | 108億円 | 14億円 | 9億円 | 8.3% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | -84億円 | -58億円 | - |
| 連結(合計) | 9,579億円 | 10,479億円 | 1,327億円 | 3,081億円 | 29.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業の営業活動で得た資金を元に、投資活動を行いつつ、借入返済や株主還元などの財務活動にお金を回している健全型(営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業)です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2,024億円 | 2,732億円 |
| 投資CF | -663億円 | -1,261億円 |
| 財務CF | -2,232億円 | -2,116億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は18.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は74.6%で市場平均を上回っています。いずれも市場平均を上回る高水準です。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は企業理念として「海運業を主軸とする物流企業として、人々の豊かな暮らしに貢献します。」を掲げています。また、ビジョンとして「全てのステークホルダーから信頼されるパートナーとして、グローバル社会のインフラを支えることで持続的成長と企業価値向上を目指します。」としています。
■(2) 企業文化
同社は「大事にする価値観」として6つの項目を掲げています。具体的には、「お客様を第一に考えた安全で最適なサービスの提供」「たゆまない課題解決への姿勢」「専門性を追求した川崎汽船ならではの価値の提供」「変革への飽くなきチャレンジ」「地球環境と持続可能な社会への貢献」、そして「多様な価値観の受容による人間性の尊重と公正な事業活動」を重視し、事業活動を行っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は2022年度から2026年度までの5か年中期経営計画を策定し、2050年に向けた低炭素・脱炭素化の実現と収益成長の両立を目指しています。
* ROE 10%以上
* ROIC 6.0~7.0%
* 経常利益1,600億円
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画に基づき、事業ごとの役割を明確化したポートフォリオ戦略を推進します。「成長を牽引する役割の事業」(鉄鋼原料、自動車船、LNG輸送船)には経営資源を集中し、環境対応を機会とした成長を目指します。また、「スムーズなエネルギー転換をサポートし新たな事業機会を担う役割の事業」(電力炭、油槽船、LPG船)ではリスクを最小化しつつ新需要に対応します。
コンテナ船事業は「株主として事業を支え収益基盤を安定させる役割の事業」と位置づけ、ONE社の成長を支援します。機能戦略としては、環境・技術、安全・船舶品質管理、DXの3機能を強化し、事業基盤である人材・組織を強化することで、顧客に選ばれる企業を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、事業の持続的成長・変革をリードする「海運プロフェッショナル経営人材」や、環境変化に柔軟に対応できる「ビジネストランスフォーメーション人材」等の確保・育成に取り組んでいます。新卒採用に加え通年キャリア採用を実施し、国籍や性別等を問わない多様な人材を確保しています。また、男性の育児参加促進や健康経営の推進など、多様な人材が活躍できる環境整備にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 38.5歳 | 14.0年 | 12,227,592円 |
※平均年間給与は賞与及び時間外手当等を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.4% |
| 男性育児休業取得率 | 83.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.7% |
| 男女賃金差異(正規) | 65.4% |
| 男女賃金差異(非正規) | 48.7% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 人材・人権リスク
事業活動に関わる全てのステークホルダーの人権尊重が求められる中、人権問題への対応が不適切な場合、社会的信用の低下や事業への悪影響が生じる可能性があります。また、必要な人材が不足することで、競争力の低下や事業継続に支障をきたす恐れがあります。
■(2) 法務・コンプライアンスリスク
グローバルに事業を展開する中、役職員による法令違反や企業倫理違反が発生した場合、社会的信用の低下や対応コストの発生により、経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。サプライチェーン全体でのコンプライアンス遵守も重要となっています。
■(3) 船舶運航リスク
不測の事故による損害、特に油濁等の環境汚染を伴う重大事故が発生した場合、経営成績や社会的信用に甚大な影響を与える可能性があります。また、海賊、政情不安、テロ、サイバー攻撃なども安全運航を脅かすリスク要因です。
■(4) 経済活動変動リスク
世界経済の動向、為替(円高)、金利上昇、燃料油価格の変動は業績に大きく影響します。また、海運市況の悪化や公的規制の変更、地政学リスクなどは、船舶投資計画の遅延や事業コストの増加、収益性の低下をもたらす可能性があります。



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