※本記事は、ANAホールディングス株式会社 の有価証券報告書(第75期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ANAホールディングスってどんな会社?
航空輸送事業を中核に、航空関連、旅行、商社などを展開する国内最大級の航空会社グループです。
■(1) 会社概要
1952年に日本ヘリコプター輸送として設立され、1957年に全日本空輸へ商号変更しました。2013年に持株会社制へ移行し、現在のANAホールディングスとなりました。2017年にはLCCのPeach Aviationを連結子会社化し、2024年には新ブランドAirJapanが運航を開始しています。
連結従業員数は44,019名、単体では276名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に日本カストディ銀行です。第3位の名古屋鉄道は、設立時より資本関係等の深い関わりを持つ事業会社です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 14.94% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 2.79% |
| 名古屋鉄道株式会社 | 1.55% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性4名の計16名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長は芝田 浩二氏です。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 片野坂 真哉 | 取締役会長取締役会議長 | 1979年入社。人事部長、代表取締役社長などを歴任し、2024年4月より現職。 |
| 芝田 浩二 | 代表取締役社長 | 1982年入社。アライアンス室長、取締役常務執行役員などを歴任し、2022年4月より現職。 |
| 平澤 寿一 | 代表取締役副社長執行役員 | 1986年入社。全日本空輸企画部長、同社上席執行役員などを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 直木 敬陽 | 代表取締役副社長執行役員 | 1987年入社。グループ人財戦略部長、全日本空輸執行役員などを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 井上 慎一 | 取締役全日本空輸㈱代表取締役社長 | 1990年入社。Peach Aviation代表取締役CEOなどを経て、2022年6月より現職。 |
| 中堀 公博 | 取締役専務執行役員 | 1988年入社。グループ経理・財務室経営管理部長、取締役常務執行役員などを経て、2025年4月より現職。 |
| 種家 純 | 取締役執行役員 | 1989年入社。全日本空輸マーケティング企画部長、同社上席執行役員などを経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、山本 亜土(名古屋鉄道相談役)、小林 いずみ(元多数国間投資保証機関長官)、勝 栄二郎(インターネットイニシアティブ取締役)、峰岸 真澄(リクルートホールディングス代表取締役会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「航空事業」「航空関連事業」「旅行事業」「商社事業」および「その他」事業を展開しています。
■航空事業
国内外における旅客および貨物の航空輸送サービスを提供しています。「ANA」「Peach」「AirJapan」の3ブランド体制で、フルサービスキャリアからLCCまで幅広い需要に対応しています。顧客は一般旅客や荷主企業等です。
収益は、旅客運賃や貨物運賃収入等から得ています。運営は、中核事業会社の全日本空輸、ANAウイングス、エアージャパン、Peach Aviationが行っています。
■航空関連事業
空港での旅客ハンドリング、手荷物搭載などの地上支援業務、航空機の整備、機内食の製造・搭載、コンタクトセンター業務などを提供しています。顧客はグループ内航空会社のほか、国内外の航空会社も含まれます。
収益は、航空会社からの業務受託料等から得ています。運営は、ANAエアポートサービス、ANAベースメンテナンステクニクス、ANAケータリングサービス、ANAテレマートなどが担っています。
■旅行事業
「ANAトラベラーズ」ブランドでのパッケージ旅行商品の企画・販売や、手配旅行などを展開しています。顧客は一般消費者や法人です。また、海外での着地型サービスの提供も行っています。
収益は、旅行商品の販売代金や手配手数料等から得ています。運営は主にANA Xが行っており、海外ではANA Sales Americasなどが担当しています。
■商社事業
航空機部品や機内サービス用品等の航空関連資材の輸出入、空港内店舗「ANA FESTA」や免税店の運営、通信販売などを手掛けています。顧客は航空会社や空港利用者などです。
収益は、商品の販売代金等から得ています。運営は全日空商事を中心とする子会社群が行っています。
■その他
ビルメンテナンス、人材派遣、教育・研修、警備などの事業を展開しています。顧客はグループ企業や一般企業、ビルオーナーなど多岐にわたります。
収益は、サービス提供の対価として得ています。運営はANAスカイビルサービス(ビル管理)、ANAビジネスソリューション(人材派遣・研修)などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2022年3月期にかけては新型コロナウイルスの影響で赤字が続きましたが、2023年3月期に黒字転換しました。その後、航空需要の回復に伴い売上高は増加傾向にあり、2025年3月期には2兆2000億円を超えています。利益面でも黒字基調が定着しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7,287億円 | 10,203億円 | 17,075億円 | 20,559億円 | 22,619億円 |
| 経常利益 | △4,514億円 | △1,849億円 | 1,118億円 | 2,077億円 | 2,001億円 |
| 利益率(%) | △61.9% | △18.1% | 6.5% | 10.1% | 8.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | △4,046億円 | △1,436億円 | 895億円 | 1,571億円 | 1,530億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は約10%増加し、売上総利益も微増しました。しかし、営業利益と営業利益率は若干低下しています。増収効果があったものの、事業規模の拡大や人への投資等に伴うコスト増が利益を圧迫した形です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 20,559億円 | 22,619億円 |
| 売上総利益 | 4,137億円 | 4,183億円 |
| 売上総利益率(%) | 20.1% | 18.5% |
| 営業利益 | 2,079億円 | 1,966億円 |
| 営業利益率(%) | 10.1% | 8.7% |
販売費及び一般管理費のうち、販売手数料が622億円(構成比28%)、その他が563億円(同25%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで増収となりました。主力の航空事業は旺盛な訪日需要等により大幅増収でしたが、整備費や人件費等の増加で減益となりました。航空関連事業や商社事業も需要回復で増収を確保しましたが、システム費用や人件費の増加等により利益は横ばいまたは減少傾向にあります。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 航空事業 | 18,696億円 | 20,588億円 | 2,080億円 | 1,991億円 | 9.7% |
| 航空関連事業 | 2,988億円 | 3,373億円 | 68億円 | 40億円 | 1.2% |
| 旅行事業 | 785億円 | 736億円 | 14億円 | 2億円 | 0.3% |
| 商社事業 | 1,179億円 | 1,300億円 | 46億円 | 46億円 | 3.5% |
| その他 | 412億円 | 455億円 | 5億円 | 12億円 | 2.5% |
| 調整額 | △3,501億円 | △3,833億円 | △133億円 | △124億円 | - |
| 連結(合計) | 20,559億円 | 22,619億円 | 2,079億円 | 1,966億円 | 8.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFと財務CFはマイナスで、本業で稼いだ現金を投資と借入返済に充てている「健全型」と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4,206億円 | 3,730億円 |
| 投資CF | △3,995億円 | △3,437億円 |
| 財務CF | △1,360億円 | △1,702億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.1%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.2%で市場平均(非製造業)を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」という経営理念を掲げています。安全を経営の基盤としつつ、世界中の人々に寄り添い、新たな価値を提供することで、「ワクワクで満たされる世界」の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「世界中のグループ社員がイキイキと挑戦を続け、お客様や社会に寄り添いながら新たな価値を提供し、世界を期待や喜びで満たしたい」という想いを大切にしています。安全を堅持しながら、地域間の多様な繋がりを創出し、社員のウェルビーイングを重視する文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
「2023~2025年度ANAグループ中期経営戦略」の期間を、2030年に向けた変革の3年間と位置づけています。コロナ禍からの回復を果たし、成長軌道への転換を図ることを目指しています。2025年度を最終年度として、戦略の確実な遂行に取り組んでいます。
■(4) 成長戦略と重点施策
航空事業の収益拡大、非航空事業の強化、および両事業間での顧客回遊の促進を3本柱としています。ANA、Peach、AirJapanの3ブランドで最適なポートフォリオを追求し、貨物事業では日本貨物航空の子会社化を通じて収益最大化を図ります。また、ANA経済圏の拡大により持続的な成長を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人」と「チームワーク」を価値創造の源泉と位置づけ、人的資本への投資を強化しています。多様な人財が活躍できるようDEI(多様性、公正性、受容・共生)を推進し、社員のウェルビーイング向上やエンゲージメント向上に取り組んでいます。また、専門性の高い人財の育成や、挑戦できる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 45.5歳 | 2.8年 | 7,302,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
※同社の従業員は主として連結子会社である全日本空輸株式会社からの出向社員で構成されているため、平均勤続年数が短くなっています。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 21.0% |
| 男性育児休業取得率 | 97.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 43.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 43.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 33.6% |
※上記は連結子会社である全日本空輸株式会社の実績です。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.74%)、女性役員比率(12.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 「安全」の毀損・阻害
安全は経営の基盤であり、航空事故等の発生は同社グループへの社会的信用を失墜させ、事業に甚大な影響を及ぼす可能性があります。また、製造上の不具合等による運航中止も、欠航や減便を通じて業績に悪影響を与えるリスクがあります。
■(2) 気候変動問題への対応
航空機の運航に伴う温室効果ガスの排出削減が急務となっています。SAF(持続可能な航空燃料)の供給不足や価格高騰、排出枠購入費用の増加などがコスト増につながる可能性があります。また、対応の遅れは顧客離れや乗り入れ制限等のリスクを招く恐れがあります。
■(3) 国際情勢の不安定化
ウクライナや中東情勢、米中対立などの地政学リスクが高まっています。戦争・紛争等による平和な環境の毀損は、旅客・貨物需要の減少や運航ルートの変更等を招き、国際線事業を中心に業績へ悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 大規模な感染症の発生
新たな大規模感染症が発生した場合、移動制限等により航空需要が激減し、業績に甚大な影響を及ぼす可能性があります。固定費の割合が高い事業構造のため、急激な需要減退への対応が難しく、財務基盤への影響も懸念されます。



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