※本記事は、ANAホールディングス株式会社の有価証券報告書(第76期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026-06-25 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ANAホールディングスってどんな会社?
航空輸送をはじめ、関連する旅行や商社、空港支援などの幅広い事業を展開する企業グループです。
■(1) 会社概要
1952年に日本ヘリコプター輸送として設立され、1957年に全日本空輸に社名を変更して成長を遂げてきました。1999年には世界的なネットワークであるスターアライアンスに正式加盟し、2013年には持株会社体制へ移行してANAホールディングスへと商号を変更しました。直近では2025年に日本貨物航空を完全子会社化するなど、事業の拡大と再編を積極的に進めています。
従業員数は連結で47,826名、単体で286名となっています。大株主については、筆頭株主および第2位の株主がいずれも資産管理業務等を行う信託銀行となっており、第3位の株主には同じく交通インフラ事業を展開する名古屋鉄道が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.69% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 2.90% |
| 名古屋鉄道 | 1.46% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性4名の計15名で構成され、女性役員比率は26.7%です。代表取締役社長は芝田浩二氏が務めており、社外取締役の比率は40.0%(4名/10名)となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 芝田浩二 | 代表取締役社長グループ経営戦略会議議長、グループESG経営推進会議総括、グループ監査担当 | 1982年に同社入社。アライアンス室長や執行役員、取締役常務執行役員を歴任し、2021年に代表取締役専務執行役員に就任。2022年より現職。 |
| 直木敬陽 | 代表取締役副社長執行役員グループCHO(Chief Human Resource Officer、グループ人事・グループ労政担当)、グループ経営戦略担当 | 1987年に同社入社。ワシントン支店長やグループ人財戦略部長を務め、2024年に代表取締役専務執行役員に就任。2025年より現職。 |
| 中堀公博 | 代表取締役副社長執行役員グループCFO(Chief Financial Officer、グループ経理・財務担当)、グループ経理・財務室長 | 1988年に同社入社。グループ経理・財務室経営管理部長や執行役員を経て、2025年に取締役専務執行役員に就任。2026年より現職。 |
| 片野坂真哉 | 取締役会長取締役会議長 | 1979年に同社入社。人事部長や執行役員を経て、2015年より代表取締役社長に就任。その後、2022年に代表取締役会長を務め、2024年より現職。 |
| 種家純 | 取締役常務執行役員グループESG経営推進会議議長、グループリスク&コンプライアンス・グループ法務・グループ総務担当 | 1989年に同社入社。全日本空輸のマーケティング企画部長などを経て、2021年より執行役員に就任。その後上席執行役員等を経て、2026年より現職。 |
| 平澤寿一 | 取締役 | 1986年に同社入社。全日本空輸の企画部長や執行役員を経て、2025年に代表取締役副社長執行役員を務め、2026年より現職。 |
社外取締役は、山本亜土氏(元名古屋鉄道社長)、勝栄二郎氏(元インターネットイニシアティブ社長)、峰岸真澄氏(元リクルートホールディングス社長)、井上ゆかり氏(元キャドバリー・ジャパン社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「航空事業」「航空関連事業」「旅行事業」「商社事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 航空事業
国内線および国際線において、定期・不定期の旅客輸送および貨物輸送サービスを展開しており、幅広い顧客の移動や物流ニーズに応えています。また、LCC(格安航空会社)ブランドの運営なども行っています。
収益は、主に航空券を購入する旅客や貨物輸送を利用する荷主からの運賃・利用料等で構成されています。運営は親会社であるANAホールディングスの傘下にある全日本空輸、ANAウイングス、エアージャパン、Peach Aviationなどの各子会社が担っています。
■(2) 航空関連事業
顧客に対する空港での各種サービス提供や、電話による予約案内、航空機への整備作業など、航空輸送に不可欠な付随サービスを提供しています。同グループ以外の国内外の航空会社を顧客とする支援業務も含まれます。
収益は、主に航空運送事業者から受け取る空港ハンドリング業務や整備受託などのサービス提供料によって構成されています。運営はANAエアポートサービスやANA大阪空港、ANAベースメンテナンステクニクスなどの子会社が行っています。
■(3) 旅行事業
全日本空輸の航空券等を組み込んだ「ANAトラベラーズ」ブランドをはじめとするパッケージ旅行商品などの企画および販売を行っています。また、海外での到着地における各種サービスの提供も展開しています。
収益は、旅行商品を購入する個人および法人顧客からの旅行代金や各種サービス利用料によって構成されています。運営は国内ではANA XやANAあきんど、海外ではANA Sales Americasなどの子会社が行っています。
■(4) 商社事業
主に航空関連資材などの輸出入をはじめ、店舗や通信販売での各種物品販売を展開しています。これらの物品販売は、同グループ内の子会社や関連会社を顧客としても幅広く行われています。
収益は、航空関連資材の取引による手数料や、空港内店舗およびオンラインショップ等での顧客からの販売代金などから構成されています。運営は全日空商事を中心とする子会社が担っています。
■(5) その他
ビル管理や人材派遣、不動産関連事業など、グループ内外の様々なニーズに応える多様なサービスを展開しています。
収益は、ビルの保守管理や不動産の賃貸収入、人材派遣に伴う派遣先企業からの利用料などによって構成されています。運営はANAスカイビルサービスやANAビジネスソリューションなどの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の連結業績を見ると、売上高は新型コロナウイルスの影響による落ち込みから力強い回復を遂げ、直近では2兆5,000億円を超える規模に成長しています。利益面でも、過去の赤字から黒字転換を果たしたのち、旺盛な航空需要やコスト構造改革の成果によって安定的な利益率を維持し、増益傾向が続いています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 10203億円 | 17075億円 | 20559億円 | 22619億円 | 25392億円 |
| 経常利益 | -1849億円 | 1118億円 | 2077億円 | 2001億円 | 2197億円 |
| 利益率(%) | -18.1% | 6.5% | 10.1% | 8.8% | 8.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 269億円 | 190億円 | 136億円 | 302億円 | 333億円 |
■(2) 損益計算書
売上高が順調に拡大しており、それに伴って売上総利益も増加しています。営業利益についても着実に積み上がっており、利益率を維持しながら事業規模の拡大と収益性の向上を両立させていることがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 22619億円 | 25392億円 |
| 売上総利益 | 4183億円 | 4645億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.5% | 18.3% |
| 営業利益 | 1966億円 | 2174億円 |
| 営業利益率(%) | 8.7% | 8.6% |
販売費及び一般管理費のうち、販売手数料が632億円(構成比26%)、従業員給料及び賞与が431億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の航空事業が増収を牽引するとともに、商社事業なども好調に推移したことで、全体の売上規模が拡大しています。中核となる航空領域をはじめとして、グループ全体での収益基盤がより強固になっていることが確認できます。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 航空事業 | 20199億円 | 22767億円 |
| 航空関連事業 | 555億円 | 602億円 |
| 旅行事業 | 559億円 | 502億円 |
| 商社事業 | 1120億円 | 1329億円 |
| その他 | 187億円 | 192億円 |
| 連結(合計) | 22619億円 | 25392億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業であることを示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3730億円 | 4435億円 |
| 投資CF | -3437億円 | -4152億円 |
| 財務CF | -1702億円 | -1594億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は37.7%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同グループは、「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」という経営理念を掲げています。また、「ワクワクで満たされる世界を」という経営ビジョンのもと、人とモノのつながりを拡大し、「早く、快適で、楽しい」価値を生み出すことで、ステークホルダーに信頼される企業を目指しています。
■(2) 企業文化
経営の基盤である「安全」を最優先としつつ、世界中のグループ社員がいきいきと挑戦を続けられる組織風土を重視しています。「人とモノのつながりの拡大」や「グループのファン層の拡大」を通じて、お客様や社会に寄り添いながら新たな価値を提供し、社会的価値と経済的価値の同時創造を追求する文化が定着しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年度に向けて、成長領域での利益拡大と収益性向上を推進しています。
* 2030年度:営業利益3,100億円、営業利益率10%
* 2028年度:営業利益2,500億円、営業利益率9%
* 安定的にROE12%以上、EPS CAGR約10%
* 今後5年間で2.7兆円規模の大規模な成長投資
■(4) 成長戦略と重点施策
今後は資産効率の向上や利益変動リスクの低減、株主価値の向上を重点テーマとし、「成長投資の加速」「利益成長の加速」「株主価値の向上」の3つの変革を実行します。成長領域である「国際線旅客事業」と「貨物事業」に経営資源を優先配分し、グループエアラインのネットワークや事業リソースを最適化することで競争力を強化します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、高い専門性やお客様に喜びを届ける「人の力」と、連携して成果を生む「チームワーク」を価値創造の源泉としています。これらを推進するため、多様な職種の従業員が個々のスキルを発揮できる環境を整備し、デジタル活用で生まれた余力を人の力に再配分することで、人にしか生み出せない付加価値の創出を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 46.2歳 | 2.9年 | 7,709,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 22.6% |
| 男性育児休業取得率 | 109.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 44.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 44.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 34.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性役員比率(27.1%)、育児休業取得率(102.7%)、障がい者雇用率(2.66%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 政治社会情勢の変化
ウクライナや中東地域の情勢、米中対立などの国際情勢の不安定化は、業務渡航需要の低迷やインバウンド需要の減少を通じて、航空需要全体に影響を及ぼす可能性があります。また、航空輸送コストの増加や飛行ルートの迂回による運航制約が生じるリスクもあります。
■(2) 航空安全に関わる事象の発生
安全は経営の基盤であり、社会への責務と位置づけていますが、万が一、航空法上の事故や重大インシデントが発生した場合、社会的な信用や信頼が根本から揺るがされる可能性があります。これによる顧客の利用手控え等により、事業全体に広範かつ長期的な影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 環境規制および気候変動への対応
航空事業は温室効果ガスの排出削減が重要な課題であり、持続可能な航空燃料(SAF)の安定確保や価格高騰、排出権購入費用の増加によるコスト増大のリスクがあります。また、環境規制の強化に伴い、代替交通手段に対する競争力の低下や投資家からの評価低下を招く可能性もあります。
■(4) システム障害およびサイバー攻撃
事業運営のシステム化が進む中、自社要因の障害やサイバー攻撃によるシステム停止が発生した場合、航空機の運航や予約・搭乗管理が困難になるリスクがあります。また、顧客の個人情報が流出した場合には、損害賠償請求や信用失墜による競争力低下につながる可能性があります。



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