山九 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

山九 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

同社は東証プライム・福証に上場し、物流・機工の二事業を中心に、情報システム等のサービス事業も展開しています。当連結会計年度の業績は、売上高5,635億円(前期比2.7%減)、経常利益366億円(同7.6%減)となりました。港湾運送やプラントエンジニアリングを主力とし、グローバル展開も進めています。


※本記事は、株式会社山九 の有価証券報告書(第115期、自 2023年4月1日 至 2024年3月31日、2024年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 山九ってどんな会社?


物流と機工(プラントエンジニアリング)を融合した独自の事業モデルを展開し、鉄鋼や化学産業を支える企業です。

(1) 会社概要


同社の歴史は1918年10月、山九運輸株式会社としての設立に始まります。1962年3月に東京証券取引所市場第二部および福岡証券取引所へ上場し、1966年8月には東京証券取引所市場第一部へ指定されました。事業の多角化に伴い、1980年10月に現在の山九株式会社へと商号を変更しています。2018年10月には創業100周年を迎えました。

現在の従業員数は連結で30,672名、単体で12,235名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)で、第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行信託口です。第3位は同社の主要顧客であり、長年の取引関係がある日本製鉄株式会社となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社信託口 14.92%
株式会社日本カストディ銀行信託口 8.01%
日本製鉄株式会社 3.71%

(2) 経営陣


同社の役員は男性14名、女性1名の計15名で構成され、女性役員比率は6.7%です。代表取締役会長CEOは中村公一氏、代表取締役社長COOは中村公大氏です。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
中村 公一 代表取締役会長CEO 1973年4月同社入社。1986年3月代表取締役社長を経て、2016年4月より現職。
中村 公大 代表取締役社長COO 2002年4月同社入社。経営企画部長、エリア統括等を歴任し、2016年4月より現職。
吾郷 康人 代表取締役副社長 1982年4月新日本製鐵(現 日本製鉄)入社。同社執行役員を経て、2013年4月同社入社。2016年4月より現職。
諸藤 克明 代表取締役専務取締役管理・ESG管掌 財務担当 CFO 1983年4月同社入社。経理部長、関西エリア長等を歴任し、2024年4月より現職。
大庭 政博 代表取締役専務取締役事業管掌 1979年4月同社入社。PE本部長兼メンテナンス事業部長等を歴任し、2022年4月より現職。
青木 信之 代表取締役専務取締役エリア管掌兼エリア統括兼安全統括 1982年4月同社入社。東日本エリア長等を歴任し、2023年4月より現職。


社外取締役は、岡橋輝和(元カナダ三井物産社長)、小川誠(元厚生労働省職業安定局長)、齋木尚子(元外務省国際法局長)、髙田明(元野村インベスター・リレーションズ取締役)、石田徹(日本商工会議所専務理事)です。

2. 事業内容


同社グループは、「物流事業」、「機工事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 物流事業


港湾における貨物の取卸しや積込み、コンテナターミナルオペレーション、海上運送、倉庫保管、トラック輸送、通関業務、工場構内での原材料・製品輸送などを提供しています。顧客は鉄鋼、化学、自動車部品業界などが中心で、国内外の物流ニーズに対応しています。

収益は、貨物取扱量や保管期間、輸送距離等に応じた輸配送・作業料や、各種手数料などから得ています。運営は主に同社が担うほか、株式会社山九海陸、株式会社スリーエス・サンキュウ、株式会社サンキュウ・トランスポート・東京などのグループ会社が行っています。

(2) 機工事業


製鉄機械や石油化学装置、電力関連装置などの建設、据付、配管工事、メンテナンス、重量物輸送、一般産業機械の設計・製作などを提供しています。プラント設備のライフサイクル全般をサポートしており、顧客は製造業やエネルギー関連企業が中心です。

収益は、工事請負契約に基づく建設・メンテナンス料や機器製作費などから得ています。運営は主に同社が担うほか、山九プラントテクノ株式会社、日本工業検査株式会社、山九重機工株式会社などが実施しています。

(3) その他


情報システムの開発・運用、人材派遣、保険代理店、土木・建築工事、機材賃貸などの関連サービスを提供しています。

収益は、システムの開発・運用保守料、派遣料、工事代金、賃貸料などから得ています。運営は主に株式会社インフォセンス、サンキュウビジネスサービス株式会社などが実施しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は5,000億円台後半で推移しており、比較的安定していますが、直近の2024年3月期は減収となりました。利益面では、経常利益が300億円台後半から400億円前後で推移しており、安定した収益力を維持していますが、2024年3月期は前期比で減益となっています。

項目 2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期
売上高 5,695億円 5,339億円 5,538億円 5,792億円 5,635億円
経常利益 401億円 350億円 354億円 396億円 366億円
利益率(%) 7.0% 6.6% 6.4% 6.8% 6.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 256億円 235億円 226億円 250億円 244億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高の減少に伴い、売上総利益および営業利益が減少しています。売上総利益率はほぼ横ばいで推移していますが、営業利益率は低下しており、収益性の維持・向上が課題となっています。

項目 2023年3月期 2024年3月期
売上高 5,792億円 5,635億円
売上総利益 637億円 620億円
売上総利益率(%) 11.0% 11.0%
営業利益 382億円 352億円
営業利益率(%) 6.6% 6.2%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が126億円(構成比47%)、減価償却費が27億円(同10%)を占めています。売上原価には工事損失引当金繰入額が13億円含まれています。

(3) セグメント収益


物流事業は、海上・航空運賃の下落や取扱量の減少などにより減収減益となりました。機工事業は、国内大型工事の端境期などの影響があったものの、海外での工事量増加により売上高は横ばいでしたが、利益は減少しました。その他事業は増収増益となっています。

区分 売上(2023年3月期) 売上(2024年3月期) 利益(2023年3月期) 利益(2024年3月期) 利益率
物流事業 3,021億円 2,843億円 99億円 81億円 2.8%
機工事業 2,525億円 2,526億円 261億円 251億円 9.9%
その他 247億円 267億円 16億円 18億円 6.9%
調整額 - - 6億円 2億円 -
連結(合計) 5,792億円 5,635億円 382億円 352億円 6.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動で得たキャッシュを元手に、借入金の返済や株主還元を行いつつ、必要な投資も実施している「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。

項目 2023年3月期 2024年3月期
営業CF 333億円 217億円
投資CF -165億円 -184億円
財務CF -111億円 -91億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.8%で市場平均をやや下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は55.8%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「人を大切にすることを基本理念とし、お客様にとってなくてはならない存在としての山九を築きます。そして、社業の発展を通じて社員の福祉向上並びに社会の発展に貢献します。」という経営理念を掲げています。技術・技能に裏付けられた質の高いサービス提供を通じて、信頼を獲得し選ばれる企業であり続けることを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「Vision 2030」において、「心に『Thank you』を、世界の産業に山九を。」というパーパスを掲げています。また、あるべき姿として「『人・社会・環境への感謝』を事業で実現する人間力企業」を定義し、感謝の念を持ってパートナーと共に新たな価値を創造し続ける姿勢を重視しています。

(3) 経営計画・目標


2023年度を初年度とする「中期経営計画2026」において、以下の数値目標を掲げています。

- 売上高:6,300億円以上
- 営業利益率:6.7%以上
- 海外売上高成長率:2021年度比25%UP
- ROIC:8.0%水準

(4) 成長戦略と重点施策


「中期経営計画2026」に基づき、既存事業の収益強化、海外事業拡大、グリーン機会の獲得・準備、新規事業領域進出の4つを基本戦略としています。また、これらを支える機能強化として、人財確保・育成、DX推進による生産性向上、パートナー連携強化に取り組んでいます。

- CO2排出量削減:2020年度比18%削減(2026年度中期目標)
- 女性管理職比率:9.5%(2026年度中期目標)

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人を大切にする」という経営理念のもと、人財を競争力の源泉と捉え、確保・育成に注力しています。階層別研修や専門技能研修に加え、マレーシアの人財育成拠点などを活用し、グローバルな技術・技能集団の育成を図っています。また、安全を最優先事項とし、働きがいのある職場環境づくりを推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2024年3月期 41.0歳 14.8年 6,162,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.8%
男性育児休業取得率 28.0%
男女賃金差異(全労働者) 64.4%
男女賃金差異(正規雇用) 66.5%
男女賃金差異(非正規雇用) 53.2%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、労働災害度数率(0.44)、CO2排出量削減実績(13.4%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 人財の確保・育成


同社グループの事業は人財の技術・技能に依存しており、労働力不足や有能な人財の確保・育成が困難になった場合、作業体制の維持に支障をきたし、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。対策として採用強化や定着化、DXによる生産性向上に取り組んでいます。

(2) 海外事業


東南アジアや中東などで事業を展開しており、現地の経済状況、為替変動、法規制変更、政治的混乱、治安悪化などのカントリーリスクが存在します。これらの事象が発生した場合、業績や財務状況に影響を与える可能性があります。

(3) 特定業界・特定取引先への依存


鉄鋼および石油精製・石油化学業界の顧客向け事業が大きな割合を占めています。そのため、これらの業界の動向や主要顧客の合理化要請、生産調整などが同社グループの業績に重要な影響を与える可能性があります。

(4) 重大災害、事故等


顧客の工場内や建設現場での作業において、事故や災害が発生した場合、損害賠償や社会的信用の低下を招き、事業活動が制限される可能性があります。「安全を全てにおいて優先します」という規範のもと対策を講じていますが、リスクは内在しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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