山九 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

山九 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

山九は東京証券取引所プライム市場および福岡証券取引所に上場する、物流事業と機工事業を主力とする企業です。港湾運送から工場内物流、プラント建設・メンテナンスまで幅広く展開しています。直近の2026年3月期業績では、売上高が前期比で増収となった一方、経常利益は微減益、当期純利益は増益となっています。


※本記事は、山九株式会社の有価証券報告書(第117期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 山九ってどんな会社?


物流と機工の2つの事業を両輪とし、グローバルに産業を支える総合物流・エンジニアリング企業です。

(1) 会社概要


1918年10月に山九運輸として発足しました。1954年に日本最初のプラント輸出作業を一貫受注し、1959年に機工・建設部門へ進出しました。1962年に東京証券取引所等へ上場し、1971年のシンガポール現地法人設立を皮切りに海外展開を本格化させており、現在に至るまでグローバルに作業を展開しています。

現在の従業員数は連結で29,324名、単体で12,452名に上ります。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行信託口で、第2位も同様に日本カストディ銀行信託口、第3位には外資系金融機関が名を連ねており、機関投資家からの保有比率が高い構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行信託口 15.15%
日本カストディ銀行信託口 9.68%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 5.30%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性2名の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長 CEOは中村公大氏が務めています。全取締役の28.6%が社外取締役となっています。

氏名 役職 主な経歴
中村公大 代表取締役社長 CEO 2002年入社。執行役員、取締役兼執行役員、代表取締役専務等を経て2016年代表取締役社長COO。2025年4月より現職。
中村公一 取締役会長 取締役会議長 1973年入社。取締役、常務、代表取締役副社長を経て1986年代表取締役社長。2016年代表取締役会長CEO、2025年4月より現職。
久木原剛 取締役専務執行役員事業管掌 CSO 兼技術・開発本部長 CTO 1986年入社。プラント工事部長、支店長、執行役員等を経て2025年専務執行役員、2026年4月より現職。
大中健児 代表取締役専務執行役員エリア管掌 兼エリア統括 兼安全統括 COO 1984年入社。プラント工事部長、支店長、執行役員等を経て2022年常務執行役員。2026年6月より現職。
井口知己 代表取締役専務執行役員管理・ESG管掌 CHRO 1990年入社。九州エリア統括部長、総務・CSR部長、執行役員等を経て2026年4月専務執行役員、2026年6月より現職。


社外取締役は、齋木尚子(元外務省国際法局長)、髙田明(元野村證券IBコンサルティング室長)、石田徹(元経済産業省資源エネルギー庁長官)、川上紀子(元東芝三菱電機産業システムパワーエレクトロニクスシステム事業部技監)です。

2. 事業内容


同社グループは、「物流事業」、「機工事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 物流事業


港湾における貨物の荷役、船舶や長距離トラックによる運送、倉庫での保管や通関業務など、幅広い物流サービスを提供しています。また、顧客の工場構内における原材料・製品の輸送や倉庫管理等の操業支援まで包括的に担い、サプライチェーン全体を最適化しています。

顧客である鉄鋼、化学、電気電子業界のメーカーなどから、貨物取扱量や輸送距離に応じた運賃や荷役料、保管料を収受する収益モデルです。事業の運営は、同社を中心にスリーエス・サンキュウ、サンキュウエアロジスティクスなどの各種国内外の子会社が行っています。

(2) 機工事業


製鉄機械、石油化学、電力関連などの一般産業設備や環境整備設備の設計・製作から建設・据付、配管工事までの一貫したエンジニアリングサービスを提供しています。また、設備の建設後も継続的なメンテナンスや大型重量物輸送を請け負っています。

プラントを保有する顧客企業から、設備の建設、保全や定期修理工事などの工事請負契約に基づく代金や作業単価に応じた料金を収受しています。同社のほか、山九プラントテクノ、日本工業検査、山九重機工などのグループ各社が本事業を運営しています。

(3) その他


主力2事業を補完・支援する形で、情報システムの構築やコンサルティング、人材派遣、福利厚生アウトソーシングなどの関連サービスを展開しています。加えて、道路や橋梁に関わる土木・建築工事、機材の賃貸といった事業も実施しています。

システム開発料やアウトソーシング受託料、機材のレンタル料などを顧客から収受しています。これらの事業は、インフォセンスやサンキュウビジネスサービスといった専門子会社がそれぞれ運営を担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績は、一時的な足踏みはありつつも全体として成長傾向にあります。売上高は着実に拡大を続け、直近では6,000億円台に到達しています。経常利益率も6〜7%台で安定して推移しており、底堅い収益力を維持していることが伺えます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 5,538億円 5,792億円 5,635億円 6,068億円 6,316億円
経常利益 354億円 396億円 366億円 447億円 434億円
利益率(%) 6.4% 6.8% 6.5% 7.4% 6.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 174億円 208億円 228億円 248億円 294億円

(2) 損益計算書


売上高の拡大に伴い売上総利益も増加していますが、売上総利益率は一定水準で安定しています。一方で、人件費等のコスト増加が影響し、直近の営業利益は微減となり、営業利益率もやや低下する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 6,068億円 6,316億円
売上総利益 737億円 764億円
売上総利益率(%) 12.1% 12.1%
営業利益 439億円 432億円
営業利益率(%) 7.2% 6.8%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が155億円(構成比47%)、業務委託費が34億円(同10%)、減価償却費が29億円(同9%)を占めています。

(3) セグメント収益


物流事業は、国内でのスポット作業増加等により微減収ながらも増益を確保しました。機工事業は国内での設備更新や環境関連工事の需要を取り込み増収となりましたが、海外工事の貸倒引当金計上等の影響で減益となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
物流事業 2,956億円 2,953億円 97億円 98億円 3.3%
機工事業 2,833億円 3,075億円 320億円 310億円 10.1%
その他 279億円 289億円 22億円 25億円 8.7%
連結(合計) 6,068億円 6,316億円 439億円 432億円 6.8%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 435億円 520億円
投資CF -265億円 -192億円
財務CF -253億円 -324億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.6%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も54.2%といずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「人を大切にすることを基本理念とし、お客様にとってなくてはならない存在としての山九を築きます。そして、社業の発展を通じて社員の福祉向上並びに社会の発展に貢献します。」という経営理念を掲げています。各分野の豊富な実績と高い技術・技能に裏付けられた質の高いサービスを提供し、社会の発展に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


パーパスとして「心に『Thank you』を、世界の産業に山九を。」を掲げ、周囲への感謝の念を重視しています。また、行動規範には「安全を全てにおいて優先する」「コンプライアンスに基づき行動する」「現場の汗を結集し強い企業であり続ける」などを定め、人・社会・環境への感謝を体現する「人間力企業」としての行動様式を根付かせています。

(3) 経営計画・目標


2027年3月期を最終年度とする「中期経営計画2026」および長期的な目指す姿としての「Vision2030更改」を策定しています。2030年度において過去最高水準のROE実現を目指し、以下の数値を長期目標に掲げて経営を行っています。

・売上高:7,500億円+α
・営業利益率:8.0%以上
・ROE:14.6%以上
・自己資本:3,000億円水準

(4) 成長戦略と重点施策


既存事業の収益力強化、海外事業拡大、グリーン機会の獲得・準備、新規事業領域進出の4つの基本戦略を推進しています。物流事業では強みを生かせる鉄鋼・化学・電気電子業界に絞り込み、DXによる生産性向上を図ります。機工事業では成長領域である再生可能エネルギー等へ挑戦し、グローバルでのプロジェクトマネージャー育成を進めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人・社会・環境への感謝を事業で実現する人間力企業」の実現に向け、「山九グループ人財ビジョン」を策定しています。グローバルに活躍できる技術・技能集団の育成に向け、国内外に人材育成センターを開設し、デジタル人材の育成にも注力しています。また、多様な人材が活躍できる職場環境の整備を進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.3歳 15.2年 7,308,000円

※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.4%
男性育児休業取得率 58.6%
男女賃金差異(全労働者) 67.3%
男女賃金差異(正規雇用) 69.2%
男女賃金差異(パート・有期) 55.0%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職比率の2030年度目標(11.0%)、労働災害度数率(0.41)、エンゲージメントスコア(43.8%)、DXリテラシー保有者数(7,194名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済・マーケット環境の変動


国内外で物流および機工を主軸に事業活動を展開しているため、景気変動や原材料・資材価格の高騰、競争激化の影響を受けます。また、海外事業においては為替相場の変動リスクが存在し、これらにより調達コストが増加して収益性が悪化した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 人材の確保・育成


必要な技術・技能を有する人材を適時に配置できる「動員力」を競争力の源泉としています。しかし、労働市場の変化により人材確保が困難になりつつあり、採用・育成が遅滞した場合は必要な作業体制の維持が難しくなり、事業活動に支障をきたす恐れがあります。

(3) 安全衛生および品質の維持


鉄鋼や石油化学工場などの構内において多くの危険を伴う作業を請け負っており、安全と品質の確保は最重要課題です。万が一、重大な労働災害や作業上の瑕疵、設備破損等が発生した場合、損害賠償や契約の解除を招き、社会的信用の低下につながるリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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