東急 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東急 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する東急は、鉄軌道やバスなどの交通事業を中核に、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートなど幅広い事業を展開しています。直近の業績では、全ての事業が好調に推移したことで増収となり、経常利益および当期純利益は過去最高益水準となる大幅な増益を達成して成長を続けています。


※本記事は、東急の有価証券報告書(第157期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 東急ってどんな会社?


交通インフラを基盤に、まちづくりから生活サービスまで多角的な事業を展開する企業の姿を解説します。

(1) 会社概要


1922年の目黒蒲田電鉄設立に始まり、1942年に社名を東京急行電鉄に変更しました。1949年に東京証券取引所へ上場を果たし、1966年には田園都市線を開通させるなど路線網を拡大しました。2019年には鉄軌道業を分社化するとともに社名を現在の東急へと変更し、多角的な事業展開を推進しています。

従業員数は連結で24,262名、単体で1,551名です。筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は日本カストディ銀行(信託口)、第3位は日本生命保険相互会社となっており、信託銀行などの金融機関が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 13.06%
日本カストディ銀行(信託口) 4.00%
日本生命保険相互会社 3.41%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役会長は野本弘文氏、代表取締役社長社長執行役員は堀江正博氏が務めています。社外取締役は4名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
野本弘文 代表取締役会長 1971年同社入社。イッツ・コミュニケーションズ取締役社長、同社常務、専務を経て2010年代表取締役。2011年社長、2015年社長執行役員を歴任し、2018年より現職。
堀江正博 代表取締役社長社長執行役員 1984年同社入社。東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメント執行役員社長や、同社リテール事業部長、ビル運営事業部長、常務執行役員などを歴任し、2023年より現職。
藤原裕久 取締役専務執行役員 1983年同社入社。東急ファシリティサービス取締役執行役員、同社国際事業部副事業部長、財務戦略室長、経営企画室長などを経て、2022年より現職。
髙橋俊之 取締役専務執行役員 1982年同社入社。同社国際事業部長や都市戦略事業部長、東急ファシリティサービス代表取締役社長のほか、同社都市創造本部長や常務執行役員などを歴任し、2022年より現職。
福田誠一 取締役 1986年同社入社。同社執行役員交通インフラ事業部長などを経て、2022年に東急電鉄代表取締役社長に就任。その後、2024年より同社取締役として現職。


社外取締役は、島田邦雄(島田法律事務所代表パートナー)、宮崎緑(千葉商科大学学長)、清水博(日本生命保険代表取締役会長)、杉山涼子(岐阜新聞社社主・代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「交通事業」「不動産事業」「生活サービス事業」「ホテル・リゾート事業」を展開しています。

交通事業


鉄軌道業において東急線各線などの旅客輸送を行うほか、バス業による路線・貸切バスの運行、仙台空港の運営、鉄道車両関連事業での機器設計や工事を担っています。

旅客からの運賃収入などを主な収益源としています。事業の運営は主に東急電鉄や東急バス、仙台国際空港などの各子会社が行っています。

不動産事業


首都圏や地方中核都市、さらには海外において宅地・住宅等の開発・分譲を行うほか、オフィスビル等の賃貸、プロパティマネジメントなどの管理、仲介業や建設業を展開しています。

不動産の販売代金やテナントからの賃貸収入、ビル管理費用などを収益源としています。同社のほか、東急不動産や東急プロパティマネジメントなどが運営しています。

生活サービス事業


百貨店やスーパーマーケット等のチェーンストア、ショッピングセンターの運営に加え、クレジットカード業、ケーブルテレビ・インターネットサービス、広告業、映画館等の映像事業を展開しています。

商品の販売代金やテナント賃料、通信サービス利用料などを主な収益源としています。運営は東急百貨店、東急ストア、東急カードなど多数のグループ企業が行っています。

ホテル・リゾート事業


全国各地におけるホテルの経営・運営や資産マネジメントを行うほか、複数のゴルフ場の営業などのリゾート事業を展開し、顧客に宿泊やレジャーの場を提供しています。

宿泊客からの宿泊代金やゴルフ場利用者からの施設利用料などを収益源としています。同社のほか、東急ホテルズや東急ホテルズ&リゾーツなどが事業を運営しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上収益は順調に拡大を続け、1兆円を超える規模に成長しています。経常利益も右肩上がりで推移しており、収益力の改善と事業基盤の安定化が明確に表れています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
営業収益 8,791億円 9,313億円 10,378億円 10,550億円 10,862億円
経常利益 350億円 474億円 993億円 1,077億円 1,161億円
利益率(%) 4.0% 5.1% 9.6% 10.2% 10.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 91億円 260億円 639億円 797億円 871億円

(2) 損益計算書


直近2年間の損益構造では、営業収益が順調に伸びているものの、人件費やシステム投資などの増加により営業利益は微減となっています。それでも約9.5%の営業利益率を維持し、安定した収益基盤を構築しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業収益 10,550億円 10,862億円
営業利益 1,035億円 1,032億円
営業利益率(%) 9.8% 9.5%


販売費及び一般管理費のうち、経費が1,235億円(構成比52%)、人件費が943億円(同40%)を占めています。

(3) セグメント収益


交通事業は設備投資や人件費増により減益となったものの、ホテル・リゾート事業におけるインバウンド需要の取り込みや生活サービス事業の映画市況好調などにより、他のセグメントが収益を牽引しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
交通事業 2,168億円 2,231億円
不動産事業 2,042億円 2,127億円
生活サービス事業 5,076億円 5,115億円
ホテル・リゾート事業 1,263億円 1,388億円
連結(合計) 10,550億円 10,862億円


営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態を示す「積極型」のキャッシュ・フローとなっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 1,551億円 1,277億円
投資CF -1,140億円 -1,750億円
財務CF -252億円 684億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.0%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も31.2%で市場平均を下回っていません(いずれも市場平均を上回る水準です)。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「美しい時代へ」というグループスローガンのもと、「美しい生活環境を創造し、調和ある社会と、一人ひとりの幸せを追求する」を存在理念に掲げています。また、「自立と共創により、総合力を高め、信頼され愛されるブランドを確立する」ことを経営理念とし、市場の期待に応えながら自然環境との融和を目指しています。

(2) 企業文化


「自己の責任を果たし、互いに高めあい、グローバルな意識で自らを革新する」を行動理念としています。社員一人ひとりが高い志を持ち、自ら考え、主体的にやり抜く価値観を共有し、長期的視点で地域社会やステークホルダーとの信頼関係を築きながら、創造的な価値提供に挑む文化を育んでいます。

(3) 経営計画・目標


2024年度を始期とする中期3か年経営計画において、資本効率向上と財務健全性維持の両立を図り、株主資本コストを意識した経営を推進しています。最終年度となる2027年度の定量指標として以下の目標を掲げています。

* EPS:164.88円
* ROE:9.3%
* ROA(総資産事業利益率):3.7%
* 営業利益:1,120億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:920億円

(4) 成長戦略と重点施策


「創造力でしなやかに“世界が憧れるまち”を」というビジョンワードのもと、交通と不動産を軸とした事業間シナジーと再投資により、持続的成長を実現する長期循環型事業を目指しています。既存事業の収益力向上による内部成長や、不動産開発・海外事業等への成長投資を継続し、経営推進基盤の強化に取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人材を連結経営の根幹と位置づけ、従業員から選ばれ続け“個”を最大化する人的資本経営を推進」することをコンセプトに掲げています。「働きがい」「働きやすさ」「処遇」の3要素を高めるため、多様な働き方を効果的に組み合わせる方針を導入し、従業員一人ひとりに寄り添った人材育成環境を整備しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.9歳 12.9年 9,034,606円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 14.8%
男性育児休業取得率 96.1%
男女の賃金の差異(全労働者) 68.0%
男女の賃金の差異(正規雇用労働者) 74.1%
男女の賃金の差異(パート・有期労働者) 65.1%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、中途採用比率(新規採用者全体の60%程度)、障がい者雇用率(2.72%)、一人当たり研修・教育実習費(114,530円)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経営環境変化への対応に関するリスク


金融市場の混乱や金利上昇による資金調達コストの悪化、原材料・労務費等の高騰による収益性低下のリスクがあります。また、少子高齢化やライフスタイルの変化によって既存事業の競争力が低下する可能性があるため、市場動向を見据えた商品企画やデジタル施策の強化を進めています。

(2) 安全管理への対応に関するリスク


鉄道事業など公共性の高い事業を担っているため、人為的事故やテロ、提供する商品・サービスの欠陥などが発生した場合、損害賠償や社会的信用の失墜につながるリスクがあります。これを防ぐため、ホームドアや防犯カメラの設置、品質管理体制の強化など、安全を最優先とする企業文化の維持・向上に努めています。

(3) 情報セキュリティに関するリスク


社会的なインフラを支えるITシステムを運用しているため、システム障害やサイバー攻撃、不正アクセスによる個人情報・機密情報の漏洩が発生した場合、事業の中断やブランドイメージの毀損を招くリスクがあります。セキュリティ対策や従業員教育、大規模インシデントを想定した訓練を継続的に実施しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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