※本記事は、株式会社東急 の有価証券報告書(第154期、自 2022年4月1日 至 2023年3月31日、2023年6月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東急ってどんな会社?
同社グループは、東急線沿線を中心とした交通インフラを基盤に、不動産開発や生活サービス、ホテル事業等を多角的に展開する企業グループです。
■(1) 会社概要
同社のルーツは1922年に創立された目黒蒲田電鉄に遡り、その後周辺鉄道会社の合併を経て事業を拡大しました。1949年には東京証券取引所に上場を果たし、戦後の復興とともにバス事業や百貨店事業などを分離・独立させながらグループ体制を構築しました。2019年には商号を東京急行電鉄から現在の東急に変更し、同時に鉄軌道事業を東急電鉄へ分社化することで、持株会社機能と事業推進機能を併せ持つ体制へと移行しています。
同社グループは連結従業員数23,763名、単体従業員数1,482名の体制で運営されています。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第3位には保険会社の第一生命保険が名を連ねています。また、第2位の日本カストディ銀行(信託口)など、信託銀行による保有割合が高くなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.67% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.07% |
| 第一生命保険 | 5.02% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性2名の計15名で構成され、女性役員比率は13.3%です。代表取締役社長社長執行役員は堀江正博氏が務めています。社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 堀江 正博 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1984年同社入社。東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメント社長、同社リテール事業部長、ビル運営事業部長、常務執行役員などを歴任し、2023年6月より現職。 |
| 野本 弘文 | 代表取締役会長 | 1971年同社入社。取締役社長、社長執行役員などを経て、2018年4月より現職。 |
| 髙橋 和夫 | 代表取締役副会長 | 1980年同社入社。経営管理室長、経営企画室長、取締役社長などを経て、2023年6月より現職。 |
| 藤原 裕久 | 取締役専務執行役員 | 1983年同社入社。財務戦略室長、経営企画室長、常務執行役員などを経て、2022年7月より現職。 |
| 髙橋 俊之 | 取締役専務執行役員 | 1982年同社入社。国際事業部長、都市創造本部長、東急ファシリティサービス社長などを経て、2022年7月より現職。 |
| 濵名 節 | 取締役常務執行役員 | 1983年同社入社。ビル事業部長、東急ファシリティサービス社長、ビル運営事業部長などを経て、2020年4月より現職。 |
| 金指 潔 | 取締役 | 1998年東急不動産取締役。同社社長、東急不動産ホールディングス会長などを経て、2012年6月より同社取締役。現在は東急不動産ホールディングス会長等を兼任。 |
社外取締役は、島田邦雄(弁護士)、蟹瀬令子(元イオンフォレスト社長)、宮崎緑(千葉商科大学教授)、清水博(日本生命保険代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「交通事業」「不動産事業」「生活サービス事業」および「ホテル・リゾート事業」を展開しています。
■交通事業
鉄軌道業、バス業、空港運営事業などで構成されています。東急線沿線等の地域において、通勤・通学などの移動手段を顧客に提供しています。鉄軌道では東横線や田園都市線など計9路線を運行し、バス業では路線バスや貸切バスの運行を行っています。
収益は主に旅客からの運賃収入や、空港利用料等から得ています。運営は、鉄軌道業を東急電鉄、伊豆急行、上田電鉄等が担い、バス業を東急バス等が担当しています。また、空港運営事業は仙台国際空港が、鉄道車両関連事業は東急テクノシステムが行っています。
■不動産事業
不動産販売業、不動産賃貸業、不動産管理業などで構成されています。個人や法人顧客に対し、住宅やオフィスビル、商業施設等の提供および管理運営を行っています。ベトナムなどの海外においても住宅開発等を展開しています。
収益は、不動産の分譲代金や賃貸料、管理業務の受託料等から得ています。運営は、販売・賃貸事業を同社や関連会社の東急不動産、ベカメックス東急有限会社等が行い、管理業は東急プロパティマネジメントや関連会社の東急コミュニティー等が担っています。仲介業は関連会社の東急リバブルが展開しています。
■生活サービス事業
百貨店業、チェーンストア業、ショッピングセンター業、ケーブルテレビ事業などで構成されています。地域住民等の顧客に対し、商品販売、商業施設の運営、CATV・インターネット接続サービス、広告代理業務、映像興行などを提供しています。
収益は、商品販売代金、テナント賃料、サービス利用料、広告料等から得ています。運営は、百貨店を東急百貨店、スーパーを東急ストア、SCを東急モールズデベロップメント等が担当しています。また、CATV事業はイッツ・コミュニケーションズ、広告業は東急エージェンシー、映像事業は東急レクリエーションが行っています。
■ホテル・リゾート事業
ホテル業とゴルフ業で構成されています。国内外の旅行者やビジネス客に対し、宿泊・料飲サービスやゴルフ場の利用サービスを提供しています。ホテルブランドとして「東急ホテル」「エクセルホテル東急」「東急REIホテル」などを展開しています。
収益は、宿泊料、レストラン利用料、ゴルフ場利用料等から得ています。運営は、ホテル業を東急ホテルズ等が担い、ゴルフ業はスリーハンドレッドクラブなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2019年3月期から2020年3月期にかけては安定した収益を上げていましたが、2021年3月期には新型コロナウイルス感染症の影響により大幅な赤字に転落しました。その後、2022年3月期には黒字回復を果たし、2023年3月期においては売上収益、利益ともに回復基調を維持し、増収増益となっています。
| 項目 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 1兆1,574億円 | 1兆1,642億円 | 9,359億円 | 8,791億円 | 9,313億円 |
| 経常利益 | 819億円 | 709億円 | -268億円 | 350億円 | 474億円 |
| 利益率(%) | 7.1% | 6.1% | -2.9% | 4.0% | 5.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 578億円 | 424億円 | -562億円 | 88億円 | 260億円 |
■(2) 損益計算書
前期から当期にかけて売上高は増加し、各利益段階において増益となっています。特に営業利益率は改善傾向にあり、本業の収益性が回復していることがわかります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8,791億円 | 9,313億円 |
| 売上総利益 | - | - |
| 売上総利益率(%) | - | - |
| 営業利益 | 315億円 | 446億円 |
| 営業利益率(%) | 3.6% | 4.8% |
販売費及び一般管理費のうち、経費が1,087億円(構成比49.9%)、人件費が905億円(同41.6%)を占めています。
■(3) セグメント収益
交通事業、生活サービス事業、ホテル・リゾート事業において増収増益となりました。特に交通事業は前年の赤字から黒字転換し、ホテル・リゾート事業も赤字幅が縮小しています。不動産事業は減収減益となりましたが、依然として利益の柱となっています。
| 区分 | 売上(2022年3月期) | 売上(2023年3月期) | 利益(2022年3月期) | 利益(2023年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 交通事業 | 1,629億円 | 1,805億円 | -39億円 | 85億円 | 4.7% |
| 不動産事業 | 1,872億円 | 1,841億円 | 452億円 | 288億円 | 15.7% |
| 生活サービス事業 | 4,894億円 | 5,012億円 | 66億円 | 111億円 | 2.2% |
| ホテル・リゾート事業 | 396億円 | 656億円 | -167億円 | -41億円 | -6.3% |
| その他・調整額 | - | - | 4億円 | 3億円 | - |
| 連結(合計) | 8,791億円 | 9,313億円 | 315億円 | 446億円 | 4.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「積極型」です(営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態)。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 856億円 | 954億円 |
| 投資CF | -788億円 | -1,544億円 |
| 財務CF | -14億円 | 746億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は28.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「美しい時代へ―東急グループ」をスローガンに掲げ、美しい生活環境を創造し、調和ある社会と一人ひとりの幸せを追求することを存在理念としています。自立と共創により総合力を高め、信頼され愛されるブランドを確立することを目指し、市場の期待に応えつつ、自然環境との融和や世界視野での経営革新を行うことを理念としています。
■(2) 企業文化
同社は、「自己の責任を果たし、互いに高めあい、グローバルな意識で自らを革新する」を行動理念としています。また、「安全・安心」「まちづくり」「生活環境品質」「ひとづくり」などをサステナブル重要テーマと設定し、事業を通じて社会課題の解決に取り組む「サステナブル経営」を基本姿勢として重視する風土があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は2021年を始期とする中期3か年経営計画において、「変革」を基本方針とし、事業環境変化への対応と構造改革による収益復元、新たな成長への転換を目指しています。最終年度である2023年度の数値目標として、以下の指標を掲げています。
* 東急EBITDA:1,792億円
* 営業利益:700億円
* 有利子負債/東急EBITDA倍率:7.2倍
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、交通インフラ事業における事業構造の強靭化として、安全・安心の追求とテクノロジー活用によるオペレーション変革を進めています。不動産事業では「東急ならではのまちづくり」により社会的価値を創出し、収益性を向上させる方針です。また、生活インフラ事業等での需要取り込みや沿線顧客サービスの進化による競争力強化、および各事業での構造改革を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は中期経営計画の「変革」の原動力として、従業員の「個」の最大化を支援しています。エンプロイーエクスペリエンスの向上や自律的なキャリア形成支援、グループ経営人材の育成、専門人材育成に取り組んでいます。また、多様な働き方を可能にする「東急ベストハイブリッド」方針や、ダイバーシティマネジメント、健康経営の推進を通じて、誰もが働き続けたい環境の整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 43.7歳 | 15.1年 | 7,969,020円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 12.9% |
| 男性育児休業取得率 | 103.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 74.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 68.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメント(B)、教育制度利用率(24.3%)、喫煙者率(22.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経営環境変化への対応に関するリスク
同社グループは鉄道沿線に経営資源が集中しており、人口減少や生活スタイルの変化、新産業の台頭等が需要減少や競争力低下を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、中期経営計画が予測値との乖離や経済情勢の変化により想定通り進捗しないリスクがあります。これに対し、経営陣は業績動向や変化の兆候を早期に把握し、迅速かつ適切な対策を講じています。
■(2) 安全管理への対応に関するリスク
自然災害や人為的事故、テロ等により施設損壊やサービス停止が生じた場合、業績や社会的信頼に影響を及ぼす可能性があります。同社は、災害時の対応力強化、ホームドア設置等の安全対策、車両内防犯カメラの導入、サイバー攻撃対応訓練など、予防と被害最小化の両面から対策を進めています。
■(3) コンプライアンスに関するリスク
法令違反や企業倫理に反する行為が発生した場合、社会的信頼の毀損や顧客離反を招き、業績に悪影響を与える可能性があります。特に、子会社における入札談合事件を受け、同社はコンプライアンス指針の周知徹底、内部通報制度の運用、研修の充実等により、法令遵守体制の強化と再発防止に取り組んでいます。
■(4) 働き方・人材確保に関するリスク
少子高齢化等による労働力不足が深刻化した場合、サービス品質の低下や事業縮小につながる可能性があります。同社は、採用・育成の強化、グループ内人材の活用促進、人事制度や福利厚生の見直しによる多様で柔軟な働き方の提供等を通じて、必要な人材の確保に努めています。



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