改良は得意だが「時代についていけない」
2019年3月期の同社の売上高は、前期比84億円減の7086億円。このうち交換レンズを含むデジタルカメラの「映像事業」は2961億円と全体の41.8%にとどまり、前期比646億円の大幅減収となっています。
これをカバーするのが、FPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置や半導体露光装置の「精機事業」で、売上高は映像事業に迫る2745億円で前年比482億円の増収。営業利益は映像事業の220億円を大きく上回る817億円で、会社の増益に貢献しています。
ニコンといえば、実はあの「三菱グループ」の一員。それだけに、業績が悪化していても職場環境はあくまでもホワイトのようです。20代の男性システムエンジニアは、企業口コミサイト「キャリコネ」にこんな書き込みを残しています。
日本でも有数なホワイト企業ではないかと思う。良くも悪くもゆるやかな流れのなかで、安定感のもと仕事に取り組める環境がある。(2019.3.13)
しかし、このような「ゆるやか」な雰囲気は、裏を返せば危機感が希薄ということ。研究開発に携わる30代の女性社員は、自社の社風を「とにかく保守的」と呆れています。
(過去の製品や技術の)改良しかしていません。新しい技術を開発したい方は入らない方が良いです。社内の勉強会もなく、50代や60代が古い考え方で主導権を握っているので、時代についていけていないのが現状です。(2017.8.11)
設計までで「製品化」せず終わる中高年社員
会社に危機感を抱いている人は、何年も前からいたのも事実です。研究開発を担当していた20代男性は、2015年に「このままでは10年後は業績が悪化して路頭に迷う」と退職。危機感の薄い開発現場の雰囲気をこう書き残しています。
カメラ市場の縮小により将来が不安であることと、次の柱として医療機器の参入を狙って研究開発が進んでいるが迷走っぷりは半端ない。開発を進めても設計だけで、結局プロトタイプを作らず終了する思い切りのなさは好きにはなれない。(2015.12.21)
リスクを取って新しいことをやり通すことのできない「思い切りのなさ」については、生産技術を担当する別の30代男性の目にも同じように映っていたようです。
一線から退いた中高年のエンジニアが多くいて、彼らの仕事のための仕事が割り当てられていますが、多くは製品化に至ることはなく、正直本気で製品を実現する気持ちも薄いです。しかし彼らをレイオフするような厳しい会社ではなく、よく言えばマッタリ、しかし会社が斜陽でありことは皆薄々感じている、といった雰囲気です。(2016.11.3)
2017年の希望退職に1343人が応募
すでに完成しているデジカメ製品を改善して出し続ける――。それなりに勝算のあるやり方ではありますが、構造的な変化が起こっているときには、現状の延長線上のやり方では未来がなくなってしまうでしょう。
初代のiPhoneが米国で発表されたのは、2007年1月。その時点で、デジタルカメラ市場が縮小することは、分かっていたことです。でも、フィルム時代から続く「カメラ大好き」な職人気質の技術者が、現場から大転換を主導することは難しいのも事実です。
半導体露光装置の国際的なシェア争いにも敗れ、2017年に1000人程度を見込んでいた希望退職には予想を大幅に超える1343人が応募。この年の国内企業トップのリストラ規模になりました。会社の将来を見限った社員がいかに多かったか、ということでしょう。
有価証券報告書によると、ニコンの従業員の平均年間給与は830万9901円(2019年3月31日現在)。ニコンは「給与が高くて労働環境がホワイト」だからといって、将来性が高くて働きがいがある会社とはいえない典型例となってしまいそうです。