本記事は、PwC(PricewaterhouseCoopers)が公表した以下の公式一次資料に加え、PwCコンサルティング合同会社を中心とする日本法人(PwC Japanグループ)の公式情報に基づき、客観的なファクトを積み上げて作成しています。
- Global Annual Review 2025:PwCグローバルネットワーク全体の経営成績、将来戦略、およびAIやサステナビリティといった重点領域への投資状況をまとめた年次報告書。
- PwC US 2025 Transparency Report:ネットワークの中核を成す米国法人における、監査品質、ガバナンス、人財の開発・評価、および報酬決定の透明性を詳述した報告書。
- PwC Global Code of Conduct(グローバル行動規範):プロフェッショナルとして遵守すべき倫理基準、行動指針、および「信頼」を醸成するための価値観(Values)を定義した公式文書。
- PwC Japanグループ ビジネスレビュー / 統合報告書:日本国内における業務収益(2025年度:3,086億円)や、「Trust and Transformation(信頼と変革)」に基づく組織再編、AI Factory等の戦略拠点の活動記録。
- PwCコンサルティング合同会社 公式採用資料・Job Description:AI人財共通JD、4つのキャリアトラック(Innovation & Think tank等)、および独自のワークスタイル「BXT」に関する公式定義。
- PwCビジネストランスフォーメーション合同会社 設立概要:2025年7月に設立された、マネージドサービス(継続的伴走支援)を主軸とする新会社の事業戦略資料。
1.企業の概要とアイデンティティ:149カ国、37万人を擁するプロフェッショナル集団
PwCは現代を、AIがビジネスモデルを根底から塗り替え、産業構造を再定義する「Intelligence Age(インテリジェンス・エイジ)」と定義し、組織そのものの「Reinvention(再発明)」することを戦略の核に据えています。本章では、テクノロジーを前提とした新しい組織構造、経営体制、そして刷新された理念と文化まで、AI時代のPwCを形作るアイデンティティを詳説します。
■1-1 PwCネットワークの概要:世界最大級のプロフェッショナルサービス・ネットワーク
PwCは、世界最大級のプロフェッショナルサービスネットワークです。
世界136カ国に36万4,000人以上のプロフェッショナルを擁し、ロンドンに本拠を置く「PwCIL」(PricewaterhouseCoopers International Limited)がグローバルネットワークの調整機関として活動しています。
Fortune Global 500企業の82%をクライアントとし、以下の3つの主要サービスラインを展開しています。
◆アドバイザリー(Advisory)
- 戦略、コンサルティング、ディール(M&A)、リスク、およびマネージドサービスを提供しています。現在、収益(244億ドル)および人員数(12万8,668名)ともにPwCで最大の規模を誇る部門です。
◆アシュアランス(Assurance)
- 財務諸表監査を主軸(収益の約74%)としつつ、サステナビリティ報告や、AIシステムの信頼性を保証する「Assurance for AI」など、新しい保証領域を急拡大させています。
◆税務・法務(Tax and Legal)
- 国際税務や複雑な規制対応、法務の知見を活かしたビジネストランスフォーメーションなど、高度な専門領域で価値を提供しています。
■1-2 トップと経営陣:モハメド・カンデ氏による新体制の始動
PwCネットワークの意思決定は、特定の個人に権限を集中させるのではなく、複数の合議体によるガバナンスと監督体制を通じて行われています。
◆モハメド・カンデ(Mohamed Kande):Global Chairman
- 2024年7月にPwCグローバルネットワークの会長に就任。世界が「Intelligence Age」へと移行する転換期にあるという認識を示しており、AIやデータによる価値創造の変革を牽引しています。
◆PwCネットワークのガバナンス
- 「ネットワーク・リーダーシップ・チーム(NLT)」が、PwCネットワーク全体の戦略設定および各メンバーファームが遵守すべき基準策定を担当。「グローバル・ボード(Global Board)」がPwCILおよびPwCネットワークのガバナンスに責任を持ち、NLTの活動を監督します。
- このほか「グローバル・リーダーシップ・チーム(GLT)」が、重大なリスクの評価や対応策の策定、コンプライアンスの監視、および継続的なリスク監督活動を実務レベルで主導。各サービスラインのリーダーとリスク、テクノロジー、サステナビリティなどの機能別リーダーが参加しています。
■1-3 理念体系:PwCの存在意義(Purpose)と「The New Equation(新しい方程式)」の戦略
PwCでは、組織の存在意義から日々の振る舞いまでを、統合された一つのシステムとして捉えています。「PwC's Code of Conduct(行動規範)」には、以下の4つの要素が相互に作用して組織の基盤を形成していることが明記されています。
◆Purpose(存在意義):「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」
- これがPwCのすべての活動の原点であり、PwCがなぜ存在し(Our Why)、何のために働くのかを示す最上位の指針です。資本市場、税制、経済システムといった社会の根幹を支える仕組みが正しく機能するための「信頼」を築くことを自らの社会的使命としています。
◆Strategy(戦略):「The New Equation(新しい方程式)」
- 変化の激しい世界において、PwCがどこにリソースを集中させ(Our Focus)、どのような価値を提供すべきかの方向性を示すグローバル戦略です。以下の2つの根源的なニーズに応えることを目的としています。
- 信頼の構築(Building Trust):不確実性が高まる中で、クライアントが投資家、従業員、社会などのステークホルダーとの間に強固な信頼関係を築けるよう支援します。これは、単なる安心感の醸成ではなく、透明性の確保、最高水準の品質、そして倫理的な判断を通じて、組織の存立基盤そのものを強化することを意味します。
- 持続的な成果の創出(Delivering Sustained Outcomes):AIの台頭や気候変動といった破壊的な変化を、ビジネスモデル自体を根底から書き換える「再発明(Reinvention)」の機会と捉え、単発の利益に留まらない長期的価値を支援します。クライアントとともに未来を創り変えるこの意志こそが、現在のPwCの成長戦略の核となっています。
◆Values(価値観):「私たちの行動指針(Our How)」
- 世界中の職員が共有し、日々の判断の拠り所とする5つの共通価値です。各価値観の具体的な内容は、次項にて詳述します。
◆The PwC Professional(行動):「私たちの振る舞い(Our Behaviours)」
- 存在意義や戦略を具体的な成果へと変換するための、一人ひとりのプロフェッショナルとしての具体的な振る舞いです。具体的な行動要素と併せ、後述します。
■1-4 行動指針とリーダーシップ:刷新された「PwCプロフェッショナル」
PwCの文化は、「5つの価値観」の徹底した実践と、それらを具体的な行動に落とし込んだリーダーシップ定義「PwC Professional」によって形作られています。
◆5つの共通価値(Values)
- Act with integrity:誠実かつ正直に行動し、正しいことを行う。いかなる時も客観性と独立性を維持し、自らの言動に責任を持つ。
- Make a difference:クライアントや社会に対し、現状に満足せず「より良い価値」を提供する方法を模索し、意味のある変化をもたらす。
- Care:同僚の可能性を最大限に引き出すために支援し、互いのウェルビーイング(心身の健康と幸福)を尊重する。
- Work together:組織、国境、サービスラインの壁を越え、多様な視点と知見を融合させて連携する。
- Reimagine the possible:従来のやり方に固執せず、テクノロジーの可能性を最大限に活用して、新しい価値の形を想像し創造する。
◆リーダーシップ定義「PwC Professional」
全職員に求められるリーダーシップ行動は、以下の2つの次元に集約され、それぞれ3つ、計6つの具体的な行動要素(Behaviours)として定義されています。
- 信頼されるリーダーシップ(Trusted Leadership)
- Inspire(鼓舞する):目的を持ってリードし、他者にポジティブな影響を与える。
- Empower(権限移譲する):チームを育成し、一人ひとりが最高の成果を出せる環境を整える。
- Evolve(進化する):常に好奇心を持ち、自ら学び続け、変化に柔軟に適応し成長する。
- 特徴的な成果(Distinctive Outcomes)
- Champion(擁護する):品質と誠実さを守り抜き、卓越した成果(Excellence)を追求する。
- Build(構築する):境界を越えて強固な関係を築き、持続可能な価値を創造する。
- Deliver(提供する):迅速かつ確実に、最高レベルの価値をデリバリーする。
「価値観に沿った行動」の扱い
PwCでは、数字を出すだけでなく、「いかにPwC Professionalとして振る舞ったか」が、アソシエイトからパートナーまで全職員の報酬とキャリア形成の決定的な基準となります。したがって「価値観に沿った行動」は、年次評価において財務的な業績(数字)と同じ、あるいはそれ以上の重みをもって評価されます。
■1-5 規律と意思決定フレームワーク:「Speak up」文化と「RADAR」
「PwC's Code of Conduct(行動規範)」を実効性のある規律とするために、PwCでは具体的な「防衛線」と「意思決定ツール」を導入しています。
◆「Speak up」文化:PwCでは、倫理規定や品質基準に反する疑念を抱いた際、役職にかかわらず声を上げることを、プロフェッショナルとしての責任と定義しています。
- 報復の禁止(Non-retaliation):善意で懸念を報告した職員に対し、いかなる形態の報復も容認しない厳格なポリシーが明文化されています。
- 報告チャネル:24時間365日、匿名での相談が可能な「PwC Ethics Helpline」を設置し、各ファームの倫理指導者やリスクマネジメント部門が迅速に対応する体制を整えています。
◆意思決定フレームワーク「RADAR」:倫理的に困難な問いや複雑な状況において、正しい道を選ぶための5ステップの思考ツールです。
- Recognising the event(事象の認識):その事案がPurposeやValuesと整合しているか、自分の直感に違和感がないかを確認する。
- Assessing the situation(状況の評価):事実関係を整理し、法的・倫理的影響、および自分やクライアント、社会といったステークホルダーへの影響を分析する。
- Deciding what to do(行動の決定):選択肢を比較検討し、「メディアで報じられても恥ずかしくないか」を問い、必要に応じて相談を行う。
- Agreeing the way forward(進むべき道の合意):自身の決定をテストし、自信を持って説明できる確信を得てから行動に移す。
- Reporting and communicating(報告と対話):適切な関係者へ報告し、そのプロセス全体から得られた学びを将来の行動に反映させる。
2.事業の概況と市場での立ち位置:収益569億ドルとアドバイザリーの成長
PwCは、地政学的リスクや世界経済の不確実性が続く中、成長戦略「The New Equation」を通じて持続的な成長を維持しています。本章では、FY2025 決算データを中心に、ネットワーク全体のパフォーマンスおよび事業セグメント別の動向を詳述します。
■2-1 PwCネットワーク全体の業績概況:FY25収益は過去最高の569億ドル
PwCネットワーク全体の総収益は、FY2025に過去最高の569億6,800万米ドル(約8.5兆円)に達しました。地政学的な緊張や経済的な逆風(headwinds)が続く市場環境下にありながら、全サービスラインで増収を確保し、強固なビジネスモデルを証明しています。
なお、PwCの開示資料における「収益(Revenue)」は、クライアントに請求した報酬の総額(Gross Revenue/売上高)を指します。
資料では、ここからクライアント業務に伴う経費精算額等を差し引いたものを「純収益(Net Revenue)」と区別していますが、一般的にファームの規模を示す指標としては「総収益」が用いられます。
| 指標 | FY2024 | FY2025 | 前年比成長率 (現地通貨建て) |
前年比成長率 (米ドル建て) |
|---|---|---|---|---|
| 総収益(Gross Revenue) | 55,381 | 56,968 | 2.7% | 2.9% |
※単位:百万ドル
■2-2 セグメント別の業績:成長を牽引するアドバイザリー
PwCの事業は「アドバイザリー」「アシュアランス」「税務・法務」の3つのセグメントで構成されています。PwCは伝統的に監査(アシュアランス)のイメージが強い組織ですが、現在の収益構造はアドバイザリー部門が最大の事業セグメントとなり、成長を牽引しています。
◆アドバイザリー:変革を牽引する最大セグメント
- 全収益の4割強を占める成長エンジンです。生成AIやビジネスモデル再編(BMR)を軸に、MicrosoftやOpenAIら技術巨人との「商用アライアンス」を通じて大型案件(Wins)を量産。さらに、過去3年で倍増したマネージドサービスが運用までをカバーし、収益の安定化も果たしています。
◆アシュアランス:信頼を再定義するブランドの礎
- 収益の7割超を占める監査を盤石の基盤としつつ、AI保証やESGといった非財務領域へ「信頼」の対象を広げています。2024年6月に先行投入した「Assurance for AI」は、テクノロジーの妥当性を独立した立場から保証する新市場として確立されつつあります。
◆税務・法務:規制環境の複雑化に対応する統合アプローチ
- 国際課税(Pillar Two)などの複雑化する規制対応が主戦場です。グローバル共通基盤「Sightline」を活用し、法務・税務・コンサルを統合したデジタルアプローチにより、サプライチェーン再編などの高度な経営課題にワンストップで応えています。
| サービスライン | FY2024 | FY2025 | 構成比(FY25) | 成長率 (現地通貨) |
|---|---|---|---|---|
| アドバイザリー | 23,596 | 24,386 | 42.8% | 4.5% |
| アシュアランス | 19,458 | 19,846 | 34.8% | 1.7% |
| 税務・法務 | 12,327 | 12,736 | 22.4% | 1.0% |
| 合計 | 55,381 | 56,968 | 100% | 2.7% |
単位:百万ドル。税務・法務の実質成長率は、事業売却等の影響を除いたベース(like for like)では2.8%増。
[PwC Japan有限責任監査法人] 30代前半男性・コンサルティング営業・年収500万円 監査業務は資本市場が存在する限り安定した需要があるため、職を失う心配は少ないが、報酬の引き上げが難しいのが現状。監査業務に専念する会計士の離職率が高い印象があり、アドバイザリー業務など多様なスキルを持つことが求められています。[キャリコネで口コミを見る]
■2-3 地域別の業績:日本・インド・韓国の強力な成長が拡大を牽引
米州とEMEAが収益全体を牽引する一方、アジア太平洋地域では市場環境による二極化が鮮明となっています。
◆米州:北米(米国、カナダ)、中南米(ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリ 等)
- ネットワーク全体の収益の約45%を占める最大市場。米国のプレゼンスが圧倒的ですが、近年はブラジルが二桁成長を記録するなど、中南米市場の成長寄与度も高まっています。
◆EMEA:欧州(英国、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、中央・東欧(CEE))、中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE) 等)、アフリカ(南アフリカ、その他アフリカ諸国)
- 欧州・中東・アフリカを網羅する広大な地域。安定した収益源である英国・ドイツに加え、現在は国を挙げた変革需要が旺盛な中東や、経済回復が進むスペイン、および中央・東欧が成長の牽引役となっています。
◆アジア太平洋:東アジア(日本、中国、香港、韓国、台湾)、南アジア・東南アジア(インド、シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア 等)、オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)
- 地政学的・経済的影響により最も二極化が激しい地域。中国・香港の減収を、日本・インド・韓国の強力な成長が相殺しようとする構図になっています。特に日本は、地域全体がマイナス成長となる中でグローバルから「成長エンジン」と名指しで評価されています。
| 地域(Region) | FY2024 | FY2025 | 構成比(FY25) | 成長率 (現地通貨) |
|---|---|---|---|---|
| 米州(Americas) | 24,335 | 25,574 | 44.9% | 5.5% |
| EMEA(欧州・中東・アフリカ) | 21,743 | 22,548 | 39.6% | 2.5% |
| アジア太平洋(Asia Pacific) | 9,303 | 8,846 | 15.5% | ▲4.1% |
| 合計 | 55,381 | 56,968 | 100.0% | 2.7% |
単位:百万ドル
■2-4 研究開発・設備投資:120億ドルの5カ年投資計画
PwCは「再発明(Reinvention)」の完遂に向け、FY2025においてネットワーク全体で合計31億米ドルの投資を実行しました。
- AI・テクノロジー領域:総投資額の約半分にあたる15億ドルを集中。独自のAI基盤「agent OS」の開発や、ソリューションを高速量産する「AI factory」の構築、世界各地への「AI hubs」設置により、インフラから実務ツールまでを垂直統合しています。米国法人75,000名を含む全職員が安全な生成AI環境「ChatPwC」を標準装備し、主要パートナー10社との商用アライアンスを通じて、先端技術の社会実装を加速させています。
- 次世代監査(Next Generation Audit):品質と効率の抜本的強化を目的に10億ドルの継続投資を投入。クラウド・自動化・AIを統合した世界共通の監査基盤を構築し、全メンバーファームにおけるデリバリー品質を均一化しました。また、非財務情報の保証を財務監査と同等の信頼性で実現する「サステナビリティ・テック」の開発を推進し、新たな信頼市場の基盤を固めています。
- 人的資本への投資:テクノロジーを成果へ繋げる「人」のリスキリングに主眼を置いています。既に全世界で31万5,000名以上の職員が「Network AI Academy」でのトレーニングを完了。さらに、AIが職員のスキルとプロジェクト機会を最適にマッチングする「My Marketplace」を導入し、個人のキャリア形成と組織需要を高度にリンクさせることで、投資の最大化を図っています。
| 投資領域 | 投資規模 | 主な目的と内容 |
|---|---|---|
| AI(人工知能)関連 | 15億ドル | 独自のAI基盤(agent OS)の開発、AIファクトリーの構築 |
| 次世代監査プラットフォーム | 10億ドル | クラウド・AI統合型の監査基盤(Next Generation Audit) |
| 戦略的投資(その他) | 6億ドル | 12件の戦略的買収、人材開発、品質管理体制の強化 |
| 投資合計 | 31億ドル | 将来の成長と品質維持に向けた総投資額 |
3.事業戦略と展望:AI×人間による「テックファーム」への転換
PwCは、急激なテクノロジーの進化と地政学的変動に直面するクライアントに対し、「信頼の構築」と「持続的な成果の提供」を軸とした戦略を展開しています。本章では、2021年に策定された「The New Equation(新しい方程式)」の進化形と、その中心にある「ビジネスモデルの再発明」に向けた具体的な戦略指針を詳述します。
■3-1 事業戦略:信頼と成果を両立する「The New Equation」の深化
PwCの戦略「The New Equation(新しい方程式)」は、不確実な時代を生き抜くための「信頼」と「成果」の掛け算を意味しています。これは、6割のCEOが「10年以内の自社存続に危機感を抱く」現状を突破するための生存戦略です。
◆信頼の構築(Building Trust)
- 財務監査で培った透明性を、AIの倫理性、サイバーセキュリティ、ESG(脱炭素)といった非財務領域へ拡張することを指します。目に見えないリスクに「客観的な裏付け」を与えることで、企業の市場価値を担保します。
◆持続的な成果(Delivering Sustained Outcomes)
- 一過性のコスト削減ではなく、AIを前提としたビジネスモデルの「再発明(Reinvention)」を指します。変革の実行から運用(マネージドサービス)まで伴走し、5年、10年先も価値を生み出し続ける組織へと造り替えます。
現在、AIや気候変動、地政学的シフトによって、全産業合計で年7.1兆ドル(約1,000兆円超)もの収益が「既存の勝者」から「新たなモデル」へと再分配(Value in motion)される局面を迎えています。PwCはこの巨大な市場再編の波をクライアントが捕捉できるよう、15億ドルのAI投資による独自基盤「agent OS」や「AI factory」を駆使し、戦略から実装までを支援します。
■3-2 実装アプローチ:「Human-led, tech-powered」が定義する人間の価値
「The New Equation(新しい方程式)」を具体的な解決策へと変換する手法が、人間の知見と先端技術を融合させる「Human-led, tech-powered」です。
人間が「目的(Why)」と「価値(So What?)」を定義し、AIが「実行(How)」を担う。AIによる自動化を前提に、人間が戦略的判断の最終責任を負うことで、変革を実効性のある成果へと導きます。
◆Human-led(人が主導する)
- AIには代替できない倫理的判断や複雑な課題への洞察、そして「誠実さ(Integrity)」を、全世界31万5,000人のプロフェッショナルが担います。テクノロジーの活用過程においても自らの責任で正しさを判断し、PwCの「行動規範」を遵守することで社会的な「信頼」を担保します。
◆Tech-powered(テクノロジーが加速させる)
- 15億ドルのAI投資で構築した「agent OS」や「AI factory」を全職員が共通基盤として駆使します。定型業務をAIで自動化し、人間の付加価値を拡張(Augmentation)させることで、変革のスピードとデリバリーの品質を飛躍的に向上させます。
この両輪のアプローチにより、AI Academyを通じた全職員のリスキリングと先端技術の現場実装を同期させ、組織の「再発明(Reinvention)」を実効性のある成果へと導きます。
■3-3 戦略を実現する組織:グローバル・ネットワークの連動
PwCの戦略を支える基盤は、世界151カ国以上に及ぶグローバル・ネットワークの機動力です。単なる拠点の集合体ではなく、共通のデジタル基盤と品質基準によって、一つの巨大な「組織知」として機能しています。
◆単一の品質・ブランド基準
- 各国のファームは法的・財務的に独立しつつも、PwC International Limited (PwCIL) が策定した厳格な「共通の品質基準」を共有しています。これにより、国境を越えたプロジェクトにおいても、一貫したブランド価値とサービス品質の担保を可能にしています。
◆シングル・グローバル・プラットフォーム
- AI基盤「agent OS」や監査基盤「Aura」など、全世界共通のデジタルプラットフォームを導入しています。巨額のR&D投資によって開発された最先端の武器を、151カ国すべてのプロフェッショナルが即座に利用できる体制を整え、スケールメリットを最大化しています。
◆グローバル・デリバリーとCoE(センター・オブ・エクセレンス)
- 世界各地に配置されたAIハブやデリバリー・センターを連携させ、地域や時間の壁を越えて最適な専門知見を即座に動員します。この「ネットワーク型の組織構造」が、複雑化するグローバル企業の課題に対する迅速な解決を支えています。
■3-4 実行を支えるガバナンス:AI投資を支える世界統一の統制
149の国と地域に及ぶ広大なネットワークにおいて、戦略「The New Equation」の安全な遂行を支えるのは、全世界共通の厳格な品質管理と倫理的枠組みです。
◆品質管理システム(SoQM)と報酬の連動
- 国際品質マネジメント基準(ISQM 1)に準拠した「SoQM」を全メンバーファームに義務付けています。特筆すべきは、品質成果をパートナーや職員の報酬に直接反映させる仕組みであり、品質目標の未達が収益配分の減額に直結する強制力を持たせています。
◆責任あるAI(Responsible AI)の統制
- 独自の「AI Trustフレームワーク」を全業務に適用。AIの出力に対する最終責任は常に人間(プロフェッショナル)が負う原則を明文化し、機密性を最優先したセキュアな環境でのみAIを運用しています。
◆独立性と自浄作用の監視
- 全世界のパートナー・職員の投資状況を中央システム「Checkpoints」でリアルタイムに照合し、利益相反を未然に防止。また、匿名報告窓口「PwC Ethics Helpline」を通じた「Speak up(懸念の表明)」文化を徹底し、組織の自浄作用を維持しています。
4.報酬・評価制度:品質と説明責任を軸とした評価の厳格化
PwCは、戦略「The New Equation(新しい方程式)」を遂行するにあたり、単なる財務的成功だけでなく、プロフェッショナルとしての品質、倫理、および将来の「再発明」に向けたスキル獲得を正当に報いる制度を運用しています。この制度の核心は、テクノロジーを駆使しながらも、その結果に対して人間が重い説明責任(Accountability)を負う構造にあります。
■4-1 評価システム:「PwC Professional」と「バランス・スコアカード(BSC)」
報酬決定の根拠となる評価は、1-4で説明したリーダーシップ定義「PwC Professional」と、多面的な業績指標「バランス・スコアカード(BSC)」に基づき実施されます。
- 個人評価の主軸「PwC Professional」:信頼されるリーダーシップ(How)と特徴的な成果(What)の両面からプロフェッショナルの価値を測定します。
- 組織・パートナーレベルは「バランス・スコアカード(BSC)」:「品質・リスク管理(SoQMへの準拠)」「ビジネス・財務(成長と収益性)」「ピープル(育成と多様性)」「戦略/クライアント(再発明への寄与)」の4視点から多角的に業績を評価します。
これらの評価の絶対的な前提条件(Quality Gate)となるのが、「品質・倫理・独立性の遵守」です。いずれかの項目で「不十分(Unsatisfactory)」と判定された場合、財務成果がいかに傑出していても、個人の総合評価は自動的に「最低ランク」へ制限(キャップ)されます。この客観的な判定が、報酬制限における厳格な根拠となります。
[PwCコンサルティング合同会社] 20代後半男性・経営コンサルタント・年収740万円 シニアアソシエイトまでは横並びで上がっていけるがあるが、マネージャークラスになってくると、発言力のあるパートナーやディレクター、シニアマネージャーのもとで経験を積み、成果を上げている人が割合早く昇進できるように思う。[キャリコネで口コミを見る]
■4-2 報酬体系:「スキルの市場価値」と「個人の貢献・組織の業績」で決定
前節の評価判定に基づき、短期的な利益追求を排した報酬の配分を行います。
◆パートナーの報酬
- 個人の売上に連動する歩合制ではなく、ネットワーク全体の利益を役割や貢献度に応じて分配する「利益プール制」を適用します。独立性維持のため、監査担当パートナーが自身のクライアントへ非監査業務を販売し、それを報酬評価に反映させることは厳格に禁止されています。また、前節の評価制限(キャップ)を受けた場合には、賞与の全額カットや分配ユニットの減額といった財務的ペナルティが直結する仕組みです。
◆職員の報酬
- デジタルスキル等の市場価値を反映した「ベース給」と、個人の貢献および組織の業績に基づく「賞与」で構成される「トータル・リワード」を提供しています。あわせて、性別や背景による不当な格差を排除する「給与公平性(Pay Equity)」の調査と是正措置を、グローバル共通で継続的に実施しています。
[PwCコンサルティング合同会社] 40代前半男性・コンサルタント・年収1,800万円 マネージャー未満の給与レンジは、新卒でアソシエイトだと500万円程度から始まり、最大700~750万円くらい。シニアアソシエイトで700~750万円程度から最大1000万円いくかどうかくらいか。[キャリコネで口コミを見る]
5. 人財・キャリア:37万人の「再発明」を支える流動性と教育
PwCは、全職員がAIやサステナビリティといった新領域を武器に、自らのキャリアを「再発明(Reinvention)」し続けられる育成・評価エコシステムを全世界で展開しています。
■5-1 キャリアパス:年間2.5万件の異動が示す「内部流動性」
PwCのキャリアパスは、個人のオーナーシップに基づく自律的な成長機会と、ネットワークを活かした多様な成長パスによって構成されています。
◆自律的なキャリア形成と「Always-on feedback」
- キャリアの所有権を個人が持つ「オーナーシップ」をグローバル共通の指針としています。プロジェクトごとのリアルタイムな対話「Always-on feedback」を通じ、即時的なスキル修正と成長を促進。また、149の国と地域に広がる「内部流動性(Internal Mobility)」を活かし、米国法人では年間約2.5万件以上の異動が発生するなど、部門や国境を越えて自律的に経験を積む機会が担保されています。
◆戦略的スキルの習得と市場価値の向上
- 「Network AI Academy」によるAIスキルの習得や、10万人規模のサステナビリティ教育をキャリア進展の必須要件としています。テクノロジーと社会課題の双方に精通した「次世代プロフェッショナル」への転換を組織的に支援し、個人の市場価値を最大化させます。
◆昇進の透明性と多様性の実証
- 昇進判断には、1-4で詳述した「PwCプロフェッショナル」の2次元評価(信頼されるリーダーシップ/特徴的な成果)を適用します。FY2025実績として全世界で35,468名が昇進を果たしました。新任パートナーの女性比率は30%に達しており、属性にかかわらず実績と信頼に基づいてキャリアを構築できる環境を数値で証明しています。
■5-2 人財育成:再発明を加速する「AIリスキリング」
PwCの育成プログラムは、AIとサステナビリティへの巨額投資を実務能力へ変換し、組織全体のビジネスモデルを再発明するためのエンジンです。
◆AI・デジタル:Network AI Academyと独自基盤
AIを全サービスの基盤と位置づけ、世界最大規模のリスキリングを推進しています。
- 圧倒的な習得実績:2025年度までに全世界で31万5,000名(全職員の約85%)がAIトレーニングを完了しました。15億ドルの投資により、Microsoft、OpenAI、Anthropic等との提携を通じた実戦的教育を提供しています。
- 実践環境の提供:独自の生成AI環境「agent OS」や「ChatPwC」を全職員に解放。安全な隔離環境でAIエージェントを活用した業務自動化を自ら設計・体験する文化を醸成しています。
◆サステナビリティ(ESG):10万人規模の専門家育成
「信頼の構築」を非財務領域へ拡大するため、全社的な専門性の底上げを実施しています。
- 全門横断の教育:全世界で10万人以上の職員がESGスキルトレーニングを完了。監査部門のみならず、コンサルティングや税務の職員も、気候変動や脱炭素がクライアントのビジネスに与える影響を理解し、統合的な提言を行う体制を整えています。
◆品質・技術:次世代監査への適応とガバナンス
「テックファーム」への進化を支えるため、揺るぎない品質管理能力を育成します。
- 次世代監査(Next Generation Audit):10億ドルを投じた共通プラットフォームの刷新に合わせ、AIや自動化を駆使した最新手法の技術研修を全監査職員に義務付けています。
- ISQM 1の遵守:テクノロジー活用下でも、国際品質マネジメント基準(ISQM 1)に基づく原理原則を徹底。AIのバイアス等のリスクを管理しつつ、その便益を最大化できる人財を育成します。
◆フィードバック:Always-on feedbackによる成長支援
- 職員一人ひとりに専任コーチを配し、プロジェクトの節目ごとにリアルタイムな対話を行う「Always-on feedback」を徹底しています。特定の時期の面談に依存せず、日々の業務を通じて「PwCプロフェッショナル」指標に基づくフィードバックを繰り返すことで、急速な環境変化に適応する柔軟な成長を支えています。
[PwCアドバイザリー合同会社] 30歳男性・コンサルタント・年収1,206万円 残業時間は電通事件後、極端に減少している。ほとんどのスタッフが21時前には帰宅出来ているのでは。福利厚生等はあまりないが、英語の講習をうけるなどしたときに年20万円まで補助が出る。[キャリコネで口コミを見る]
6.経営課題とリスク:「知能の時代」における構造転換の痛み
PwCは、テクノロジーが既存の成功方程式を無効化する「知能の時代」への移行期にあり、以下の4点を最優先の経営課題として定義しています。
■6-1 構造的転換とリスク:労働集約型モデルからの抜本的な脱却
従来の「投下時間 × 単価」という収益モデルが、AIによる生産性向上で維持できなくなるリスクに直面しています。
- モデルの転換:収益基盤を「人間の努力(Human effort)」主導から、「価値ベース(Value-based)」や「アセット型ビジネス」へ転換することが急務です。
- 投資と収益のラグ:AIや次世代監査基盤への数十億ドル規模の投資を継続していますが、これらの巨額投資が収益に結実するまでの期間、および既存事業の減衰が業績を下押しするリスクを注視しています。
■6-2 人材のミスマッチ:AIに代替されない「高度な判断力」へのシフト
AIがジュニアレベルの定型業務を代替する中で、37万人のプロフェッショナルの質的変化が最大の内部リスクとなっています。
- 高度な判断力へのシフト:AIトレーニングを完了した31.5万名が、単なるツール習得に留まらず、高度な「判断力」や「戦略構築」へ能力をシフトできるかが鍵です。
- 再発明の成否:人材がビジネスモデルの「再発明」を主導できるレベルまで育たず、スキルの陳腐化が起きることは、組織のデリバリー能力を著しく低下させるリスクとなります。
■6-3 専門人財の獲得競争の激化:テック企業との争奪戦と「報酬のジレンマ」
「テックファーム」への進化に伴い、競合は他のBIG4から、ビッグテックやAIスタートアップへと拡大しています。
- 獲得と流出のリスク:AIやサステナビリティの専門家は市場で極めて希少であり、報酬水準のインフレや機動力のあるテック企業への人財流出が、戦略遂行のボトルネックとなっています。
- 公平性と競争力の両立:全職員の「給与公平性(Pay Equity)」を維持しつつ、トップ層を引き留める市場競争力ある報酬を提示し続けることが困難な課題となっています。
■6-4 品質リスク:AIのハルシネーション(誤情報)に対する防波堤
AIの誤りや不正確さは、プロフェッショナルサービスにとって致命的なブランド価値の毀損に直結します。
- ハルシネーションへの対応:AIが生成する不正確なアウトプットを見抜けずに提供してしまう「プロフェッショナリズムの欠如」を重大なリスクと位置づけています。
- 批判的思考の維持:独自のガバナンスにより、人間が「最終的な審判(Final Arbiter)」として品質を確定させることを義務付けています。AIへの依存による批判的思考の鈍化を、信頼を揺るがす最大のリスクと定義しています。
7.日本法人の実態:PwCコンサルティングが描く「社会実装」
グローバルで加速する「再発明(Reinvention)」やAIへの巨額投資といった巨大な潮流は、日本市場という地において、どのような具体的な形となって現れているのでしょうか。
PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)は、監査、コンサルティング、税務、法務、アドバイザリーの各法人が連携する専門家集団ですが、本章では「PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)」に例に、その組織の深部と、現在進行形の変革の実態を解き明かします。
■7-1 日本法人の体制:One Firm化による「Trust and Transformation」の加速
PwC Japanは現在、その歴史の中でも最もダイナミックな組織進化の渦中にあります。
◆「One Firm」体制への進化と組織統合
- 2024年、PwC Japanはグループ内の連携をさらに強固にするため、大規模な組織統合(One Firm化)を断行しました。これは単なる形式的な統合ではなく、監査法人をルーツに持つ「信頼(Trust)」のDNAと、コンサルティングが担う「変革(Transformation)」の力を高度に融合させるための、戦略的な再編です。
◆「Trust and Transformation」:日本独自の経営旗印
- グループ代表の久保田正崇氏、およびPwCコンサルティングCEOの安井正樹氏の下で掲げられた経営ビジョンが「Trust and Transformation(信頼と変革)」です。これは、グローバル戦略「The New Equation」を日本市場の文脈に合わせて深化させたものであり、クライアントの難題を解決する「変革」の実行力と、社会から求められる「信頼」の担保を両立させることを、組織の存在意義として再定義しています。
◆グローバルを牽引する圧倒的な成長性
- 特筆すべきは、その成長スピードです。2025年度、PwC Japan全体の業務収益は前年度比16.8%増の3,086億円に達しました。グローバル全体の成長率が2.7%増(現地通貨ベース)であったことと比較しても、日本市場がいかに熱を帯び、世界のPwCネットワークの中でも「変革のリード市場」として極めて重要な役割を担っているかが分かります。
◆コンサルティングが担う「変革」のエンジン
- この成長の最大の推進力が、PwCコンサルティングです。戦略(Strategy&)から業務改革、デジタル実装、そして運用(Managed Service)までをシームレスにつなぐ「Strategy through Execution(戦略から実行まで)」というモデルは、複雑化する日本企業の課題に対し、単なる提言に留まらない「実効性のある解」を提供するエンジンとして機能しています。
■7-2 日本市場の注力領域:2025年始動の「AI Factory」と産業構造の再編
PwCコンサルティングは、グローバルの「再発明」という潮流を日本市場の文脈へ落とし込み、単なる「提言」に留まらない「社会実装」の担い手として、以下の3つの領域に最優先で注力しています。
◆「AI Transformation Firm」としての覚悟と「AI Factory」の始動
- PwCコンサルティングは現在、「日本で一番AIでシナジーを生み出すコンサル」を標榜しています。その象徴が、2025年10月に発足した「AI Factory」です。
- これは単なるAIの研究機関ではなく、クライアントの個別のビジネス課題に対し、AIを用いた解決策を高速でプロトタイピングし、実際の業務フローへ組み込む「実装の拠点」です。
- グローバルで共通化された「agent OS」などのプラットフォームを活用しながら、日本独自の商習慣や規制に適合したAI変革を加速させています。
◆日本独自の概念「産業アーキテクチャ」の再構築
- アニュアルレビュー2025において強調されているのが、「産業アーキテクチャ(Industry Architecture)」という視点です。これは、個別企業の最適化を超え、データとテクノロジーを用いて産業全体の構造そのものを描き直す試みです。
- このビジョンを実現するために、組織横断型イニシアチブ(XII)として「スマートモビリティ総合研究所(2025年2月設立)」や「宇宙・空間産業推進室」を設置。官民の垣根を越え、次世代の社会基盤をテクノロジーで支えるプロジェクトを推進しています。
◆収益モデルの再発明:Managed Servicesと新会社の設立
- 第6章で触れた「労働集約型モデルからの脱却」を日本で具現化しているのが、2025年7月に設立された「PwCビジネストランスフォーメーション合同会社」です。
- これまでの「プロジェクト単位のコンサルティング」から、テクノロジーとアセットを活用した「継続的な伴走支援(マネージドサービス)」へと、収益構造を抜本的にシフトさせています。
- これにより、変革の「成果」にまで責任を持つ、新しいプロフェッショナルサービスの形を追求しています。
■7-3 PwCコンサルティングの特徴:多様な専門性を結集する「BXT」と「やさしさ」の文化
PwCコンサルティングの最大の特徴は、コンサルティング業界のステレオタイプを覆す独自のカルチャーと、個々の専門性を最大限に引き出すための多層的なキャリア制度にあります。
◆「やさしさが生む、強さがある」:コラボレーションの真意
- PwCコンサルティングが掲げるメッセージ「やさしさが生む、強さがある」は、単なる仲の良さや甘さを意味するものではありません。これは「一人一人が自立したスペシャリストであることを前提とし、その知見を惜しみなく共有し合う」という、プロフェッショナル同士の高度な信頼関係を指しています。
- 「困ったときに質問をすれば、どんなに忙しくても手を止めてミーティングを設けてくれる」という文化が当たり前のように根付いており、個人技に頼るのではなく、チームとしての知見を結集してクライアントの難題に挑む。この「やさしさの循環」こそが、結果としてファームの強固な実行力へと繋がっています。
◆自身の強みに最適化できる「4つのキャリアトラック」
画一的な昇進モデルではなく、個人の志向や専門性の深さ・広さに応じた4つのキャリアパス(トラック)が用意されています。これにより、自身の強みを最も発揮できる領域で評価を受けることが可能です。
- Innovation & Think tank:最先端テクノロジーや新領域の社会実装、産業構造の変革を追求する。
- Value accelerator:大規模かつ複雑な変革プロジェクトの完遂と、確実なデリバリーを牽引する。
- Business solutions:特定の業界(インダストリー)や機能(ソリューション)の深い専門性を提供し、経営課題を解決する。
- Expertise center:特定の技術領域やコンサルティング技能の高度化を支える、高度専門家集団。
◆「Human-led」を体現するコーチングと育成体制
- テクノロジーへの投資を加速させる一方で、PwCは「変革の主体は常に人である」という信念を持っています。全職員に「コーチ(評価者)」が割り当てられ、日々のプロジェクトフィードバックだけでなく、中長期的なキャリア形成についての対話が定期的に行われます。
- また、中途入社者がスムーズに組織に馴染めるよう、カルチャーの理解からコンサルティングスキルの習得まで、手厚いオンボーディングプログラムが提供されています。これにより、異業界出身者であっても、自身の専門性をPwCの「変革の力」へと早期に変換できる環境が整っています。
◆独自のアプローチ「BXT」
- プロジェクトの初期段階からコンサルタント、デザイナー、エンジニアがスクラムを組んで、「Business(経営・戦略)」「eXperience(体験・クリエイティブ)」「Technology(技術)」の多様な視点を結集してソリューションを構築する体制を、現場の日常的な風景として定着させています。
■7-4 PwCコンサルティングの具体的求人:AI人財を各部門へ「分散配置」する独自戦略
PwCコンサルティングは、自らを「AI Transformation Firm(日本で一番AIでシナジーを生み出すコンサル)」と定義し、AIを成長戦略の核に据えています。その採用手法は極めてユニークであり、テクノロジーとビジネスを真に融合させるための「仕組み」が求人票(Job Description)にも反映されています。
◆「AI人材共通JD」に見る分散・融合型モデル
- 求人の一つに「AI人材共通JD(Job Description)」があります。これは、特定のAI部門のみに人材を集めるのではなく、高度なAIスキルを持つ人材を「AI以外の専門性を持つ各チーム」に分散・所属させるという、戦略的な意図に基づいています。
- これにより、例えば「製造業の現場」や「人事制度の構築」といった具体的プロジェクトの最前線にAIの専門家が物理的に介在し、ドメイン知識(業界知)とテクノロジーが火花を散らす環境を作り出しています。
◆AI人材に求められる9つの具体的スキルセット:「AI人材共通JD」では、AI変革を支える専門性を以下の9つのロールとして定義し、募集しています。
- AIアプリエンジニア / AIデータエンジニア:実装とデータ基盤の構築。
- AIパッケージソリューションコンサルタント:SAP、Microsoft、Salesforceなどの基盤にAIを組み込む。
- AIビジネスアナリスト:経営課題をAIの解法に翻訳する。
- AIセキュリティアーキテクト:第6章で触れた「信頼」を技術で防衛する。
- ローコードAIクリエーター / インテグレーションエンジニア / AIモデルサイエンティスト / インフラエンジニア:開発から基盤までをEnd-to-Endでカバー。
◆具体的な配属チームとシナジー:応募者は、自身のバックグラウンドと志向に基づき、以下のいずれかの「AI×専門領域」のチームへと最適化されます。
- インダストリー×AI:自動車、金融、消費財などの各業界特化型AI実装。
- ソリューション×AI:HRテクノロジー(BMX-PX)、SAP(ETC-ES)、Salesforce(FOX)など、特定のビジネス基盤へのAI適用。
- テクノロジー×AI(TDC-DAX):データアーキテクチャやUI/UXデザインを軸とした、より技術的なトランスフォーメーション。
◆求める人物像:深き思考と「学習の愉しみ」:この変革期のPwCコンサルティングにおいて重視されるのは、単なるスキルセットではありません。
- 「物事を真剣に深く考える」:表面的なツール導入ではなく、クライアントの課題を事実に基づいて深く理解する姿勢。
- 「新しいテクノロジーを楽しみ自ら学習する」:AI Factoryの精神である「ラピッドプロトタイピング(高速試作)」に対応できる、知的な好奇心と適応力。
- 「アウトプットへの責任感」:「Human-led」を標榜する以上、AIが生成した解に対して、人間(プロフェッショナル)として粘り強く最終責任を負う覚悟。
8.選考評価基準と対策:自らを「再発明」できるか
PwCの選考は、単なる経歴確認ではなく、“「知能の時代」において自らを再発明し続けられるプロフェッショナルであるか”を見極める対話の場です。
■8-1 評価の軸:刷新された「PwCプロフェッショナル」基準
選考では、入社後の評価・報酬制度(詳細は4-2参照)と完全に連動した以下の2次元の能力定義に基づき、適性を判定します。
- 信頼されるリーダーシップ(Trusted leadership):誠実さ、品質へのこだわり、多様な価値観の包含、および他者の育成。周囲やクライアントといかに信頼を築き、ポジティブな影響を与えられるかを重視します。
- 特徴的な成果(Distinctive outcomes):デジタル能力、ビジネス洞察、および革新的な価値提供。最新テクノロジーを駆使し、複雑な課題に対してどのような「非連続な成果」を出せるかを測定します。
■8-2 選考の重点視点:AI時代に問われる「本質を突き詰める深考」
日本法人が推進する「AI Transformation Firm」への進化(詳細は7-2参照)に伴い、特に以下の適性が厳格に評価されます。
- 「再発明(Reinvention)」の構想力:既存業務の延長ではない、ビジネスモデルそのものを塗り替える「BMR(1-3参照)」の視点があるか。
- AI変革の実践的理解:AIを単なるツールではなく、業務プロセスを再設計する「基盤」と捉え、具体的なビジネス価値に変換できるか。
- 事実(Fact)に基づき本質を突く「深考」:AIの回答を鵜呑みにせず、ファクトを積み上げて課題の本質を見極める「思考の粘り強さ」があるか。
- 「Trust(信頼)」を体現する倫理観:AIガバナンスやESGといった新領域においても、品質に妥協せず、誠実な対話(Speak Up)ができるか。
- 領域横断(xLoS)の協働力:自身の専門性に閉じこもらず、監査や税務など異なる知見を持つメンバーとスクラムを組めるか。
■8-3 選考対策:未来の武器として自分を再定義する
選考を突破するためには、過去の実績を「PwCが目指す未来」に接続して語る必要があります。
◆「2つの次元」によるエピソードの棚卸し
- 実績の羅列ではなく、「いかに信頼を築いたか(How)」と「テクノロジーで何を変えたか(What)」の2軸で経験を構造化してください。
◆「Human-led」の体現
- 「AIが前提なら、今のビジネスはどう変わるべきか」という仮説を持ち、技術に責任を転嫁せず、人間(自分)としてどう最終判断を下すかを言語化してください。AIの出力を鵜呑みにせず、自らの「意思」と「論理」を乗せて結論を導き出す「深考(Fact-based Thinking)」の姿勢を言語化してください。
◆ファクトベースの論理構築
- 「どのようなデータに基づき、どう判断し、どのようなインパクトを与えたか」を徹底して具体的に話すことが、PwCが求める「深考」の証明となります。
◆組織の壁を越える関心
- 「他部門の知見をどう自身のプロジェクトに融合させ、クライアントの信頼を構築できるか」という、xLoS(部門横断)な視点での逆質問を準備してください。
[PwCコンサルティング合同会社] 20代後半男性・エンジニア系コンサルタント・年収650万円→800万円 面接では「仕事において、できることではなく一番好きなこと」を聞かれた。「自分が設計、実装したシステムが形となり、結果としてこれまでの不便が解消したと、クライアントや社内の人から評価されたとき」と答えた。ケース面接は準備したが選考にはなかった。エンジニア職はコーディングテストがある。[キャリコネで転職成功例を見る]
世界の「分断」から考える 日本企業 変貌するアジアでの役割と挑戦
本書では、アジアに属する各国・地域別の動向を概観しつつ、そのなかで日本企業がどう挑戦すべきか、アジアおよび世界を取り巻く社会課題・トレンドにどう立ち向かうべきかを解説しています。(株式会社ダイヤモンド社/2025年4月)



2019年より企業口コミサイト「キャリコネ」担当として、数多くの企業の口コミ情報、決算資料、中期経営計画を横断的に分析。現在はリサコ編集部長として、一次情報と現場の声を突き合わせた企業研究コンテンツの企画・編集・品質管理を統括し、転職希望者の意思決定に資する情報提供を行っている。