キリンホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

キリンホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場し、酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンス事業をグローバルに展開しています。2024年12月期は、主力事業の好調や価格改定効果に加え、ファンケルの連結子会社化などにより増収となりましたが、事業再編等に伴う一時的な費用の計上により税引前利益等は減益となりました。


※本記事は、キリンホールディングス株式会社 の有価証券報告書(第186期、自 2024年1月1日 至 2024年12月31日、2025年3月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. キリンホールディングスってどんな会社?


キリンビールやキリンビバレッジ、協和キリンなどを傘下に持ち、「食と健康」の領域で価値創造を目指す純粋持株会社です。

(1) 会社概要


1907年に麒麟麦酒として設立され、1949年に株式上場を果たしました。2007年には純粋持株会社制を導入し、現社名へ商号変更しています。近年はヘルスサイエンス領域を強化しており、2019年にファンケルへ資本参加し2024年に連結子会社化したほか、2023年には豪州のBlackmores Limitedを完全子会社化するなど、事業ポートフォリオの転換を進めています。

連結従業員数は31,934人、単体では1,067人が在籍しています。筆頭株主は信託業務を行う信託銀行で、第2位も同様に資産管理を行う信託銀行です。第3位は生命保険会社であり、機関投資家や金融機関が上位株主を占めています。

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性6名の計17名で構成され、女性役員比率は35.3%です。代表者は代表取締役会長CEOの磯崎功典氏と、代表取締役社長COOの南方健志氏です。社外取締役比率は約41.2%です。

氏名 役職 主な経歴
磯崎 功典 代表取締役会長CEO最高経営責任者 1977年入社。キリン社長、同社社長を経て2024年3月より現職。
南方 健志 代表取締役社長COO最高執行責任者 1984年入社。ミャンマー・ブルワリー社長、協和発酵バイオ社長等を経て2024年3月より現職。
坪井 純子 取締役副社長 1985年入社。横浜赤レンガ社長、同社常務執行役員ブランド戦略部長等を経て2024年3月より現職。
吉村 透留 取締役常務執行役員 1988年入社。キリンビバレッジ社長、同社ヘルスサイエンス事業本部長等を経て2024年3月より現職。
秋枝 眞二郎 取締役常務執行役員 1988年入社。台湾麒麟董事長総経理、同社常務執行役員経営企画部長等を経て2024年3月より現職。


社外取締役は、柳弘之(ヤマハ発動機顧問)、塩野紀子(元エスエス製薬社長)、ロッド・エディントン(元ブリティッシュ・エアウェイズCEO)、片野坂真哉(ANAホールディングス会長)、安藤よし子(元厚生労働省人材開発統括官)、此本臣吾(野村総合研究所会長)、三上直子(元シーボン副社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「酒類事業」「飲料事業」「医薬事業」「ヘルスサイエンス事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 酒類事業


国内外においてビール類、低アルコール飲料、洋酒などの製造・販売を行っています。国内では「一番搾り」「氷結」などの主力ブランドを展開し、海外ではオセアニア地域や北米におけるクラフトビール事業などを手がけています。

主な収益源は、卸売業者や小売店、飲食店等への製品販売による対価です。運営は、国内では主に麒麟麦酒、メルシャン等が、海外ではLION PTY LTDを中心とする現地子会社が行っています。

(2) 飲料事業


日本および米国において清涼飲料の製造・販売を行っています。日本国内では「午後の紅茶」「生茶」などの茶系飲料やコーヒー、果汁飲料などを展開し、米国ではコカ・コーラ製品の製造・販売を行っています。

主な収益源は、製品の販売代金です。日本国内の運営はキリンビバレッジが担い、米国においてはCoca-Cola Beverages Northeast, Inc.が事業を行っています。

(3) 医薬事業


腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経などの疾患領域において、医薬品の研究開発、製造、販売を行っています。グローバル・スペシャリティファーマとして、抗体技術などを活かした新薬の創出に取り組んでいます。

主な収益源は、医薬品卸売業者等への製品販売による対価や、技術導出に伴う契約一時金、ロイヤルティ収入などです。運営は、協和キリンを中心に行われています。

(4) ヘルスサイエンス事業


免疫機能の維持や脳機能、腸内環境改善などに寄与する健康食品や化粧品、医薬品原料等の研究開発、製造、販売を行っています。「プラズマ乳酸菌」等の高付加価値素材を活用した事業や、サプリメント事業を展開しています。

主な収益源は、消費者への直接販売や小売店等への製品販売による対価です。運営は、ファンケル、Blackmores Limited、協和発酵バイオ等が担っています。

(5) その他


上記報告セグメントに含まれない事業として、グループ内の管理・間接業務の受託や、エンジニアリング事業、物流事業などを行っています。

主な収益源は、グループ会社からの業務受託料や外部顧客へのサービス提供対価です。運営は、同社および各機能分担子会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上収益は直近5期間において増加傾向にあり、特に直近の2024年12月期は2兆3,384億円に達しました。利益面では、税引前利益および当期利益が2023年12月期まで高水準を維持していましたが、2024年12月期は減益となりました。これは事業再編やM&Aに関連する一時的な費用の計上が影響しています。

項目 2020年12月期 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期
売上収益 18,495億円 18,216億円 19,895億円 21,344億円 23,384億円
税引前利益 1,246億円 996億円 1,914億円 1,970億円 1,397億円
利益率(%) 6.7% 5.5% 9.6% 9.2% 6.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 719億円 598億円 1,110億円 1,127億円 582億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上収益が約2,000億円増加し、売上総利益も拡大しています。一方で、販売費及び一般管理費等の増加や、その他営業費用の増加により、営業利益は減少しました。売上総利益率は約45%前後で安定して推移しています。

項目 2023年12月期 2024年12月期
売上収益 21,344億円 23,384億円
売上総利益 9,635億円 10,660億円
売上総利益率(%) 45.1% 45.6%
営業利益 1,503億円 1,253億円
営業利益率(%) 7.0% 5.4%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が2,607億円(構成比30.5%)、販売促進費・広告宣伝費が1,694億円(同19.8%)を占めています。

(3) セグメント収益


全セグメントで売上収益が増加しました。特にヘルスサイエンス事業はファンケルの連結化等により大幅な増収となりました。利益面では、酒類・飲料事業が増益となった一方、医薬事業は研究開発費の増加等により減益となり、ヘルスサイエンス事業は事業構造改革費用等の影響で損失を計上しました。

区分 売上(2023年12月期) 売上(2024年12月期) 利益(2023年12月期) 利益(2024年12月期) 利益率
酒類事業 10,475億円 10,840億円 1,199億円 1,240億円 11.4%
飲料事業 5,189億円 5,678億円 524億円 640億円 11.3%
医薬事業 4,422億円 4,956億円 960億円 919億円 18.5%
ヘルスサイエンス事業 1,080億円 1,795億円 -125億円 -109億円 -6.1%
その他事業 941億円 979億円 -1億円 0億円 0.0%
調整額 -764億円 -864億円 -542億円 -580億円 -
連結(合計) 21,344億円 23,384億円 1,503億円 2,110億円 9.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は「積極型」です。本業の営業活動で得た資金に加え、財務活動による資金調達も行い、それをファンケルの株式取得や設備投資などの成長投資へ積極的に振り向けています。

項目 2023年12月期 2024年12月期
営業CF 2,032億円 2,428億円
投資CF -2,261億円 -3,294億円
財務CF 359億円 581億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.0%でプライム市場の平均(9.4%)を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は30.4%でプライム市場の製造業平均(46.8%)を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」を経営理念として掲げています。長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」において、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことを目指すべき姿として定めています。

(2) 企業文化


グループ共通の価値観として「“One KIRIN” Values」を掲げています。これは「熱意(Passion)」「誠意(Integrity)」「多様性(Diversity)」の3つから構成され、これらを土台としてグループ一体となって価値創造に取り組む姿勢を重視しています。また、社会課題の解決と経済的価値の創出を両立させる「CSV経営」を経営の根幹に据えています。

(3) 経営計画・目標


2027年に向けた中長期的な経営目標として、以下の指標を掲げています。

* ROIC:10%以上(2027年目標:9.0%)
* EPS(1株当たり当期利益):CAGR(年平均成長率)+一桁後半%(2027年目標:3年CAGR+一桁後半%)

(4) 成長戦略と重点施策


「食から医にわたる領域」での価値創造に向け、酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスの各事業で成長を実現する方針です。特にヘルスサイエンス領域を次世代の成長の柱と位置づけ、ファンケルやBlackmores Limitedとのシナジー創出、プラズマ乳酸菌事業の拡大を推進しています。また、イノベーションを実現する組織能力の強化として、人財、R&D、デジタルICT、マーケティングへの投資を強化しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人財」を価値創造・競争優位の源泉と位置づけ、専門性と多様性を兼ね備えた人財の育成と獲得を推進しています。「Well-Being(健康・やりがい)」「Growth(自律的キャリア・成長)」「DE&I(多様性の受容・共創)」「KABEGOE(挑戦・創意工夫)」の4つをキーファクターとし、多様な価値観を持つ従業員がイノベーションに挑戦し続ける組織風土の醸成を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2024年12月期 41.8歳 14.2年 10,007,382円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 15.9%
男性育児休業取得率 116.0%
男女賃金差異(全労働者) 73.1%
男女賃金差異(正規雇用) 73.3%
男女賃金差異(非正規雇用) 64.3%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメントスコア(71)、キャリア採用比率(42.9%)、休業災害度数率(0.97)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 食領域における環境変化


酒類・飲料事業は同社グループの主力ですが、市場環境や消費者の嗜好の変化、競合他社の動向、酒税改正などの影響により販売計画が未達となる可能性があります。また、原材料価格や燃料価格の高騰が製造コストを押し上げ、収益性を圧迫するリスクがあります。これらの変化に対しては、ブランド力強化やコスト削減等の対策を講じています。

(2) 医領域の製品・開発リスク


医薬事業では、グローバル戦略品の市場浸透の遅れや、製品の品質・安定供給に関するトラブルが発生した場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、新薬開発の遅延や失敗、国内外の医療費抑制政策による薬価引き下げや後発品への切り替え圧力なども、将来の成長性や収益性を低下させるリスク要因となります。

(3) ヘルスサイエンス領域の成長リスク


新たな成長の柱とするヘルスサイエンス領域において、独自の価値を持つ商品・サービスを提供できずビジネスモデルの構築が遅れた場合、計画通りの収益が得られない可能性があります。また、海外展開における法規制対応の遅れや、買収した海外子会社とのシナジー創出が想定通りに進まないリスクも存在します。これらに対し、ガバナンス強化や組織能力の拡充を進めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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