※本記事は、キリンホールディングス株式会社の有価証券報告書(第187期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. キリンホールディングスってどんな会社?
酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンス領域で多様なブランドを展開するグローバルな企業グループです。
■(1) 会社概要
1907年に麒麟麦酒として設立され、1949年に株式を上場しました。2007年に純粋持株会社制へ移行し、現在のキリンホールディングスに商号を変更するとともに、協和醱酵工業へ資本参加し医薬事業を強化しました。近年はヘルスサイエンス領域を拡大し、2024年にファンケルを連結子会社化しています。
現在の従業員数はグループ全体で31,144名、単体で1,124名となっています。大株主の構成を見ると、筆頭株主および第2位は資産管理業務を行う信託銀行であり、第3位には機関投資家である明治安田生命保険相互会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 17.46% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.75% |
| 明治安田生命保険相互会社(常任代理人 日本カストディ銀行) | 3.86% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性6名の計17名で構成され、女性役員比率は35.3%です。代表取締役会長CEOは磯崎功典氏、代表取締役社長COOは南方健志氏が務めています。全取締役12名中、7名が社外取締役であり、過半数を占める透明性の高いガバナンス体制を敷いています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 磯崎功典 | 代表取締役会長CEO最高経営責任者 | 1977年同社入社。経営企画部長、常務執行役員、麒麟麦酒代表取締役社長等を経て、2015年同社代表取締役社長に就任。2024年3月より現職。 |
| 南方健志 | 代表取締役社長COO最高執行責任者 | 1984年同社入社。麒麟麦酒企画部長、Myanmar Brewery Limited取締役社長、協和発酵バイオ代表取締役社長等を歴任し、2024年3月より現職。 |
| 坪井純子 | 取締役副社長 | 1985年同社入社。横浜赤レンガ代表取締役社長、同社コーポレートコミュニケーション部長、常務執行役員ブランド戦略部長等を経て、2024年3月より現職。 |
| 吉村透留 | 取締役常務執行役員 | 1988年同社入社。同社常務執行役員経営企画部長、キリンビバレッジ代表取締役社長などを歴任。2024年3月より現職。Blackmores Limited取締役も兼務。 |
| 秋枝眞二郎 | 取締役常務執行役員 | 1988年同社入社。台湾麒麟啤酒董事長、同社常務執行役員経営企画部長等を歴任し、2024年3月より現職。協和キリン取締役も兼務。 |
社外取締役は、柳弘之(元ヤマハ発動機代表取締役社長)、塩野紀子(元エスエス製薬代表取締役社長)、片野坂真哉(元全日本空輸代表取締役社長)、安藤よし子(元厚生労働省人材開発統括官)、此本臣吾(元野村総合研究所代表取締役社長)、三上直子(元シーボン代表取締役副社長)、藤縄憲一(長島・大野・常松法律事務所元代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「酒類」「飲料」「医薬」「ヘルスサイエンス」および「その他」事業を展開しています。
■酒類
ビール類や低アルコール飲料などの酒類製品を、国内およびオセアニア、北米などグローバル市場で製造・販売しています。一番搾りや本麒麟などの主力ブランドに加え、クラフトビール領域も展開し、多様な消費者の嗜好に応える商品を提供しています。
製品の販売による収益を主な収益源としています。国内市場は麒麟麦酒が中心となって運営し、海外市場においてはオセアニア地域を統括するLION PTY LTDなどが事業を推進しています。
■飲料
国内外において「午後の紅茶」などの清涼飲料水の製造・販売を行っています。近年は消費者の健康意識の高まりを背景に、プラズマ乳酸菌を活用した免疫ケア飲料などの高付加価値商品の展開にも注力しています。
消費者や小売業者等への飲料製品の販売から収益を得ています。日本国内の事業はキリンビバレッジが主体となって運営し、米国市場においてはCoca-Cola Beverages Northeast, Inc.が製造・販売を担っています。
■医薬
アンメットメディカルニーズの高い疾患領域(骨・ミネラル、血液がん、希少疾患など)において、医療用医薬品の研究開発および製造・販売を行っています。グローバルな医療課題の解決に貢献する医薬品を提供しています。
国内外の医療機関や卸売業者を通じた医療用医薬品の販売収益や、技術導出によるライセンス収入等から収益を獲得しています。この事業は、東京証券取引所プライム市場に上場している協和キリンが中心となって運営しています。
■ヘルスサイエンス
化粧品やサプリメントなどの健康食品の研究開発、製造・販売を展開しています。プラズマ乳酸菌等の独自素材を活用し、人々の日常的な健康課題の解決や免疫ケアなどの健康増進をサポートする商品を提供しています。
消費者向けの化粧品や健康補助食品の販売等から収益を得ています。国内を中心にファンケルが事業を展開するほか、豪州や東南アジア、中国などではBlackmores Limitedが栄養補助食品の製造・販売を担っています。
■その他
報告セグメントに含まれないその他の事業分野として、機能分担子会社によるグループ共通の専門サービスの提供や、その他の付随的な業務などを行っています。
グループ各社や外部顧客に対する各種サービスの提供等を通じて収益を獲得しています。純粋持株会社であるキリンホールディングスがグループ戦略を統括し、関連する複数のグループ会社がそれぞれの事業を運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の連結業績を見ると、売上収益はM&Aの寄与や各事業の価格改定効果などにより毎期連続で成長を続けています。税引前利益は一過性の要因等で一時的に落ち込む期があったものの、直近ではヘルスサイエンス事業の収益性向上等により過去最高益レベルまで拡大し、力強い回復と成長傾向を示しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆8,216億円 | 1兆9,895億円 | 2兆1,344億円 | 2兆3,384億円 | 2兆4,333億円 |
| 税引前利益 | 996億円 | 1,914億円 | 1,970億円 | 1,397億円 | 2,379億円 |
| 利益率(%) | 5.5% | 9.6% | 9.2% | 6.0% | 9.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 598億円 | 1,110億円 | 1,127億円 | 582億円 | 1,475億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は既存事業の堅調な推移やファンケルの通年寄与により前年比で増収となりました。あわせて、価格改定やコストコントロールの徹底により売上総利益率が改善し、営業利益も大幅な増益を達成して高い収益性を確保しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆3,384億円 | 2兆4,334億円 |
| 売上総利益 | 1兆660億円 | 1兆1,580億円 |
| 売上総利益率(%) | 45.6% | 47.6% |
| 営業利益 | 1,253億円 | 2,097億円 |
| 営業利益率(%) | 5.4% | 8.6% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が2,697億円(構成比30%)、販売促進費・広告宣伝費が1,818億円(同20%)、研究開発費が1,180億円(同13%)を占めています。
■(3) セグメント収益
酒類は販売数量減の影響を受けたものの価格改定で増益を確保しました。飲料は高付加価値商品の拡大が寄与し、医薬は主力品のグローバル展開で成長しました。ヘルスサイエンスはファンケルの連結化や構造改革により大幅に収益が改善し黒字転換を果たしています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 酒類 | 1兆8,401億円 | 1兆7,733億円 | 1,240億円 | 1,354億円 | 12.6% |
| 飲料 | 5,678億円 | 5,815億円 | 640億円 | 677億円 | 11.6% |
| 医薬 | 4,956億円 | 4,968億円 | 919億円 | 1,023億円 | 20.6% |
| ヘルスサイエンス | 1,795億円 | 2,561億円 | -109億円 | 111億円 | 4.3% |
| その他 | 979億円 | 1,010億円 | 0億円 | -11億円 | -1.1% |
| 調整額 | -864億円 | -794億円 | -580億円 | -636億円 | - |
| 連結(合計) | 2兆3,384億円 | 2兆4,334億円 | 2,110億円 | 2,518億円 | 10.3% |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.0%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は28.0%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献する」ことを経営理念に掲げています。また、中長期的なビジョンとして「人と技術の力でイノベーションを起こし続けるCSV(社会的価値と経済的価値の共有)先進企業として世界をもっと元気にする」姿を目指しています。
■(2) 企業文化
共通の価値観と行動指針である「KIRIN WAY」を重視しています。価値観として「先駆」「お客様本位/患者さん本位」「品質本位」を掲げ、行動指針には「志を高く持つ」「Go to “ゲンバ”」「まず動き、失敗も学びに変える」「枠を超える」「違いを力に変える」「勝ちにこだわる」を定めており、挑戦を重んじる組織風土を育んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2028年に向けた経営計画では、既存事業で創出した安定的なキャッシュを成長事業へ再投資する好循環を回し、企業価値の持続的な向上を図ります。株主価値向上と資本コストを意識した経営を推進するため、以下の財務目標を掲げています。
* ROIC:8.0%以上
* EPS:3年CAGR(年平均成長率)+一桁後半%(6%以上)
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の成長戦略として、酒類、ヘルスサイエンス・飲料、医薬の各事業を自律的に成長させ、事業間のシナジーを最大化することを目指しています。特にヘルスサイエンス事業を第3の柱としてアジア・パシフィック地域を中心に育成します。さらに、イノベーションを次々と生み出す組織能力を強化するため、人財、R&D、デジタル、マーケティングへの投資を重点的に拡大します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人間性の尊重」を基本理念とし、従業員が新たな価値創造に挑戦し、活き活きと働ける環境の提供を通じて「人財が育ち、人財で勝つ会社」を目指しています。特に「専門性」と「多様性」を重視し、食・医・ヘルスサイエンスの多様な事業領域での経験を通じて専門人材を育成するとともに、多様な価値観を受容する組織文化の形成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 41.6歳 | 13.6年 | 9,985,539円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 18.1% |
| 男性育児休業取得率 | 104.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 60.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメント調査におけるCSVの実践スコア(77)、従業員エンゲージメントスコア(76)、LTIRスコア(2.04)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 食領域の事業環境変化・原材料価格の高騰
主力の食領域において、市場環境や消費者の嗜好の変化、競合の動向により販売計画が未達となるリスクがあります。また、地政学リスク等に伴う原材料価格や燃料価格の高騰が製造原価を押し上げ、収益性に悪影響を及ぼす可能性があります。同社は適切な価格改定やコスト管理などのリスクコントロール策を講じています。
■(2) 医薬事業の開発遅延および医療費抑制策の影響
医薬事業において、上市準備の遅延や潜在患者の掘り起こし難航により、グローバル戦略品が市場に浸透しないリスクがあります。また、研究開発の難航によるパイプライン拡充の遅れや、各国の医療費抑制圧力に伴う薬価引き下げ、後発医薬品への移行により、事業の成長性や収益性が低下する可能性があります。
■(3) ヘルスサイエンス事業の法規制対応・品質問題
新たな成長領域であるヘルスサイエンス事業において、新規展開国での法規制対応の遅れや、既存国での規制変更による影響を受けるリスクがあります。さらに、欠品や品質トラブル、エビデンス不足等によるブランド毀損リスクや、グループ間のシナジー創出が進まず高収益モデルの構築が遅延するリスクが想定されています。
■(4) 情報セキュリティ・サイバー攻撃
外部からのサイバー攻撃や内部の過失等により、重要な顧客情報や企業秘密が漏洩、改ざん、消失するリスクがあります。これらの問題が発生した場合、損害賠償責任の発生やブランドイメージの低下、業務プロセスの遅延が生じる恐れがあります。同社は専門チームを構築し、セキュリティ基盤の強化に継続して取り組んでいます。



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