キリンホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

キリンホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

キリンホールディングスは東京証券取引所プライム市場に上場し、酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンス事業をグローバルに展開しています。直近の業績では各事業の順調な進捗やヘルスサイエンス事業の収益性向上等により、増収および大幅な増益を達成しました。独自の技術力で持続的な成長と企業価値向上を目指しています。


※本記事は、キリンホールディングス株式会社の有価証券報告書(第187期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月27日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。

1. キリンホールディングスってどんな会社?


同社グループは、酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンス事業をグローバルに展開する企業グループです。

(1) 会社概要


1907年に麒麟麦酒として設立され、1949年に東京・大阪の各証券取引所に株式を上場しました。2007年には純粋持株会社制を導入してキリンホールディングスへ商号変更し、2008年には協和発酵キリン(現協和キリン)を発足させて医薬事業を強化しました。近年はヘルスサイエンス領域への展開を加速し、2023年にブラックモアズを完全子会社化、2024年にファンケルを連結子会社化しています。

同社グループの従業員数は連結で31,144名、単体で1,124名体制となっています。大株主の構成は、信託業務を行う銀行や生命保険会社が上位を占めています。筆頭株主および第2位の株主は資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 17.46%
日本カストディ銀行(信託口) 6.75%
明治安田生命保険相互会社(常任代理人 日本カストディ銀行) 3.86%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性6名の計17名で構成され、女性役員比率は35.3%です。代表取締役会長CEOは磯崎功典氏、代表取締役社長COOは南方健志氏が務めています。取締役12名のうち7名が社外取締役であり、社外取締役比率は58.3%です。

氏名 役職 主な経歴
磯崎功典 代表取締役会長CEO 1977年入社。2013年キリン社長、2015年同社社長等を経て、2024年より現職。
南方健志 代表取締役社長COO 1984年入社。協和発酵バイオ社長等を歴任し、2024年より現職。
坪井純子 取締役副社長 1985年入社。コーポレートコミュニケーション部長等を歴任し、2024年より現職。
吉村透留 取締役常務執行役員 1988年入社。キリンビバレッジ社長等を経て、2024年より現職。
秋枝眞二郎 取締役常務執行役員 1988年入社。経営企画部長等を経て、2024年より現職。


社外取締役は、柳弘之(元ヤマハ発動機社長)、塩野紀子(元エスエス製薬社長)、片野坂真哉(元全日本空輸社長)、安藤よし子(元労働省)、此本臣吾(元野村総合研究所社長)、三上直子(元味の素)、藤縄憲一(藤縄法律事務所弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「酒類」「飲料」「医薬」「ヘルスサイエンス」および「その他」事業を展開しています。

(1) 酒類

国内外においてビール類や低アルコール飲料、クラフトビール等の製造・販売を行っています。国内の顧客やオセアニア地域・北米の顧客に対して商品を提供し、日常の食事や嗜好品としての需要に応えています。
顧客への酒類販売から得られる代金を収益源としています。国内の運営は主にキリンビールが、海外の運営は主にライオンやニュー・ベルジャン・ブルーイング等が行っています。

(2) 飲料

日本国内および米国におけるコカ・コーラ製品など、清涼飲料の製造・販売を行っています。日常の水分補給やリフレッシュを求める一般消費者を対象に幅広く商品を提供しています。
顧客への飲料販売から得られる代金を収益源としています。日本国内の運営は主にキリンビバレッジが、米国の運営は主にコカ・コーラビバレッジズノースイーストが行っています。

(3) 医薬

国内外において医療用医薬品の製造・販売を行っています。希少疾患や難治性疾患と向き合う患者や医療機関に対し、革新的な医薬品を提供しています。
医療用医薬品の販売代金や、技術の導出に伴うマイルストン収入・ロイヤルティ収入などを収益源としています。運営は主に協和キリンが行っています。

(4) ヘルスサイエンス

国内を中心とした化粧品・健康食品の研究開発、およびオセアニアやアジアでのサプリメント等の栄養補助食品の製造・販売を行っています。美容や健康の維持・向上を志向する消費者が顧客です。
顧客への商品販売から得られる代金を収益源としています。運営は主にファンケル、ブラックモアズ等が行っています。

(5) その他

上記報告セグメントに含まれないその他の事業を行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間において、売上収益は安定的に増加傾向にあります。税引前利益および当期利益は期間によって変動が見られますが、直近の期間では事業の好調や収益性改善が寄与して大幅な増益となり、利益率も大きく改善しています。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上収益 18,216億円 19,895億円 21,344億円 23,384億円 24,334億円
税引前利益 996億円 1,914億円 1,970億円 1,397億円 2,379億円
利益率(%) 5.5% 9.6% 9.2% 6.0% 9.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 598億円 1,110億円 1,127億円 582億円 1,475億円

(2) 損益計算書


売上収益の増加に伴い、売上総利益および営業利益のいずれも増加しています。とくに営業利益率は前期間から大きく向上し、収益基盤の強さを示しています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 23,384億円 24,334億円
売上総利益 10,660億円 1,1580億円
売上総利益率(%) 45.6% 47.6%
営業利益 1,253億円 2,097億円
営業利益率(%) 5.4% 8.6%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が2,697億円(構成比30.0%)、販売促進費・広告宣伝費が1,818億円(同20.1%)を占めています。

(3) セグメント収益


酒類事業は微減収ながらも価格改定やコストコントロールが奏功し増益を達成しています。ヘルスサイエンス事業はファンケルの完全子会社化等により大幅な増収となり、黒字転換を果たして全社の増益に大きく貢献しています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期) 利益(2024年12月期) 利益(2025年12月期) 利益率
酒類 10,840億円 10,773億円 1,240億円 1,354億円 12.6%
飲料 5,678億円 5,815億円 640億円 677億円 11.6%
医薬 4,956億円 4,968億円 919億円 1,023億円 20.6%
ヘルスサイエンス 1,795億円 2,561億円 -109億円 111億円 4.3%
その他 979億円 1,010億円 0億円 -11億円 -1.1%
調整額 -864億円 -794億円 -580億円 -636億円 -
連結(合計) 23,384億円 24,334億円 2,110億円 2,518億円 10.3%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業と言えます。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 2,428億円 2,954億円
投資CF -3,294億円 -1,850億円
財務CF 581億円 -1,105億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.0%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は28.0%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


グループ経営理念として「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」を掲げています。また、2035年Visionとして「人と技術の力でイノベーションを起こし続けるCSV先進企業として世界をもっと元気にしている」という姿を目指しています。

(2) 企業文化


同社グループは共通の価値観と行動指針である「KIRIN WAY」を重視しています。価値観(Values)として「先駆」「お客様本位/患者さん本位」「品質本位」を据え、行動指針(Principles)として「志を高く持つ」「Go to “ゲンバ”」「まず動き、失敗も学びに変える」「枠を超える」「違いを力に変える」「勝ちにこだわる」を実践しています。

(3) 経営計画・目標


2028年に向けた財務目標として、株主価値向上と資本コストを超える水準の継続を目指し、以下の指標を掲げています。また、配当金についてはDOE(連結株主資本配当率)5%を目安とし、原則として累進配当を実施する方針です。

・ROIC 8.0%以上(長期目標10%以上)
・EPS 3年CAGR+一桁後半%(6%以上)

(4) 成長戦略と重点施策


「2035年Vision」の実現に向け、2026年を変革の起点としてイノベーションを次々と生み出す組織づくりを加速させます。酒類、飲料・ヘルスサイエンス、医薬の各事業が自律的に成長し、シナジーを最大化することを目指します。特にヘルスサイエンス事業の成長を加速し、グループ第3の柱として収益性を高める戦略を推進します。

・ヘルスサイエンス・飲料事業の利益成長によるEPS牽引
・設備投資総額約4,400億円を計画
・人財、R&D、デジタルおよびマーケティングへの投資強化

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社グループは、人財をイノベーションによる価値創造と競争優位の源泉と位置付け、「多様な人財と挑戦する風土」の醸成に努めています。従業員一人ひとりが専門性を高めるとともに、多様な事業ポートフォリオの中で多様な経験と視点を養う環境を提供し、「専門性」と「多様性」を兼ね備えた人財を育成・登用することで持続的成長を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 41.6歳 13.6年 9,985,539円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 18.1%
男性育児休業取得率 104.0%
男女賃金差異(全労働者) 74.8%
男女賃金差異(正規雇用) 75.0%
男女賃金差異(非正規雇用) 60.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメント調査におけるCSVの実践スコア(77)、従業員エンゲージメントスコア(76)、LTIRスコア(2.04)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業環境の変化と原材料価格高騰

食領域における市場環境や消費者の嗜好の変化、競合他社の動向等により販売計画を達成できないリスクがあります。また、地政学リスク等に起因する原材料や燃料価格の高騰が製造原価に影響を及ぼし、収益を圧迫する可能性があります。同社は代替戦略の検討等のリスク低減を進めています。

(2) グローバル戦略品の価値最大化と安定供給

医薬領域において、新薬の上市準備遅延や市場浸透の難航により事業エリア拡大が遅れるリスクがあります。また、製品の安全性や品質への懸念、急激な需要増による安定供給への支障が発生する可能性があり、品質保証体制とサプライチェーンの強化に取り組んでいます。

(3) デジタル技術の活用と専門人財の確保

AIを含むデジタル技術の活用が進まず、競合劣後となるリスクが存在します。デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための専門人財の獲得・育成が計画通りに進まない場合、業務の効率化や新たな価値創造が遅延する可能性があり、同社は育成プログラムの展開等により体制充実を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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