クラレ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

クラレ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

クラレは東京証券取引所プライム市場に上場し、ポバール樹脂やエバールなどの高機能樹脂や化学品、繊維の製造・販売を主力としています。直近の業績は、欧州経済の停滞や一部設備トラブル等の影響を受け、売上高が微減し、利益面でも在庫評価差額や原燃料価格の上昇により減益となるなど、やや厳しい事業環境にあります。


※本記事は、株式会社クラレ の有価証券報告書(第145期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. クラレってどんな会社?

同社は、ビニルアセテートやイソプレンなどの化学品から、機能材料、繊維まで幅広い高機能素材をグローバルに提供するスペシャリティ化学企業です。

(1) 会社概要

同社は1926年にレーヨンの企業化を目的に設立され、1950年に国産初の合成繊維ビニロンの生産を開始しました。その後、1962年にポバール樹脂、1972年にエバール樹脂の生産を開始し、機能樹脂事業を拡大しました。近年は欧米や豪州の企業を買収するなど、積極的なM&Aによりグローバル展開を加速しています。

現在の同社グループは、連結従業員数12,117名、単体従業員数4,715名を擁する体制です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)であり、第2位も同様に日本カストディ銀行(信託口)、第3位は全国共済農業協同組合連合会となっており、機関投資家や金融機関が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 18.05%
日本カストディ銀行 (信託口) 6.84%
全国共済農業協同組合連合会 3.54%

(2) 経営陣

同社の役員は男性13名、女性3名の計16名で構成され、女性役員比率は18.8%です。代表取締役社長は川原仁氏が務めています。取締役11名のうち、社外取締役は4名(比率36.4%)です。

氏名 役職 主な経歴
川原仁 代表取締役社長 1984年同社入社。ビニルアセテート樹脂カンパニー長などを経て、2021年1月より現職。
多賀敬治 代表取締役・専務執行役員 サステナビリティ推進本部担当、人事本部担当、購買・物流本部担当 1984年同社入社。管理部門担当などを経て、2024年1月より代表取締役・専務執行役員に就任。
伊藤正明 取締役会長 1980年同社入社。2015年1月に代表取締役社長に就任し、2021年1月より現職。
マティアス グトヴァイラー 取締役・常務執行役員 1988年ヘキスト入社。Kuraray Europe社長などを経て、2020年3月より現職。
髙井信彦 取締役・常務執行役員機能材料カンパニー長 1984年同社入社。イソプレンカンパニージェネスタ事業部長などを経て、2020年3月より現職。
渡邊知行 取締役・常務執行役員 ビニルアセテート樹脂カンパニー長、ビニルアセテートフィルムカンパニー長 1988年同社入社。ビニルアセテート樹脂カンパニー長などを務め、2024年3月より現職。
池森洋二 取締役・常務執行役員イソプレンカンパニー長 1986年同社入社。イソプレンカンパニージェネスタ事業部長などを経て、2025年3月より現職。


社外取締役は、村田啓子(元首都大学東京教授)、田中聡(元三井物産副社長)、三上直子(元シーボン副社長)、三箇山俊文(元協和キリン副社長)です。

2. 事業内容

同社グループは、「ビニルアセテート」「イソプレン」「機能材料」「繊維」「トレーディング」および「その他」事業を展開しています。

ビニルアセテート

ポバール樹脂・フィルム、PVB樹脂・フィルム、およびEVOH樹脂(エバール)などの高機能樹脂やフィルムの製造・販売を行っています。これらの製品は、液晶ディスプレイの光学フィルム、自動車や建築用の合わせガラス中間膜、食品包装材など、幅広い産業分野の顧客に向けて提供されています。

収益は、国内外のメーカー等の顧客に対する製品の販売代金から得ています。運営は同社のほか、米国、欧州、アジア地域に拠点を置くKuraray AmericaやKuraray Europe、MonoSolなどの子会社が担い、グローバルな生産・販売体制を構築しています。

イソプレン

熱可塑性エラストマー(セプトン)、イソプレン関連のファインケミカル製品、および耐熱性ポリアミド樹脂(ジェネスタ)の製造・販売を行っています。自動車部品、電気・電子機器、日用品、香料・化粧品の原料など、多岐にわたる用途向けに高付加価値な化学材料を顧客に提供しています。

収益は、部品メーカーや化学メーカー等からの製品販売代金によって構成されています。運営は主に同社が行うほか、米国拠点のKuraray Americaや、タイ拠点のKuraray Advanced Chemicals(Thailand)等の子会社が製造・販売を担っています。

機能材料

メタクリル樹脂およびその加工品、メディカル関連製品(歯科材料等)、活性炭、水処理用水処理膜などの製造・販売を行っています。建材やディスプレイ向けの樹脂、審美治療用の歯科材料、環境浄化や飲料水用の活性炭など、生活環境や自然環境の向上に寄与する素材を顧客に供給しています。

収益は、各産業のメーカーや医療関係者、インフラ関連企業からの製品販売代金から得ています。運営は同社に加え、歯科材料を担うクラレノリタケデンタルや、北米・欧州等で活性炭事業を展開するCalgon Carbon Corporationなどの子会社が行っています。

繊維

ビニロンや人工皮革(クラリーノ)、面ファスナー(マジックテープ)、ポリエステルなどの繊維製品の製造・販売を行っています。これらの製品は、ゴム補強材や特殊紙、靴、スポーツ用品、ランドセル、衣料品など、幅広い消費財や産業資材の用途で顧客に利用されています。

収益は、アパレルメーカーやスポーツ用品メーカー、資材メーカーからの製品販売代金から得ています。事業の運営は同社を中心に、人工皮革の販売を担う可楽麗香港や、面ファスナーを扱うクラレファスニング、ポリエステル製造のクラレ玉島などが担っています。

トレーディング

同社グループが製造するポリエステルや人工皮革などの繊維関連製品、および他社から仕入れた樹脂・化成品等の企画・加工・販売を行っています。スポーツ・アウトドア衣料向けの機能性繊維や、アジア市場を中心とした高付加価値な樹脂加工品などをアパレルメーカーや加工業者に提供しています。

収益は、顧客であるメーカーや流通業者への製品販売代金および加工に伴う手数料等から得ています。事業の運営は、主に同社の子会社であるクラレトレーディングが主体となり、企画から販売までの一貫した事業活動を行っています。

その他

エンジニアリング事業として各種プラントの設計・施工を行うほか、液晶ポリマーフィルム、ゴム・樹脂加工品の製造・販売、生産付帯業務の受託、保険・旅行代理店業務、ホテル事業など、グループの事業基盤を支える多様なサービスを展開しています。

収益は、設備設計・施工の請負代金、製品の販売代金、業務受託手数料、および宿泊・旅行等のサービス提供対価から得ています。運営は同社のほか、クラレエンジニアリング、クラレプラスチックス、倉敷国際ホテルなどの各専門子会社が行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5年間の業績を見ると、売上高は一時的に成長を続けたものの直近では微減に転じており、利益面でも原燃料価格の高騰や減損損失の計上などが影響し、直近では経常利益および当期利益が大きく減少する傾向となっています。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 6,294億円 7,564億円 7,809億円 8,269億円 8,084億円
経常利益 688億円 841億円 690億円 815億円 515億円
利益率(%) 10.9% 11.1% 8.8% 9.9% 6.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 373億円 543億円 424億円 317億円 75億円

(2) 損益計算書

売上高の微減に対して売上原価が高止まりしていることから売上総利益が減少し、さらに販売費及び一般管理費が増加したことで、営業利益が大きく落ち込む構造となっています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 8,269億円 8,084億円
売上総利益 2,675億円 2,465億円
売上総利益率(%) 32.4% 30.5%
営業利益 851億円 589億円
営業利益率(%) 10.3% 7.3%


販売費及び一般管理費のうち、給料等が448億円(構成比24%)、運賃及び保管料が339億円(同18%)、研究開発費が281億円(同15%)を占めています。

(3) セグメント収益

主力のビニルアセテートセグメントは欧州の需要低迷や在庫評価差額の影響で減益となり、イソプレンセグメントも中国市場の低迷等により赤字が継続しました。機能材料や繊維セグメントも市場環境の影響を受け、全体的に利益率が圧迫されています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期) 利益(2024年12月期) 利益(2025年12月期) 利益率
ビニルアセテート 3,980億円 3,872億円 876億円 625億円 16.1%
イソプレン 582億円 611億円 -95億円 -49億円 -8.0%
機能材料 2,029億円 2,022億円 129億円 108億円 5.3%
繊維 581億円 563億円 12億円 26億円 4.6%
トレーディング 664億円 673億円 59億円 60億円 8.9%
その他 433億円 344億円 23億円 18億円 5.2%
調整額 - - -154億円 -201億円 -
連結(合計) 8,269億円 8,084億円 851億円 589億円 7.3%


営業活動で安定した資金を獲得しつつ、それを上回る規模での設備投資などを実施し、不足分や株主還元を既存資金や借入等で賄っている健全型のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 1,383億円 986億円
投資CF -760億円 -981億円
財務CF -825億円 -163億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.0%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社グループは、企業ステートメントとして「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」を使命に掲げています。独自の技術に新たな要素を取り込み、顧客や社会、地球環境の向上に貢献しながら、持続的に成長するスペシャリティ化学企業を目指す姿勢を経営の根本に据えています。

(2) 企業文化

創業以来の基本精神である「私たちの使命」である“私たちは、独創性の高い技術で産業の新領域を開拓し、自然環境と生活環境の向上に寄与します。ー世のため人のため、他人のやれないことをやるー”と「私たちの信条」である“Philosophy | 理念:個人の尊重/同心協力/価値の創造、Guiding Principles | 行動原則:安全はすべての礎/顧客のニーズが基本/現場での発想が基本”に基づき、多様な社員一人ひとりが可能性を追い求めて挑戦する文化を推進しています。

個人の可能性を引き出すリーダーシップを尊重し、時代や環境の変化に合わせた柔軟な働き方や職場環境の整備を通じて、グループ全体で活躍できる風土を醸成しています。

(3) 経営計画・目標

創立100周年となる2026年度に向けた長期ビジョン『Kuraray Vision 2026』を掲げ、持続的な成長を目指しています。2022年度からスタートした5か年の中期経営計画「PASSION 2026」において、成長領域の拡大と事業ポートフォリオの高度化を目標として事業運営を進めています。

(4) 成長戦略と重点施策

中期経営計画では、「機会としてのサステナビリティ」「ネットワーキングから始めるイノベーション」「人と組織のトランスフォーメーション」の3つの挑戦を重点施策として設定しています。エバールや活性炭などの成長事業で需要拡大に対応する一方、最適化・体質改善事業の収益改善を進め、新規事業の創出も加速させています。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

多様な人材が全社横断的なつながりを持って活躍できることを人材戦略の狙いとしています。魅力ある文化を磨き、それに惹かれる人材を獲得して適材適所に配置するとともに、現場力や専門性を高める教育、個々のキャリア支援、将来の経営者育成を通じて、企業価値の最大化と継続的なグループの成長を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 42.2歳 17.8年 8,089,641円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.7%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 76.9%
男女賃金差異(正規雇用) 79.5%
男女賃金差異(非正規雇用) 75.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、中核人材の多様性確保(19.0%)、総合職の新卒採用に占める女性の割合(33.0%)、部長層のグローバルリーダー研修受講率(47.0%)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業環境の変化に関わるリスク

同社の製品は多様な用途に展開されていますが、自動車や電気・電子、環境、医療などの成長分野への依存度が高まっています。最終製品における業界標準の転換、製品の短寿命化、グローバルな開発競争の激化等の環境変化により、重要な事業の縮小・撤退や固定資産の減損損失などが発生するリスクがあります。

(2) 原材料に関わるリスク

同社の化成品や合成樹脂などの主原料は、原油や天然ガスの市況に影響を受けるエチレン等の石油化学製品です。予想を超える市況変動が生じ、製品価格への転嫁が遅れた場合や、サプライヤーにおける事故・災害、物流の混乱、各国の経済制裁等で原材料の調達に支障が生じた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(3) 海外事業展開に関わるリスク

同社は海外売上高比率が7割を超えており、グローバルな事業展開を行っています。各国・地域での大規模な伝染病の流行、戦争・暴動・テロ、国家間の対立による貿易戦争、予期せぬ法律や税制の変更など、地政学リスクの高まりやサプライチェーンの混乱が生じた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) 情報セキュリティに関わるリスク

事業活動の基盤である情報システムやネットワークに対して、災害、サイバー攻撃、不正アクセスなどにより障害が生じた場合、または機密情報や個人情報が社外に流出した場合には、事業活動の停滞や社会的信用の低下を招き、同社グループの業績に悪影響を及ぼすリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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