※本記事は、中外製薬株式会社の有価証券報告書(第115期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 中外製薬ってどんな会社?
医薬品事業を主力とし、ロシュとの戦略的アライアンスのもと革新的な新薬を提供する企業です。
■(1) 会社概要
1925年に中外新薬商会として創業し、1956年に東京証券取引所へ上場しました。2002年に世界有数の製薬企業であるロシュ・ホールディング・リミテッドと戦略的アライアンスを締結し、同社が親会社となりました。2025年にはレナリスファーマを取得して吸収合併を実施するなど、事業基盤を強化しています。
現在の従業員数は連結で7,872名、単体で5,104名です。筆頭株主は親会社であり戦略的アライアンスを締結しているロシュ・ホールディング・リミテッドで、第2位と第3位には資産管理業務などを行う信託銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ROCHE HOLDING LTD(常任代理人 西村あさひ法律事務所) | 61.10% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.62% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.53% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性4名の計14名で構成され、女性役員比率は29.0%です。代表取締役社長は奥田修氏が務めています。取締役9名のうち3名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 奥田修 | 代表取締役社長 | 1987年中外製薬入社。ライフサイクルマネジメント第二部長、営業本部オンコロジーユニット長などを経て、2021年3月より現職。 |
| 谷口岩昭 | 取締役上席執行役員 | 日本長期信用銀行、武田薬品工業、リクルートホールディングスを経て、2022年8月中外製薬入社。2024年3月より現職。 |
| 飯倉仁 | 取締役上席執行役員 | 2000年中外製薬入社。創薬化学研究部長、研究本部長、トランスレーショナルリサーチ本部長を経て、2026年1月より現職。 |
| テレッサ・エイ・グラハム | 取締役 | 2005年米国ジェネンテック入社。ロシュ医薬品事業製品戦略部門グローバル部門長などを経て、2023年3月より現職。 |
| ボリス・エル・ザイトラ | 取締役 | 1995年JPモルガン入社。エアバスグループを経て、2012年ロシュ入社。同社事業開発・M&Aグループヘッド等を経て2025年3月より現職。 |
社外取締役は、桃井眞里子(元自治医科大学医学部長)、立石文雄(元オムロン会長)、寺本秀雄(元第一生命保険副会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、医薬品事業の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業
同社グループは、がん領域、免疫疾患領域、神経疾患領域などを中心に、医療用医薬品の研究、開発、製造および全国の特約店を通じた販売を行っています。また、親会社であるロシュ・グループのグローバル・プラットフォームを活用した製品展開や、外部企業やアカデミアとの連携による創薬機会の探索も推進しています。
収益は主に、特約店やロシュ・グループへの製商品の販売、および他社への技術導出やロイヤルティ収入から得ています。事業の運営は、中外製薬が研究開発と販売を主導し、国内での製造は中外製薬工業が、海外での販売や開発活動は中外ファーマ・ヨーロッパ・リミテッドや日健中外製薬などがそれぞれ担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上収益は安定的に成長を続けており、直近の2025年12月期には1兆2,579億円に達しました。税引前利益も売上の拡大に伴って増加傾向にあり、高い利益率を維持しながら親会社所有者帰属の当期利益を着実に伸ばしています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 9,998億円 | 12,597億円 | 11,114億円 | 11,706億円 | 12,579億円 |
| 税引前利益 | 4,194億円 | 5,312億円 | 4,438億円 | 5,430億円 | 5,978億円 |
| 利益率(%) | 41.9% | 42.2% | 39.9% | 46.4% | 47.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 3,030億円 | 3,744億円 | 3,255億円 | 3,873億円 | 4,340億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益の増加に伴い、売上総利益および営業利益も拡大しています。主力製品の販売増やロシュ向け輸出の伸長が寄与し、売上総利益率は70%台の高い水準で推移しており、営業利益率も40%台後半まで向上するなど、収益力の高さが伺えます。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 11,706億円 | 12,579億円 |
| 売上総利益 | 8,334億円 | 8,947億円 |
| 売上総利益率(%) | 71.2% | 71.1% |
| 営業利益 | 5,420億円 | 5,988億円 |
| 営業利益率(%) | 46.3% | 47.6% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が2,053億円(構成比58%)を占めています。売上原価の内訳については、原材料費が2,348億円(構成比67%)、外注加工費が1,133億円(同32%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社グループは医薬品事業の単一セグメントであるため、事業全体での収益状況となります。主力品の成長やロシュ向け輸出の増加により、売上収益および営業利益ともに前年を上回る実績を記録しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 連結(合計) | 11,706億円 | 12,579億円 | 5,420億円 | 5,988億円 | 47.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で得た資金で借入の返済や株主還元を行い、新たな投資も手元資金で賄っている優良企業に見られる健全型のキャッシュ・フロー状況です。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は22.1%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は79.6%で、いずれも市場平均を上回っています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4,476億円 | 3,863億円 |
| 投資CF | -2,274億円 | -2,013億円 |
| 財務CF | -1,410億円 | -3,079億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、世界有数の製薬企業であるロシュとの戦略的アライアンスのもと、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」ことをミッション(存在意義)として掲げています。また、「患者中心の高度で持続可能な医療を実現する、ヘルスケア産業のトップイノベーター」となることを目指す姿として定めています。
■(2) 企業文化
同社グループは、「患者中心」「フロンティア精神」「誠実」をコアバリュー(価値観)として事業活動を推進しています。社会との共有価値を創造し、社会とともに発展することを基本方針とし、従業員の多様性や人権を尊重しながら、年齢や属性に関わらずチャレンジを後押しする風土の構築を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、成長戦略「TOP I 2030」の推進にあたり、長期目標からバックキャストして現状とのギャップを埋めるための中期マイルストンを設定・管理しています。また、資本コストを踏まえた投資価値評価を行い、収益性と効率性を重視した意思決定を行うため、以下の指標を重視しています。
・Core ROIC
・ROE(自己資本利益率)
■(4) 成長戦略と重点施策
独自のサイエンス力とロシュとの提携を活かして、世界のロールモデルとなるトップイノベーター像の実現を目指しています。特に「TOP I 2030」では、「世界最高水準の創薬の実現」と「先進的事業モデルの構築」を二本柱としており、低分子・抗体などの既存技術の革新や中分子などの新たなモダリティへの挑戦、およびデジタルを活用したプロセスの再構築に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、イノベーションを起こす源泉は人財であると考え、社員一人ひとりが自律的にキャリアを描き、成長・挑戦できる環境の整備を進めています。ジョブ型人事制度の全社展開やジョブポスティング制度の導入、雇用上限年齢の撤廃を通じて適所適材の配置を加速し、高度専門人財の獲得・育成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 42.6歳 | 15.4年 | 13,507,769円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 21.2% |
| 男性育児休業取得率 | 93.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 81.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 81.2% |
| 男女賃金差異(その他の雇用労働者) | 76.3% |
また、同社は「従業員の状況」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、マネジャーに占める女性労働者の割合(19.2%)、男性労働者の育児休業日数(37.7日)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術・イノベーションの不確実性に関するリスク
新薬の研究開発には常に不確実性が存在し、自社創薬や技術開発の遅れ、失敗が生じる可能性があります。また、破壊的な新技術や競争優位性の高い革新的製品の出現により、自社技術の価値低下や開発計画の見直しを余儀なくされるリスクがあります。
■(2) 制度・薬事規制・政策の変化に関するリスク
高齢化進展に伴う医療費高騰を背景に、薬剤費の引き下げ政策が強化されています。薬価改定やバイオシミラーの振興政策が拡大した場合、収益の低下を招き、研究開発への投資が妨げられるリスクがあります。
■(3) 市場・顧客の価値変化や競争激化のリスク
競合品やバイオシミラーの浸透加速、再生医療や遺伝子治療などの新たな治療手段の進展により、市場競争が激化しています。市場での地位や製品競争力が低下し、収益が悪化するリスクが存在します。
■(4) ロシュとの戦略的提携に関するリスク
同社はロシュ・グループとの戦略的提携を基盤としていますが、合意内容の変更が生じた場合や、ロシュ側の創薬ネットワークが不調に陥り導入品による収益源が低下した場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。