※本記事は、中外製薬株式会社 の有価証券報告書(第114期、自 2024年1月1日 至 2024年12月31日、2025年3月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。
1. 中外製薬ってどんな会社?
がん領域や抗体技術に強みを持つ研究開発型製薬企業です。世界有数の製薬企業であるロシュ・グループとの戦略的アライアンスを基盤としています。
■(1) 会社概要
1925年に創業し、医薬品の輸入販売を開始しました。2002年にはスイスのロシュ・グループとの戦略的アライアンスに基づき、日本ロシュと合併しました。独自のサイエンス力と技術力を強化し、2023年には研究開発機能を中外ライフサイエンスパーク横浜へ集約しました。
連結従業員数は7,778名、単体では5,026名です。筆頭株主は、戦略的アライアンスパートナーであるスイスのROCHE HOLDING LTDで、発行済株式の約6割を保有しています。第2位、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ROCHE HOLDING LTD | 61.11% |
| 日本マスタートラスト信託銀行 | 8.71% |
| 日本カストディ銀行 | 3.44% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性4名の計14名で構成され、女性役員比率は29.0%です。代表取締役社長最高経営責任者(CEO)は奥田修氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 奥田 修 | 代表取締役社長最高経営責任者(CEO) | 1987年入社。経営企画部長、プロジェクト・ライフサイクルマネジメント共同ユニット長等を経て、2021年3月より現職。 |
| 谷口 岩昭 | 取締役上席執行役員最高財務責任者(CFO) | 日本長期信用銀行、武田薬品工業、リクルートホールディングスを経て2022年入社。2024年3月より現職。 |
| 飯倉 仁 | 取締役上席執行役員トランスレーショナルリサーチ本部長 | 2000年入社。創薬化学研究部長、研究本部長等を経て、2024年3月より現職。 |
| トーマス・シネッカー | 取締役 | ロシュ・グループ入社後、ロシュ医薬品事業CEO等を経て2023年3月ロシュ・グループCEO就任。2025年3月より現職。 |
| テレッサ・エイ・グラハム | 取締役 | ジェネンテック入社後、ロシュ医薬品事業製品戦略部門グローバル部門長等を経て、2023年3月より現職。 |
| ボリス・エル・ザイトラ | 取締役 | JPモルガン等を経てロシュ事業開発・M&Aグループヘッド等を歴任。2025年3月より現職。 |
社外取締役は、桃井眞里子(自治医科大学名誉教授)、立石文雄(元オムロン取締役会長)、寺本秀雄(元第一生命保険代表取締役副会長執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 医薬品事業(国内)
国内においては、がん領域、骨・関節領域、自己免疫疾患領域などを中心に、医療用医薬品の研究、開発、製造、販売を行っています。自社創製品に加え、ロシュ・グループからの導入品も取り扱っています。独自のサイエンス力と技術力を基盤に、アンメットメディカルニーズに応える新薬の提供に取り組んでいます。
収益は、医療機関や特約店への医薬品販売による対価等です。運営は、主に同社が担い、製造の一部を子会社の中外製薬工業が受託しています。また、研究業務の一部を株式会社中外医科学研究所に、臨床開発業務の一部を株式会社中外臨床研究センターに委託しています。
■(2) 医薬品事業(海外)
海外においては、欧米やアジア地域等で医薬品の開発・販売を行っています。特に欧米ではロシュ・グループのネットワークを活用し、自社創製品のグローバル展開を推進しています。台湾や中国においては現地法人が医薬品の販売や学術情報の提供を行っています。
収益は、医薬品の販売に加え、ロシュ・グループ等への技術導出に伴う契約一時金やロイヤルティ収入等を得ています。海外での事業活動は、中外ファーマ・ヨーロッパ・リミテッド(英国)、中外ファーマ・ユー・エス・エー・インコーポレーテッド(米国)などの子会社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は1兆円規模で推移しており、直近では海外売上の伸長等により増収傾向にあります。利益面でも高い利益率を維持し、当期利益は拡大基調にあります。
| 項目 | 2020年12月期 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 7,869億円 | 9,998億円 | 12,597億円 | 11,114億円 | 11,706億円 |
| 税引前利益 | 2,982億円 | 4,194億円 | 5,312億円 | 4,438億円 | 5,430億円 |
| 利益率(%) | 37.9% | 41.9% | 42.2% | 39.9% | 46.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2,147億円 | 3,030億円 | 3,744億円 | 3,255億円 | 3,873億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益の増加に伴い、売上総利益および営業利益が増加しています。売上総利益率は改善傾向にあり、効率的な事業運営が継続しています。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 11,114億円 | 11,706億円 |
| 売上総利益 | 6,993億円 | 8,334億円 |
| 売上総利益率(%) | 62.9% | 71.2% |
| 営業利益 | 4,392億円 | 5,420億円 |
| 営業利益率(%) | 39.5% | 46.3% |
■(3) セグメント収益
医薬品事業の単一セグメントですが、海外売上収益が大幅に増加し、全体の増収に寄与しました。
| 区分 | 売上(2023年12月期) | 売上(2024年12月期) | 利益(2023年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| Total | 11,114億円 | 11,706億円 | 4,392億円 | 5,420億円 | 46.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローの状況は、本業で稼いだ資金で投資を行い、借入金の返済も進めている「健全型」です。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4,099億円 | 4,476億円 |
| 投資CF | -373億円 | -2,274億円 |
| 財務CF | -1,393億円 | -1,410億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は22.0%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は87.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」ことをMission(存在意義)としています。また、「患者中心の高度で持続可能な医療を実現する、ヘルスケア産業のトップイノベーター」となることをEnvisioned Future(目指す姿)に掲げています。
■(2) 企業文化
同社グループは、Core Values(価値観)として「患者中心」「フロンティア精神」「誠実」を掲げています。これらの価値観に沿った事業活動を行うことが、社会全体の持続性向上に寄与するとともに、グループの長期的な発展を支える基盤になると確信しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2021年に成長戦略「TOP I 2030」を策定し、「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」という目標の達成を目指して取り組んでいます。長期目標からバックキャストして中間目標を「中期マイルストン」として設定・管理しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「TOP I 2030」の実現に向け、「世界最高水準の創薬の実現」と「先進的事業モデルの構築」を二本柱としています。具体的には、「創薬」「開発」「製薬」「Value Delivery」の各バリューチェーンと、それを支える「成長基盤」を合わせた「5つの改革」を推進しています。
* 創薬改革:中分子など新たなモダリティへの挑戦や、外部技術との融合による創薬機会の拡大。
* 開発改革:デジタル技術やリアルワールドデータの活用による臨床試験の変革と成功確率の向上。
* 製薬改革:デジタルやロボティクス活用による生産技術力の強化と、安定供給体制の構築。
* Value Delivery改革:質の高いエビデンスの創出と、マルチチャネル戦略による顧客エンゲージメントの最適化。
* 成長基盤改革:人財マネジメント、デジタル基盤、サステナビリティ・環境への取り組み強化。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
経営戦略に基づいた人財マネジメント方針を徹底し、人的資本の強化を進めています。「個を描く」「個を磨く」「個が輝く」をテーマに、社員一人ひとりのキャリア自律や専門性の強化、挑戦を後押しする環境整備に取り組んでいます。また、イノベーションを生み出す組織風土構築に向けたD&Iの推進や、高度専門人財の獲得・育成にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2024年12月期 | 42.6歳 | 15.5年 | 12,073,828円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 19.7% |
| 男性育児休業取得率 | 98.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 80.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 80.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 75.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性マネジャー比率(17.6%)、従業員エンゲージメントスコア(74)、重要ポジションの後継者候補準備率(222%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術・イノベーションについて
医薬品の研究開発には不確実性が伴い、自社創薬や技術開発の遅れ、失敗のリスクがあります。また、競合他社による破壊的な新技術や革新的製品の出現により、自社技術の価値が低下する可能性があります。さらに、第三者の知的財産権の侵害リスクもあり、特許係争等により戦略遂行に重大な影響を与える可能性があります。
■(2) 制度・規制・政策
国内外における医療費抑制政策や薬価引き下げ、バイオシミラーの浸透などが収益低下を招くリスクがあります。また、環境規制の厳格化により、設備投資計画の見直しや追加費用の発生など、環境投資が増大する可能性があります。
■(3) 市場・顧客について
競合品や新たな治療手段(モダリティ)の進展、顧客タッチポイントの変化等により、市場での地位や製品競争力が低下するリスクがあります。また、地政学リスクの高まりによる事業制限やサプライチェーンの停滞などが、業績に影響を与える可能性があります。
■(4) 事業基盤について
ロシュとの戦略的提携における合意内容の変更や、ロシュの創薬・グローバルネットワークの不調が業績に影響を与える可能性があります。また、人財獲得競争の激化や、デジタル技術導入の遅れ、システム障害や情報漏洩などが事業運営を阻害するリスクがあります。



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