※本記事は、株式会社荏原製作所の有価証券報告書(第161期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 荏原製作所ってどんな会社?
ポンプ等の風水力機械から半導体製造装置まで幅広い事業を展開する機械メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1912年にゐのくち式機械事務所として創立され、1920年に設立されて渦巻ポンプ等の製造を開始しました。1949年に株式を上場し、1987年には半導体産業向け真空機器の生産を開始して事業を多角化しました。近年は2021年のトルコ企業や2022年の北米企業の買収など、海外展開を加速させています。
現在の従業員数は連結で21,148名、単体で5,489名です。大株主の状況を見ると、筆頭株主および第2位は資産管理業務を行う信託銀行となっており、第3位には投資ファンドのいちごトラスト・ピーティーイー・リミテッドが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 17.08% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.63% |
| いちごトラスト・ピーティーイー・リミテッド | 5.20% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性20名、女性4名の計24名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表執行役社長CEO兼COOは細田修吾氏が務めています。取締役10名中、社外取締役比率は70.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 細田 修吾 | 取締役 代表執行役社長 CEO兼COO | 1993年同社入社。経営企画・経理財務統括部長兼CFOなどを歴任し、2025年3月より現職。 |
| 浅見 正男 | 取締役会長 指名委員会委員 | 1986年同社入社。精密・電子事業カンパニープレジデントや代表執行役社長CEOなどを歴任し、2025年3月より現職。 |
| 長峰 明彦 | 取締役 監査委員会委員 | 1982年荏原電産入社。2010年同社入社後、経理財務統括部長や執行役などを歴任し、2021年3月より現職。 |
社外取締役は、大枝宏之(元日清製粉グループ本社社長)、西山潤子(元ライオン常勤監査役)、藤本美枝(弁護士)、髙下貞二(元積水化学工業社長・指名委員長)、沼上幹(一橋大学名誉教授)、北本佳永子(公認会計士)、長谷川隆代(元SWCC社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「建築・産業」「エネルギー」「インフラ」「環境」「精密・電子」の各報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■(1) 建築・産業
標準ポンプ(陸上ポンプ、水中ポンプ、給水ポンプ)、冷熱機械、送風機などの建築設備や産業設備向け製品を提供しています。国内外の建築物や産業インフラの顧客に対し、設備の安定稼働と省エネに貢献する製品や保守サービスを展開しています。
製品の販売や保守メンテナンスから収益を得ています。事業の運営は、同社を中心に、荏原風力機械、荏原冷熱システム、Ebara Pumps Europe S.p.A.など国内外の多数のグループ会社が製造、販売、保守を分担して行っています。
■(2) エネルギー
石油・ガス、電力、新エネルギー市場向けに、カスタムポンプ、コンプレッサ・タービン、クライオポンプ、エキスパンダなどの製造・販売を行っています。エネルギープラントや発電所などの顧客に対し、高度な流体制御技術に基づく製品を提供しています。
プラント向け大型機器の販売およびアフターサービス等から収益を得ています。事業の運営は同社のほか、荏原エリオットや米国のElliott Company、中国の嘉利特荏原ポンプ業などの子会社や共同支配企業がグローバルに展開しています。
■(3) インフラ
水インフラ市場の顧客向けに、農業用ポンプ、排水ポンプ、上下水道ポンプなどの各種カスタムポンプや、トンネル用送風機を製造・販売しています。国内外の官公庁やインフラ事業者を対象に、社会基盤を支える製品や運転・保守サービスを提供しています。
インフラ設備の機器販売、設置工事、および長期的な運転・保守サービスから収益を得ています。事業の運営は主に同社と、子会社である荏原電産が連携し、水害対策やライフライン維持に向けたソリューションを提供しています。
■(4) 環境
地方自治体などの官公庁や民間企業を対象に、都市ごみ焼却プラント、産業廃棄物焼却プラント、水処理プラントの設計、建設、運転、保守を展開しています。固形廃棄物処理などの環境課題解決に向けたエンジニアリングサービスを提供しています。
プラントの建設工事(EPC)や長期的な運転管理・メンテナンス(O&M)、薬品の製造・販売から収益を得ています。運営は主に荏原環境プラントや荏原環境工程(中国)が行うほか、水ingが共同支配企業として参画しています。
■(5) 精密・電子
半導体製造メーカー向けに、真空ポンプ、CMP装置、めっき装置、排ガス処理装置などの製造・販売を行っています。急速に拡大する半導体市場において、先端デバイスの微細化や高集積化を支える高度な製造装置を提供しています。
半導体製造装置の販売やコンポーネントの提供、および保守サービスから収益を得ています。事業の運営は同社が製造および販売を担うほか、荏原フィールドテックや米国のEbara Technologiesなど国内外の販売・保守子会社がサポートしています。
■(6) その他
各報告セグメントに属さない事業として、地域統括会社等の運営を行っています。グローバルな事業展開を支えるための経営基盤の強化や、地域ごとの事業推進を目的とした支援業務を担っています。
グループ各社の統括や業務支援から収益を得ています。運営は主に、中国における地域統括会社である荏原(中国)有限公司などが担当し、グループ全体の経営効率化に貢献しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
過去5年間の業績を見ると、売上収益と税引前利益ともに右肩上がりで成長を続けており、増収増益基調が明確です。利益率も10%台から11%台後半へと着実に改善しており、収益性の向上が伴う質の高い成長を実現しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 6,032億円 | 6,809億円 | 7,593億円 | 8,667億円 | 9,583億円 |
| 税引前利益 | 603億円 | 695億円 | 847億円 | 999億円 | 1,110億円 |
| 利益率(%) | 10.0% | 10.2% | 11.2% | 11.5% | 11.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 436億円 | 505億円 | 603億円 | 714億円 | 766億円 |
売上収益の拡大に伴い、営業利益も順調に増加しています。売上総利益率は安定して推移する一方で、営業利益率は前期から改善しており、コストコントロールが適切に機能し、本業における収益力が一段と強化されていることが伺えます。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 8,667億円 | 9,583億円 |
| 売上総利益 | 1,138億円 | 1,229億円 |
| 売上総利益率(%) | 13.1% | 12.8% |
| 営業利益 | 980億円 | 1,138億円 |
| 営業利益率(%) | 11.3% | 11.9% |
販売費及び一般管理費の主要項目として、人件費が249億円、研究開発費が188億円、業務委託費が120億円を占めています。
精密・電子は生成AI向け等の半導体需要回復により大幅な増収増益を牽引しました。環境も大型案件の受注により業績を伸ばしています。一方、エネルギーは増収ながらも固定費の増加等により減益となりました。全体として、複数事業のポートフォリオが機能し、連結での増益に貢献しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 建築・産業 | 2,396億円 | 2,435億円 | 103億円 | 153億円 | 6.3% |
| エネルギー | 2,109億円 | 2,189億円 | 280億円 | 259億円 | 11.8% |
| インフラ | 514億円 | 572億円 | 37億円 | 47億円 | 8.2% |
| 環境 | 876億円 | 980億円 | 84億円 | 130億円 | 13.3% |
| 精密・電子 | 2,784億円 | 3,423億円 | 501億円 | 578億円 | 16.9% |
| その他 | 22億円 | 26億円 | -28億円 | -23億円 | -89.3% |
| 調整額 | -33億円 | -41億円 | 2億円 | -6億円 | - |
| 連結(合計) | 8,667億円 | 9,583億円 | 980億円 | 1,138億円 | 11.9% |
同社のキャッシュ・フローは営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う「積極型」の状態と言えます。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,009億円 | 408億円 |
| 投資CF | -486億円 | -912億円 |
| 財務CF | -319億円 | 168億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.6%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も50.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「水と空気と環境の分野で、優れた技術と最良のサービスを提供することにより、広く社会に貢献する」を企業理念に掲げています。この理念のもと、2035年に向けた長期ビジョンにおいて「グローバルエクセレントカンパニーとして、持続可能な社会の実現に欠かせない企業」となることを目指し、本業を通じた社会・環境価値の提供と経済価値の最大化を両立するサステナビリティ経営を推進しています。
■(2) 企業文化
同社は、自ら創意工夫する熱意と誠の心を示す創業の精神「熱と誠」をはじめとする「荏原らしさ」をグループの共有すべき価値観として定めています。社員一人ひとりが自らの意思で考え行動する「キャリアオーナーシップ」を発揮できる環境を重視しており、競争し挑戦する風土への変革や、多様な人材が公平に活躍できるダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の推進を組織の行動様式として根付かせています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、新たな長期ビジョン「E-Vision2035」およびその実現に向けた中期経営計画「E-Plan2028」において、成長分野への積極的な投資と高収益化を目指す具体的な数値目標を掲げています。
・売上収益(2028年度):1.2兆円規模
・ROIC(2028年度):13.0%以上
・ROE(2028年度):18.0%以上
・売上収益(2035年度):2兆円以上
・ROE(2035年度):25%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、各事業がデータを活用して顧客の省エネ・脱炭素化を支援する「ソリューションプロバイダー」への進化を基本戦略としています。精密・電子、エネルギー、建築・産業のグローバルビジネスセグメントに経営資源を優先的に投下し、半導体向けの高集積化対応や次世代エネルギー(水素・アンモニア等)向け技術の開発を加速させます。同時に、M&Aや外部パートナーとの共創を推進し、新たなビジネス領域の確立を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、自らの意思で主体的にキャリアを形成し、価値創出に挑戦する「キャリアオーナーシップ」を発揮する人財を求めています。個の成長と多様性を支えるグローバル人事基盤を整備し、人材を「増やす」「活かす」「適切に評価する」仕組みを高度化しています。事業戦略と連動した人材ポートフォリオの設計により、次世代経営人材や高度専門人材の計画的な育成・配置を推進し、持続的な成長の原動力としています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 43.1歳 | 14.4年 | 9,801,912円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 80.4% |
| 男女賃金差異(正規労働者) | 81.3% |
| 男女賃金差異(非正規労働者) | 57.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用比率(2.57%)、グローバルエンゲージメントサーベイスコア(81)、Global Key Positionにおける非日本人社員比率(26%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 専門人材獲得とマネジメントの困難化
事業の多様化や高度化に伴い、専門人材の獲得競争が激化しています。働き方の多様化や管理職の負担増加によるチーム運営の質の低下、離職率の上昇リスクがあり、要員計画が未達となる可能性があります。同社は、統合的な採用戦略の再構築や、社内公募制度を活用した人材の最適配置、健全な組織風土の醸成により、人材の定着と成長を促進する対策を講じています。
■(2) 国際情勢・地政学上の影響
グローバルに事業を展開しているため、米中対立などの政治情勢や国際関係の急激な変化が事業に悪影響を及ぼすリスクがあります。また、地域紛争の増加により、各国の拠点における従業員の安全やサプライチェーンの分断が懸念されます。同社は、経済安全保障施策の推進や有事に備えたリスクシナリオの策定を通じ、地政学リスクへの対応能力の強化を図っています。
■(3) サプライチェーンの分断と不安定化
保護主義の高まりや地域紛争により、市場へのアクセス制限やサプライチェーンが分断されるリスクがあります。また、調達先であるサプライヤーの高齢化に伴う事業承継問題や人権問題に関するコンプライアンスリスクも存在します。同社は、サプライヤーの地政学的な分散や多重化を進めるとともに、人権デュー・ディリジェンスを実施することで、強靭な供給網の構築に努めています。
■(4) 景気変動や半導体サイクルの短期化
為替の変動や金利上昇が業績に影響を与えるほか、同社の主力事業の一つである半導体産業において、ビジネスサイクルの短期化による急激な需要変動が生じるリスクがあります。需要変化への対応が遅れた場合、市場シェアの喪失につながる懸念があります。同社は、複数セグメントによるリスク分散を継続しつつ、サービス事業を強化することで安定的な収益基盤の確保を図っています。



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