※本記事は、株式会社アシックス の有価証券報告書(第72期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年03月04日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アシックスってどんな会社?
競技用シューズやウェアなどのスポーツ用品等の製造販売を主力とし、スポーツイベントの運営も手がけるグローバル企業です。
■(1) 会社概要
1949年に鬼塚商会として発足し、同年に鬼塚株式会社を設立しました。1977年に株式会社ジィティオ及びジェレンク株式会社と合併し、現在の商号に変更して総合スポーツ用品メーカーとなりました。1985年にはスポーツ工学研究所を設置し、科学的研究体制を強化しました。近年では、2022年に東京証券取引所プライム市場へ移行し、2024年にはグローバルでの商品企画開発強化のためASICS Creation Center LLC.を設立するなど、事業基盤の拡大を進めています。
2025年12月31日現在、連結従業員数は9,455人、単体では988人です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行(信託口)です。上位株主は主に信託銀行や海外の機関投資家等で構成されています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.04% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.33% |
| THE CHASE MANHATTAN BANK, N.A. LONDON SECS LENDING OMNIBUS ACCOUNT | 2.91% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性3名の計8名で構成され、女性役員比率は37.5%です。代表取締役会長CEOは廣田康人氏、代表取締役社長COOは富永満之氏が務めています。取締役8名のうち過半数の5名が社外取締役であり、経営の透明性を高めた体制をとっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 廣田 康人 | 代表取締役会長CEO | 三菱商事に入社し、常務執行役員などを歴任。2018年よりアシックスの顧問、代表取締役社長COOを経て、2024年1月より現職。 |
| 富永 満之 | 代表取締役社長COO | アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本IBM、SAPジャパンなどを経て、2018年にアシックス入社。常務執行役員などを歴任し、2024年3月より現職。 |
| 倉本 学 | 取締役(常勤監査等委員) | 1987年にアシックス入社。グローバルフットウエア統括部各部長や執行役員コアパフォーマンススポーツフットウエア統括部長などを経て、2024年3月より現職。 |
社外取締役は、村井満(元Jリーグチェアマン)、須藤実和(プラネットプラン代表)、熊埜御堂朋子(元NHK理事)、横井康(公認会計士)、江藤真理子(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本地域」「北米地域」「欧州地域」「中華圏地域」「オセアニア地域」「東南・南アジア地域」「その他地域」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 日本地域
日本国内において、アシックスブランドのスポーツ用品等の販売を行っています。主な顧客は一般消費者やスポーツ愛好家です。
収益は製品販売による対価等です。運営は主に子会社であるアシックスジャパンが行っています。また、子会社のアシックス商事は、各地域子会社への仲介貿易や自社企画製品の販売を行っています。
■(2) 北米地域
米国を中心とした北米地域において、アシックスブランド製品の販売を行っています。ランニングシューズやアパレルなどを一般消費者向けに展開しています。
収益は製品販売による対価です。運営は主に子会社であるアシックスアメリカコーポレーションなどが行っています。
■(3) 欧州地域
欧州全域において、アシックスブランド製品の販売を展開しています。多様なスポーツ文化を持つ市場に向けた製品を提供しています。
収益は製品販売による対価です。運営は主に子会社であるアシックスヨーロッパB.V.などが行っています。
■(4) 中華圏地域
中国市場において、アシックスブランド製品の販売を行っています。高い成長が見込まれる市場でブランド展開を強化しています。
収益は製品販売による対価です。運営は主に子会社である亞瑟士(中国)商貿有限公司などが行っています。
■(5) オセアニア地域
オーストラリア等のオセアニア地域において、アシックスブランド製品の販売を行っています。現地市場に根付いた販売活動を展開しています。
収益は製品販売による対価です。運営は主に子会社であるアシックスオセアニアPTY.LTD.が行っています。
■(6) 東南・南アジア地域
東南アジアおよび南アジア地域において、アシックスブランド製品の販売を行っています。新興市場でのプレゼンス拡大を図っています。
収益は製品販売による対価です。運営は主に子会社であるアシックスアジアPTE.LTD.などが行っています。
■(7) その他地域
上記以外の地域(南米など)において、アシックスブランド製品の販売を行っています。ブラジル等の市場が含まれます。
収益は製品販売による対価です。運営は主に子会社であるアシックスブラジルリミターダなどが行っています。
■その他事業
上記報告セグメントに含まれない事業として、アウトドア用品の販売や産業財の製造販売等を行っています。
収益は製品販売による対価等です。運営は同社グループの各事業会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあります。特に直近の2025年12月期には売上高が8,000億円を超え、経常利益や当期純利益も大幅に伸長しました。利益率も年々向上しており、収益性の高い体質へと変化しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,041億円 | 4,846億円 | 5,705億円 | 6,785億円 | 8,109億円 |
| 経常利益 | 222億円 | 309億円 | 507億円 | 926億円 | 1,393億円 |
| 利益率(%) | 5.5% | 6.4% | 8.9% | 13.6% | 17.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 94億円 | 199億円 | 353億円 | 638億円 | 987億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高の大幅な増加に伴い、売上総利益も増加しています。売上総利益率も改善傾向にあり、高付加価値製品への注力が奏功していることが伺えます。営業利益率は2ケタ台後半に達し、高い収益性を実現しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 6,785億円 | 8,109億円 |
| 売上総利益 | 3,789億円 | 4,606億円 |
| 売上総利益率(%) | 55.8% | 56.8% |
| 営業利益 | 1,001億円 | 1,425億円 |
| 営業利益率(%) | 14.8% | 17.6% |
販売費及び一般管理費のうち、広告宣伝費が595億円(構成比18.7%)、従業員賃金給料が594億円(同18.7%)、支払手数料が579億円(同18.2%)を占めています。売上原価については、商品及び製品の仕入等が主要な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
全ての地域セグメントにおいて売上高が増加しました。特に日本地域や欧州地域、東南・南アジア地域での成長が顕著です。利益面でも全セグメントで黒字を確保しており、特に日本地域と欧州地域が利益を牽引しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本地域 | 1,664億円 | 2,042億円 | 277億円 | 447億円 | 21.9% |
| 北米地域 | 1,350億円 | 1,412億円 | 113億円 | 160億円 | 11.3% |
| 欧州地域 | 1,794億円 | 2,258億円 | 253億円 | 367億円 | 16.3% |
| 中華圏地域 | 1,005億円 | 1,205億円 | 193億円 | 251億円 | 20.8% |
| オセアニア地域 | 430億円 | 496億円 | 76億円 | 79億円 | 16.0% |
| 東南・南アジア地域 | 373億円 | 498億円 | 74億円 | 109億円 | 22.0% |
| その他地域 | 448億円 | 521億円 | 65億円 | 81億円 | 15.6% |
| その他 | 137億円 | 157億円 | -16億円 | -12億円 | -7.6% |
| 調整額 | -417億円 | -480億円 | -34億円 | -59億円 | - |
| 連結(合計) | 6,785億円 | 8,109億円 | 1,001億円 | 1,425億円 | 17.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスとなっており、本業で稼いだ現金を投資に回しつつ、借入返済や株主還元も行っている健全型です。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,046億円 | 1,099億円 |
| 投資CF | -76億円 | -294億円 |
| 財務CF | -843億円 | -1,059億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は39.1%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.3%で市場平均(プライム市場製造業平均46.8%)とほぼ同じ水準です。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは創業哲学「健全な身体に健全な精神があれかし」を基本とし、ビジョン「スポーツでつちかった知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」の実現を目指しています。「アシックスの理念」をもって事業運営を行い、人々の心身の健康向上に貢献することを掲げています。
■(2) 企業文化
創業哲学に基づいた「ASICS SPIRIT」を掲げ、これを事業運営の核としています。スポーツを通じて培った技術と情熱をもって、顧客に価値を提供し続けることを重視しています。従業員一人ひとりがこの精神を体現し、チームワークと挑戦を大切にする文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
「中期経営計画2026」において、以下の財務目標を掲げています。当初の計画を前倒しで達成したため、2024年11月に上方修正を行いました。さらに次期中期経営計画(2029年12月期最終年度)に向けて、連結売上高1兆円の早期達成を目指しています。
* 連結営業利益:1,300億円以上
* 連結営業利益率:17.0%以上
* ROA:15%前後
■(4) 成長戦略と重点施策
「Global Integrated Enterpriseへの変革」を引き続き方針とし、本社と地域事業会社の連携強化による有機的なカテゴリー経営体制の構築を目指します。重点戦略として「グローバル成長」「ブランド体験価値向上」「オペレーショナルエクセレンス」を掲げ、各カテゴリー・地域の連携加速、デジタルを活用した顧客接点の強化、サプライチェーンの最適化等により収益拡大を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「Global Integrated Enterprise」への変革に向け、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人財が力を発揮できる環境整備を進めています。従業員のウェルビーイング向上、グローバルで活躍できる人財の育成・登用、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進を重点戦略とし、業界最高水準の報酬体系や柔軟な働き方の実現を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 40.4歳 | 12.2年 | 10,798,440円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 20.4% |
| 男性育児休業取得率 | 71.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 83.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 79.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 107.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(73)、障がい者雇用率(3.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 中期経営計画に関するリスク
「中期経営計画2026」の達成に向けた取り組みにおいて、グローバルでの連携不全、市場シェア拡大の未達、市場規模の停滞などの要因により、計画通りの進捗や目標達成が困難となる可能性があります。これにより、将来の収益拡大に影響が及ぶリスクがあります。
■(2) 競合と技術革新に関するリスク
国内外の市場において有力な競合他社との激しい競争に晒されています。競合他社の技術革新等により、同社製品の売上減少や販路縮小が生じる可能性があります。また、研究開発への多額の先行投資が回収できないリスクもあります。
■(3) M&Aに関するリスク
新規市場展開のためにM&Aを実施する方針ですが、事前の調査で把握できなかった事象の発生や、事業展開が計画通りに進まない場合、期待した効果が得られない可能性があります。また、のれん等の減損損失が発生し、財政状態および経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 経済環境・消費動向の変化のリスク
事業展開する各国における経済環境や消費動向の変化、人口動態の変動による市場規模の縮小などが、売上の減少や過剰在庫を引き起こし、財政状態および経営成績に悪影響を与える可能性があります。



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