エービーシー・マート 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エービーシー・マート 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。国内外で「ABC-MART」等の店舗を展開し、靴を中心とした商品の販売および自社商品の企画開発を行う小売業です。直近の業績は、人流回復やインバウンド需要の増加、高付加価値商品の販売好調により、売上高・利益ともに過去最高を更新し、増収増益となりました。


※本記事は、株式会社エービーシー・マート の有価証券報告書(第40期、自 2024年3月1日 至 2025年2月28日、2025年5月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. エービーシー・マートってどんな会社?


国内外に靴小売店「ABC-MART」等を展開し、自社ブランド商品の開発も行う製造小売(SPA)企業です。

(1) 会社概要


1985年に靴・衣料の輸入販売を行う前身企業を設立し、1990年に「ABC-MART」1号店を出店して小売業へ進出しました。2002年に東証一部へ上場。2010年代には台湾や米国等の海外子会社を連結化し、2012年に米国のLaCrosse社を買収して製造販売体制を強化しました。直近では2022年にオッシュマンズ・ジャパンを完全子会社化しています。

連結従業員数は9,075名、単体では3,911名です。筆頭株主は創業者である三木正浩氏の資産管理会社である合同会社イーエム・プランニングで、第2位は三木正浩氏本人、第3位は信託業務を行う銀行となっています。

氏名 持株比率
合同会社イーエム・プランニング 49.89%
三木 正浩 9.54%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 6.46%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は野口実氏です。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
野口 実 取締役社長(代表取締役) シヤチハタ東京商事(現シヤチハタ)を経て1991年同社入社。取締役営業本部長、常務取締役営業本部長を歴任し、2007年3月より現職。
服部 喜一郎 常務取締役営業本部長 1999年同社入社。取締役海外事業担当、米国LaCrosse社President、取締役事業開発担当等を歴任し、2024年4月より現職。
勝沼 清 取締役総務人事担当店舗開発担当財務経理担当物流担当 アミックスを経て1996年同社入社。販売促進部長、人事戦略担当、営業担当等を歴任し、2022年12月より現職。
菊池 孝 取締役販売促進担当生産管理担当 ブティック武生を経て1991年同社入社。取締役商品開発部長、商品開発担当等を歴任し、2025年3月より現職。
石井 寧大 取締役経営企画室長 イトキンを経て2001年同社入社。経理部、取締役経理部長を歴任し、2022年12月より現職。


社外取締役は、鈴木浩子(モデル・フラワーライフプロデューサー)、佐々木加奈子(俳優・元飲食店経営)、松岡正(元コンバースフットウエア取締役)、菅原泰男(プロモーションHD代表取締役)、小早川英樹(元日医リース社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「国内」および「海外」事業を展開しています。

(1) 国内事業


全国各地に「ABC-MART」「ABC-MART GRAND STAGE」等の店舗を展開し、靴を中心に衣料品や雑貨を販売しています。自社ブランド「HAWKINS」「Danner」等の企画開発とナショナルブランド商品の販売を組み合わせ、市場ニーズに対応した商品を提供しています。

収益は、一般消費者への商品販売による対価が主な柱です。運営は、同社を中心に、スポーツ専門店「OSHMAN'S」を展開するエービーシー・マートの連結子会社であるオッシュマンズ・ジャパンなどが行っています。

(2) 海外事業


韓国、台湾、ベトナム、米国において事業を展開しています。アジア地域では「ABC-MART」等の店舗運営を行い、米国ではLaCrosseグループが「Danner」「White's Boots」等のブランド靴の企画・製造・販売および小売店の運営を行っています。

収益は、各地域での商品販売による売上および卸売による対価です。運営は、韓国のABC-MART KOREA,INC.、台湾のABC-MART TAIWAN,INC.、米国のLaCrosse Footwear,Inc.などの連結子会社が担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は着実に増加傾向にあり、事業規模の拡大が続いています。利益面でも、経常利益率が17%台と高い水準を維持しており、効率的な経営が行われています。直近の当期利益も増加しており、全体として増収増益の堅調な業績推移を示しています。

項目 2021年2月期 2022年2月期 2023年2月期 2024年2月期 2025年2月期
売上高 2,203億円 2,439億円 2,901億円 3,442億円 3,722億円
経常利益 213億円 283億円 434億円 578億円 646億円
利益率(%) 9.7% 11.6% 14.9% 16.8% 17.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 186億円 165億円 245億円 329億円 379億円

(2) 損益計算書


売上高の増加に伴い、売上総利益および営業利益ともに増加しています。売上総利益率は50%を超えており、高い収益性を確保しています。営業利益率も16%台で推移しており、コストコントロールを行いながら利益を創出する体質であることがわかります。

項目 2024年2月期 2025年2月期
売上高 3,442億円 3,722億円
売上総利益 1,756億円 1,878億円
売上総利益率(%) 51.0% 50.5%
営業利益 557億円 626億円
営業利益率(%) 16.2% 16.8%


販売費及び一般管理費のうち、地代家賃が356億円(構成比28%)、給料手当が338億円(同27%)を占めています。

(3) セグメント収益


国内事業は売上高が約9%増加し、セグメント利益も大幅に伸長しました。これは人流回復やインバウンド需要の取り込みが奏功したためです。海外事業も円安の影響もあり売上高は約6%増加しましたが、利益は微減となりました。

区分 売上(2024年2月期) 売上(2025年2月期) 利益(2024年2月期) 利益(2025年2月期) 利益率
国内 2,369億円 2,580億円 457億円 531億円 20.6%
海外 1,073億円 1,142億円 99億円 95億円 8.3%
連結(合計) 3,442億円 3,722億円 557億円 626億円 16.8%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業の儲けを示す営業CFがプラスで、将来のための投資CFがマイナス、借入返済や配当支払いによる財務CFがマイナスであることから、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」と言えます。

項目 2024年2月期 2025年2月期
営業CF 512億円 561億円
投資CF -114億円 -151億円
財務CF -186億円 -171億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は87.7%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「世界共通の品質を世界共通の価格で」を企業理念に掲げています。品質の良いファッショントレンドアイテムをリーズナブルな価格で提供する「ライフスタイル創造企業」として、顧客に満足と感動を与える世界共通のサービスを提供し、人々の幸せを実現することを基本方針としています。

(2) 企業文化


同社は対面販売を主軸としており、スタッフ一人ひとりの販売力、すなわち「人の力」を重視する文化があります。顧客への気配りや心遣いを大切にし、魅力ある店づくりと商品づくりを心がけています。また、現場での経験を人材育成の基本とし、先輩スタッフによるコーチングや「共育」を通じて共に成長する環境を育てています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、目標とする経営指標として、連結営業利益率を二桁水準で維持することを掲げています。これは、収益性を重視した経営を継続していく姿勢を示しています。

(4) 成長戦略と重点施策


中長期的な成長に向け、「マーケットシェアの拡大」「店舗展開とデジタルコマースの推進」「世界マーケットへの発信」「ブランドの拡充・育成」を掲げています。具体的には、都市型旗艦店やスポーツ専門店の出店拡大、複合業態の開発、デジタルとリアルを融合したオムニチャネル戦略を推進します。また、海外展開の拡大や自社ブランドの強化により、収益性の向上と差別化を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


対面販売を強みとする同社は、現場でのOJTや集合研修を通じて「販売力=人の力」を強化しています。多様なライフスタイルに応じた雇用形態の確立や、女性管理職比率の向上、障がい者雇用、外国人採用などダイバーシティを推進し、誰もが働きやすい環境づくりに取り組んでいます。また、接客サービスの均一化や次世代リーダーの育成にも注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年2月期 32.0歳 9.1年 4,247,625円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 15.9%
男性育児休業取得率 60.5%
男女賃金差異(全労働者) 63.1%
男女賃金差異(正規) 78.5%
男女賃金差異(非正規) 105.2%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がいのある社員数(156名)、外国籍の社員数(171名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 感染症の拡大


新たな感染症の拡大により緊急事態宣言等が発出された場合、店舗休業やインバウンド需要の消失により売上が著しく減少する可能性があります。特に関東圏や韓国ソウル周辺での都市封鎖は業績に大きな影響を与えます。また、サプライチェーンの混乱による商品供給遅延やコスト増のリスクもあります。

(2) 大規模災害等


国内および海外の店舗、倉庫、工場、本社機能が、地震や台風などの自然災害により被災した場合、固定資産の損害や営業停止による業績への悪影響が想定されます。特に首都圏直下型地震や南海トラフ地震のリスクに対し、基幹業務のクラウド化や緊急連絡網の整備などの対策を講じています。

(3) 海外情勢


海外売上高が全体の約3割を占め、商品の多くを海外委託工場で生産しているため、各国の政治・経済情勢の変動やテロ・紛争による混乱が業績や商品供給に影響を与える可能性があります。特に韓国市場への依存度が高く、また生産拠点の集中による地政学的リスクに対しては、拠点の分散化等で対応しています。

(4) 為替相場の変動


海外子会社の財務諸表換算や、自社企画商品の輸入決済において為替変動の影響を受けます。円高は海外事業の円換算額減少に、円安は輸入商品の仕入原価上昇につながります。特に米ドル決済の輸入取引が多いため、為替相場の著しい変動は売上総利益等の経営成績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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