※本記事は、株式会社ニッスイの有価証券報告書(第111期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ニッスイってどんな会社?
同社は水産物や加工食品の製造・販売をはじめ、ファインケミカルや物流事業も展開する総合食品企業です。
■(1) 会社概要
同社は1911年に田村汽船漁業部として創立され、トロール漁業を開始したことに始まります。1937年に日本水産へ改称し、1949年に東京証券取引所へ上場しました。その後、1960年代に陸上加工事業や医薬品事業へ進出し、近年は黒瀬水産などの子会社化により養殖事業を強化しています。2022年にはニッスイへ社名を変更しました。
現在の同社グループは、連結従業員数11,526名、単体従業員数1,489名を擁する体制です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は日本カストディ銀行(信託口)となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 21.50% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 10.56% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505223 | 2.72% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役社長執行役員は田中輝氏が務めています。取締役10名のうち4名が社外取締役であり、社外取締役比率は40.0%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 浜田晋吾 | 代表取締役(執行役員)会長 | 1983年入社。食品生産推進室長、食品事業執行、最高執行責任者(COO)、代表取締役社長執行役員等を経て、2025年5月より現職。 |
| 田中輝 | 代表取締役(社長執行役員)最高経営責任者(CEO) | 1988年入社。南米子会社社長、広域営業副本部長、養殖事業推進部管掌、水産事業副執行、水産事業執行等を経て、2025年5月より現職。 |
| 浅井正秀 | 取締役(専務執行役員)最高執行責任者(COO)、水産事業執行、営業企画部管掌 | 1984年入社。水産事業第三部長、北米事業執行、南米事業執行、海外事業執行等を経て、2026年4月より現職。 |
| 山本晋也 | 取締役 | 1985年入社。経理部長、ニッスイ・ジーネット代表取締役社長、最高財務責任者(CFO)、取締役専務執行役員等を経て、2026年4月より現職。 |
| 梅田浩二 | 取締役 | 1983年入社。広域営業本部長、食品事業執行、取締役専務執行役員、最高執行責任者(COO)等を経て、2026年4月より現職。 |
| 倉石曜考 | 取締役(執行役員)海外事業執行、オセアニア事業統括、海外事業推進部管掌、戦略商品部共管 | 1992年入社。海外事業副執行、オセアニア事業統括、ヨーロッパ事業統括等を経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、松尾時雄(元日本カーバイド工業代表取締役社長執行役員)、江口あつみ(元江崎グリコ理事コーポレートコミュニケーション部長)、安部大作(元みずほリース取締役会長)、田中径子(駐ウルグアイ特命全権大使)です。
2. 事業内容
同社グループは、「水産事業」「食品事業」「ファイン事業」「物流事業」および「その他」事業を展開しています。
■水産事業
国内外における漁撈、養殖、および水産物の加工・商事事業を展開し、ブリやサバ、鮭鱒などの多種多様な水産品を顧客に提供しています。スーパーなどの量販店や外食産業が主な顧客です。
収益は、水産物の販売代金から得ています。運営は、同社および黒瀬水産、ニッスイサーモン、NISSUI USA, INC.などの国内外の連結子会社が担っています。
■食品事業
家庭用および業務用の加工食品やチルド食品の製造・販売を展開しています。ちくわやフィッシュソーセージ、冷凍食品、コンビニエンスストア向けの弁当・惣菜などが主な製品です。
収益は、食品スーパーやコンビニ、外食事業者に対する製品の販売代金から得ています。運営は同社および日本デリカサービス、GORTON'S, INC.などの連結子会社が担っています。
■ファイン事業
医薬品原料や、サプリメントや乳児用粉ミルクに添加されるEPA・DHAなどの機能性原料、通信販売を中心とする健康食品等の機能性食品を生産・販売しています。
収益は、製薬会社や食品メーカーへの原料販売代金、および消費者への健康食品の直接販売代金から得ています。運営は同社および北海道ファインケミカルなどの連結子会社が担っています。
■物流事業
グループ内外の顧客に対して、冷蔵倉庫での入出庫や物品の保管サービス、配送サービス、および通関事業等を提供しています。
収益は、荷役サービスや保管サービス、配送サービスに伴う手数料から得ています。運営は日水物流などの連結子会社が担っています。
■その他
上記セグメントに含まれない事業として、船舶の建造や修繕、運航、およびエンジニアリング関連の事業を展開しています。
収益は、機械設備の納入やエンジニアリングサービスの提供による手数料や請負代金から得ています。運営はニッスイ・エンジニアリングなどの連結子会社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は6937億円から9313億円へと着実に成長を続けています。経常利益も324億円から432億円へと拡大し、利益率も3〜4%台で安定的に推移しています。国内外での販売強化や成長領域への投資が奏功し、順調な事業拡大がうかがえます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6937億円 | 7682億円 | 8314億円 | 8861億円 | 9313億円 |
| 経常利益 | 324億円 | 278億円 | 320億円 | 353億円 | 432億円 |
| 利益率(%) | 4.7% | 3.6% | 3.8% | 4.0% | 4.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 173億円 | 212億円 | 239億円 | 254億円 | 275億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益を見ると、売上高の増加に伴い売上総利益も1393億円から1522億円へと増加しています。売上総利益率および営業利益率も前期と比較して改善しており、価格改定の浸透や高付加価値商品の販売拡大などによる収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8861億円 | 9313億円 |
| 売上総利益 | 1393億円 | 1522億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.7% | 16.3% |
| 営業利益 | 318億円 | 404億円 |
| 営業利益率(%) | 3.6% | 4.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給与及び手当が297億円(構成比27%)、発送費が252億円(同23%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の食品事業と水産事業がいずれも増収増益を牽引しています。水産事業は国内外の養殖や漁撈が好調で利益が大幅に伸長し、食品事業も価格改定やチルド事業の堅調な推移が貢献しました。一方、物流事業等はコスト増や市況の影響を受け減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 水産事業 | 3641億円 | 3802億円 | 84億円 | 178億円 | 4.7% |
| 食品事業 | 4711億円 | 5010億円 | 287億円 | 296億円 | 5.9% |
| ファイン事業 | 158億円 | 170億円 | 9億円 | 8億円 | 4.9% |
| 物流事業 | 165億円 | 166億円 | 28億円 | 24億円 | 14.5% |
| その他 | 186億円 | 165億円 | 9億円 | 5億円 | 3.0% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | -100億円 | -107億円 | -% |
| 連結(合計) | 8861億円 | 9313億円 | 318億円 | 404億円 | 4.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で安定的に資金を稼ぎ出し、借入などの財務活動を交えながら成長のための投資を継続する積極型のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 404億円 | 532億円 |
| 投資CF | -304億円 | -614億円 |
| 財務CF | -115億円 | 131億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.0%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループのミッションは、時代や環境の変化に応じた“食”の新たな可能性の追求を通じて、社会課題を解決することです。110余年かけて培った資源アクセス力や研究開発力、生産技術、バリューチェーンの強みを活かし、「心と体を豊かにする新しい食」「社会課題を解決する新しい食」を提供し続けることを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は「創業の理念と5つの遺伝子」を土台に据えています。5つの遺伝子とは、「お客様を大切にする」「現場主義」「グローバル」「イノベーション」「使命感」です。また、マルチステークホルダーに配慮した「サステナビリティ行動宣言」を定め、持続可能な社会の実現に向けたサステナビリティ経営を重視する文化が定着しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」の達成に向け、サステナビリティ経営と事業ポートフォリオマネジメントを強化しています。海外マーケットでの伸長や養殖事業・ファインケミカル事業の成長と差別化を加速し、以下の数値を2030年の目標として掲げています。
* 売上高:1兆円
* 営業利益:500億円
* 海外所在地売上高比率:50%
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」のもと、成長領域への経営資源の集中を図っています。北米や欧州を中心としたグローバル展開の加速、養殖事業の高度化、代替タンパク商品やアップサイクル素材などの新規事業の開拓に注力しています。また、全体最適を志向したDXの推進や、人的資本とブランディングの強化を通じて競争力の源泉を磨いています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人財マネジメントポリシー」を策定し、「主体性」「変革」「挑戦」「共創」「完遂」を求める人財像として定義しています。持続的な成長が見込まれる海外事業やファインケミカル、国内外の養殖事業といった成長領域への人財の戦略的シフトを推進し、採用・育成・配置を通じてバリューチェーンの強靭化を支える人財基盤の構築を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.8歳 | 15.8年 | 8,506,166円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 9.1% |
| 男性育児休業取得率 | 91.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 59.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 72.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期雇用労働者) | 76.3% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外部採用比率(41.4%)、エンゲージメントスコア(119.5%)、障害者雇用率(3.15%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 人的資本への対応に関するリスク
少子高齢化と人口減少が進む中、グローバル人財やDX人財など事業に必要な人財の確保が困難になるリスクがあります。多様な人財が活躍する環境構築が遅れることで、現場労働力の不足や生産性の停滞、事業拡大の遅れが生じ、同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 気候変動への対応に関するリスク
台風や洪水などの自然災害の激甚化により、生産拠点や物流機能が被害を受けるリスクがあります。また、異常気象や海洋環境の変化による天然魚・養殖魚の漁獲量減少や、環境規制強化に伴う対応コストの増加が、原材料調達の不安定化や収益性の低下をもたらす可能性があります。
■(3) 生物多様性への対応に関するリスク
水産資源の減少や海洋環境の変化により、漁獲量の減少や調達難が発生するリスクがあります。これに伴う漁業規制の強化や調達コストの増加、さらには環境配慮への対応遅れによるブランド価値の毀損が、製品の安定供給や販売機会に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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