※本記事は、株式会社ニッスイ の有価証券報告書(第110期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ニッスイってどんな会社?
1911年の創業以来、水産資源の持続的な利用と地球環境の保全に配慮しながら、多様な食を提供する企業です。
■(1) 会社概要
1911年に田村汽船漁業部として創業し、トロール漁業を開始しました。1943年には日本海洋漁業統制を設立、1945年に日本水産へ社名を変更し、1949年に株式を上場しました。その後、水産事業から食品、ファインケミカル事業へと領域を拡大し、2022年に商号を現在の「ニッスイ」に変更しました。近年では、2024年にニッスイまぐろを設立するなど、事業基盤の強化を進めています。
連結従業員数は10,332名、単体では1,505名が在籍しています。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(22.39%)で、第2位は日本カストディ銀行(10.77%)です。第3位には製薬会社の持田製薬(2.57%)が名を連ねており、安定的な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 22.39% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 10.77% |
| 持田製薬株式会社 | 2.57% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表者は代表取締役社長執行役員の田中輝氏です。社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田中 輝 | 代表取締役(社長執行役員)最高経営責任者(CEO) | 1988年入社。Salmones Antártica S.A.社長、執行役員広域営業副本部長、水産事業執行などを経て、2025年5月より現職。 |
| 浜田 晋吾 | 代表取締役(執行役員)会長 | 1983年入社。食品事業執行、最高執行責任者(COO)、代表取締役社長執行役員、最高経営責任者(CEO)などを歴任。2025年5月より現職。 |
| 山本 晋也 | 取締役(専務執行役員)最高財務責任者(CFO)経営管理部門管掌 | 1985年入社。経理部長、執行役員、ニッスイ・ジーネット代表取締役社長などを経て、2017年よりCFO。2024年6月より現職。 |
| 梅田 浩二 | 取締役(専務執行役員)最高執行責任者(COO)食品事業執行、コンビニエンス事業部・営業企画部管掌、戦略商品部共管 | 1983年入社。広域営業本部長などを経て、2020年より食品事業執行。2024年6月より現職。 |
| 浅井 正秀 | 取締役(常務執行役員)水産事業執行 | 1984年入社。北米事業執行、NISSUI USA, INC.社長、南米事業執行などを経て、2025年5月より現職。 |
| 倉石 曜考 | 取締役(執行役員)海外事業執行、オセアニア事業統括、海外事業推進部管掌、戦略商品部共管 | 1992年入社。海外事業副執行、オセアニア事業統括、ヨーロッパ事業統括を経て、2025年5月より海外事業執行。2025年6月より現職。 |
社外取締役は、松尾時雄(元日本カーバイド工業社長)、江口あつみ(元江崎グリコ執行役員)、安部大作(元みずほFG副社長)、田中径子(元駐ウルグアイ特命全権大使)です。
2. 事業内容
同社グループは、「水産事業」「食品事業」「ファイン事業」「物流事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 水産事業
漁撈、養殖、加工・商事事業を展開しており、水産物の漁獲から養殖、加工販売までを一貫して行っています。国内外の資源へのアクセス力を活かし、サケ・マス、ブリ、マグロなどの水産物をグローバルに供給しています。
収益は、水産物および加工品の販売代金として顧客から受け取ります。運営は、同社のほか、連結子会社の黒瀬水産株式会社、NISSUI USA, INC.などが担い、関連会社の株式会社大水とも連携して事業を行っています。
■(2) 食品事業
家庭用および業務用の冷凍食品、練り製品(ちくわ、カニ風味かまぼこ等)、常温食品(缶詰、瓶詰等)、チルド食品の製造・販売を行っています。多様化する食生活に対応し、簡便性や健康価値の高い商品を提供しています。
収益は、加工食品やチルド食品の販売代金として小売業者や外食産業等の顧客から受け取ります。運営は、同社のほか、株式会社日本デリカサービス、GORTON'S, INC.などの連結子会社が行っています。
■(3) ファイン事業
水産資源由来の機能性原料(EPA・DHA等)や医薬品原料、健康食品の生産・販売を行っています。高度な精製技術を活用し、医薬品メーカーやサプリメントメーカー、一般消費者に高付加価値な素材や製品を提供しています。
収益は、医薬品原料や機能性原料の販売、および健康食品の通信販売等による代金として顧客から受け取ります。運営は主に同社および連結子会社が行っています。
■(4) 物流事業
冷蔵倉庫事業、配送事業、通関事業を展開しており、低温物流ネットワークを活用して食品の保管や輸配送サービスを提供しています。食品の鮮度と品質を維持しながら、効率的な物流サービスを顧客に提供しています。
収益は、冷蔵倉庫での保管料、荷役料、および配送運賃として顧客から受け取ります。運営は主に連結子会社の日水物流株式会社が行っています。
■(5) その他
船舶の建造・修繕、運航、エンジニアリング事業などを行っています。グループ内のインフラを支えるとともに、外部顧客へのサービス提供も行っています。
収益は、造船・修繕工事代金やエンジニアリングサービスの対価として顧客から受け取ります。運営は、連結子会社のニッスイ・エンジニアリング株式会社などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は順調に右肩上がりで推移しており、第110期には8,861億円に達しました。経常利益も第108期に一時的な減少が見られたものの、その後は回復・成長基調にあり、利益率も安定しています。当期純利益に関しても、直近3期は高水準を維持しており、全体として増収増益の堅調な成長トレンドを示しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,150億円 | 6,937億円 | 7,682億円 | 8,314億円 | 8,861億円 |
| 経常利益 | 227億円 | 324億円 | 278億円 | 320億円 | 353億円 |
| 利益率(%) | 3.7% | 4.7% | 3.6% | 3.8% | 4.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 144億円 | 173億円 | 212億円 | 239億円 | 254億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の比較では、売上高の増加に伴い売上総利益も拡大しています。売上総利益率はほぼ横ばいから微増で推移しており、コストコントロールが効いていることが伺えます。営業利益も増収効果により増加し、営業利益率は前期と同水準を維持しています。事業規模の拡大と収益性の維持が両立できている状況です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8,314億円 | 8,861億円 |
| 売上総利益 | 1,256億円 | 1,393億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.1% | 15.7% |
| 営業利益 | 297億円 | 318億円 |
| 営業利益率(%) | 3.6% | 3.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が285億円(構成比26.5%)、発送費が244億円(同22.7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
水産事業と食品事業が売上の大半を占めており、両事業ともに増収を達成しています。特に食品事業は売上・利益ともに最大規模であり、全社の利益成長を牽引しました。物流事業も増収増益となり、高い利益率を維持しています。一方、水産事業は増収ながらも減益となっており、利益率の改善が課題となっています。ファイン事業は規模は小さいながらも増収増益を果たしました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 水産事業 | 3,369億円 | 3,641億円 | 107億円 | 84億円 | 2.3% |
| 食品事業 | 4,433億円 | 4,711億円 | 273億円 | 287億円 | 6.1% |
| ファイン事業 | 157億円 | 158億円 | -2億円 | 9億円 | 5.6% |
| 物流事業 | 152億円 | 165億円 | 15億円 | 28億円 | 17.2% |
| その他 | 203億円 | 186億円 | 8億円 | 9億円 | 5.0% |
| 調整額 | - | - | -105億円 | -100億円 | - |
| 連結(合計) | 8,314億円 | 8,861億円 | 297億円 | 318億円 | 3.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 545億円 | 404億円 |
| 投資CF | -377億円 | -304億円 |
| 財務CF | -124億円 | -115億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は43.6%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、時代や環境の変化に応じた「食」の新たな可能性の追求を通じて社会課題を解決することをミッション(存在意義)としています。このミッションに基づき、長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」を掲げ、「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー」を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、創業の理念に基づき、「お客様を大切にする」「現場主義」「グローバル」「イノベーション」「使命感」という5つの遺伝子を大切にしています。また、ステークホルダーへのコミットメントを示す「サステナビリティ行動宣言」に基づき、ミッションの体現と持続的な成長を目指す企業風土を持っています。
■(3) 経営計画・目標
長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」の達成に向け、2030年には海外所在地売上高比率50%、売上高1兆円、営業利益500億円を稼げる企業を目指しています。中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」では、サステナビリティ経営と事業ポートフォリオマネジメントを両軸に、企業価値の向上に努めています。
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の成長に向けて、事業ポートフォリオマネジメントを深化させ、ROICを活用して成長分野へ経営資源を集中させます。具体的には、北米・欧州を中心としたグローバル展開の加速、養殖事業やファインケミカル事業の成長と差別化、新規事業の開拓を推進します。また、DXの推進や人的資本経営の強化により、競争優位性の獲得を目指します。
* 売上高1兆円(2030年目標)
* 営業利益500億円(2030年目標)
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人財こそが欠かせない価値であり、競争優位の源泉である」との考えのもと、社員一人ひとりが自律的に成長し続けられる環境整備を進めています。「主体性」「変革」「挑戦」「共創」「完遂」をキーワードとする人財マネジメントポリシーに基づき、成長事業領域への人財シフト、個のキャリア自律と多様性の推進、成長を支える組織文化の醸成に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.1歳 | 16.4年 | 8,355,658円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.9% |
| 男性育児休業取得率 | 106.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 58.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 72.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 75.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(77.5%)、障害者雇用率(3.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 人的資本への対応に関するリスク
少子高齢化による労働人口の減少に伴い、事業創出やグローバル展開を担うプロフェッショナル人財や現場労働力の確保が困難になる可能性があります。従業員エンゲージメントの低下やダイバーシティ対応の遅れは、必要な人財の流出や採用難を招き、生産性の停滞や事業拡大の阻害要因となる恐れがあります。
■(2) 気候変動への対応に関するリスク
温暖化による異常気象や自然災害の激甚化は、原材料調達、生産、物流等の事業活動に影響を及ぼす可能性があります。また、カーボンプライシング導入や環境規制強化によるコスト増加、低炭素製品へのニーズ変化への対応遅れは、競争力の低下やステークホルダーからの評判低下につながるリスクがあります。
■(3) 生物多様性への対応に関するリスク
水産資源の減少や海洋環境の変化は、原材料の安定調達や価格に影響を与え、事業継続を脅かす可能性があります。また、プラスチックごみによる海洋汚染への対応不足は、ブランド価値の毀損や規制強化によるコスト増を招く恐れがあります。これらの環境課題への対応遅れは、市場縮小や機会損失につながる可能性があります。
■(4) サプライチェーンの環境・人権に関するリスク
グローバルなサプライチェーンにおいて、強制労働や児童労働、IUU漁業等の人権・環境問題が発生した場合、不買運動や取引停止、法的責任の追及を受ける可能性があります。これに伴う調達コストの上昇や供給不安定化、企業イメージの低下は、同社グループの業績や社会的信用に重大な影響を及ぼすリスクがあります。



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