※本記事は、株式会社大林組の有価証券報告書(第122期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 大林組ってどんな会社?
同社は国内を中核に海外でも事業を展開し、建築・土木および不動産開発を主力とする総合建設企業です。
■(1) 会社概要
1892年に創業し、1936年に設立されました。1958年に大阪、1960年に東京証券取引所へ上場を果たしています。1970年代からアジアや北米に現地法人を設立し、グローバル展開を推進してきました。2017年には大林道路を完全子会社化し、土木事業や不動産事業など幅広い領域でグループ体制を強化しています。
同社グループは連結で18,031名、単体で9,472名の従業員を擁する体制で事業を展開しています。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位および第3位にも国内外の信託銀行やカストディ銀行が名を連ねており、機関投資家を中心とした株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.51% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.26% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001(常任代理人 みずほ銀行決済営業部) | 3.66% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性2名の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長 兼 CEOは佐藤俊美氏が務めており、社外取締役は5名で構成されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 佐藤俊美 | 代表取締役社長 兼 CEO | 1985年入社。海外支店北米統括事務所副所長、財務部長、経営企画室長、副社長執行役員などを歴任し、2025年より現職。 |
| 佐々木嘉仁 | 代表取締役副社長執行役員 | 1984年入社。大阪本店土木事業部長、四国支店長、土木本部長、安全本部副本部長などを歴任し、2025年より現職。 |
| 大林剛郎 | 取締役会長兼 取締役会議長 | 1977年入社。代表取締役副社長、代表取締役会長などを歴任し、2023年より現職。 |
| 笹川淳 | 取締役副会長 | 1980年入社。大阪本店建築事業部長、営業総本部長、東京本店長、代表取締役などを歴任し、2026年より現職。 |
社外取締役は、折井雅子(元サントリーウエルネス専務取締役)、加藤広之(元三井物産代表取締役副社長執行役員)、黒田由貴子(ピープルフォーカス・コンサルティング代表取締役)、注連浩行(元ユニチカ代表取締役会長)、池川喜洋(元三菱ケミカル代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「国内建築事業」「海外建築事業」「国内土木事業」「海外土木事業」「不動産事業」および「その他」事業を展開しています。
■国内建築事業
国内において建築工事の受注および施工を行っています。また、内外テクノスによる内装工事やオーク設備工業による設備工事など、建築に付随する幅広いサービスを提供しています。
収益源は、顧客からの建築工事請負代金や関連工事の代金です。事業の運営は主に大林組が行うほか、内外テクノスやオーク設備工業などの子会社が専門工事を担当し、グループ連携で事業を推進しています。
■海外建築事業
北米および東南アジアなどの海外市場において、建築工事の受注および施工を展開しています。現地のニーズに合わせた建築ソリューションを提供し、グローバルでの事業基盤を強化しています。
収益源は、海外の顧客からの建築工事請負代金です。運営は主に大林組が行うほか、ウェブコー、タイ大林、台湾大林組などの現地法人がそれぞれの地域で事業を推進しています。
■国内土木事業
国内においてインフラ整備などの土木工事を受注・施工しています。道路やトンネル、橋梁など、社会基盤を支える大規模な公共工事や民間工事を幅広く手がけています。
収益源は、官公庁や民間企業からの土木工事請負代金です。運営は主に大林組が担当するほか、子会社の大林道路が道路舗装などの専門的な土木工事を受注・施工しています。
■海外土木事業
北米や東南アジアなどの海外市場において、土木工事の受注および施工を行っています。現地のインフラ開発プロジェクトに参画し、グローバルな事業領域の拡大を図っています。
収益源は、現地の政府機関や企業からの土木工事請負代金です。運営は主に大林組が行うほか、MWH、ケナイダンなどの現地法人が各地域での施工を担当しています。
■不動産事業
不動産の売買、賃貸、および宅地開発などの開発事業を展開しています。都市開発やオフィスビルの賃貸を通じて、不動産価値の向上と安定した収益基盤の構築を目指しています。
収益源は、物件の売却益やテナントからの賃貸収入です。事業の運営は主に大林組が担当するほか、大林新星和不動産や大林プロパティズUKなどの子会社が不動産開発や管理を推進しています。
■その他
PFI(民間資金活用による社会資本整備)事業や、太陽光・風力等の再生可能エネルギー事業、ICT関連事業など、建設事業の枠を超えた多様な事業を展開しています。
収益源は、PFI事業の運営収入や売電収入などです。運営は島根あさひソーシャルサポートなどの特別目的会社や、大林クリーンエナジー、オーク情報システムなどの子会社が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上高は着実な成長基盤を築き、直近では2兆5000億円規模で安定しています。経常利益および当期利益についても、年度によって変動はあるものの、直近では利益率の改善が進み、増益傾向が続いています。大型案件の進捗や収益性の向上が利益成長に寄与しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 19,229億円 | 19,839億円 | 23,252億円 | 25,908億円 | 25,863億円 |
| 経常利益 | 498億円 | 1,008億円 | 915億円 | 1,522億円 | 2,042億円 |
| 利益率(%) | 2.6% | 5.1% | 3.9% | 5.9% | 7.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 391億円 | 777億円 | 751億円 | 1,454億円 | 1,738億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で微減となったものの、売上総利益および営業利益は大幅に増加し、利益率が顕著に改善しています。追加・変更工事の獲得や採算性の良い案件の寄与が利益の押し上げに貢献しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 25,908億円 | 25,863億円 |
| 売上総利益 | 2,954億円 | 3,647億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.4% | 14.1% |
| 営業利益 | 1,425億円 | 1,947億円 |
| 営業利益率(%) | 5.5% | 7.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が669億円(構成比39.4%)、調査研究費が178億円(同10.5%)を占めています。
■(3) セグメント収益
国内建築事業は大型案件の反動等で減収となったものの、採算性の向上により大幅な増益を達成しています。また、海外土木事業や不動産事業も手持ち工事の順調な進捗や開発物件の売却などにより、増収増益と好調に推移しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 国内建築事業 | 13,372億円 | 11,388億円 | 627億円 | 1,036億円 | 9.1% |
| 海外建築事業 | 4,779億円 | 5,080億円 | 127億円 | 114億円 | 2.2% |
| 国内土木事業 | 4,023億円 | 4,266億円 | 404億円 | 406億円 | 9.5% |
| 海外土木事業 | 2,505億円 | 3,360億円 | 80億円 | 152億円 | 4.5% |
| 不動産事業 | 727億円 | 1,068億円 | 160億円 | 199億円 | 18.6% |
| その他 | 503億円 | 701億円 | 22億円 | 28億円 | 4.0% |
| 連結(合計) | 25,908億円 | 25,863億円 | 1,425億円 | 1,947億円 | 7.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
キャッシュ・フローの状況を見ると、営業活動で得た資金を借入金の返済や積極的な投資に充当する「健全型」のパターンを示しており、安定した財務基盤を築いています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 842億円 | 2,529億円 |
| 投資CF | 100億円 | -844億円 |
| 財務CF | -504億円 | -1,414億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.4%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.0%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
企業理念に『「地球に優しい」リーディングカンパニー』を掲げ、持続可能な社会の実現を目指しています。創業以来受け継がれてきた精神である三箴「良く、廉く、速い」と「企業理念」、そして企業理念を実現するための指針である「企業行動規範」から成る「大林組基本理念」を全社員で共有し、企業活動を通じて社会的責任を果たすことで、企業価値の向上に努めています。
■(2) 企業文化
多様性を受け入れ相互に尊重し合える企業風土を、これからも変わらない同社グループの守るべきDNAと捉えています。この企業風土の下、仕事を通じた成長機会の提供や働きがいのある職場をつくり、働く人のエンゲージメントを向上させることを目指しています。ジェンダーや国籍などにとらわれることなく、多様な人材が等しく活躍できる職場環境の整備を進めています。
■(3) 経営計画・目標
長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」を策定し、2050年のあるべき姿を地球・社会・人と自らのサステナビリティの実現と定めています。「中期経営計画2022」では、持続的成長の方向を「国内建設事業を中核とし、それ以外の事業が国内建設と同等以上の業績を創出する」と定めています。
・自己資本配当率(DOE)5%程度
・2030年度までにCO2排出量削減率46.2%減(Scope1+2)
■(4) 成長戦略と重点施策
「建設事業の基盤の強化と深化」、「技術とビジネスのイノベーション」および「持続的成長のための事業ポートフォリオの拡充」の3つの基本戦略を実行しています。技能労働者の不足に対し、サプライチェーンの強化やロボティクスコンストラクションの構築を推進し、海外事業ではM&Aを活用した成長戦略を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「大林グループ人材マネジメント方針」に基づき、人材の確保・育成・活躍促進を中核とした戦略を推進しています。若手からのリーダー育成や技術伝承を進めるとともに、健康経営を重要な要素と位置づけ、従業員のウェルビーイング向上を図っています。さらに、職種別や階層別の多様な研修プログラムを通じて成長機会を提供しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与は東京証券取引所(プライム市場)市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.0歳 | 15.9年 | 12,393,648円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.9% |
| 男性育児休業取得率 | 116.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 69.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 61.5% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、技術系女性社員比率(11.9%)、障がい者雇用率(2.7%)、1人当たり教育時間数(43.0時間)、エンゲージメント指標平均(75.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 建設業法等の法的規制への対応リスク
建設業法や建築基準法などの法的規制の改廃、新設があった場合、対応費用の発生が事業収支に影響を及ぼす可能性があります。同社グループは、法的規制の動向を事前に把握し、社内教育等で周知を図るとともに、対応費用を見積原価や事業予測に反映させることでリスクの低減に努めています。
■(2) 景気後退に伴う建設市場の縮小リスク
国内外の景気後退等により建設市場が著しく縮小した場合、工事受注量の減少が業績に影響を及ぼす可能性があります。同社グループは、中長期的な市場動向を見越した要員計画の立案や営業力の強化、次世代生産システムの技術開発による生産性向上を通じて、収益源の多様化と財務体質の強化に取り組んでいます。
■(3) 労務単価・建設資材価格の高騰リスク
労務単価の高騰や技能労働者の不足、地政学的情勢によるサプライチェーンの混乱による建設資材の急激な価格高騰が生じた場合、利益率の低下や工期遅延が発生する可能性があります。同社グループは、複数のサプライヤーとの関係構築や代替品の探索、正確な原価把握を徹底し、リスクの分散と最小化を図っています。
■(4) 重大な品質不具合や事故の発生リスク
建設事業において、設計や施工における重大な品質不具合、または人身や施工物に関わる事故が発生した場合、多額の補償費用等が生じる可能性があります。同社グループは、品質マネジメントシステムによる厳格な品質管理や、安全本部を通じた全社的な安全管理体制の構築、保険付保によるリスクヘッジを実施しています。



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