※本記事は、大日本印刷株式会社の有価証券報告書(第132期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 大日本印刷ってどんな会社?
スマートコミュニケーションやライフ&ヘルスケア等の事業を展開する印刷・情報技術の企業です。
■(1) 会社概要
同社は1876年に秀英舎として創業し、1935年に大日本印刷へと社名を変更しました。1949年に東京証券取引所へ上場しています。2010年にはグループ会社を通じて丸善や図書館流通センターの経営統合を行うなど、長年培った印刷と情報の技術を応用し、多岐にわたる事業分野へ領域を拡大してきました。
現在の従業員数は連結で36,360名、単体で8,911名です。筆頭株主および第2位株主は資産管理業務などを行う信託銀行となっています。第3位株主には海外の金融機関が名を連ねており、国内外の機関投資家から幅広く支持される安定した資本構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 17.43% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.62% |
| ステート ストリート バンク アンド トラスト カンパニー 505001(常任代理人 みずほ銀行) | 3.07% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性15名、女性3名の計18名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長の北島義斉氏らが経営を牽引しています。社外取締役比率は27.8%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 北島義斉 | 代表取締役社長 | 1987年富士銀行入行、1995年同社入社。2009年代表取締役副社長等を経て2018年より現職。 |
| 宮健司 | 代表取締役副社長 | 1978年同社入社。人事部長、代表取締役専務等を経て2024年より現職。 |
| 黒柳雅文 | 専務取締役 | 1983年同社入社。経理本部長、常務取締役等を経て2024年より現職。 |
| 杉田一彦 | 専務取締役 | 1982年同社入社。コーポレートコミュニケーション本部担当等を経て2025年より現職。 |
| 三宅徹 | 専務取締役 | 1982年同社入社。購買本部長、常務取締役等を経て2025年より現職。 |
| 中村治 | 専務取締役 | 1985年同社入社。常務執行役員、DNPファインオプトロニクス代表取締役社長等を経て2025年より現職。 |
| 宮間三奈子 | 常務取締役 | 1986年同社入社。人財開発部長、執行役員等を経て2024年より現職。 |
| 金沢貴人 | 常務取締役 | 1984年同社入社。情報システム本部長、常務執行役員等を経て2024年より現職。 |
| 宮島司 | 取締役 | 1990年慶應義塾大学教授。弁護士登録等を経て2014年より現職。 |
| 田村良明 | 取締役 | 1979年旭硝子入社。同社専務執行役員等を経て2022年より現職。 |
| 白川浩 | 取締役 | 1979年大成建設入社。同社取締役専務執行役員等を経て2022年より現職。 |
| 杉浦宣彦 | 取締役 | 1989年香港上海銀行入行。中央大学教授等を経て2024年より現職。 |
| 熊平美香 | 取締役 | 1985年熊平製作所入社。エイテッククマヒラ代表取締役等を経て2025年より現職。 |
社外取締役は、宮島司(弁護士)、田村良明(元AGC代表取締役)、白川浩(元大成建設取締役)、杉浦宣彦(中央大学教授)、熊平美香(エイテッククマヒラ代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「スマートコミュニケーション部門」「ライフ&ヘルスケア部門」「エレクトロニクス部門」の3つの報告セグメントを展開しています。
■スマートコミュニケーション部門
書籍や雑誌、企業PR誌、教科書などの出版印刷から、デジタルマーケティング支援、BPOサービス、ICカードや決済関連サービスまで幅広い情報コミュニケーションサービスを提供しています。また、バーチャル空間の企画や生成AIを活用したサービスも手掛け、企業や生活者の多様なニーズに応えています。
収益源は、企業や自治体からの印刷・制作受託料、BPOサービス利用料、システム開発・運用費など多岐にわたります。運営は同社をはじめ、丸善CHIホールディングスやインテリジェント ウェイブ、DNPコミュニケーションデザインなどの多数のグループ子会社が各専門領域を担って展開しています。
■ライフ&ヘルスケア部門
リチウムイオン電池用バッテリーパウチや太陽電池用部材などの産業用高機能部材、食品や日用品の各種包装材料、内外装材、自動車等の成型部品を製造・販売しています。また、医薬原薬中間体の受託製造や飲料の製造なども行い、人々の生活基盤と健康を支える製品・サービスをグローバルに展開しています。
顧客であるメーカー等からの部材の販売代金や受託製造費用などが主な収益源となっています。運営は同社のほか、DNPテクノパック、DNP高機能マテリアル、シミックCMO、北海道コカ・コーラボトリングなどの関係会社がそれぞれの分野で製造や販売を担っています。
■エレクトロニクス部門
ディスプレイ用光学フィルム、有機ELディスプレイ用メタルマスク、半導体製造用フォトマスク、ハードディスクドライブ用サスペンションなど、電子精密部品の開発・製造を手掛けています。先端技術を駆使し、スマートフォンや大型ディスプレイ、次世代半導体パッケージ向けの部材をグローバルに供給しています。
国内外のエレクトロニクス機器メーカーや半導体メーカーへの部材・製品の販売代金が主な収益源です。運営は同社を中心に、DNPファインオプトロニクスやディー・ティー・ファインエレクトロニクスなどが担っており、最先端領域への積極的な投資を行いながら事業を拡大しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績トレンドを見ると、売上高は安定して成長を続け、1兆3,441億円から1兆5,126億円へと増加しています。経常利益も右肩上がりで推移しており、収益基盤の強化が進んでいることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 13,441億円 | 13,732億円 | 14,248億円 | 14,576億円 | 15,126億円 |
| 経常利益 | 812億円 | 837億円 | 987億円 | 1,159億円 | 1,192億円 |
| 利益率(%) | 6.0% | 6.1% | 6.9% | 8.0% | 7.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 870億円 | 817億円 | 1,023億円 | 932億円 | 814億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績を比較すると、売上高の増加に伴い売上総利益と営業利益も順調に伸長しています。利益率も堅調に推移しており、本業における収益力の向上が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 14,576億円 | 15,126億円 |
| 売上総利益 | 3,383億円 | 3,660億円 |
| 売上総利益率(%) | 23.2% | 24.2% |
| 営業利益 | 936億円 | 1,010億円 |
| 営業利益率(%) | 6.4% | 6.7% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が748億円(構成比28.2%)、研究開発費が423億円(同16.0%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各事業セグメントの業績を見ると、全セグメントで増収を達成しています。特にスマートコミュニケーション部門とライフ&ヘルスケア部門は増益となり、全体の業績を力強く牽引しました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| スマートコミュニケーション部門 | 7,140億円 | 7,487億円 | 347億円 | 400億円 | 5.3% |
| ライフ&ヘルスケア部門 | 4,959億円 | 5,121億円 | 238億円 | 373億円 | 7.3% |
| エレクトロニクス部門 | 2,478億円 | 2,518億円 | 574億円 | 507億円 | 20.1% |
| 連結(合計) | 14,576億円 | 15,126億円 | 936億円 | 1,010億円 | 6.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,327億円 | 404億円 |
| 投資CF | -367億円 | -736億円 |
| 財務CF | -874億円 | 233億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は58.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、サステナブルな社会の実現を目指し、「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」ことを企業理念に掲げています。持続可能なより良い社会と心豊かな暮らしを実現するため、社会課題を解決し、人々の期待に応える価値を創出し続けることで、自らがより良い未来をつくり出す存在となることを目指しています。
■(2) 企業文化
「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントのもと、生み出した価値を生活者の身近に常に存在する欠かせないものにしていく文化が根付いています。また、長年培った「P&I(印刷と情報)」の独自の強みを活かし、多様なパートナーとの連携を通じて新しい価値を創出する姿勢を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
2026年度から開始する3か年の中期経営計画において、事業価値と株主価値の持続的な創出による企業価値の向上を目指しています。最終年度となる2028年度には、以下の数値目標を掲げています。
* 営業利益:1,300億円
* ROE:9.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
成長戦略として「注力事業の拡大と構造改革の推進」を掲げています。事業ポートフォリオを変革し、高いシェアと収益性を持つ「注力事業」へ積極投資を行います。また、人的資本や知的資本への投資拡大、環境への取り組みを強化し、競争力の源泉となる経営基盤を強固にすることで持続的な成長を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人的資本ポリシー」に基づき、人への投資を拡大し、グローバルでの人的創造性を高めることで付加価値の最大化を図っています。職群別キャリア・スキルマップによる戦略的人材配置や、DNP価値目標(DVO)制度を通じた組織力の強化、自律的なキャリア形成を支援する制度の充実を進め、多様な人材が活躍できる環境を整備しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.8歳 | 20.7年 | 8,610,246円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 管理職に占める女性労働者の割合 | 12.3% |
| 男性労働者の育児休業取得率 | 106.8% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 80.4% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 80.4% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 61.8% |
また、同社は「人的資本の強化」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、DXリテラシー標準基礎教育受講完了者数(29,259名)、従業員エンゲージメントサーベイスコア向上(6.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 情報セキュリティへの脅威
サイバー攻撃や不正アクセス、サプライチェーンを起点とした情報漏えいなどのリスクが存在します。これらが発生した場合、企業の社会的信頼の低下や対応費用の発生、事業活動の停止により、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) サプライチェーンの混乱
地政学リスクや自然災害、法規制の変化などにより原材料の調達が滞るリスクがあります。特にグローバルな供給網において調達や物流が困難になった場合、製品の安定供給や事業継続に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 人権・多様性への対応
事業活動やサプライチェーン上で人権侵害等の問題が発生した場合、企業の社会的信頼やブランド価値が低下するリスクがあります。また、労働環境への対応が遅れることで、専門人材の確保や定着率の低下を招く懸念があります。
■(4) 中長期的な経営環境の変化
技術の急速な進展や気候変動に伴う物理的リスク、国内外の規制強化などの環境変化に対応できない場合、競争力の低下や対応コストの増加を招き、中長期的な事業成長や収益性に悪影響を及ぼすリスクがあります。



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