※本記事は、東ソー株式会社の有価証券報告書(第127期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東ソーってどんな会社?
石油化学から高機能材料まで、幅広い化学製品を国内外の産業向けに提供する総合化学メーカーです。
■(1) 会社概要
1935年に東洋曹達工業として設立され、1949年に東京証券取引所に株式を上場しました。1975年に鐵興社と合併して国内に複数の生産拠点を有する体制となり、1987年に現在の東ソーへ商号を変更しました。その後も積極的な事業展開を進め、2014年には日本ポリウレタン工業と合併し、ビニル・イソシアネート・チェーンの一貫体制を確立しています。
従業員数は連結で14,850名、単体で4,002名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も信託業務を行う日本カストディ銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.24% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.75% |
| NORTHERN TRUST CO. (AVFC) RE SILCHESTER INTERNATIONAL INVESTORS INTERNATIONAL VALUE EQUITY TRUST(常任代理人 香港上海銀行) | 2.67% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長社長執行役員は桒田守氏が務めています。社外取締役比率は30.8%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 桒田守 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1984年東ソー入社。四日市事業所長、クロル・アルカリセクター長、機能商品セクター長などを経て、2022年より現職。 |
| 安達徹 | 代表取締役専務執行役員 | 1985年東ソー入社。経営企画・連結経営部長、石油化学セクター長、エンジニアリングセクター長などを経て、2024年より現職。 |
| 吉水昭広 | 取締役常務執行役員技術本部長エンジニアリングセクター長 | 1986年東ソー入社。四日市事業所長、南陽事業所長などを経て、2025年より現職。 |
| 亀崎尊彦 | 取締役常務執行役員石油化学セクター長購買・物流部長 | 1986年東ソー入社。有機化成品事業部長、クロル・アルカリセクター長などを経て、2025年より現職。大洋塩ビ代表取締役社長を兼任。 |
| 大道信勝 | 取締役常務執行役員機能商品セクター長 | 1988年東ソー入社。高機能材料事業部長などを経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、本坊吉博(元三井物産代表取締役副社長執行役員)、日高真理子(元新日本監査法人シニアパートナー)、中野幸正(元太平洋セメント取締役)、橋寺由紀子(フェニクシー代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「石油化学」「クロル・アルカリ」「機能商品」「エンジニアリング」および「その他」事業を展開しています。
■石油化学事業
エチレン、プロピレン等のオレフィン製品、ポリエチレン樹脂、機能性ポリマー等の製造・販売を行っています。自動車、半導体、メディカル、食品向けなど、幅広い分野の顧客に製品を供給しています。
製品の販売代金を顧客から受け取るビジネスモデルです。運営は主に東ソーが行うほか、ポリエチレンフィルム等を製造する北越化成などのグループ会社が事業を担っています。
■クロル・アルカリ事業
苛性ソーダ、塩化ビニルモノマー、セメント、ウレタン原料等の製造・販売を行っています。国内外の産業用素材を必要とする顧客企業に対して製品を提供しています。
製品の販売代金を顧客から受け取るビジネスモデルです。運営は東ソーのほか、塩化ビニル樹脂を扱う大洋塩ビやフィリピン・レジンズ・インダストリーズ、ウレタン原料を扱う東曹(瑞安)ポリウレタン有限公司などの国内外のグループ会社が担っています。
■機能商品事業
無機・有機ファイン製品、計測・診断機器、電子材料、機能材料等の製造・販売を行っています。半導体メーカーや医療機関など、高度な技術を要する分野の顧客に製品を提供しています。
製品および機器等の販売代金を顧客から受け取るビジネスモデルです。運営は東ソーを中心に、石英ガラス加工を行う東ソー・クォーツやトーソー・クォーツ、スパッタリングターゲットを扱うトーソー・SMDなどのグループ会社が展開しています。
■エンジニアリング事業
水処理装置、純水装置、イオン交換樹脂等の製造・販売、および各種プラント工事や電気工事の設計・施工を行っています。先端半導体製造工場をはじめとする顧客に設備とサービスを提供しています。
設備販売、メンテナンス等のサービス提供、および建設工事の請負から収益を得るビジネスモデルです。運営は主に水処理分野を担うオルガノや、プラント工事を担う東北電機鉄工(現・電機鉄工)が行っています。
■その他事業
グループ内の製品や原材料の運送、荷役業務、保険代理業務、および関連製品の販売等を行っています。グループ各社および一部外部顧客にサービスを提供しています。
物流サービス等の提供による手数料や運送料、製品販売代金を受け取るビジネスモデルです。運営は東ソー物流や東ソー・ニッケミなどのグループ会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の売上高は1兆円前後で推移しており、近年は1兆円台を安定して維持しています。一方、経常利益は原燃料価格の変動や海外市況の影響を受けて増減があり、利益率も変動していますが、概ね安定した収益基盤を保っています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 9,186億円 | 10,644億円 | 10,056億円 | 10,634億円 | 10,199億円 |
| 経常利益 | 1,605億円 | 900億円 | 959億円 | 1,030億円 | 1,068億円 |
| 利益率(%) | 17.5% | 8.5% | 9.5% | 9.7% | 10.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 951億円 | 335億円 | 457億円 | 489億円 | 404億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は減少したものの、原燃料価格下落による交易条件の改善などにより売上総利益は微増となりました。一方、固定費の増加などにより営業利益は減少しており、収益性の維持・向上が今後の課題となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 10,634億円 | 10,199億円 |
| 売上総利益 | 2,590億円 | 2,610億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.4% | 25.6% |
| 営業利益 | 989億円 | 955億円 |
| 営業利益率(%) | 9.3% | 9.4% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃諸掛が443億円(構成比27%)、給料・賞与が393億円(同24%)、研究開発費が230億円(同14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
エンジニアリング事業は先端半導体関連の需要が堅調に推移し増収増益を達成しました。一方で、石油化学事業およびクロル・アルカリ事業は、海外市況の下落や在庫受払差の悪化により減益となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 石油化学 | 2,048億円 | 1,697億円 | 143億円 | 97億円 | 5.7% |
| クロル・アルカリ | 3,734億円 | 3,460億円 | 95億円 | 19億円 | 0.5% |
| 機能商品 | 2,705億円 | 2,729億円 | 386億円 | 399億円 | 14.6% |
| エンジニアリング | 1,693億円 | 1,864億円 | 336億円 | 404億円 | 21.7% |
| その他 | 454億円 | 449億円 | 29億円 | 36億円 | 8.0% |
| 連結(合計) | 10,634億円 | 10,199億円 | 989億円 | 955億円 | 9.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスであり、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,062億円 | 1,146億円 |
| 投資CF | -816億円 | -721億円 |
| 財務CF | -379億円 | -97億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は59.0%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「化学の革新を通して、幸せを実現し、社会に貢献する」という企業理念のもと、事業を通じた社会価値の創出や社会課題解決に取り組んでいます。「地球とヒトがいつまでも幸せで快適に暮らせる社会」の実現に向け、「地球とヒトの快適な暮らしのパートナー」としての存在意義を発揮することを目指しています。
■(2) 企業文化
従業員の挑戦を応援し、働きがいがあり活力にあふれる企業風土と、風通しが良く人権および多様性を尊重した職場環境の実現を重視しています。また、事業活動にかかわる人々の安全・健康と安定操業が経営の大前提であると認識し、安全文化の醸成に真摯に取り組むとともに、誠実で透明性の高い企業活動を追求しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年度に向けた中長期の数値目標として、以下の達成を目指しています。また、2025年から2027年度の3ヶ年中期経営計画では、チェーン事業と先端事業のバランスを取りながら持続的な成長を図る計画です。
* 営業利益1,700億円
* CO2排出量30%削減(2018年度比)
* 総還元性向50%を基本とする
■(4) 成長戦略と重点施策
「成長」と「脱炭素」の両立を経営課題に掲げ、CO2の排出を抑えつつ収益を拡大できる事業構造への変革を進めています。チェーン事業では塩素の高付加価値化による収益の安定・拡大を図り、先端事業では大型の新規事業創出による収益基盤の拡大に注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
就労期間の長期化やデジタル化の進展といった社会の大きな変化に対応するため、多様な価値観を受け入れ、自ら考え行動できる「自律型人材」の育成を基本方針としています。また、多様な人材が活躍できるよう、ワークライフバランスの実現、仕事と生活の両立支援、健康経営の推進など、働きやすい職場環境の醸成に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 38.5歳 | 13.8年 | 8,288,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.3% |
| 男性育休取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 73.4% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 52.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントサーベイ総合スコア(Aランク)、階層別研修のキャリア教育の満足度(78%)、総合職新卒採用者に占める女性割合(28%)、経験者採用の割合(20%)、障がい者雇用率(2.7%)、年休取得率(85%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 製品・原燃料の国際市況の変動
石油化学事業やクロル・アルカリ事業を中心に、ナフサや製品等の市況変動の影響を受ける製品を扱っています。中東情勢の悪化による原燃料価格の高騰に対し、製品価格の是正が適切に行われない場合、業績や財政状態に重大な影響を与える可能性があります。
■(2) 在庫評価の影響
棚卸資産の評価において総平均法を採用しているため、ナフサや石炭等の原燃料価格が下落する局面では、期初の高価な在庫によって売上原価が押し上げられるなど、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 国内外の経済情勢・需要変動、競合
国内外の顧客や市場の動向、経済情勢の変動により、製品マーケットの縮小や市況の下落が生じるリスクがあります。また、競合他社による生産能力増強や低価格販売により、市場シェアの低下や製品価格の下落が生じた場合、業績に影響を与える可能性があります。
■(4) 気候変動への対応リスク
世界的な温室効果ガスの排出削減の動きに対応し、CO2削減や有効利用に向けた技術改善を進めています。しかし、化石燃料利用に対する数量規制や環境税が導入されたり、代替品の出現で需要が減少したりした場合には、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。



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