※本記事は、株式会社デンソー の有価証券報告書(第102期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月11日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. デンソーってどんな会社?
自動車技術、システム・製品を提供するグローバルな自動車部品メーカーです。世界中に拠点を展開しています。
■(1) 会社概要
1949年にトヨタ自動車工業から分離独立し、日本電装として設立されました。1953年にロバートボッシュ社と技術提携を締結し、1996年に現在のデンソーへ商号変更しています。2017年には富士通テン(現デンソーテン)を買収して連結子会社化しました。2020年にはトヨタ自動車より主要な電子部品事業を譲り受けています。
2025年3月31日現在、連結従業員数は158,056名、単体では43,781名です。筆頭株主は同社の母体であるトヨタ自動車で、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位はトヨタグループの豊田自動織機です。トヨタグループ各社との資本関係が強く、安定した経営基盤を持っています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| トヨタ自動車 | 21.25% |
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 13.20% |
| 豊田自動織機 | 5.59% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名、計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表者は取締役社長の林 新之助氏です。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 有馬 浩二 | 取締役会長代表取締役 | 1981年4月入社。常務役員、専務役員を経て2015年6月取締役社長に就任。2023年6月より現職。 |
| 林 新之助 | 取締役社長代表取締役 | 1986年4月入社。常務役員、経営役員を経て2023年6月より現職。 |
| 松井 靖 | 取締役副社長代表取締役 | 1987年4月入社。常務役員、経営役員、取締役・経営役員を経て2023年6月より現職。 |
| 山崎 康彦 | 取締役副社長代表取締役 | 1986年4月入社。常務役員、経営役員、副社長を経て2024年6月より現職。 |
| 豊田 章男 | 取締役 | 1984年4月トヨタ自動車入社。同社取締役社長等を経て2023年4月同社取締役会長(現任)。2019年6月より同社取締役。 |
社外取締役は、櫛田 誠希(日本証券金融社長)、三屋 裕子(日本バスケットボール協会代表理事)、Joseph P.Schmelzeis, Jr.(ジェイピーエスインターナショナル代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、各種自動車部品および非車載事業を展開しています。
■(1) サーマルシステム
エアコンシステム(HVAC、コンプレッサ等)、サーマルコンポーネント(ラジエータ、熱マネジメント製品等)、サーマルマネジメントシステム(ヒートポンプシステム等)などの開発・製造・販売を行っています。自動車メーカー等を主な顧客としています。
収益は、製品の販売対価として自動車メーカー等から得ています。運営は、デンソーおよびデンソー・サーマルシステムズ(イタリア)、デンソー・マニュファクチュアリング・ミシガン(米国)などの連結子会社が行っています。
■(2) パワトレインシステム
ディーゼル・ガソリンエンジン用の噴射機器(インジェクタ、ポンプ等)、エンジン機器(点火コイル、排気センサ等)、エレクトリックコンポーネント(スタータ、オルタネータ)などを提供しています。主な顧客は自動車メーカーです。
収益は、製品の販売により自動車メーカー等から得ています。運営は、デンソーおよびデンソー・マニュファクチュアリング・テネシー(米国)、デンソー・マニュファクチュアリング・ハンガリーなどの連結子会社が行っています。
■(3) モビリティエレクトロニクス
各種ECU(エンジン、ボデー等)、セーフティシステム(ミリ波レーダ、画像センサ等)、車載インフォテインメントシステムなどの電子製品及びソフトウェアを提供しています。自動車の知能化・安全性を支える事業です。
収益は、製品およびソフトウェアの提供対価として自動車メーカー等から得ています。運営は、デンソーおよびデンソーテン、デンソー・マニュファクチュアリング・テネシー(米国)などの連結子会社が行っています。
■(4) エレクトリフィケーションシステム
インバータ、モータージェネレータ、電池監視ユニット、電動パワーステアリングなどの電動化関連製品を提供しています。ハイブリッド車や電気自動車(BEV)の普及に伴い重要性が増している分野です。
収益は、製品の販売対価として自動車メーカー等から得ています。運営は、デンソーおよび広瀬製作所、安城製作所などの国内拠点や海外連結子会社が行っています。
■(5) 先進デバイス
メカトロニクスシステム、センシングシステム(各種半導体センサ)、セミコンダクタ(特定用途向けIC、パワー半導体)などを提供しています。自動車の制御や電動化を支える基盤技術製品です。
収益は、製品の販売対価として顧客から得ています。運営は、デンソーおよびデンソー岩手、デンソー北海道などの連結子会社が行っています。
■(6) 非車載事業
FA関連(ロボット、QRコードスキャナ等)、フードバリューチェーン関連(農業ハウス等)、生活関連(自然冷媒ヒートポンプ給湯機等)の製品を提供しています。自動車技術を応用し、幅広い産業や生活領域に展開しています。
収益は、製品・システムの販売やサービス提供の対価として顧客から得ています。運営は、デンソーおよびデンソーウェーブなどの連結子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの5期間において、売上収益は継続的に増加傾向にあります。特に2023年3月期以降の伸びが顕著で、7兆円台に達しています。利益面でも、2021年3月期を底に回復・拡大基調にあり、2025年3月期は税引前利益、当期利益ともに高い水準を記録しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4兆9367億円 | 5兆5155億円 | 6兆4013億円 | 7兆1447億円 | 7兆1618億円 |
| 税引前利益 | 1551億円 | 3412億円 | 4261億円 | 3806億円 | 5190億円 |
| 利益率(%) | 3.1% | 6.2% | 6.7% | 5.3% | 7.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1251億円 | 2639億円 | 3146億円 | 3128億円 | 4191億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益は微増ながら、営業利益は大幅に増加しました。売上総利益率はほぼ横ばいですが、営業利益率は5.3%から7.2%へと改善しています。これは円安の進行や合理化努力による効果が、操業度差損や部材費高騰の影響を上回ったためです。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 7兆1447億円 | 7兆1618億円 |
| 売上総利益 | 1兆899億円 | 1兆1029億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.3% | 15.4% |
| 営業利益 | 3806億円 | 5190億円 |
| 営業利益率(%) | 5.3% | 7.2% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が2333億円(構成比38.6%)、その他が1900億円(同31.4%)、製品保証引当金繰入額が597億円(同9.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
日本セグメントは売上・利益ともに最大で、特に当期は利益が大幅に増加しました。北米も増収増益で、利益率も改善しています。一方、欧州とアジアは減収減益となり、特に欧州は利益が大きく減少しました。全体としては海外売上比率が高く、グローバルに事業を展開していますが、利益面では日本と北米が牽引しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 4兆1664億円 | 4兆2164億円 | 852億円 | 2205億円 | 5.2% |
| 北米 | 1兆7670億円 | 1兆8632億円 | 546億円 | 981億円 | 5.3% |
| 欧州 | 7813億円 | 7187億円 | 310億円 | 87億円 | 1.2% |
| アジア | 1兆9851億円 | 1兆9401億円 | 1845億円 | 1695億円 | 8.7% |
| その他 | 1152億円 | 1190億円 | 248億円 | 223億円 | 18.7% |
| 調整額 | -1兆6702億円 | -1兆6956億円 | 6億円 | -0億円 | - |
| 連結(合計) | 7兆1447億円 | 7兆1618億円 | 3806億円 | 5190億円 | 7.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFで得た資金に加え、投資CFもプラスとなっています。これは、政策保有株式(資本性金融商品)の売却による収入が大きかったためです。潤沢な資金で借入金の返済や自己株式取得などの財務活動を行い、財務体質の改善を進めている「改善型」の状況と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 9618億円 | 7587億円 |
| 投資CF | -4595億円 | 1219億円 |
| 財務CF | -4967億円 | -6774億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は55.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「世界中の人々の幸せ」を願い、事業活動を通じて社会課題の解決に貢献することを目指しています。経営の基本方針として「魅力ある製品で、お客様に満足を提供する」「変化を先取りし、世界の市場で発展する」「自然を大切にし、社会と共生する」「個性を尊重し、活力ある企業をつくる」の4つを掲げています。
■(2) 企業文化
創業以来受け継がれてきた価値観や信念を「デンソースピリット」として明文化し、共有しています。これは「先進」「信頼」「総智・総力」の3つの柱からなり、現状に満足せずより高い目標に挑戦する姿勢や、誠実な行動、チームワークを重視する企業風土を表しています。
■(3) 経営計画・目標
「社会課題の解決」と「人の幸せ・成長」を中長期の経営目的に据えています。経営上の目標達成状況を判断する客観的な指標として、売上収益、営業利益、およびROE(自己資本利益率)を重視しています。また、持続可能な社会への貢献として、環境や安心などの非財務目標も設定し、取り組みを進めています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「環境」と「安心」を軸に、モビリティを起点とした価値提供を目指します。「モビリティの進化」では電動化や自動運転技術による安全・自由な移動の実現、「新たな価値の創造」ではエネルギー・食農など異業種への技術展開、「基盤技術の強化」では半導体やソフトウェアの開発強化を推進します。これらを通じて社会課題解決と事業成長の両立を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「モノづくりはヒトづくり」という創業以来の考えに基づき、人的資本経営を推進しています。「情熱で自己新記録に挑むプロフェッショナル」を理想の人材像とし、専門性を高める育成や配置を行っています。また、多様な人材が活躍できるよう、ダイバーシティ&インクルージョンの推進や、社員エンゲージメントの向上、ITデジタル活用力の強化にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.8歳 | 23.1年 | 8,630,560円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.1% |
| 男性育児休業取得率 | 71.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 67.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 68.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 82.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用における事務系女性比率(38%)、技術系女性比率(8%)、海外拠点長の非日本人登用率(32%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況
同社の売上の大部分を占める自動車関連製品の需要は、販売国や地域の経済状況に強く影響されます。主要市場である日本、北米、欧州、アジア等での景気後退や自動車需要の縮小は、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、競合他社との価格競争や製造コストの変動もリスク要因となります。
■(2) 為替レートの変動
グローバルに事業展開しているため、各地域の現地通貨建て項目は円換算時に為替レートの影響を受けます。特に米ドル、ユーロ、人民元に対する円高は、業績に悪影響を与える可能性があります。現地生産やヘッジ取引等で対策を行っていますが、中長期的な変動は計画通りの事業遂行を困難にする可能性があります。
■(3) 原材料や部品の供給による影響
製品製造に必要な原材料や部品を外部から調達しており、市況変化や通商問題による価格高騰、供給不足、供給元の事故等のリスクがあります。これらにより製造原価の上昇や生産停止が発生した場合、業績や財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 気候変動によるリスク
脱炭素社会への移行に伴う燃費・排ガス規制の厳格化や電動化の加速に対し、適切に対応できない場合、販売機会を喪失するリスクがあります。また、異常気象による災害で工場操業停止やサプライチェーン分断が起きる物理的リスクもあります。これらに対し、電動化技術の開発加速や災害対策強化を進めています。



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