※本記事は、株式会社デンソーの有価証券報告書(第103期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月11日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。
1. デンソーってどんな会社?
自動車部品のグローバルサプライヤーであり、先進的なモビリティ技術を提供するリーディングカンパニーです。
■(1) 会社概要
1949年、トヨタ自動車工業(現 トヨタ自動車)から分離独立し、日本電装として設立されました。1951年に名古屋証券取引所に上場し、1953年には東京・大阪の各証券取引所へ上場しています。1996年に現在のデンソーへ商号変更しました。近年は2017年に富士通テン(現 デンソーテン)を買収したほか、2020年にはトヨタ自動車から主要な電子部品事業を譲り受けるなど、事業領域を拡大しています。
従業員数は連結で154,716名、単体で43,889名となっています。大株主については、筆頭株主が事業会社のトヨタ自動車で、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第3位は事業会社の豊田自動織機となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| トヨタ自動車 | 22.24% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.04% |
| 豊田自動織機 | 5.85% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表者は取締役社長代表取締役の林新之助氏です。社外取締役比率は25.0%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 林新之助 | 取締役社長代表取締役 | 1986年入社。2015年常務役員、2021年経営役員を経て、2023年より現職。 |
| 松井靖 | 取締役副社長代表取締役 | 1987年入社。2014年常務役員、2021年取締役・経営役員を経て、2023年より現職。 |
| 山崎康彦 | 取締役副社長代表取締役 | 1986年入社。2014年常務役員、2024年副社長を経て、同年6月より現職。 |
| 有馬浩二 | 取締役会長 | 1981年入社。2014年専務役員、2015年取締役社長を経て、2023年より現職。 |
| 豊田章男 | 取締役 | 1984年トヨタ自動車入社。2009年同社取締役社長を経て、2019年より同社取締役。 |
社外取締役は、櫛田誠希(元日本銀行名古屋支店長)、三屋裕子(元サイファ代表取締役)、Joseph P.Schmelzeis, Jr.(元セガサミーホールディングスシニアアドバイザー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「北米」「欧州」「アジア」の報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■(1) 日本
同社グループの日本セグメントでは、国内の自動車メーカーや市販市場向けに、サーマルシステムやパワトレインシステムなどの自動車部品および非車載製品の開発、製造、販売を行っています。高度運転支援や電動化に対応する先進的なモビリティエレクトロニクス製品も提供しています。
収益は主に国内の自動車メーカーへの部品供給による販売代金から得ています。運営はデンソーのほか、デンソー北海道、デンソー福島、デンソー岩手などの国内子会社が担い、研究開発拠点と連携しながら高効率な生産体制を構築しています。
■(2) 北米
北米セグメントでは、米国、カナダ、メキシコにおいて自動車部品の製造および販売を展開しています。サーマルシステムやパワトレインシステムを中心に、現地の自動車メーカーのニーズに合わせた製品を供給しています。
収益は現地の自動車メーカーからの販売代金が中心です。運営は地域統括会社のデンソー・インターナショナル・アメリカを中心に、デンソー・マニュファクチュアリング・ミシガンやデンソー・メキシコなどの製造子会社が担っています。
■(3) 欧州
欧州セグメントでは、環境規制が厳しいヨーロッパ市場に向けて、自動車関連の製品を製造および販売しています。熱マネジメント製品やエレクトロニクス製品を中心に、現地の自動車メーカーに環境対応技術を提供しています。
収益は欧州の自動車メーカーからの販売代金から得ています。運営はデンソー・インターナショナル・ヨーロッパが統括し、デンソー・マニュファクチュアリング・ハンガリーやデンソー・バルセロナなどの子会社が製造および販売を行っています。
■(4) アジア
アジアセグメントでは、成長が続く東南アジアや中国、インドなどで自動車部品の製造および販売を行っています。地域の特性や多様なエネルギー事情に応じた製品供給を展開しています。
収益は現地の自動車メーカーへの販売代金から得ています。運営はデンソー・インターナショナル・アジアや電装(中国)投資有限公司などが統括し、デンソー・タイランド、デンソー・インドネシアなど多数の現地法人が担っています。
■(5) その他
その他セグメントでは、主に南米などの地域において自動車部品の製造および販売を行っています。カーエアコン用のサーマルシステムなどを現地の市場に向けて供給しています。
収益は現地の自動車メーカーなどからの販売代金によって構成されています。運営はブラジルのデンソー・ド・ブラジル・リミターダなどの現地子会社が行い、地域に根ざした事業展開を進めています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上収益は順調に拡大を続けており、2026年3月期には7兆5,400億円に達しています。営業利益も一時的な踊り場はあったものの、合理化の進展や販売増によって直近2期間は増加傾向にあり、利益率も7%台に向上するなど収益力の強化が進んでいます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 55,155億円 | 64,013億円 | 71,447億円 | 71,618億円 | 75,400億円 |
| 営業利益 | 3,412億円 | 4,261億円 | 3,806億円 | 5,190億円 | 5,525億円 |
| 利益率(%) | 6.2% | 6.7% | 5.3% | 7.2% | 7.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2,639億円 | 3,146億円 | 3,128億円 | 4,191億円 | 4,438億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期から拡大している一方で、単体の売上総利益は減少しています。連結の営業利益については増益を確保しており、営業利益率は7%台で推移しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 71,618億円 | 75,400億円 |
| 売上総利益 | 3,269億円 | 2,513億円 |
| 売上総利益率(%) | 4.6% | 3.3% |
| 営業利益 | 5,190億円 | 5,525億円 |
| 営業利益率(%) | 7.2% | 7.3% |
単体の販売費及び一般管理費のうち、業務委託費が419億円(構成比21%)、給与及び賞与が337億円(同17%)、荷造運搬費が231億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各地域の車両販売が好調に推移し、すべてのセグメントで売上収益が拡大しました。利益面では、日本セグメントにおいて部材費の高騰や人への投資増加により減益となったものの、北米や欧州、アジアなど海外セグメントでは合理化努力や操業度の良化により大幅な増益を達成し、全体の利益を牽引しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 42,164億円 | 44,041億円 | 2,205億円 | 1,859億円 | 4.2% |
| 北米 | 18,632億円 | 20,251億円 | 981億円 | 1,323億円 | 6.5% |
| 欧州 | 7,187億円 | 7,679億円 | 87億円 | 278億円 | 3.6% |
| アジア | 19,401億円 | 19,769億円 | 1,695億円 | 1,788億円 | 9.0% |
| その他 | 1,190億円 | 1,263億円 | 223億円 | 249億円 | 19.7% |
| 調整額 | -16,956億円 | -17,604億円 | -0億円 | 28億円 | - |
| 連結(合計) | 71,618億円 | 75,400億円 | 5,190億円 | 5,525億円 | 7.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 7,587億円 | 5,110億円 |
| 投資CF | 1,219億円 | -169億円 |
| 財務CF | -6,774億円 | -3,550億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は58.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「魅力ある製品で、お客様に満足を提供する。」「変化を先取りし、世界の市場で発展する。」「自然を大切にし、社会と共生する。」「個性を尊重し、活力ある企業をつくる。」の4つを経営の基本方針として掲げています。創業以来、社会課題を解決する企業姿勢を「社是」とし、先端技術とモノづくりの力でより良い製品・サービスを届けることを使命としています。
■(2) 企業文化
「デンソーらしさ」として、すべての社員がお客様や市場の声に真摯に向き合い、その時代の先端技術と高効率・高品質なモノづくりの力に磨きをかける文化が根付いています。メカ・エレクトロニクス・ソフトウェアを融合するシステム提案力と、長年築き上げたお客様やパートナーとの「共創の力」を重視して社会課題の解決に挑んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2030年に向けた中期経営計画「CORE 2030」を発表し、財務目標と社会への価値提供を可視化する「社会インパクト目標」の両観点から指標を設定しています。具体的な客観的指標として売上収益、営業利益、およびROE(自己資本利益率)を用いており、収益性と成長性に加えてCO2排出量や削減量も評価軸とした事業成長を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
成長戦略として「商品づくりの強化」「モノづくりの革新」「人づくり・パートナーとの共創」の3本柱を推進しています。モビリティの電動化・知能化に対応する半導体等の基盤技術の深化、現場の実践知とAIを融合した生産性の飛躍的向上に取り組んでいます。また、自動車技術を農業やFAなど非車載領域にも応用し、労働力不足などの社会課題解決を牽引します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「モノづくりはヒトづくり」という考え方のもと、人的資本に積極投資し、人と組織の実現力を高める人的資本経営を推進しています。事業戦略と連動した「人財ポートフォリオ変革」と、多様な個性が輝くための「社員エンゲージメント向上」を目指し、AI等の高度専門人材の育成や、女性・若手の活躍を後押しするキャリア支援、ダイバーシティ&インクルージョンに注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.8歳 | 22.9年 | 9,152,532円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.2% |
| 男性育児休業取得率 | 83.8% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 66.4% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用) | 68.2% |
| 労働者の男女の賃金の差異(非正規雇用) | 76.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメント向上率(78%)、海外拠点長の非日本人登用率(33%)、デジタル活用人材の認定取得者比率(25%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済状況の悪化と為替変動リスク
自動車関連製品の需要は世界経済の動向に大きく依存しており、主要市場での景気後退や需要縮小は業績に悪影響を及ぼします。また、グローバルな事業展開に伴い、円高の進行や現地通貨の下落は製品の価格競争力低下や円換算後の価値減少を招き、財務状況に影響を与える可能性があります。
■(2) 価格競争の激化と新規参入リスク
自動車業界では新興部品メーカーとの競争に加え、カーエレクトロニクス化に伴うエレクトロニクス製品メーカーやAI技術を持つ新興企業の参入が進んでいます。原材料価格や物流費の高騰圧力がある中で競争優位性が低下し、顧客離れが起きた場合、収益を圧迫するリスクがあります。
■(3) 製品の欠陥とリコールリスク
世界的な品質管理基準に従って製品を製造していますが、大規模なリコールや製造物責任賠償につながる製品の欠陥が発生するリスクはゼロではありません。万が一これらが発生した場合、多額の対応コストの発生や企業の信頼低下による売上の減少を招き、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 気候変動と環境規制への対応リスク
脱炭素社会に向けた燃費・排ガス規制の厳格化や電動化の加速に対し、現行製品が適切に対応できない場合、販売機会を喪失するリスクがあります。また、世界的なカーボンプライシングの導入によるコスト増加や、異常気象による工場の操業停止・サプライチェーン分断なども懸念されます。



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