※本記事は、株式会社ニコン の有価証券報告書(第161期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ニコンってどんな会社?
カメラなどの映像製品や、半導体・FPD露光装置等の精機事業を中核に、ヘルスケアやデジタルマニュファクチャリング等も展開する光学機器メーカーです。
■(1) 会社概要
1917年に光学機器の国産化を目指し、三菱合資会社社長岩崎小彌太の出資により日本光学工業として設立されました。1949年に東京証券取引所に上場し、1988年に現社名へ商号変更しています。近年はM&Aを加速させ、2023年にドイツのSLM Solutions Group AG、2024年に米国のRED.com, LLCを完全子会社化するなど、事業領域を拡大しています。
同社の従業員数は連結20,069名、単体4,634名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は外国法人の常任代理人である銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 19.15% |
| SG/INV | 9.40% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.47% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名、計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表者は代表取締役 兼 会長執行役員CEOの馬立稔和氏です。社外取締役比率は54.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 馬立稔和 | 代表取締役 兼 会長執行役員CEO | 1980年同社入社。常務執行役員、社長執行役員、代表取締役兼社長執行役員兼CEOなどを経て、2024年4月より現職。 |
| 德成旨亮 | 代表取締役 兼 社長執行役員COO | 1982年三菱信託銀行入社。三菱UFJフィナンシャル・グループCFOなどを経て、2020年同社入社。2024年4月より現職。 |
| 大村泰弘 | 取締役 兼 専務執行役員CTO、ヘルスケア事業部長、生産本部担当 | 1992年同社入社。執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て、2024年6月より現職。 |
| 萩原哲 | 取締役(常勤監査等委員) | 1985年同社入社。執行役員、取締役兼常務執行役員、常務執行役員を経て、2021年6月より現職。 |
| 菊地誠司 | 取締役(常勤監査等委員) | 1988年同社入社。財務・経理本部財務部長、半導体装置事業部企画部長、経営監査部長を経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、蛭田史郎(元旭化成社長)、澄田誠(元イノテック社長)、立岡恒良(元経済産業事務次官)、村山滋(元川崎重工業会長)、山神麻子(弁護士)、千葉通子(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「映像事業」、「精機事業」、「ヘルスケア事業」、「コンポーネント事業」、「デジタルマニュファクチャリング事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 映像事業
デジタルカメラ、交換レンズ等の映像関連製品やその周辺領域の製品・サービスを提供しています。一般消費者からプロフェッショナルまで幅広い層を顧客としています。
製品の販売およびサービス提供による対価が主な収益源です。運営は主に同社や株式会社ニコンイメージングジャパン、Nikon Inc.などの販売子会社、Nikon (Thailand) Co., Ltd.などの製造子会社が行っています。
■(2) 精機事業
FPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置および半導体露光装置の製品・サービスを提供しています。デバイスメーカー等が主な顧客です。
製品の販売およびサービス提供による対価が主な収益源です。運営は主に同社や株式会社ニコンテック、Nikon Precision Inc.などの海外現地法人が行っています。
■(3) ヘルスケア事業
生物顕微鏡などのライフサイエンスソリューション分野、超広角走査型レーザー検眼鏡などのアイケアソリューション分野、細胞受託生産ソリューション分野の製品・サービスを提供しています。
製品の販売およびサービス提供による対価が主な収益源です。運営は主に同社や株式会社ニコンソリューションズ、Optos Plc、株式会社ニコン・セル・イノベーションなどが行っています。
■(4) コンポーネント事業
産業機器事業関連(測定機等)、デジタルソリューションズ事業関連(光学部品等)、カスタムプロダクツ事業関連(EUV関連等)、ガラス事業関連製品を提供しています。
製品の販売およびサービス提供による対価が主な収益源です。運営は主に同社や株式会社ニコンソリューションズ、Nikon Metrology NVなどが行っています。
■(5) デジタルマニュファクチャリング事業
金属3Dプリンターの製品・サービスを提供しています。航空宇宙や自動車産業などの製造業が主な顧客です。
製品の販売およびサービス提供による対価が主な収益源です。運営は主にNikon SLM Solutions AGや同社が行っています。
■(6) その他
上記報告セグメントに含まれない事業として、測定機以外の産業機器やその他の製品・サービスを行っています。
製品・サービスの提供による対価が収益源です。運営は同社やグループ各社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は第157期から第160期にかけて拡大傾向にありましたが、第161期は微減となり横ばいで推移しました。利益面では第158期、159期と安定していましたが、第161期においては営業利益、税引前利益ともに大幅な減益となり、当期利益も大きく減少しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,512億円 | 5,396億円 | 6,281億円 | 7,172億円 | 7,153億円 |
| 税引前利益 | -453億円 | 571億円 | 571億円 | 427億円 | 45億円 |
| 利益率(%) | -10.0% | 10.6% | 9.1% | 6.0% | 0.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -345億円 | 427億円 | 449億円 | 326億円 | 61億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比で微減となり、売上総利益率は前期と同水準を維持しましたが、販売費及び一般管理費やその他営業費用の増加が響き、営業利益は前期から大幅に減少し、営業利益率も低下しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 7,172億円 | 7,153億円 |
| 売上総利益 | 3,100億円 | 3,120億円 |
| 売上総利益率(%) | 43.2% | 43.6% |
| 営業利益 | 398億円 | 24億円 |
| 営業利益率(%) | 5.5% | 0.3% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が861億円(構成比29.2%)、その他が850億円(同28.8%)、研究開発費が746億円(同25.3%)を占めています。売上原価においては、棚卸資産の廃棄・評価減として182億円が含まれています。
■(3) セグメント収益
映像事業とヘルスケア事業が増収となる一方、精機事業とコンポーネント事業が減収となりました。利益面では、映像事業や精機事業の減益、デジタルマニュファクチャリング事業の赤字拡大などが影響し、全体として大幅な減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 映像事業 | 2,820億円 | 2,975億円 | 465億円 | 413億円 | 13.9% |
| 精機事業 | 2,195億円 | 2,021億円 | 152億円 | 15億円 | 0.8% |
| ヘルスケア事業 | 1,081億円 | 1,166億円 | 54億円 | 67億円 | 5.8% |
| コンポーネント事業 | 940億円 | 825億円 | 151億円 | 72億円 | 8.7% |
| デジタルマニュファクチャリング事業 | 210億円 | 237億円 | -141億円 | -152億円 | -64.3% |
| その他 | 894億円 | 1,010億円 | 44億円 | 29億円 | 2.9% |
| 調整額 | -969億円 | -1,081億円 | -328億円 | -420億円 | - |
| 連結(合計) | 7,172億円 | 7,153億円 | 398億円 | 24億円 | 0.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 308億円 | 483億円 |
| 投資CF | -414億円 | -700億円 |
| 財務CF | -89億円 | -198億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「信頼と創造」を企業理念として掲げています。この理念に基づき、事業活動を通じて持続可能な社会への貢献と自社の持続的成長の双方を目指し、2030年のありたい姿として「人と機械が共創する社会の中心企業」を掲げています。
■(2) 企業文化
サステナビリティ方針のもと、事業が環境・社会に与える影響を評価・改善し続けることで社会の期待に「信頼」で応えつつ、事業を通じて価値を「創造」していくことを重視しています。また、「ニコン行動規範」を定め、法令遵守にとどまらず誠実・公正に行動することを求めています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画(2022~2025年度)において、2025年度を2030年のありたい姿に向けた体制整備の年と位置付けています。2025年度の数値目標として以下を掲げていましたが、最新見通しでは営業利益360億円にとどまる見込みです。
* 全社営業利益:700億円(当初目標)
■(4) 成長戦略と重点施策
成長投資の選択と集中を進め、業務用動画機、次世代露光装置、金属付加加工の3領域に重点投資を行う方針です。精機事業では顧客の多様化、映像事業では若年層を含む新規顧客獲得と業務用動画市場の拡大を目指します。
* デジタルマニュファクチャリング事業:金属付加加工において業界の伸びを上回る成長と早期黒字化
* ヘルスケア・コンポーネント事業:着実な収益拡大
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材の「獲得」「育成」「活躍」を戦略の柱とし、経営戦略と連動した施策を展開しています。ビジネス開発人材等の重点的獲得、中核人材の早期選抜と計画的育成、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の推進により、多様な人材が能力を発揮できる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.1歳 | 13.9年 | 8,510,441円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでいます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.5% |
| 男性育児休業取得率 | 98.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 80.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 81.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 82.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用における女性比率(32.7%)、定期健康診断有所見率(54.5%)、ストレスチェック高ストレス者率(13.5%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) デジタルマニュファクチャリング等の成長リスク
材料加工・ロボットビジョンを成長ドライバーと位置づけ、SLM社の買収等を進めていますが、関連市場の成長鈍化により計画未達となる可能性があります。主要事業においても、カメラ市場の環境悪化や露光装置の需要回復の遅れ、競合の開発状況による需要減少などが収益に影響を及ぼす恐れがあります。
■(2) 研究開発投資と技術革新
厳しい競争下で高度な研究開発が求められており、収益変動にかかわらず投資を継続する必要があります。しかし、新製品や次世代技術の開発・市場投入が遅れた場合や、開発技術が市場に受け入れられない場合、ゲームチェンジによる技術の陳腐化などが生じた場合、企業価値や収益が低下する可能性があります。
■(3) グローバル展開に伴う規制・地政学リスク
海外売上比率が高く、各国での輸出入規制、競争法、環境規制等の変更が事業活動の制約や費用増加につながる可能性があります。特に米中貿易摩擦等の地政学リスクはサプライチェーンや販売に影響を及ぼす恐れがあり、ウクライナ情勢等による混乱も懸念されます。



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